フリクリ プログレ 第2話-2
イラスト/吉成鋼
【ジンユの回想・夢】
星が消えていく。
宇宙を漂うハル子が消えていくと同時に聞こえて来る鼓動。激しくなる。
ジンユの声:だめ、、やめて、、
【井出の部屋】
目を覚ましたジンユ。
ジンユ:やめて!
ガラクタ、鉄クズが散乱する井出の部屋。
ボロい布団に苦しそうに横たわっているジンユ。
関節から体液が漏れている。
その傍らにMMの介護用メカ。
ジンユ:くっ…
ジンユの片腕は、そのメカに当ててあり、そこからエネルギーを吸収している様子。(吸収する際に、腕がメカに向かって根を張っている?)
ナース姿のハル子、一升瓶を抱えている。
ハル子:まあそれ一個チューチューすれば大丈夫っしょ。
ジンユ:…
ハル子:お礼は?
ジンユ:…
ハル子:ジンユちゃ~ん、はい、お礼は?
ジンユ:…
ハル子、日本酒をジンユの負傷した部分に豪快に吹きかける。
ハル子:シャブーッ!
ジンユ:(激痛)クッゥゥゥゥウ!
ハル子:ひゃははは!
ジンユ:なにするの…?
ハル子:景気付けと消毒じゃけえ!うひゃはは!
苦痛に顔を歪ませているジンユ。
ハル子:しっかし、あんたも無茶すんね~
ジンユ:…
ハル子:一人でなんとかできると思ってんの?
ジンユ:…ラハル…力を貸して…
ハル子:…まだ言ってるよ…
ジンユ:それができないなら、、…
ジンユ、メカに当てていた根をハル子の方へただよわせる。
飛び退くハル子、天井に張り付き
ハル子:こら~!命をお助けしてくれた可愛いナースを食おうとするってどういうこと!?あんた鬼畜?
ジンユ:ラハル、分かってるでしょう?あなたの力が必要なの…
ハル子:分かってるよ。でも私ぁそういうことに興味はないんすよ
ジンユ:…ヒドミを連れて来て…
ハル子:はあ?なんで?
ジンユ:…いいから
ハル子:あんな出来損ない、必要ないっしょ?
ジンユ:…本気でそう思ってるの?
ハル子:…本気って?
ジンユ:…ラハル、やはりあなたは一人でいては、いけない。
ハル子:…固い。固いんだよな~、いちいち言うことがさあ。それ食べたら帰ってね。
【教室】
席に着いている生徒たちの中に、ヒドミの姿。
新たな担任の先生が教壇に立ち、話している。
聞いている井出、森、マルコ。井出は再びヘラヘラしている。
先生:(ムッとしてる)えー、昨日、新しく担任となりましたハル子先生ですが、昨日付けで退任となりました。これは私もちょっとどういうことなんだろうと、違和感を感じているところなのですが、ハル子先生からみなさまに、お手紙がありますので、まずは、読ませてもらいます。
× × ×
という台詞の間、ヒドミの想像。
教室が半壊して、生徒たちも血だらけで倒れている。その中に一人、席に座るゾンビヒドミ。
× × ×
先生、手紙を取り出し、開く。音楽が鳴る。
先生:あら、音楽が鳴る様になってるんですね。「こんちゃ!ハル子先生だよ!みんなと一緒に過ごした1日は、ハル子先生の記憶に、ずっと残ることでしょう」
森:嘘つけ
手紙が進むと、音楽は段々と荘厳なものになっていく。
先生:「ハル子先生、実は、みんなを試しました。みんながどれくらい、この地球にとって役に立つか、個人、家族とか、街とか、国、とかじゃなくて、全人類的に物事を考えられる人がどれくらいいるか、ハル子先生は一日かけて、じっくり調べました。今、世界は無責任に溢れています。どこを見ても、自分勝手な妄想のために、他人や世界を汚(けが)してしまう人ばかり。こうなってしまったのは、私ハル子先生を始めとした、世界中の大人達がいけなかったんだと思ってます。みんな、ごめんね。みんなはちゃんと、世界のことを、地球のことを考えて生きてください。先生はもうダメです。先生は地球のこととか、全然考えられません。ぷっぴっぴ~。地球のこととか考えようとしても、どうしても違うこと考えちゃいます。どうしてもどうしても考えてしまう、いつの間にかできたホクロに、いつの間にか生えた一本の毛。嫌んなっちゃう。そんなことばかり考えちゃいます。嫌になってしまいます。地球。ほんとどうでもいいです。マジどうでもいいです。地球のことなんか知らねーし。ぷーぷーぷぴーぴ、ぷーぷぴー。ぷっ。ぷぷぷ~っ。ぷっぷっぷ~う。だからどうか、未来ある若いあなたたちこそ、正しく、美しく生きていただきたい。ありがとうございました。」
荘厳な音楽の中、唖然として周囲を見ている井出。
「ぷっぴっぴ~」を過ぎた辺りから、なぜか泣き出す生徒たち。しまいには「先生!」と言いながら泣き出す生徒たち、同じく泣く、森、マルコ。それを見て驚いている井出。
井出:そんなに思い出ないでしょ…?
