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フリクリ プログレ 第1話-1

登場人物
ハル子(ラハル)
ヒドミ
ジンユ
井手交(いで こう)
森吾郎
マルコ・野方
ヒドミの母

イラスト/吉成鋼 

【ヒドミの夢】

(曲イメージ フィッシュマンズ「BackBeatにのっかって」のイントロ部分のループ)
宇宙。地球とおぼしき星。

ヒドミの声:星は 

そこに近づく、巨大な何か

ヒドミの声:星と 

重なる、二つの星。爆発の前兆。

ヒドミの声:くっつきたがる 

光に包まれる。
地球上。かつて高層ビルが乱立していただろう都市。瓦礫の山。煙の立ち上る荒れ地に入ったヒビから、謎の液体が滲み出て泡立っている。
都市を覆う様にある、ゆるやかな丘だか山脈。
(俯瞰してみると、横たわったハル子)
汚物を垂れ流して飛ぶ怪鳥の群れが通り過ぎる。
汚らしく倒壊したビルから、ミュータント化した野犬(足が一杯とか、双頭とか。頭の片方は死んでいるのか、ダラリと垂れ下がっている)が現れ、吠える(「デウデウ!」みたいな、壊れた鳴き声)。そこに重なるように始まる、少女の声による悪意に満ちた音楽的なナレーションが始まる。

ヒドミの声:わんわん!キャンキャン!なーんてもう鳴かない!鳴けない。だってだってこの星のありとあらゆるものが焼~け~ただ~れ~、潰~れ~、粉々にな~り~、人は死~に~、なんだか燃えちゃいけないものが燃える匂~い~、くさ~り~、ぜっっっったいに壊れちゃいけないっていわれてたものが壊れきっっちゃって、ぜっっっっったいに中から出て来ちゃいけないものが飛びだ~し~、ワンちゃんがそれをハグハグハグハグ美味しく頂いた訳で、それはつまりキャッッットやドッッッッグが食べるべっっっっきじゃないものを食べるべきして食べるべるべるしてしまった訳でそうなるとやっぱり「食べ物ってとっても大事じゃない?食べ物って食べ物ってその人そのものを形作る訳じゃない?だからちゃんと気をつけなくちゃいけないと思うの」だからだからその人が食べるべっきーじゃないものを食べるべっきーするとどうなるかっていうとつまり、その人はその人じゃなくなるっていうことだから、つまりねつまりね

野犬の目が、カタツムリの様に伸びる。荒れ地は時々、轟音とともに揺れる。あちこちの地割れから吹き出す謎の噴煙。

ヒドミの声:ちょっと便利になっちゃったりする訳!やだ!これ便利!だからもうわたし泣かない!だからもうわたし泣けない!わったしたちはわったしたちのもっともっと(元々)の姿を覚えているから泣ける訳で、もうすでにもっともっとの姿が影も形もなくなっちゃったら、、泣く、こと、さえ、できないかなわないん、ですう~~~。

廃墟から、「人」なのだが、様子がおかしいゾンビ風の生物がふらりと出て来る。

ヒドミの声:(ムツゴロウ風)あ~、出てきましたね~、可愛いですね~、なにか探してるんですかね~、ここにもいましたね~、自分がもっともとどんなだったか、分っからなくなってるんですね~、おっ、何かを嗅ぎ付けましたよ…?

ゾンビ風の生き物(ゾンA)がふらりと向いた先に、さきほどの野犬を食べている、また別のゾンビ風(ゾンB)。

ヒドミの声:あ~、こちらも可愛いですね~、あっ、さっきの便利になっちゃったを食べてるんですね~、いや~、まさに、、、、美味しそうですね~、それを見た彼は、どう思うんでしょうか、カメラさん寄ってください

ゾンAのアップ。どこが目でどこが口だかも分からない。

ヒドミの声:全然表情が分からないんで、感情を読み取ることができないんですね~。そこがまた可愛いんですね~

ゾンAがゾンBに叫び声を上げながら襲いかかる。ゾンBも応酬する。つかみ合い、かじりつく。体から体液をほとばしらせながらくんずほぐれつするゾンビ風。少し離れたところで地面に固定された鎖が、空に引っ張られて揺れる。カラカラカラ…(アトムスクの鎖)

ヒドミの声:それを知ってか知らぬか、ガイアは静か〜に、謎な監視塔は今日も静か〜に

街を囲む山並みの頂に巨大な脳みそ。呼吸をする様にうごめいている。
草も枯れ、はげ上がった山並みは、引いてみると、横たわった巨大なハル子に見える。石化したかのよう。

【ヒドミの部屋】

ベッドで眠るヒドミ。微笑む。

【ヒドミの夢】

折れたコンクリートの柱の上に落ちて来る、ヒドミゾンビ。確実に骨が折れただろう落ち方。

ヒドミの声:こんにちは!

