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オイディプスとアンジェラ ⅩⅩ

ⅩⅩ

ディプ   海が視たい 海の碧が 空が視たい 空の蒼が
    嗚呼 盲目になる前に もっと焼き付けておけばよかった

              海が視たい 海の碧が 空が視たい 空の蒼が
              光る波に海の碧のゆらぎ 澄み渡る空の蒼の静謐

             海が視たい 海の碧が 空が視たい 空の蒼が
             光と闇のあわいの色彩は 碧と碧 対極にあって 寄りそう

    海が視たい 海の碧が 空が視たい 空の蒼が
              ・・・・・・碧   ・・・・・・蒼

               海が視たい 海の碧が 空が視たい 空の蒼が
               碧と蒼・・・世界はあおで覆い尽くされている

オイディプスの言葉を天幕の外で聴いていたYakamotiは 頷きながら・・・・・・幕を上げて彼に話しかけた

Yakam おじゃまかな?
ディプ いいえ お待ちしておりました
Yakam    ディプよ これから話すことは誰にも言ってはならぬ故 
              心して聞いてくれ
ディプ   わかりました 他言無用のこと
Yakam    お主は気づいておらぬだろうが・・・盲目の舞は土地の穢れを 
               払い浄化し 又人々のこゝろの病を癒やす力がある
ディプ   なんと 私の舞にそのような力がほんとうにあるのですか?
Yakam    ある・・・あるがそれに気づく人間は僅かだ
ディプ    Yakamoti殿にはそれが視える・わかる?
Yakam     前にも話したように私は難破船で漂流しておった 
              ある朝 太陽が水辺線から昇るのを視つめていると・・・
              その日の太陽は異様に明るく 光線が強く眩しすぎて眼を開け
    ておられなんだ・・・そして陽の中心から矢のように光が私の
    身体に飛び込んできた 身体が熱くなり光が軆󠄁中を廻り 何周
    も何周も廻ってそして軆󠄁から抜けていった 軆󠄁が軽くなり力が
    漲るように感じた
ディプ  ほぉー それはまた得がたい体験でしたなぁ
Yakam  大陸に流れ着いてからも 無意識に軆󠄁が求めていて何処に居て
    も日の出を浴びて視て拝む様になった 
    それからの私は<光透波>と名付けてそれを続けていた すると
    或日から 人が発する正負の<光透波>が視えるようになった
ディプ  それはそれで 面倒なことになられましたなぁ
Yakam  確かにそうだが・・・しかし その御陰で人を見極めることが
    出来るようになった 負の<光透波>を出す人間を避けて正の
    <光透波>を出す人間と繋がるように生きて来た・・・御陰で
    Kagura一座が旗揚げできるようになったのだ  
ディプ  そうでしたか 眼が視えぬ故Yakamoti殿の眼光を視ることはか
    なわぬが・・・言葉が脳に入り込む感覚が他とは少し違うとは
    感じておりました
Yakam  お主が舞っている間に お主の軆󠄁が少しづつ発光しているのが
    今日の舞台ではっきりと視えた
ディプ  誠でござるか? 軆󠄁が発光? これは又何かの・・・・・・
Yakam  いや そうではない お主は盲目になってある意味純粋に
    人物・事物が視えるようになったのだ 只 まだまだその力は
    弱い・・・故に完全な闇に生きることでその力を蓄えるのだ
    そして・・・
ディプ  そして・・・
Yakam  様々な土地を廻り地を浄化し人々を癒やすのだ
ディプ  では生活の匂い云々は・・・
Yakam  一つの詭弁じゃ 二人には 又一座も含めてみんなにはそのよ
    うに理解された方がいいのじゃ・・・多分に誤解を招く事柄だ
    から
ディプ  いのちを断たずに生きて来たのはこのことの為であったと
    は・・・だが どうして舞に引き込まれてきたのか?
Yakam  それはお主の持って生まれた資質じゃ
ディプ  資質?
Yakam  儂が繰り返し述べる<生活の匂い>とは他ならぬお主のその資
    質を美の方向ではなく自然と人に向ける為の一つの修練である
    でないとお主は美と心中するかもしれぬからなぁ・・・既にお
    主の舞いはカタチそのものではある水準を超えてはいる 
    美の階梯を登り詰める誘惑もあろうが・・・それは裁ち切り 
    これ以上は追い求める必要は無いと儂は考える
ディプ  ・・・・・・なるほど 今のお言葉で目が覚めました 
     美ではなくこゝろを鍛えよということですね
Yakam  そう 一言で言えばなぁ
ディプ  百日精進致します よろしくお願いいたします
Yakam    すまぬなぁ 回りくどい話で・・・だがよくわかって頂いた
            ようじゃ・・・これから先なにがあろうとオイディプスお主を
    支える故 赦されよぅ
ディプ いいえ 只々感謝です 霧が晴れもうした 清々しさで一杯で
    す

Yakamotiはオイディプスに寄り添い抱きしめる 
それに応えてオイディプスもYakamotiを抱きしめた Yakamotiの軆󠄁はとても柔らかく温かだった・・・そして盲目になっても涙が流れることを知った それは心地よくオイディプスはその幸いを深く味わった

                        エピローグに続く

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