電波戦隊スイハンジャー#12

第一章・こうして若者たちは戦隊になる

これにて飲み会おひらき


「わたし、物心ついた時からコロポックル様が見えるんですよねー。


地元の北海道では松五郎さんたちみたいにかすりに袴じゃなくて、アイヌの衣装着てましたよー。でも言葉はわたしに分かりやすいように、東北弁でした」

冒頭から電波な話ですいません。七城米グリーンこと、七城正嗣です。

私が何故きららホワイトこと、小岩井きららさんのトークの補足をするかというと…つまり、彼女、話があちこちに飛びやすいというか…

「天然」の要素があるなーと思ったし、他のメンバー結構酔っていて、私以外に冷静に語れる者がいないんですよね…

師匠兼マネージャーの空海さまは(クソ坊主呼ばわりしてすいません)父の看病の為に先に実家に帰ってもらいました。

なんか…いちいち詰めの甘い迷惑な人だけど、うちは男所帯なんで居てもらえるだけで助かります。

あ、私が脱線してしまいましたね。きららさんの話に戻りましょう。

彼女が言っている「コロポックルさま」とは、ずばり「北海道産の木霊」ではないか、と思われます。

確かアイヌ語で「蕗の葉の下の人」という意味ではなかったでしょうか?

私は大学時代「アイヌ神謡集」が好きで少しアイヌ文化の勉強した事あるんです。専攻は哲学ですが…

きららさんのルーツを辿ると、明治時代に入植した屯田兵とアイヌ女性との間に、彼女のひいおじいさんが生まれたそうです。

「でも、ふつーにコロポックルさまの話すると友達が一人、また一人と減っていくんですよねー」

うんうん、私も小さい頃から「見えないモノ」が見えてたから、気持ちは分かりますよ…

小学校中学年でそのテの話するのもう止めましたもん…きららさん、木霊さんしか見えないようです。

幽霊とか、妖怪の類は見えないんだ…いいなー…。

シックスセンスライフって、ただただ面倒でしかないんですよねー。

「で、『ひこ』ちゃんとの出会いを教えてもらっていいですか?」

私が聞くと、きららさんはそうそう!と思い出したように、傍らで毛布被って眠る幼児「自称ちび女神ひこ」を見やった。

盗んだビーフジャーキーを幼児とは思えぬ咬力で食っちまい、さらに紫垣さんが作ってくれた料理を肉だけ好んで食い散らかして、満腹になるととっとと眠ってしまう。

この『ひこ』ちゃんも木霊同様、ミサンガ巻いた人間や、僕やきららさんみたいに霊感の強い者にしか見えない、不思議な『肉食女児』です。

「ガキは野菜も食え!」とレッド隆文さんが説教すると、

「るせーオヤジ」と言い返す生意気さ。

いずれ教育的指導が必要かな。

「こないだのゴールデンウィークで、大学の友達と一緒に鹿児島旅行行ったんですよお」

「鹿児島は食い物がうまいいいところですよねー」

「そおそお、黒豚が美味しくってえ、あとつけ揚げもおー」

「はいはい、鹿児島の何処に行ったんですか?」

「霧島温泉ですう。わたしは砂蒸し風呂に入りたかったんですけどね…まあ、温泉が良かったし、泥パック出来たからいいやあー」

「旅館の他に、何処か立ち寄りましたか?」

「あ、そう。友達がパワースポットとか言って霧島神宮っておっきい神社でお参りしたんです。ついでに、恋愛お守り買いました」

「え?成就したい相手でもいるんですか?」

「話の腰を折るなよ、琢磨くん」ちゃっかりきららさんの隣にいる琢磨くんを睨んだのは勝沼さんでした。

「まったく平成生まれは積極的なのか消極的なのか解らない」と言う勝沼さんをおまえが言うか?って目で魚沼さんが見ていました。

「霧島神宮…たぶん接点はそこかも…」

「あはっ、好きな人なんていないですよお、いずれ素敵な彼氏が出来たらいいなあー程度でえ」

「あー、そうですかあ…」

琢磨くんが小さくガッツポーズしたのを全員見逃がしませんでした。

そんな分かりやすい性格、「忍び」としてはどうかと思いますよ…

それに、スーツの下に常時鎖帷子くさりかたびらや手甲を付けてるって暑くないのかい?

って…きららさんの隣で防具脱いで完全に気を抜いてるし!

鎖帷子がユニクロのヒートテック並みに薄いし!どんな製法なんだい?

さっき、ハンガーに掛けられた彼の背広の裏を見ると数種類の刃物が装備されていました。

仕事はキャリア官僚つってたし、なんか複雑なモノ抱えてそうな若者のようです…

うん、彼にはプライベートであまりからまんどこう。

「霧島の帰りに鹿児島市内のビジネスホテルで一泊したんですよ。人間、きれいなベッド見たら、思わずダイブしたくなるじゃないですか?」

「それは人によると思うけど」

「いやいや、修学旅行のノリですよね、分かりますよよおー」

琢磨くんが嬉しそうにうなずきました。

「あたしもベッドにダイブしたんです『わーい、初九州ー!』って。そしたらいつの間にか…見たことのない古代服幼児が…」

「『わーい、わーい』って一緒にダイブしてたんだね?」

それが、きららさんと「ひこ」ちゃんとの出会いだったようで。

「一緒に旅行してた友達には見えない子だったし、こりゃ人間じゃないな、って事はさすがに分かるじゃないですか。一応聞いたんですよね、『お父さんとお母さんは?』って、そしたら…」

