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クリティカル・デザイン思考

21世紀はシンギュラリティや地球規模の厄介な問題(Wicked Problem)に我々は直面することになり、今とは全く異なる生き方・考え方が求められる世紀になる。今目の前に見えている問題に近視眼的に応急処置するのではなく、来る22世紀を荒廃したディストピアにしないために、将来の社会や人間のビジョンを思い描く力が必要だ。

そのような思いからパーソンズに来て、まさにここではデザイン思考などの体系立った授業はほとんどなく、Critical DesignStrategic Foresight, Transdisciplinary Design, Post-Planetary Designといった未来志向・ビジョンドリブンのデザインを多くのものづくりの試行錯誤の中で模索している。

久保田先生の遥かなる他者のためのデザイン、博報堂xアルスエレクトロニカのアートシンキング、東大xRCAのデザインアカデミーBIOTOPEACTANTなどの共創型ファームなど、日本でもポストデザイン思考を模索する動きが徐々に出てきている。先日公開された、経済産業省の高度デザイン人材育成研究会資料においても、ビジョンデザイナーという人材像が検討に挙がったことが個人的には非常に興味深かった。デザインの射程は画面や体験だけでなく、ビジネス、社会、イデオロギーをも捉えている。

パーソンズで様々な国の人たちと話して思うのは、日本は本当にデザイン人材やユーザー中心設計について丁寧に、トップクラスに議論・実践していると感じる。まだまだ自分の国ではUXデザイナーは普及していない、と語る生徒も多く、自分の母語でUXに関する議論が活発に行われているというのは非常に嬉しいことだ。

さて一方で、この未来やビジョンのデザインというものは、考えている時はワクワクして面白いのだが、ビジネスや現実解としてのデザインにどう接続するか(もしくは、しないのか?)という点で自分なりの答えが欲しく、本記事では、私がパーソンズで試行錯誤する中で見えてきた、今をクリティカルに捉え、新しい未来のビジョンを描き出すための今段階の自分なりの思索や道具を、1つのアプローチとしてクリティカル・デザイン思考という仮名で書き留めておきたいと思う。

デザイン思考は「人→世界」

クリティカル・デザイン思考に入る前に、デザイン思考との違いに触れておきたい。ユーザーを理解・共感せよ!というのはもはや昨今のサービス開発において常識と言ってよいだろう。

デザイン思考は人(ユーザー・ペルソナ)を考えてから、その人がハッピーになる世界(コンテキスト・ToBeシナリオ)を考えるプロセスだと私は理解している。

クリティカル・デザイン思考は「世界→人」

一方、未来志向のクリティカル・デザイン思考は今とは異なる世界を考えてから、そこで暮らす人を考える。未来のシグナルになりそうなニュースなどを参考にするにせよ、想像力、飛躍力がより大事になる。「XXが枯渇した世界」のように、仮定を置いた世界から考え、「ではそこで暮らす人は何を考えているのだろうか?」という順序で考えるのが取り組みやすい。

今とは異なる、でも将来「ありうる」価値観・世界観を描くことで、今の人々がリアリティを持ってそれについて考えたり議論したりすることができる。これがもともと「スペキュラティブデザイン」と呼ばれる分野だと私は理解している。

一方でスペキュラティブデザインの問題点として、議論の創発で止まってしまい、現実解に接続できなかったり、アートとして消費され、具体的なアクションに繋がらないという点が指摘されてきていた。

そこでパーソンズだとE.モンゴメリーという教授がビジョンドリブンのデザインのための方法論やツールの開発に取り組んでおり、私が彼らとコミュニケーションする中で思索した方法論は下図になる。

各プロセスで使うツールはまた次回、実際にパーソンズのカリキュラムの中で作った実例を交えて詳しく説明したいと思うが、ポイントとしては、先に世界を想像・創世するアプローチは同じなのだが、そこから今の世界と接続するため、STEEPという外部環境を分析するビジネスのフレームワークを用い、何がどう変わるとその世界に行ってしまうのか、影響する因子を時系列に洗い出す。

- Society: その世界では何が社会の常識・問題になっているのか?
- Technology: その世界ではどんな技術が利用・発明されているのか?
- Economy: その世界では何が生産・消費され経済を動かしているのか?
- Environment: その世界ではどんな環境になっているのか?
- Policy: その世界ではどんな条例や施策が可決・施行されているのか?

そうすると、その世界のシナリオに行ってしまうキーとなる因子は何なのか、そして現在の世界はそれに対してどう介入すればよいのか、4つの方向性で考えることができる。このプロセスは人々へインタビューを行い、現実のユーザーに寄り添って介入方法を考えることで、今の人々と未来の世界のシナリオを繋ぐプロダクトを生み出せると考えている。

- Grow (増加): その世界に行くのを加速する施策を考えるべき
- Collapse (崩壊): その世界に行かないための施策を考えるべき
- Discipline (平衡): その世界には現状の延長で辿り着くので現状維持するための施策を考えるべき
- Transform (変形): その世界と全く別の世界に行くための施策を考えるべき

すなわち本記事で私が定義したクリティカルデザインは、1回未来に行ったあと、今との隔たりを洗い出し、そこへの介入の仕方を考えることで、デザイン思考とも、スペキュラティブデザインとも異なるアウトプットをもって現実解となるソリューションを考えることができるのではないか、という仮説である。このあたりの手法について、手を動かしながらパーソンズの2年間で考えていきたいと思っている。

次回はパーソンズの実例を交えて紹介したい

現在、パーソンズでは結婚・セックス・出産の未来でのありようという大きなテーマに対してクリティカルアプローチでデザインに取り組んでいる。ゲームデザインの手法を用いて世界観やキャラクターの設定を行い、iPS細胞などの未来技術、遺伝子操作などの倫理問題、トランスジェンダーなどの社会変化といった様々な因子を考えながら、現在の社会への介入ポイントを模索している。次回はこのプロジェクトが落ち着いたら成果物や考え方について、本記事で書いた手法に従って紹介したい。

ついでに言うと今、現在の世界観に落とし込むためのユーザーサーベイの最中なので、もしご協力いただける方は、個人情報を特定するような質問は用意していないので、アンケートにご協力いただけますと非常に助かります。若干、衝撃的・センシティブな質問もテーマの都合上存在していますが、パーソンズの授業の断片を感じていただければ幸いです。

google Formへのリンクは締め切らせていただきました。

2/10追記:既に多くの方にアンケートにご協力いただき、非常に貴重なご意見、ありがとうございます。かなり意見も満遍なく割れている感じで、こうした議論を呼ぶテーマにどうアプローチしていくのか、考えどころです。結果はまた後日noteにてご報告させていただきます。

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MASA / Parsons School of De...

NY在住のデザインリサーチャー。東大 → IBM Design → 現在はスペキュラティブデザインを探究すべく、NYのパーソンズ美術大学にてアンソニー・ダンに師事。日本から出て行くデザイナーのキャリアモデルを作りたい。学術と藝術のあいだで。

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