NHK「WDRプロジェクト」落選後のひとり反省会④

「ストーリーについて」

各媒体に掲載されたプロジェクトメンバーのインタビューを読みつつ、彼らが意識しているタイトルとして「ブレイキング・バッド」のほかに「今、私たちの学校は…」「キングダム」「ナルコス」「トップボーイ」「愛の不時着」「イカゲーム」「フリーバッグ」「セックス・エデュケーション」などが挙げられていたが、「ブレイキング・バッド」「ナルコス」「トップボーイ」など、ド◯ッグを題材にしたものが多かったことから、「もしこのリスキーな題材をうまく調理してシリーズ化の構想を提示出来たら、(そんなことにチャレンジする人は少ないだろうし)印象として頭一つ抜けられるんじゃないか?」と思い、資料として木佐貫真照氏の「実録 シャブ屋」シリーズを購入して読んだりしてみたが、やはり日本でド◯ッグを扱うドラマというのはどうにも密室的、かつ暗くならざるを得ず、アメリカのドラマと違って「ヌケ感」が出せないと思ったのと、「そもそもNHKの企画会議でド◯ッグものが通るものだろうか…?」と考え断念した。

(ちなみに自分が日本の映画やドラマの中でド◯ッグを扱うシーンで一番好きなのは「ヤクザと家族」の1時間38分目あたりで北村有起哉さんが演じる中村が港に停めた車の中でブツの品質を確かめるために自分に打つシーンだ。演技もカメラワークも素晴らしく、中村の実直さと哀しさが最大限に表現されており、絵画的な美しさもあって何回も見てしまう)

そして、「ひとり反省会②」の終わりにも書いたように

『スケールを感じさせる「大きな主題」・「壮大な野望」・「異常な力を持った敵(を予想させるもの)」』

を組み込めるストーリー案として、いろいろ考えた結果

「若い連中が"超既得権益層"の秘密資金(本来は国民の資産)をぶん獲って、それを元手に日本を再浮上させようと試みる」

という大まかなログラインを決めた。

虚構的でありながら実在しそうでもある”超既得権益層”という敵の設定は、とてもいじりやすく、思いっ切り外道な妖怪として描けるし、その途方もない権力を使って主人公たちを次々と危機的状況に陥らせるカードを繰り出せそう(ステイクを高められそう)だし、何より「世界を席巻するドラマを作る」というWDRプロジェクトのテーマと「(主人公たちが)もう一度日本を再浮上させようと足掻く」というストーリーはリンクさせることが出来るし(草創期のGAINAXが「オネアミスの翼」を作った時のように)、いろんな想いやモチーフを仕込めると思った。

また「戦後のどさくさに紛れて隠された秘密資金」というテーマについては、長らく詐欺の鉄板ネタになっている「M資金」をはじめ、日本各地に大小さまざまな逸話が残っており、それらに創作したディテールを混ぜていくことで、エンタメ性にもブーストをかけられるのではないかと思った。

また登場人物については「どんな奴が出てきたらワクワクするか」「どんな奴が出てきたら応援したくなるか」「どんな奴が裏切ったら最悪の事態になるか」、「SAVE THE CATの法則」を手元に置きながらキャラクターを考案し、ストーリーをディティールから引き立てるため「ありそうで無さそう、無さそうでありそう」な近未来的ガジェット(尋問アプリ・防弾パネル・特殊マスク等)を考えて、各シーンに配置していった。

タイトルについては、これも「(日本から)世界を席巻するドラマを作る」というプロジェクトのテーマにちなんで、「極東」というワードを絶対に入れようと思っていた。プロット作りや矛盾ポイントのつぶし作業に疲れた時にタイトルを考えるようにしていて、次のような変遷を辿って最終的なものに決定した。

「極東グロリアス(椎名林檎さんっぽい?)」→「極東リローデッド(語呂はいいけど...)」→「極東リライジング(「再興」の意を込めたけど分かりにくい?)」→「極東ライジング(悪くないけどスッキリしすぎ?格闘団体っぽい?なんか足す?)」→「極東ライジングスカーレット(ちょっと長いしプロレスの技っぽいけど華やかな感じもしていいかも?!)」

それで「ああでもない、こうでもない」といじくり回して出来上がったのがこちらなわけですが

現時点での反省は下記になります。


・前半の尋問シーンが長かったのかもしれない。また、初っ端から尋問で始まるため不快感を生じさせたのではないか
→「人口音声で尋問する」というアイディアは昔からあったもので、使いようによっては非人間的なニュアンスも、コミカルなニュアンスも出せるなと思っていた。(元ネタは映画「鮫肌男と桃尻女」の郵便局襲撃シーン)
また、その後に登場する加納たちに嫌悪感を持って欲しくなかったから、なるべく陰湿にならないようにしようと「実は愛人が〜」のくだりとかを入れてコミカルな感じも出してみたが、序盤だけにシリアスなのかコメディなのか計り兼ねさせ、中途半端で軸の無い脚本だと思われたのかもしれない

