世界征服~明日汰と吾郎~第004話

 アニメ“世界征服~謀略のズヴィズダー~”の二次創作小説です。
 投げ銭方式ですので今回の第004話は最後までお読みいただけます。
(第005話は次回のアップとなります。第001話はこちら。前話はこちら。過去作品リストはこちら
 本作はテレビ放映版を参考にしていますが、必ずしも全ての設定が原作通りというわけではございません。


世界征服~明日汰と吾郎~第004話

 固く握りしめた鉛筆の尻をガリガリと噛む星宮ケイトは小腹が空いているわけではない。もちろん鉛筆が好物というわけでもない。
 リビングテーブルに置かれたノートには漢字が書かれている。“春”が二十文字、“夏”が二十文字、“秋”が二十文字、そして“冬”が六文字。
 これがケイトの限界であった。
「吾郎と明日汰が大ウド時代村でカオリンと会っているというのに、なぜゆえ私は書き取りなどしていなければならないのか! 世の中まちがってる! まことに遺憾に存じるぞ!」
 全てはケイトの身から出た錆であり、ケイトが決めたことである。
 ケイトは『毎日十種類の漢字や熟語を二十ずつ書く!』と逸花と約束していたが、昨日は世界征服事業に勤しみすぎて書き取りし忘れてしまった。これが今朝、逸花にバレた。
「ケイトぉ~♪ 一人で書き取りできないのぉ~♪ も~、ダミだにゃ~♪ だったらぁ勤労体験学習から帰ってきたらぁ二日分まとめて手取り足取り書き取りしちゃうぞぅ~~☆」
 逸花の親愛なる恫喝に曝されたケイトは、
「お……大ウド時代村は午後から行く……午前中に……書き取り、終わらせて、な」
 目に涙をためながら逸花を見送り、吾郎と明日汰を見送ったのだ。
「この恨み、絶対に忘れんぞー!」
 ケイトは鉛筆をかみ砕く。と同時にナターシャが髪を振り乱して飛び込んで来た。
「どうしたナターシャ! おまえも私をおいて遊びに行きたいのか!?」
「いえ! 地下遺跡の書庫にあった本に古代前ウド川期に制定された“ウド国公法”が隠された場所が載っておったぁ!」
「なにー! それはどこだ!」
「……大ウド時代村じゃけぇ」
「おおなんと! よし! ズヴィズダー出動だ! それいけー!!」
「書き取りを終わらせんと、ええんか?」
「うっ! ぐむむむむ……よもや漢字ごときにここまで辛酸をなめさせられるとは……」
 ケイトは眉間にシワを刻んで悔しがる。
「こうなれば最後の手段を使うしかあるまい。しばらく待っておれ。すぐに書き取りを終わらせて大ウド時代村へむかう!」
「そがぁなこともあろうかと、すでにこの基地は大ウド時代村の敷地内へ移動ずみじゃあ」
 一転、ケイトは満面の笑み。
「でかしたぞ! よーし、ちょっと様子を見に出るか!」
「あの、書き取りは……」
「ちょっとだから! すぐ戻ってきて終わらせるから!」

