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男性にも女性にもなりきれない女の苦悩その3

その2の続きです。

中学校生活は辛かった。

非常に厳しい校則と先輩との上下関係、毎日毎日その息苦しい空間にいるものだから、その歪みとしてイジメが横行していた。

くだらない校則とくだらない上下関係とくだらないイジメ…

そこを飛び出して、新しく仕切り直しする。

中学校では、ほとんど男子と話をせず過ごした。高校に入学してからも、それはしばらく続いた。

友人は普通に男子と話をしているけれど、私は押し黙って頷くだけだった。
そんな無愛想ぶりと雰囲気から、いつまで経っても"さん"付けで呼ばれ、"近寄りがたい人"のレッテルを貼られた。

クラスで流行ったイメージカラーを当てはめる占い。

赤のイメージは、〇〇ちゃん、白のイメージは〇〇くん、という具合に異性の名前を入れる。

私のイメージカラーは黒と紫に集中した。

そんな中、たった1人だけ白だと言ってくれた男子がいて、この時ばかりは、あまりの嬉しさに彼の手を取ってお礼をした。

同じ頃、2つ上の先輩男子たちからは"黒猫"と呼ばれていた。話したことも、名前も知らない人たちから黒猫呼ばわりされて"ヤマト運輸かよ!"とツッコミたくなる。

いずれにしても、私のことを知っていようがいまいが、黒っぽいイメージだったことは確かで、癒し系ではないことも確かで、怖がられていたことも確かだ。

その頃から現在までも「緊張する」と言われてしまう。
だから、私に臆する事なく近寄ってくる異性は自分に自信のある人がほとんどだった。

それでも女子からは"穏やかな変態"で通っていた。

そんな私にも好きな人がいた。

しかし、恋をしても可愛らしさが出ない。

もともと男子には無愛想な上に、好きな人に話しかけられても素っ気ない態度で接し、普段は極力近寄らないようにしていた。

そういうのを"好き避け"というらしい。

なんで好きなのに避けるの?

そんな素朴な疑問を投げかけられてもおかしくないほど、どうしようもなく恋愛偏差値が低かった。

ただただ、緊張し、どう接していいのか分からず、そして好きだとバレるのも絶対に嫌だった。
だから、好きだとバレないように、ポーカーフェイスを装う。臆病者の下手なプライドが恋の邪魔をする。
でも、そんなことを高校生男子が知る由もなく、十六夜は冷たい人、高飛車な人…そう思われていた。

彼を好きになってから1年半が経ったころ、勇気を出して告白したが、その時言われたことを今でも忘れられない。

「酔ってるの?」

いつも押し黙って首振り人形のような反応しか見せなかった私が、緊張のあまり今度は喋り過ぎてしまったのだ。
だとしても、昼間から「酔ってるの?」はキツイ。

とても女子高生にかける言葉ではない。

結果は言わずともわかるだろう。

数年後にこの男子と再会したときに言われたのは

「十六夜さんて、こんなに喋る人だったんだ…。面白いよ」

大人になった私たちは意気投合してデートするまでになり、彼は私に好意を持ってくれた。けれど、不思議と彼に恋心を抱くことができず、付き合うことはしなかった。
今でも彼を素敵な人だと思える。だけど、それは人として…。
恋にはタイミングが大事なのだとしみじみ思う。

"隙のある癒し系がモテる"

まさしく、そんな女の子がクラスにいた。
いつも笑顔で恥ずかしがり屋…
はにかむ表情がなんとも可愛かった。

そんな彼女は男子から人気だった。
そして、私も彼女のことが好きだった。

私が本当の男だったら、彼女にしたいと思っていた。彼女を守りたかった。
でも、それは多分、男性になりたかった私の勝手な妄想…

だって、私は他の男性に恋をしていたのだから…

私は女だけれど、隙もなければ癒し系の雰囲気もない。
そもそも、かわいいと言われるのは心外だったし、モテたいとも思っていなかった。

「かわいいね」といわれると「かわいいだと?カッコイイっていえよ」と憎らしい言葉を呑み込んで笑って誤魔化した。

無論、可愛いらしいタイプではないため「かわいい」と言われること自体が稀なことだったが…。

リボンやフリルの付いているもの、ピンクのものは、私の敵だった。吐き気がするほど嫌いだった。

可愛らしいものを身につけたくなかったし、
名前を”ちゃん"付けされることに、とてつもない不快感を覚えた。

そして、あのロリコンおやじ事件から、私の年上男性嫌いは相変わらず続いていた。

同年代が一斉に集まること自体が特殊な期間なのだと思う。
社会人になるということは、仕事を通じておじさんとの接点が増えるということだ。
「会社勤めができるのだろうか」
「おじさん達の中で耐えられるだろうか」と、
その事ばかりを真剣に考えていたが、とてもやっていける自信がなかった。


その4に続く

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