・加納のセリフである「若い女性がお好きみたいですが、それも甲斐性だ」は余計だったかもしれない
→高岡をリラックスさせ、懐柔するためのセリフだったが、もしかしたら「現代のコンプラを把握してない危険な奴」と思われたのかもしれない

・高岡の翻意を軽く描きすぎたかもしれない。
→加納の威圧的ながら落ち着いた話し方と搦め手っぽい駆け引きに応じた(屈した)感じで書いたが「高岡の翻意がイージー過ぎて情動のリアリティが描けていない」と思われたのかもしれない
もっと短いながらでも高岡の葛藤を入れられたのではないか?もしくは、完全に翻意した感じに描かなくても、次のシーンへのステップである「アタマは誰なん?あんたか?」のセリフには繋げられたのだから、もっと迷いや疑いを残した感じで終わらせても良かったのかもしれない

・主役二人(加納と有働)のキャラクターがステレオタイプだったかもしれない
→短いページ数の中で主役二人に興味を持ってもらおうと、加納は「信念を持った迷いの無さが生み出すカリスマ性」、有働は「窮地の中でもユーモアを忘れず仲間を思いやる余裕」という人物描写を入れたが、もっと独特でインパクトのあるキャラクター造型をした方がよかったのかもしれない(「SAVE THE CATの法則」で言うところの「松葉杖と眼帯」)

・アクションシーンに魅力が無く、(良くない意味で)漫画っぽいと思われたのかもしれない
→ステイクを高めるために、ビルに乗り込んだ有働のチームが実は待ち伏せされていて銃撃戦になる、というシーンを書いたが、もしかしたら(良くない意味で)漫画っぽいと思われたのかもしれない
ここは「会話劇」「頭脳戦」にも変更出来たのだが、「生命の危険」というステイクを描いて分かりやすくしようとしたために、却って拙く、幼い印象を残してしまった可能性はある

・銃器の描写が分かりにくかったかもしれない
→トカレフとか黒星とかフィリピン製のダサい密造銃とか出したくなかったのと、「武装した現代の新興組織であれば最新技術で武器を自前で製造するのではないか」と想像して3Dプリンタ銃を登場させたのだが、そもそも認知も低いし「3Dプリンタ銃?変にこだわってるみたいだけどなにこれ?おもちゃ?普通の銃でいいじゃん」と思われたのかもしれない

また、全文公開noteにコメントをいただいた松本氏(@takuro_himejin)からのご指摘はとても的を得ていて「もし応募前に松本氏に先に読んでフィードバックもらっていたらもっと精度を上げられたのに…」と床をのたうち回りたいくらいではあった。


・誰と戦っているのかを、もっと明確に描写すべきだった
→グロテスクで醜悪なラスボスのキャラクターイメージは出来てはいたが、この尋問からの流れに入れ込むのは早急だと思い断念したのだが、たとえ短い描写であっても敵の姿を明確に書き込むべきだった。いま思えば、浅野の裏切りの前にチラ見せみたいな感じで1シーン入れることは可能だったと思う

・登場人物の名前をもっと工夫すべきだった
→自分は90年代以降の村上龍作品の影響を受けているせいか、あまり登場人物の名前に拘らない方(むしろ記号的に捉えている)だったが、それぞれのキャラを立たせて印象付けるためにもっと工夫すべきだったかもしれない
他多数

…そして、かなり今更ではあるが...

・最初から「愛の不時着」や「イカゲーム」に寄せるべきだった

→というのも、Real Soundのインタビューで

――お二人はどういうドラマを作りたいというのはありますか?

「Netflix『愛の不時着』や『イカゲーム』のような作品ですね」

https://news.yahoo.co.jp/articles/67cb72390e2d3efd772dddd35b76f6723e406b81?page=4


と明確に述べられているのだから、「ラブコメ+シリアス」でジェットコースター的な大筋を作るか、もしくは「ゲーム性+グロ表現+個々の人間ドラマ」というコンセプトで換骨奪胎の構成力やディティールの創造力をプレゼンすることは出来たのかもしれない

Real Soundのインタビューと『愛の不時着』や『イカゲーム』についてはプロットを考えている時も頭の片隅にずっとあったが、あのログラインを決めて、自分自身がそれに惹かれていった時点で、今回の結果は決まっていたのかもしれない。

今となっては詮の無い話だが、大いに悔やまれるところではある。

<続く>

コメント、DM等で感想を寄せていただいた皆様にこの場を借りて心から御礼申し上げます。
あのタイミングで接触していただいたことがどれだけの励みと救いになったことか。
本当にありがとうございました。

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