起き上がろうとするヒドミ。右手、左手、右足、力を入れてプルプルと立ち上がる。

ヒドミの声:わた、しは、ヒ・ド・ミ…ちゃんでええええーーす!

ドボボオー!と口から緑色の体液を吐きながら立ち上がるヒドミ。
ゾンビヒドミの視界。荒れ果てた荒野と、生前のヒドミの生活風景のコラージュ。

ヒドミの声:元々はただの中学生でござんした。特になんも考えてない、ただの田舎の中学生でごじーました。でも地球ちゃんがこんなことになってからはそんなそもそもなんも考えてないとかそもそも田舎の中学生とかって立っっ派な肩書きも捨てて、とてもシンプルな動物アニマル動物になることが叶いまして、つまりシンプルな動物、略してシンプル動物、さらに略して「しん・ぶつ」、とでも言いましょうか、そういった「しんぶつ」、「ごしんぶつ」としてとても純粋な状態でただ今絶賛前進中。前進するだけだって本当の意味でも充分な前進なわけだし、今ほらそこほら、お腹ペコリーノロマーノを満たすべくファンキーフードにかじり付いているディアフレンズを同じくお腹ペコリーノロマーノな私ヒドミちゃんがカジリスユーフラテス目的でせっせっきんきん接近中。

近づくゾンビヒドミに気付いた、ゾンAB。その奥からも別のゾンビ達や野犬達が接近中。

ヒドミの声:ちょっと!仏陀みたいな景色になってない?ありがとう皆の衆!私の元に集まって来ておるのだやな?だなや?それとも私の方が皆の衆に近づいておるのだやな?こうなっちゃうと「食べる」も「食べられる」もほぼほぼ同じになっちゃって、人を殺すってことと自分で勝手に死ぬってことが本質的には同じ意味を持っている、とかって誰か言ってたな〜と思いつつ、何も知らなかったあの頃に帰りたい!今では全てが怖くて動けんぴ。自由はそこ。ほんとの自由はそこ。見えないけどすぐそこ。

ゾンビ達を威嚇するヒドミ。吐き出した酸性の体液で何匹かのゾンビはよろめくが、そのうち数で圧倒され、肩口を噛みちぎられる。おぞましい奇声を上げるヒドミゾンビ。震えながら息絶えていくヒドミゾンビ。

ヒドミの声:今日も今日とてホトトギス。食べ続けてれば食べられる。この時にきっと私は思い出すんだ。中学生だったこと。何も考えてなかったこと。私にはずーっとずーーーっと何もなかったんだってこと。そんでここは地球で、私はそこで生まれたんだってこと。こんにちは!地球!

ゾンビ達がヒドミに噛み付いて飛び散った血しぶきで画面が赤黒く染まる。

【ヒドミの部屋】

朝。さわやかな日差しがカーテンの隙間から。

ヒドミ:(息荒く)はあはあ…

ベッドの上、息を乱したヒドミがゆっくりと目を開ける。
頬を赤らめているヒドミが起き上がる。
ベッドの脇にある、「MEGADEATH」モチーフのオブジェ(一見、時計)が「_732」と表示。

【洗面所】

水道水が透明のコップに注がれる。うっすらと白い粒が舞う、コップの中の水。
それを目の前にかかげ、制服に着替えたヒドミ、ぶつくさと何か言っている。

ヒドミ:(聞き取れないほどの声で。ナレーションの口調)わたしにはわかあっている。この水に謎の白ぉぉぉい物っっ体がふゆふゆ浮ん遊していることを〜ん…

ヒドミは、その水を飲む。

【玄関】

靴を履いているヒドミ。
居間のドアの磨りガラスの向こうから母の声

母の声:○×〜〜□×○(何を言ってるか不明)

ヒドミ:わかってるって、いってきます

【ヒドミの家の前の道】

ヒドミが道に出て来て立ち止まる。
小鳥の鳴き声、車の通る音。
ヒドミと同じ制服を着たり着てなかったり(私服)する多国籍な男子女子が、ギャーギャー言いながら走り抜けていく。
それを見つめ、首にかけていたヘッドホンを装着するヒドミ。
ヒドミの目線、騒いでいた男子女子の声、走る車の音が、消え、無音になる。
無音になった景色を確認し、遠くの景色を見上げるヒドミ。

ヒドミ(オフ):…脳みそじゃないのか…

ヒドミ、歩き始める。


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