電波戦隊スイハンジャー#10

第一章・こうして若者たちは戦隊になる

バトルだよ、全員集合!後

その頃、正嗣は夕食の席で「七城真魚しちじょうまお」の免許証を凝視していた。写真の中の坊さんは確かに空海である。


「アヤシイ外国人が偽造した訳ではないから、たぶん警察の検問もスルーできるぞよ。TATUYAのカード作れた時は嬉しかった…」


「でも結局、偽造じゃなかですか?しかも住所ここですよね?

お大師さま、あんた一般人になりすまして何するつもり?」


何企んでるか分からない坊主に恐れを感じて正嗣は「偽造免許証」を返した。


「いやいや、この寺に厄介になろーと思って…男二人では不便であろう?あ、もちろん家賃は体で払うから」


「お大師さま、売春はいけません!」


「法事の読経、畑の世話、檀家へのハガキ宛名書きもするぞ。これでも、字に自信はあるっ!あ、料理も実は得意であるぞよ!」


あ、「労働」ってカタチね。


「いやあ、お大師さま助かります!正嗣は別に仕事持ってるし、自分も『年齢』を感じてましてな…空いてる部屋ならいくらでもありますけん!」


「と、父さん!?」


「正義どのよ、まーくんには徐々に肚決めて寺を継ぐように説得するゆえ…ご子息の本音はお山(高野山)でのエグい修行をずるずる引き延ばしているだけであるよ…」


「やはり、そう思いますか…まったく、若い者は覚悟が足らん」


父、泰然住職は息子を横目に舌打ちをした。


「ちょ、ちょっと…何私の将来計画話し合ってるんです?急に居候の話になっちゃってるし!」


ちょっと図星を射されて正嗣は焦った。


…?どくん。体が熱い。


「た、泰若たいじゃく(正嗣の法名)…?」


「え?」自分の手が透けている!!


(ぐーるぐるっ!)


大安寺の跡取り息子、七城正嗣の体が夕食の席から消えた。


「あ、『バトルになると強制転送』言うの忘れてた」空海が剃髪の頭を掻いた。


「た、たいじゃくーーーっ!!」


父、正義の叫びがむなしく響く。


てなワケで。


(さあーっスイハンジャー、強制バトルで全員集合!!

ヒーロー初級編、まずは雑魚から狩ってみよう!実況は女神Uちゃんでえす)


女神のゆるい実況が、戦隊たちの脳内に響いた。


「…なるほど、これはつまり『チュートリアル』ですね?」


ササニシキブルーが、納得したようにマスクごしに顎に手を置いた。


(そこの青い坊や…どこまでゲーム脳なの?いい?これは、現実。

リアルなのよ…リア充目指したかったら、目の前の雑魚敵やっつけるの!)


「あっ、あのうブルーさん、敵はあと5人ですっ!一人で一匹ずつボコりますか?それとも…」


ヒノヒカリイエローがこわごわと聞いた。

「うん、でも距離離れてるから効率悪いねえー。僕に任せてよ」


ずどん!ライフルでまた一匹、一匹と、雑魚敵をブルーは撃ち倒した。


「そーれっ!スパイラル・ステップ・シークエンス!!トリプルアクセルは自信ないから、トリプルサルコウでっ!!」


(もうホワイトはスケートマニアにしか通じないネタを…さあ、イエローちゃんとレッドちゃん。ホワイトちゃんに雑魚敵を放り投げてあげて!)


指示されて慌てた2人は、ホワイトに向かって雑魚敵を放り投げた。


「食らえっ、渾身のビールマン・スピン!!」


頭上高く反らせた右足を両手で握り、ホワイトは高速回転した。そのエッジ先端に雑魚敵たちの体が…


ぎゅるぎゅるずぶずぶ、ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ!!


と、ドリル回転するホワイトの足先の上で無惨に四散した。


(おえっぷ…演技は華麗だけど、エグい攻撃だわね…さあ、他の男子たちぃ、演技の評価は?)


「スケートは詳しくないけど、攻撃力は満点です!」


他4色メンバーは声を揃えてホワイトの演技を絶賛した。


「さぁーってえ、ショッカーもどきは全部片付けた…かな?」


技を使い終えたホワイトのブーツの底からスケートブレードが消えた。


「ええっ、ピンヒールぅ?姉ちゃんその格好で闘うつもりだべか!?」


レッドが呆れながらホワイトを指差して叫んだ。


「プリ○ュアみたくしてってスーツくれた神様に言ったらこうなっちゃった。きゃはっ、可愛いからいいでしょ?」


ホワイトはわぁお!と小さく感嘆の溜め息を漏らして、自分のスーツを細部まで確認した。


「ピンヒール、踏まれてみたいピンヒール…」とアブノーマル川柳を一句ひねりながらマスクの奥でイエローは、鼻血をたらしていた。


「そこのイエロー君はちょっとM気質のようだね?」


マスクの下でブルーの眼鏡が意地悪そうに光った。


「ブルーさん独り言ですっ。忘れて下さい!」


「もう敵は…倒し尽くしたんでしょうかね?」


辺りを見回して、グリーンが尋ねた。ひいふうみい…しまったっ、あと一匹!!


