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南伊豆町・白水城址〜鷲ヶ岬を歩く

「満月にやって来たな。セーラームーンだな!明日の漁に行くか?」伊豆半島にやって来たことを伝えると、嬉しいお誘いが!もちろん即答です。早朝は富戸漁港の日吉直人さんに定置網漁に連れていってもらいました。ヤリイカ、スルメイカ、サバ、ウルメイワシ、ホウボウなどなど…イカは魚の重量で落ち潰されないよう手網で掬います。網の中を悠然と回遊するキハダマグロの存在感にドキッとしました。

先日、南伊豆町の町史を編纂している南史会に訪れた際、お話のあった城山。今日は伊東市教育委員会の金子浩之先生からお誘いを受け、石廊崎漁港の東に聳える標高60mの天然の要塞・白水城址から南の鷲ヶ岬の調査に行くことになりました。漁に出た日はいつもより朝が気持ち良いです。


ゴロタ浜で矢穴に寄り道

金子先生と合流して南伊豆へ向かいます。本日の調査内容について教えていただいたり、昨日いただいた学会論文資料の中でも一つだけ異質の資料「伊豆半島の牛頭天王信仰とスサノヲ神」について、津波との関連を深堀り考察したり。

途中、面白いものを見せたいからと国道135号線から下田方向に向かって、河津町今井浜海岸手前のトンネルに入る直前、左折して見高エリアの海岸沿いへ。この道は歩いています。東浦路です。

車を停めてゴツゴツしたゴロタの磯へ。午前中の可視光線を受けて、山の稜線が青空にくっきりと浮かび上がってます。

ゴロタ浜に降りていく金子先生の後をついていくと何か見つけたようです。先生が指を指してます。矢穴です。まるでキリトリ線のように直線状にいくつも掘られてます。この穴に鉄製の矢を差し込み、上から叩くと石が割れる石切りの技術です。江戸城の石垣の大半は、伊豆半島から運ばれた石材で築かれました。この辺りは天城火山の最南部なので、安山岩があるのだそうです。

白水城ハイキングコース

遊覧船乗り場となっている石廊崎港に到着。石廊崎の岩礁地帯の景観を海から楽しめる遊覧船です。本日強風のため欠航。細く長く入り組んだ長津路湾を挟んだ西側の山には伊豆半島最南端・石廊崎灯台へ行く遊歩道が整備されており、歩いて15分ほどでたどり着きます。

我々の目的地は湾を挟んだ東側、鍋浦山に白水城址があります。現在、城址はハイキングコースが整備され散策できるようになっています。今回は遊歩道の更にその先、鷲ヶ岬を目指します。狼煙を上げる見張り砦のようなものがあったのでは?ロマンを追っての登山開始です。

赤い橋を渡ると急な斜面の登山道がありますが、これが城への遊歩道。歩き始めて、まもなく城山の中腹に大きな石積みの井戸が現れました。井戸の水が凝灰岩で白濁していた事が、白水城の名前の由来です。いつ頃まで利用されていたのでしょうか。数百年前の石組みとは思えない立派な井戸です。

大きな土塁を登ると曲輪が現れました。現在は椿の森となっていました。今春、南伊豆町による発掘調査が入るそうです。

というのもこの白水城は城主が明らかになっていないのです。『豆州志稿』や『基氏伝帖』によると城主は御簾(みす)氏とされています。しかし、地域の抗争史を紐とくと1493年の伊勢宗瑞(北条早雲)の伊豆侵攻により、妻良(めら)の村田氏や雲見(くもみ)の高橋氏などはいち早く北条早雲に従ったとありますが、その中に御簾氏の名前がないのです。

御簾氏は北条早雲に追われ、三浦氏を頼って三浦半島に逃れたとも言われてます。それを裏付けるように三浦半島には見須姓や三須姓など、同音の一族がいるのです。また、石廊崎にも見須姓の家があると聞いています。御簾氏の名前が消されたのは、勝者による歴史なのかもしれません。

鷲ヶ岬へ

遊歩道内で食事休憩。道の駅・湯の花で買ってきたお弁当です。ここからの道は険しい藪漕ぎルートです。腹ごしらえして、丈夫なウバメガシの落枝を杖に仕立て、気合い入れたら出発です。

尾根つたいに歩いていくとやがて東側に海が見えて来ました。蓑掛岩です。白浜層群に貫入したマグマが冷え固まり、その後周囲のやわらかい地層は浸食されて、固い地層だけが隆起した岩脈です。背後には大島が見えました。

蓑掛岩には伝説があります。妖術を使い人々を惑わすという理由で伊豆大島に島流しにされた修験道の開祖とされる役小角(えんのおづぬ)。役小角は不思議な蓑を持ち、この蓑で空を飛んでいたと言われています。石廊崎や大瀬を飛んでいた時に、この島に蓑を掛けて一休みしてたそうです。伊豆半島一周する修験の道、調査・研究のはじまりは役小角でした。改めて初心を振り返り、身が引き締まります。

白水城は、戦国期になって北条氏の伊豆支配の中で水軍の拠点、海賊城として機能していたとされています。しかし、白水城趾は少し内陸。見張り砦はもっと海側にあるのでは?との推測です。

東側は見通し良いですが、西側の見通しは石廊崎があるので条件が限られそうです。そして、ようやく石廊崎の灯台を見下ろせる高度の砦を見つけました。観光客が石室神社へ向かう様子が良く見えます。

岩に砕ける白波が美しい。荒々しい波が岩に打ちつけ低音を響かせてます。道のりは苦労ありますが、また一つとっておきのジオパークを体験することが出来ました。


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