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京都工芸繊維大学D-labの招聘デザイナーに着任しました。

平成最後の夏にパーソンズに留学し、久方ぶりの学生に戻って以来、早1年目のシーズンが終わり、8月まで長い夏休みに入りました。この間学生は実家に帰ってゆっくりしたり、旅行したり、インターンしたりと思い思いに過ごしていくことになります。

そんな中、私はというとこのたび、京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab (D-lab)デザイナー・イン・レジデンスプログラムの招聘を受け、本日6月1日から8月中旬まで、京都という都市の文脈の中でデザインリサーチを行うことになりました。本日京都入りし、京都で活動します。

デザイナー・イン・レジデンスは国際的な才能を一定期間、KYOTO Design Labに招聘するプログラムです。招聘されたデザイナーは、京都工芸繊維大学の学生やスタッフとともに、京都という都市の文脈に対する応答として作品を制作し、また京都工芸繊維大学における専門研究をおこないます。その成果はKYOTO Design Lab東京ギャラリーにおいて発表されます。
*KYOTO Design Lab HPより

とあり、これまでは外国人デザイナーが来日し、京都の伝統工芸や都市デザインの分野でコラボレーションするケースなどがありましたが、私の場合はパーソンズから逆輸入の形で、日本人として、アメリカでの経験を踏まえながら、京都の文脈の中でデザイン研究を行います。もちろん京都は行ったことがありますが、長く住んだことはないので、フレッシュな気持ちで、また、アカデミアの立ち位置から、行政上の戦略やビジネス的な利潤に左右されずに、実験的なアプローチにチャレンジしていきたいと思っています。

何を研究するのか?

私は社会人時代、新卒で戦略コンサルでIBMに入社し、社内異動を経てIBM DesignにてUXデザイナー、そして近年はデザイン思考ファシリテーターとして、クライアントワークで人間中心のサービス・プロダクト開発に全工程に渡り携わっていました。

主に国内企業の経営企画室や新規事業開発チームとプロジェクトを立ち上げ、デザイン思考でゼロからコンセプト創出→スクラム開発→リーンスタートアップ形式でグロースと、ビジネス(B)・テクノロジー(T)・クリエイティブ(C)領域を越境しながら、ファーストキャリアとして成長できました。

HCDスペシャリスト、スクラムマスターなどの資格を取ったり、IBMのデザイン最高位・Distinguished DesignerのDoug Powell(現在はVice President)から直々にIBM Design Thinkingの研修を受けたりもして、学生時代はインタラクション研究者だったこともあり、「デザイン学」としてのデザイン理論と実践の回遊、人の想像力のファシリテーションに興味を持ちました。

デザイン思考やデザインxビジネスの考え方は今まさにブームですが、IBMは先んじて2013年にテクノロジー企業からデザイン企業へ生まれ変わるのであるという自らのコーポレートミッションを打ち出し、その変革期に社内外のメンバーを「デザイン思考って何?」というところから、意識・組織ごと変えながらサービスを創るという経験が自分のコアスキルになっています。

一方で、そのように現場で実践する中で「人間中心」デザインの難しさもたくさん感じるようになりました。

ユーザーを理解し、ユーザーのペインを解決する。

当たり前に、教義的に唱えられているUXデザインの呪文ですが、「ペルソナを使えばクリエイティブになるんでしょ?」といったような、デザイン思考をツールとして捉えてしまうことによる勘違いがクライアントとの共創の場で起きたり、新規事業企画の限られた期間の中で、数日〜数週間、ある特定のリサーチだけで「ユーザーを理解した!」と言えるのか?といった疑問。

それは、デザイナーとして
何をもって「人間中心」と言えるのか?
そして「人間」とは何なのか?
というシンプルで根源的で究極的な問いに帰着します。

「超包括的」人間中心デザイン

「人間」を真に理解し、究極の「人間中心」デザインをするには、どんなアプローチが必要なのでしょうか。それは現在の文脈だけを見ていれば良いわけではなく、実践経験の中で立てたいくつかの仮説があります。

・ひとつは、人間がいま生きている「現在」の文脈は、遠い過去〜現在〜遠い未来へと続いてゆく時間軸の中で理解する必要があるということ。
・ひとつは、社会学、人類学、認知心理学、生態行動学、医学、哲学・・あらゆる学問が「人間」を理解するためにあり、ありとあらゆる学問を学際的横断的に捉える必要があるということ。
・ひとつは、例えばUX白書で予期的UX、累積的UXなどの言葉が使われているように、他者・機械・自然との相互作用の中で「人間」を理解する必要があるということ。

それはすなわち、あらゆる学問領域、複雑な社会システム、人間の内外面、地球の来し方行く末を超包括的に横断した先に、真の「人間」中心のデザインがあるのではないか、という壮大な仮説。

そしてそれがまさに今、世界のデザイン学の現場で起こっていることだと理解しています。例えば未来投機を駆動力にするRCAのSpeculative Design(以前書いた解説記事はこちら)、人間古来の歴史や土着文化を大事にするCMUのTransition Design(以前書いた解説記事はこちら)、複雑な社会エコシステムを対象とするIDEOのCircular Design、それからDon Normanが2015年に語った、複雑な利害関係を前提にした21世紀のデザイン論「Design X」など、新しいデザイン方法論を標榜する大学や方法論が出始めています。

京都工芸繊維大学D-labでは、4月からスペキュラティブデザイン・超包括的デザインを研究されている水野大二郎先生が着任したこともあり、まだまだ日本での研究例は少ない、このような超包括的デザインの見地から、京都と人間のビジョンはどう描けるのかを探求したいと考えています。

こうした学問領域の越境、BTC領域の横断がまさに経産省の高度デザイン人材育成研究会で議論され始めているところでもあり、デザインの対象が拡大していった先にある、超広義・超包括的なデザインの観点はどう獲得されうるのか。今回はそんな壮大なテーマを探求すべく、最終アウトプットもさることながら、デザインプロセスに関する研究も大きなトピックだと思っていますので、実際の作業プロセスについてもできる限り情報発信していければと思っています。

あらゆるデザインは、「明日の人間のありよう」を形作る活動だと思っています。今回の活動は「人間を理解する」ことをめぐる探求心とロマンを原動力として、まだまだどんなアウトプットが生まれるのか、どんな京都と人間の未来シナリオが描けるのか、全くわかりませんが、しばらく京都にいますので、よろしくお願いします。

京都にお越しの際など、飛び入りブレストもお待ちしております!

令和元年六月 京都に向かう新幹線にて

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