倒された雑魚キャラ達の体と黒い体液が黒いガス体となって、残りの一匹に注ぎ込まれる。


雑魚は二回りも体が大きくなり、おまけに鎧と盾も装備していた。


「…身長40メートルにはなんねえべなー」


「レッドくんは特撮ものを見すぎだよ。でもこれ厄介そうだよ。僕、痛い思いしたくないなあー…」


「ブルーさん、ヒーローものにあるまじき発言!」


「これは、全員で襲って、散らされるパターンじゃなかですか?」


冷静にグリーンは予測した。


「とにかく全員でフルボッコしちゃえばいいじゃない!」


戦法としては正攻法だが、現実で言われると恐ろしいセリフを、ホワイトはのたまわった。


「そ、そーだね。やってみなきゃ、わかんないよね」


5人はパワーアップした雑魚キャラに飛び掛かった。


レッド電撃鎌「いかづち!」と思い付きの技を叫んで何ボルトあるか分からない電流を敵に浴びせ、


ブルーは後方から2丁拳銃連射で敵の胴体に弾丸を喰らわせる。


レッドの攻撃の合間、イエローは日本刀で敵の背部を斬った。


グリーンも竹刀でイエローと交互になって斬りつける。


ホワイトは「合格しゃもじ技、受かれ受かれ受かれえっ!!」ぼこぼこ!とむやみに敵の頭部に武器を叩きつけるが…


がきんっ!!やっぱりというか、5人の攻撃は弾き返されて、全員地面に叩きつけられた。


「ぐはあっ!!レッドくん、痛いよ…でもスーツのせいか、思ったより痛くないよ…」


「ブルーさん、どっちなんだべ?いてて…」


「グリーンさんあんたその武器は笑いを誘うべ…あだだ…」


「職業上最近は体罰も憚られますが…くう…っ」


「え、グリーンさんの仕事って?まあそんなことより…どーやって倒すの?これ」


(えっへん、私が教えてしんぜましょう。こういう時の為に、『連携技』があるのです)


「女神さまっ、早く言ってよおっ!んもお」


(カンペ読みながらだから待っててね…えーと、『いただきまーす』言って、しゃもじを出します!)


「いただきまーす!」しゅばっ!!


(円陣組んで、全員のしゃもじを合わせて下さい。そして呪文は…)


「しゃもじブーメラン!!」


(え、先に言っちゃったあ?)


しゃもじが高速回転し、鎧を付けた雑魚敵に当たると、頭から真っ二つにその体を切り裂き、黒い体液のしぶきと共に、敵の体が細かく飛び散った。


「うわっ、特撮技も実際やるとエグいなあ…」思わずレッドが呟いた。



その肉片に近づくちっちゃな者の姿があった。


「はいはーい、サンプル採るべー」「こ、小人の松五郎さん!?」


戦隊全員がそれぞれの口調で叫んだ。


白衣を羽織った松五郎はちっちゃなシャーレに敵の肉片を集めている。


「えーとインテリコロポックルの松五郎さんね?みーんな同じ顔だから、名前覚えらんなくてなまら難しいべ」


とホワイトは手袋をした両手をぱちん!と合わせて小人との再会を喜んだ。


(はーい、クエスト完了!!お疲れ様でした、もう変身解いていいです)


そー言われても…サプライズヒーローショーと思われたのか、周りの人々は5人を取り囲み、拍手までしている者もいる。


「ああっ!写メ撮られてる!!」


「なんか、握手求められたわ!霞ヶ関にもヒーローヲタはいたのね?」


「ここは…集団スキル『とんずら』だべ!」


だーっしゅ!!


ちなみに、彼らはパワースーツを着た状態では、「ちょっと走っただけ」で時速150キロは出せます。


5キロほど離れた路地裏ビルの影で、全員小声で「ごちそうさまでしたぁー…」とささやかな白い閃光と共に変身を解いた。


「こ、これで目立たなくなりましたよね?あ、なんか腹減った…」


作務衣姿のグリーンこと正嗣が言ってすぐ後、地べたにへたりこんだ。


「うん、一応おら達一般人に戻ったべ」


息をついてレッド隆文が顔を挙げた。


「僕は『変身』を公衆の面前でやっちまいました…職場の者に見られてないか心配だ…」


イエロー琢磨は頭を抱えた。


「ええっ、それルール違反じゃないかい?霞ヶ関が職場って、きみ…」


ブルー悟が追及の手を止めた。目の前の女性を見て言葉が出なくなったのだ。


「ホ、ホワイトさん?ってゆーかお嬢さんその『扮装』も解いてくれないかなあ?め、目だち過ぎるっ!」


「あ、やっぱりコスプレのままじゃ目立つう?きゃはっ」


初音○クのコスプレをした小岩井きららは、なんの邪気も無い顔で笑った。



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