世界征服~明日汰と吾郎~第003話

 アニメ“世界征服~謀略のズヴィズダー~”の二次創作小説です。
 投げ銭方式ですので今回の第003話は最後までお読みいただけます。
(第004話は次回のアップとなります。第001話はこちら。前話はこちら。過去作品リストはこちら
 本作はテレビ放映版を参考にしていますが、必ずしも全ての設定が原作通りというわけではございません。
 また二次創作という性質上、原作をご存じの方に向けて書きましたので外見等の描写や説明は省いております。


世界征服~明日汰と吾郎~第003話

「ハぁ~イ♪ カオリン・マチモぉトデ~ス☆ 今日ハ出演シテイルTVアニメ“ムーンベース☆新選組”ノ宣伝デ、一日局長ヲ務メマース。ヨロシークネ~♪」
 襖を開けて飛び込んで来たカオリンの挨拶はいつも通り全力である。演じているキャラクターに準じた赤紫のドレスにダンダラ羽織、腰まである長い金髪とカタコトの日本語、そして声を当てているキャラクターと同型の、顔の上部を覆うダンダラ模様のマスク。カオリンファンにとっては感涙ものだが、築二百年以上の古民家にあってはどうにも収まりが悪い。
「ヨッコラセ……と」
 流れるような仕草で正座をしてみせるカオリン。すっと伸びた背筋から気品が漂う。しかし異物感は否拭い去れない。
 この古民家、元々は甲州街道ウド宿の名主が住んでいた家で、補修や屋内配線工事はしているが当時と同じ場所に、同じ姿で建っている。江戸時代末期には日野の佐藤家同様、新選組の中核メンバーが天然理心流剣術の手ほどきを行う出先道場が併設されていたが、現在は新選組のコスプレをした園内警備スタッフの詰め所として使われている。
 大ウド時代村の敷地は西ウド川市とその南の府野王市にまたがっているが、所在地は西ウド川市となっている。両市とも新選組と縁が深く、スタッフの衣装に関しても両市の意向が強く働いたらしい。警備スタッフの役職名が“局長”以下、“副長”“隊長”“隊士”“監察”と新選組に習っているのも同じ理由だ。
 一日局長のカオリンは羽織の襟を整える。
「……拍手シテモイーデスヨー? モー一回ヤリマスネー」
 起ち上がると部屋を出て襖を閉める。そしてすぐ襖を開けた。
「ハぁ~イ♪ カオリン・マチモトデ~ス☆ 今日ハ私ノ出演シテイルアニメ“ムーンベース☆新選組”ノ宣伝デ、一日局長ヲ務メマース。ヨロシークネ~♪」
 今度は歌舞伎の見栄に似た決めポーズをしてみせるカオリン。
 しかし拍手は『パチ。パチ。パチ。』と、まばら。
「オー……モシカシテ二人トモ、カオリンノコト、知ラナイノデスカー?」
 頷いたのは向かいに座る、新選組姿の駒鳥蓮華である。照れ笑いを浮かべながら、
「すみません。最近はあんまりアニメとか観ないんで……」
 と耳を赤らめている。
「気ニシナイデクダサーイ。皆サンニ知ッテモラエルヨーニ頑張リマース」
 カオリンは肩を落として先ほど座った所で正座すると、
「ソチラノ方モ知ラナイデスカー……」
 蓮華の隣に座っている鹿羽逸花に問いかけた。
「アニメは観たことあるけど声優の名前まではなぁ……そんなことよりさあ」
「ソン……!?」
 ふくれっ面の逸花はカオリンの動揺を気にもかけずに話を続ける。
「アンタはアニメのキャラでいいけどさぁ、アタシらはちゃんとした新選組隊士のコスプレだよな? 野口健司なんて奴は聞いたことねぇぞ? ホントにいんのかよ」
「あ、それ! あたしもいわれるままに着替えたんですけど、平間重助さんって誰ですか!?」
「ジーザぁス! 貴女タチハぁソンナコトモ知ラズニ来タデースカー!?」
「んなこといわれてもなぁ。何となくここ選んだだけだし」
「すみません、母にいわれて来ただけなので」
「イイデスカー? 野口サぁント平間サぁンハー、コノカオリンガ演ジル“カオリーヌ芹沢”ト共ニ、月面京都ヲ守ッテイル人ノモデルデース。ドゥユーアンダスターン?」
「まぁ、いるんならいいんだけどさぁ」
「え? あ……まぁ、はい……」
 釈然としない蓮華であったが、自分が細かいことを気にしすぎているだけなのかもしれないと思い、それ以上の追求はしなかった。
「デハ二人トモー、京ノ治安ヲ守ルタメぇ悪人ビシバーシ取リ締マッテクダサーイネー♪」
 カオリンはピシリと出口を指差した。
「あの、それだけ……ですか? もっと手順とか……」
「オー。正義ノ心ガアレバ手順ナンカイーノデース☆」
「いいんですか!?」
