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風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻

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 たわつけ髪を梳る暁
御迎ひの駕とく来たる衣々に   一茶

初ウ五句、早いにこしたことはないとは云いながら、ええい気の利かないことよ。

     〇

御迎ひの お迎えの。(迎えがある身分の高いお方)

駕 かご(駕籠)。(牛車、駕籠、自動車、タクシー)

とく すぐに、急いでの「疾く」。

来たる やって来る。

衣々に きぬぎぬ(衣衣、後朝)、共寝をして過ごした翌朝の別れのときに。

     〇

 たわつけかみを
 けづるあかつき

おむかひのかご とくきたる
              きぬぎぬに

みだれ髪に、きぬぎぬの別れ。「なんと、迎えの駕が早く来てしまったよ」と、皮肉を込めて滑稽をからめたところに味わいが。

     〇

後朝の別れは、日本文学史の一大テーマでしたので類例はたくさんありました。

大岡信さんを引用します。

しののめにほがらほがらと明けゆけば己が衣々なるぞかなしき  よみ人しらず

 東の空が晴れ晴れと明けてゆく。お別れの時刻だ。私たちは、それぞれの着物をまたそれぞれの身にまとって、別れてゆかなければならない。なんと悲しいことに。
 この当時恋し合う男女は、ふだんの衣を重ねて夜着にして共寝しました。朝になるとまたそれぞれが自分の着物を身にまといますから、衣は別れ別れになります、したがって「己の衣々」は別れの意味です。でもこの歌は、別れを歌いながら、調子は明るく、ほがらかに恋の喜びをうたいあげているようです。(古今集637)

「星の林に月の舩 声で楽しむ短歌・俳句」岩波少年文庫

明治になると、内藤鳴雪は

東雲のほがらほがらと初桜

と。(松山東雲神社前句碑。秀歌は秋、鳴雪はこれを春にうつしていたのです)

     〇

もうひとつ、八木書店「天草版ラテン文典巻一全釈」見本組の一部を引用します。

Yza saraba namida curaben fototogisu
varemo vqiyoni neuo nomizo naqu
Hoc est, Age lachrymas conferaus, etc.

「いざさらば、涙比べん、ほととぎす、我も憂世に音のみぞ啼く」即ち、(ラテン語)「さあ、一緒に涙を比べようではないか」[一人称複数形]等。

カルロス・アスンサン、黒川茉莉、豊島正之「「天草版ラテン文典 巻一全釈」

(歌は徳子、後白河法皇大原御幸「平家物語」やがて徳子は病の後に往生したのです)

4.10.2023.Masafumi.

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