『ひこ』ちゃんはきららさんを指差して、「ねたん、『ひこ』を育てろ!」と宣言して、離れなくなって東京まで付いてきたとの事。


話を要約するときららさんは、霧島神宮あたりからちび女神様をお持ち帰りしたようです。


彼女はとても純粋な人なのか、それとも天然な人なのか…

「でも東京に帰って何日か経って、ひこちゃんのお兄さんって人がこの子を迎えに来たんです」

「え?来たんですか?」

「そのお兄さん、とーってもイケメンでした!歴史の教科書で見た弥生人みたいな格好してうちの鏡から出てきたんですよね。

これ、リアル貞子ですよね?でもイケメン貞子だからいーですけどね

とても日本人とは思えなかったんですよ!銀髪に銀の目をしたロン毛のおにーさんで…」

「銀髪に銀目え!?」

琢磨くんが驚愕に顔を引き吊らせました。

「それ、僕が天草で会ったうーちゃんと同じだぞ。あっ、うーちゃんって海の女神です…」

銀髪に銀目?『ひこ』の兄を名乗る若者も神々の一員なのだろうか?

「で、そのイケメンおにーさん、『私はこういう者です』って、名刺くれたんですよねー」

「きららさん、いま持ってますか?」

はい、ときららさんはおサイフに入れていた「ひこ」の兄の名刺を、私に見せてくれました。

Y連合 霧島支部長 N

「イニシャルばかりでねぇか!Y連合って暴走族みてぇだし…それに、ポーズ決めた写真入りって、ホストの名刺か?」

魚沼さんが呆れて名刺を裏表見返し、勝沼さんは小さく肩をすくめました。

「自分で『カッコいい』と思ってるお方のようだね…」

「何でも本名ハンパなく長い上に、バレると色々差し障りがあるんですって。そのお兄さんが連れ戻そうとしたんですけど…

『ひこ、きららねたんのそばにいるー!!』って駄々こねるんですよ」

なんか、スーパーでよく見る光景ですよね。

私は、そのお兄さんの正体、大体見当は付きました。

『N』かあ…本当に『N』なのかあ…

これはやばい。

本当に差し障りあるから、後々のために黙っときます。はい。

「ひこちゃんは、霊山の幼稚園の脱走常習犯ですって。うーん…そのNさんは、『霊山で小さき神々の子らを養育している』って言ってたかなあ…つまり、園長先生みたいなお仕事ですよねー」

神々のお仕事が園長先生ねえ…非常に興味深いお話です。

「それで『ひこ』ちゃん、何かお兄さんに

『きららねたんは、“をとめ”にゃ!!だからひこを育てる権利があるにゃ!』

って言ってました。そしたらお兄さん

『な、何い?平成の世で希少価値の高い“をとめ”なのかあ?ハタチになって?』

って言って、私の隅々をスキャンするみたいにじーっ、て見て…『うむ、そのオーラ、霊力、まごうことなき“をとめ”である…うわぁ、150年ぶりに見たあ』って言ったんですよー」

「…きららさん、彼氏いない歴何年ですか?」

「んもう、関係ない事聞かないで下さいよ!生まれてこのかた、カレシなんていないですう!!

七城先生、真面目な人だと思ったのに結構チャラいですねー…けいべつぅー」

「い、いいえ!決して興味本位では!」

“をとめ”ってつまり…

『処女』って意味ですね。

「参考までに聞いただけです。そしたらお兄さんは、ひこちゃんを連れ戻そうとするのを、やめた?」

「はい、急に態度変えちゃって…

『生活費は出しますから、ひこをよろしくお願いします』って頼まれちゃって!!

いきなりなんなんですか?ってハナシですよぉ!!」

「断れなかったんですか?」

「なんかあのお兄さんの銀色の目に見つめられると、喋る事ができなくって断るどころじゃなくって…これって『恋』ですかあ?」

きららさんは、顔を赤くして私に聞いてきました。

恋愛相談は私は苦手です。

琢磨くんの顔つきが険しくなってます。全く本当に単純な若者だな。そうだとしても、君はNさんには勝てないと思うよ…

「いいえ、多分違う力だと思います」

「『報酬とは言えないまでも、年頃の娘が喜びそうな“どれす”をやろう』ってお兄さんが取り出したのが、白いしゃもじなんですう」

やっと話が繋がりましたね。な、長かった…

Nさんが、ひこちゃんに白いしゃもじを持たせてそれをきららさんに握らせると…

白い閃光!

「さあ、貴女は白き“をとめ”、『きららホワイト』です!!ひこ、しっかり彼女をサポートするんだよ!」

「にゃは~っ、ねたん、可愛いにゃ~っ!!」

「自分が変身した姿見て、『あ、結構可愛いかも…』って思った時には、もうNお兄さんは消えていたんです…」

小岩井きららさん(20)は、謎めいた扶養家族『ひこ』と、「可愛い“どれす”=厄介な使命」の両方を、霧島の神に押し付けられたようです。

まあ明るい彼女の性格なら、これからの試練を何とか乗り切ってくれるでしょう。

夜も更けて参りましたね。

スイハンジャー、初めての座談会をここで閉めさせていただきたいと思います。

合掌。七城正嗣。





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