「イーンデース! デハ二人トモー、京ノ治安ヲ守ルタメぇ悪人ビシバーシ取リ締マッテクダサーイネー♪」
 カオリンは再びピシリと出口を指差したが、またもや蓮華が水を差す。
「あっ! あと捕まえた人はどうするんですか?」
「好キナヨーニ懲ラシメチャッテクダサーイ! デハ二人トモー、京ノ治安ヲ守ルタメぇ悪人……」
 出口を指差そうと構えたカオリンに、今度は逸花が口を挟む。
「おぅおぅ。悪人かどうかはアタシ判断でいいのか?」
「シッ!! ガッデムシッ!! サッサト行クデース!! デハ二人トモー、京ノ治安ヲ守ルタメぇ悪人ビシバーシ取リ締マッテクダサーイネーっ!!」
 蓮華と逸花は追われるように詰め所を出た。
 詰め所は村落エリアにあり、二人は悪人が多そうな城下町エリアへ行こうと大ウド城を目印に畔道を進む。
 逸花は、うなだれて歩く蓮華の肩に手を添えた。
「指差すポーズの意味が分からねぇんだろ? でも、そんな落ち込むこたぁねぇよ。アタシも分かんねぇんだからさ」
「いえ、その……カオリンさん、怒ってたじゃないですか。もしかして、あたしたちが何か悪いことしたのかなあって……」
「怒ってた……怒ってたか?」
「はい」
「気のせいじゃねぇ? アタシには怒ってるようには見えなかったぞ」
「怒鳴ってませんでした?」
「あれって、演じてるキャラの真似じゃねぇのか? いきなり大声出す系キャラ」
「そうなんですか?」
「そうなんじゃね?」
「そっか。なら別にあたしたちが悪かったわけじゃないんですね!」
「ったりめーだろ。分からねぇこと訊いただけで、何にも悪いことなんかしてねーんだから。……もしかして、そんなことで悩んでたのか?」
「はあ……今朝、母さんにいきなり手伝いに行けっていわれるわ、行ったらいったらで訳も分からず怒鳴られるわで……なんかツイてないなあって」
 蓮華は通っている中学校が休校になり、日がな一日ゴロゴロと過ごしていた。見かねた母親は知り合いのパート先で人手が足りないことを思い出し、手伝いをさせるために蓮華を大ウド時代村へ寄こしたのである。蓮華としても母の顔を立てるために来てはみたが今でも気乗りがしない。
「でも怒られてたわけじゃないなら、少し気が楽になりました」
「おぅ。そりゃあよかった」
「……母さんがヘンなこと言い出さなきゃよかったのに」
 と口を尖らせる蓮華は、
「逸花さんのところはどうなんですか?」
 言いかけて後悔した。詰め所の更衣室で挨拶した際、逸花の母親がすでに鬼籍に入っていると聞いていたのだ。
「す、すみません!」
「ん? なにが?」
「あの……その……お母さんの……」
「ああ。いいっていいって、気にしてねーし」
 逸花の笑顔に救われる思いがした。
「オヤジはいるし、みんなもいるしなぁ」
「みんな?」
「家族みたいな奴らがな、いっぱいいてくれるんだよ」
「なんか素敵ですね!」
 蓮華は逸花の前に身を乗り出す。
「父兄参観で初めてお父さんがいらっしゃるんですよね。他の皆さんもいらっしゃるんですか?」
「何人かは午後からになりそうだけど、オヤジとほか何人かは朝イチで来てるんじゃねぇかな」
「そうですか! だったら、いいところ見せなきゃですね!」
「や、いいトコとかはいらねーんじゃ……」
「よーし! あたしなんかが落ち込んでる場合じゃないぞー!!」
「そんな、張り切らなくて……」
「一生懸命手伝いますから警備の仕事がんばりましょう!!」
「いや……」
「がんばりっ! ましょうっ!!」
「お、おう……」
「声が小さい!」
「お、おう!!」
 蓮華の善意に気圧される逸花であった。

「ところで逸花さん、前にどこかであったことありませんでしたっけ?」
「気のせいじゃね?」
「そうですか」

世界征服~明日汰と吾郎~第004話(次回) へ続く


 お読みいただきありがとうございました。
 とりあえず第010話くらいまでは続きますが、それ以降も続くか否かはスキやコメント、投げ銭次第となっております。

 投げ銭していただけるととても嬉しいですが全何話になるか未定で、もし途中打ち切りにならず最終回を迎えると100話以上になりかねませんので投げ銭してくださる方は毎回ではなく適度に間をおいてくださるとありがたいです。

(以降、ご入金いただいてもテキストはございません)

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