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オイディプスとアンジェラ ⅩⅦ

Yakam おぉ その装いその仮面で踊られるか はっはっなかなかじゃ
ディプ すべてはエレナ殿の御陰です Yakamoti殿 私の傍らの女人が
    アンジェラの妹でリラを演奏するカリスです
Yakam  そうであったか う~む 綺麗な瞳をしておる

カリスはYakamotiに近づき手を取って手文字で<カリスです よろしくお願いいたします>と挨拶をした

Yakam  そうか声がなぁ・・・だが意思疎通には問題がないということ
    だなぁ・・・
カリス そうです 大丈夫です<手文字> 
Yakam  さて 二人はすぐに戻るであろうから少し舞台の下見をいたそ
    う
ディプ ありがとうございます 

Yakamotiは二人を仮設の舞台に案内した 

Yakam  この板間は芝居・踊りに最適な木材を組み合わせて創っておる
    毎度これを運ぶのが一番労力がいるが 我が一座の売り物でも
    ある故に譲れぬ処だ

ディプは屈み込んで板間の質感を手で探っている そして少し跳躍をして着地の感覚を確かめた カリスを呼んで前後左右の幅をそれぞれ歩数で確認した

Yakam  どうじゃな・・・
ディプ はい とても良い感じがします 此処で舞い踊れるとは誠に私
    は幸せ者です
Yakam  其れはちっと大げさじゃ・・・ははぁ 愉快じゃ 面白い!

アンジェラとエレナが喬木を持って帰って来る

エレナ お待たせしました すぐに設置しますので 暫くお待ちくださ
    い
アンジェラはその手伝いをする いつの間にか二人の息はぴったりと合って いるようにカリスは感じた エレナがオイディプスの手を引き喬木に触れるようにする 喬木の上はYのカタチに断ち切って神楽鈴を差し込むように細工がしてあった

ディプ (神楽鈴に手で触れて)おぉ このカタチなら素早くとれるほ
    んとうにかたじけない(深々と礼をする)
エレナ いいえ 作業のほとんどはアンジェラがしましたので・・・
ディプ そうか アンジェラありがとうア ン 喜んで頂いて何よりです

そしてオイディプス は暫く舞台を練り歩き 舞って踊ったりして舞台での感覚を確かめた

ディプ ほぼ 感覚を掴めましたので もう十分だと思います
    我々は出番まで 舞台の袖にて一座の演目を拝見したいと存じ
    ますがよろしいでしょうか?
エレナ はい 大丈夫ですよ どうぞご覧下さい

やがて 時刻となりKAGURA一座の公演が始まった

一部は 座員一人一人の特技・才能を活かした演芸・演技だったある者は詩を朗読し ある者は演舞 ある者は曲芸紛いの力業 ある者達は合奏などなど・・・飽きない演し物で観客は笑いと賞賛で満ちていた
勿論 投げ銭も多く銀貨が小袋に詰めたものが舞台の上に積まれていった一部が終わると幕間にエレナが立ち 「お知らせがあります 二部の劇の前に飛び入りで名も無き三人による演奏と舞踏を暫しご覧あれ」と今夜の客に言い伝えた 舞台の周りと演舞の空間に松明と蝋燭が設えられて燈が点った

上手にアンジェラ・下手にカリスがそれぞれ笛とリラを持ち登場して演奏を始めた
その音に誘われるようにして舞台中央の幕間から藍の仮面を着けたオイディプスが姿を現した
まずは今一度舞台の空間を確かめるべく 中央の喬木の周りをゆっくり円を描きながら細やかな手の動きで・・・とここまで動いていたオイディプスはこの白明の裡で海底の底で揺れ動く海藻のような気持ちになった

オイディプスの独白
<藍>の仮面が光を受けてゴールドの仮面を通り抜けて海を連想することになったの か?それともこの参百人近い観客がもたらす<群像の意識>が私に伝播するのか それはわからないが・・・潮流に揉まれて揺れ動く軆󠄁を無意識に表現しようとしている自分に意識が渦巻いている
・・・あぁ 軆󠄁を動かすことは紛れもなく<生>を生きることだ
光と闇は生と死そのものなのだ 私は一度死んだのだ そして生まれ変わろうとしている この闇は転生への創造の繭だ・・・一番最初に崖の上で舞った時はこゝろの裡で<言葉>を孕むがごとく矢継ぎ早にその言葉のイメージを追って舞った
二度目は<言葉>」を封印し 自然に関わるなかで軆󠄁自身が感じる動きに身をまかせた
そして 三度目はアンジェラとカリスが奏でる旋律に軆󠄁を<空>にして舞った
さぁ今はどうだ 何が一番自然なのか 何が一番人々に訴えられるのか 何が一番 今は 私自身を曝け出すだけだ 無となり風となり光になる(あぁ今だ藍の仮面)を剥ぐのだ

静かに藍の仮面の結びを解いて空へ投げやるとゴールドの仮面になり光量がましてより会場の空気がオイディプスの軆󠄁を包んだ 少し会場がざわめくが静寂が降り立った

オイディプスの独白 続く
リラの弦を奏でるカリスは通奏低音のように緩やかに三つの和音を繰り返しリフレインしてくれている・・・あぁ優しい旋律だ 又アンジェラは私の軆󠄁の動きを読み取り重ね合わせるように笛を吹いてくれている
・・・二人に感謝して舞踊る私はなんと幸せ者だ

ゴールドの仮面になって 柔らかな小さい動きは大きく躍動し跳躍を重ね空で舞い舞台狭しと舞踏した 踏みしめる度に神楽鈴の音色が微かにチリチリと鳴っている

オイディプスの独白 続く
まだまだ踊り足らぬが、この旋律はもう時間だという知らせだ 神楽鈴を手に最後の舞納めだ 

素早く喬木の神楽鈴を手にしたオイディプスは・舞台の清浄・会場の清浄・世界の清浄そして我が身の清浄を祈りながら神楽鈴を鳴り響かして舞台中央でひれ伏した

暫しの沈黙の後 まばらな拍手と小袋に包まれた投げ銭が幾つか舞台に投げ込まれた
アンジェラとカリスがそれを拾い集め 舞台中央で三人は礼をして下手に捌けた
舞台の下手袖で三人は大きな昂揚感に包まれて抱きしめ合った

                           ⅩⅧに続く

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