井出、ヒドミと目が合う。
ヒドミ:…
先生、手紙を折り畳み
先生:以上です。(うるうるしながら)じゃあみなさん、ハル子先生がいなくっても、勉強頑張らなくっちゃね。先生もちょっと落ち着きたいので、、15分後に授業を始めましょう。あと、これはハル子先生がみんなに残していったスケッチブックです。
スケッチブックを置いて去る、先生。
× × ×
ざわざわと休み時間の教室。
悲嘆にくれる生徒たち。
泣いている森、マルコと、それを見ている井出。
森:ハル子先生!なんでやめちまったんだよ~
マルコ:あんな完璧な先生はいなかったよ…
森:確かにな、、素晴らしかった…
井出:どうした。一体どうした。
森:なんだよ井出。お前は悲しくないのか?
井出:なにが?
森:ハル子先生がやめちまったんだぞ!?
井出:う、うん、、でも、たった一日だけの担任だろ?
森:一日!?そうだっけ!?でも関係ねえよ!
マルコ:そうだよ!時間なんて関係ない!
井出:マルコまで…?
マルコ:ああ、ハル子先生と行った遠足も、楽しかった…
森:ああ、遠足な~、最高だったぜ
井出:一日だけの担任だぞ?遠足なんていけるかい
森:ハル子先生、サンドイッチ作ってくれてな~
マルコ:おいしかったね
森:俺、ぶっちゃけハル子先生のこと、好きだったな、、
マルコ:え、森君も…?
森:おっとお、まさかのマルコも?
マルコ:…うん、、
森:じゃあ、折角だから同時にしおらしく悲しんでみようぜ、、
マルコ:オッケー…
同時にしおらしく悲しむ二人
井出:なんだこりゃ?
井出、周囲を見回す。
みんな、泣いたり嘆いたり。
井出、ヒドミに近づいていく。
井出:ちょっと、、ヒドミ…
ヒドミ:…
井出:なんか、おかしくない?
ヒドミ:…うん…
井出:ハル子先生いたのって、、昨日一日だけよな?
ヒドミ:うん…
井出:みんな、やたらあの人との記憶を持ってるんだが、、
ヒドミ:…洗脳でも…されたんじゃない?
井出:…洗脳…?
突如、森が井出に突撃してくる。ズドーン!
吹っ飛ばされる井出。
井出:なんだなんだ!?
森:井出~!お前は悲しくないのか~!
井出:俺にはお前が悲しんでる理由が分からん!
森:お前は忘れたのか!あんなに素晴らしい先生のことを!
井出:だから昨日一日だけだったろう!?
森:一日だけだって、俺たち、先生といっぱい思い出があるだろう!なあマルコ!
マルコ:うん!遠足だってそうだし、体育の授業なんかも先生大活躍ですさまじいゴール決めたし、
森:音楽の授業でもみんなでビッグバンド組んで大会で優勝したし、ケンタッキーの曲、みんなで演奏して感動的だったし、
マルコ:放課後にみんなでUFO呼んだのだって、ほんとにUFO来ちゃって最高だった!
森:ユリゲラー呼んだときも、スプーン曲げ対決でハル子先生、ユリゲラーの指曲げて勝ったじゃないか!
活き活きした生徒たちとハル子先生の再現映像の数々。
井出:なんだその思い出!はっ!?
井出、教壇で生徒たちが囲んでみているスケッチブックを奪う。
表紙には「みんなの思い出 作・ハル子先生」とヘタクソな字で書かれている。
井出:まさか…
ページをめくると、すごいヘタクソな絵(ハル子が描いた)で描かれた、「サッカーでハル子がスーパーゴールの図」「ビッグバンドで優勝の図」「UFOを呼ぶの図」「ユリゲラーの指を曲げる」等等、思い出の数々。
井出:全部ここに描かれてことだ!しかもすっげーヘタクソ!見ろみんな!騙されるな!
井出、スケッチブックを噛みちぎりギタギタにする。
森:なんてことすんだ!井出ー!
井出に襲いかかる生徒たち。
井出:ぎゃー!
それを見ている、ヒドミ。
× × ×
時間経過
救急車の音
× × ×
夕方の校舎。
廊下で担任の先生と向かい合うヒドミ。
先生はつぎはぎだらけのスケッチブックを大事そうに持っている。
穏やかな笑顔で話しながら時折激しく壁を蹴る担任の先生。
ヒドミは箱を持っている。
先生:井出君、みんなにぶちのめされて早退しちゃって、それ忘れてったから、お家まで届けてもらっていい?お願いね。
ヒドミ:…はい…
先生が抱いているスケッチブックを見ているヒドミ。
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