 五分後、二人はそろって城下町エリアを歩いていた。
 目を輝かせて辺りを見ていたケイトは、うわあ、と声をあげ、曲がり角から現れた男を指差した。
「あのお侍さん、本物そっくりだぞ!? なあナターシャ!」
「ホンモノのサムライなんか見たことないけぇ、よぅわからん」
 城下町エリアの中心部は江戸時代の町家が再現されている。大店が軒を並べるメインストリートとその裏にひしめく長屋群。清掃や修繕に携わるスタッフも担当に合った当時の装束で作業しているので、多くの観光客がいながらも江戸時代らしさがそこなわれない。
「お侍さんいいなあ! 私もお侍さんの服、着たいなあ!」
「衣装レンタルもしとるらしい」
「本当か!?」
「将軍がいってたけぇ、本当じゃろうのぅ」
「そうか! 基地に戻るとき寄っていかねばなっ!!」
 と喜びの決断をしたケイトであったが、みるみる内に鬼の形相へと変わる。
「こんな面白いところへ私をおいて先にきて、しかも一日局長のカオリンを見てるとは……おのれ明日汰! この恨み晴らさでおくべきかぁ~~~っ!!」
 その時である。
 歯ぎしりして悔しがっているケイトへナターシャが、
「いかんっ!!」
 激しい体当たりをくらわせた。
「ぎゃん!」
 とケイトは砂ぼこりをあげながらゴロゴロと転がり、呉服屋の壁に当たって跳ね返ってくる。
「な、なにをするーっ!」
「毒じゃあ! 毒ガスじゃあ!!」
「なにっ!?」
 タバコの香りが風に乗って漂ってくる。
「おのれ! 元凶を葬り去ってくれる! いくぞナターシャ!」
「おうっ!」
 表通りを曲がって長屋通りに入って三軒目。
 その男は二人を見てひどく驚いた。
「ヴィニエイラ様ぁっ!? なんでもう来てるんですか!?」
 ヤスである。右手にはキセル。雁首から一筋の煙が立っていた。
「お前が悪さをしてないか見にきたのだ!」
「あ、アッシぁ昨日の夜からですね、ちゃーーーーんと並んで、オヤジとドバァーと一緒に一番で入りやした! なーーーんも悪いことなんかしちゃおりませんぜ!」
「ではその手に持っている物はなんだ!」
「これはタバ……」
「ほぉおれみたことか!」
「ち違いやす! これは! その……あのぅ……えーっと……れ、歴史……歴史的用法……。そうっ! 歴史的用法なんですっ!」
「れきち……歴史的用法? なんだそれは。そんなでまかせにはごまかされんぞ!」
「だから違うんですよ! ここ大ウド時代村は江戸時代を忠実に再現することを目指しておりやす。そして江戸時代、オトナの喫煙率は70%とも90%ともいわれておりやして……つまりこのタバコは江戸時代の雰囲気を再現するために、しかたなーーく吸っている歴史的用法ってやつなんですよ」
「な、なん……だと……?」
「そうでなければ誰がヴィニエイラ様を裏切ってタバコなんか吸うもんですか! あーイヤだなータバコ。吸いたくないなータバコ。でも歴史的用法で吸わなきゃいけないんだよなー。つらいなー」
 ヤスはケイトに反論の隙を与えず、たたみ掛ける。
「もしかしてヴィニエイラ様は江戸の喫煙率とか知らなかったんですか? いや、まさかねぇ。ヴィニエイラ様が、そんな子供でも知ってることを知らないわけありませんよねぇ?」
「し、知っておる!」
「お。さすがはヴィニエイラ様。じゃあここでなら吸ってもよろしいですよね?」
 ケイトは怒りと悔しさと不快さの入り交じった険しい表情で頷いた。
「し、しかたあるまい……歴史的用法なのだからな……」
 ケイトの小さい身体が直立したまま地面を滑った。何の予兆も見せずにヤスとの距離を縮めると、
「歴史的用法パァーーーンチっ!」
 ヤスのはらわたをえぐり取らんばかりのボディアッパーを打ち打ち込む。
“く”の字に折れ曲がったヤスは痛みのあまり声が出せず、出るのはうめきとヨダレばかりというありさま。
 しかしケイトは冷酷な視線を浴びせている。
「許せヤス。私もこんなことはしたくないのだ。しかしな、歴史的用法なのでしかたなくやっているのだ」
「そ、そん……」
「歴史的用法サマーソルトキーーーック!!」
 ヤスの下がったアゴへ幼女の容赦のない足が炸裂する。
 さらに歴史的用法アックスボンバー、歴史的用法エルボードロップ、歴史的用法毒霧と続き、歴史的用法亀甲縛りで幕を閉じた。
 ケイトは、ぜえぜえと肩で息をしながらナターシャへ指示を飛ばす。
「お前は予定通りウド国公法を探せ……」
「はっ」
「私は戻って書き取りを終えてからカオリンに会いにいく。そしてロボ子は……ってロボ子はどこだ?」
「シャワーに行ってたはずじゃが……おらんのぅ」
「まあロボ子なら大丈夫であろう。しかしそうなるとロボ子の代わりを見つけねばならんな」
 と腕組みをするケイト。
「うーんうーん……」
 左右に首を傾げながら悩んでいたが、土間に落ちていた紙切れを見つけて動きを止めた。
「その紙はなんだ?」
 ナターシャが紙切れを拾い、読み上げる。
「貸衣装無料券……みたいじゃのぅ」
「なに!? 貸衣装だと!?」
 ケイトの顔はみるみるうちにほがらかな笑みに包まれる。
「よし! まずは着替えだ! それから計画発動だ! よいな!」
「ロボ子の代わりはどうするんじゃ?」
「……私がなんとかする! 任せろ!」
「はっ。」
「ふっふっふっふっふ。この……
 ヴィ~
 ニ~
 エィ~
 ラ~

 が毒ガスをまき散らす江戸とともに吾郎と明日汰を懲らしめてやるー!」


世界征服~明日汰と吾郎~第005話(次回) へ続く


 お読みいただきありがとうございました。
 とりあえず第010話くらいまでは続きますが、それ以降も続くか否かはスキやコメント、投げ銭次第となっております。

 投げ銭していただけるととても嬉しいですが全何話になるか未定で、もし途中打ち切りにならず最終回を迎えると100話以上になりかねませんので投げ銭してくださる方は毎回ではなく適度に間をおいてくださるとありがたいです。

(以降、ご入金いただいてもテキストはございません)

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