NHK「WDRプロジェクト」落選後のひとり反省会③

「自由設定となった応募原稿の文字数について」

今回の公募にあたり、原稿の体裁については下記の記載があった。

「用紙はA4を横に使用、タテ書き、MS明朝(またはヒラギノ明朝など類するフォント)、黒字のみ。A4一枚あたりの字数制限はありません。20字×20字でも、それ以外でも、自由に設定してください」

この応募規定を見て戸惑った人(特にシナリオ執筆経験者)もいるかと思うが、自分はこれを「『提案力』と『リサーチ能力』を試されている」と解釈した。
もちろん無難を狙うのであれば、妙な冒険をせずに20字×20字で仕上げた方がいい。ただこの"自由設定"については、公募の前段で「これ、前振りですか?」と思えるような動きがあった。

それは松崎悠希さんという日本とLAを拠点に活躍し、「硫黄島からの手紙」にも出演している著名な俳優さんが、年明けからTwitterに投下していた、脚本の書式転換についての提言だ。


もちろんご本人も書かれていた通り、現在のスタンダードとは異なるので、反発し、怒る方々もいるだろうが、そもそも「セリフ重視」のフォーマットにかねてから疑問を持っていた自分のような人間にとっては、首がもげるほどに肯ける提言だった。

自分は元々小説を書いていたこともあって、ト書きを長めに書いてしまう傾向があり、シナリオ学校でも「ト書きが長い。もっと削った方がいい」と言われてきたが、そもそも登場人物の体温や、そこに置いてあるモノの質感、流れている音や場面に立ち込める匂いまでイメージが浮かんでいるのに、「なんでそれをあえて削ってセリフだけにしなければいけないんだろう?」と正直ずっと不思議ではあった。

その昔、シナリオ講師の先生にも質問したことがあるが、その時の回答は「演出家にうざいと思われるリスクがあるから」だった。
要は「演出家の創造領域を侵していると思われるリスクがあるから、ト書きについては必要最低限に留め、セリフを主体にした方がいい」ということだったが、それについては「本当かな?自分が演出家だったらむしろ歓迎するけどな」「脚本家に変更の了解をとるのが面倒かもしれないけど、そもそも最終アウトプットのクオリティの責任を負うのは演出家だし、最初に権限をはっきりさせて同意を得ていればクリアできるんじゃないか?そして、逆にそこに描かれたト書きのイメージは演出の叩き台にできるし、本当にそんなに失礼で迷惑な越権行為なんだろうか?」と最後まで腹落ちはしなかった。

そして「縦書き20字×20字」という原稿フォーマットについても、同じシナリオ講師の先生に「そもそも紙のスペースがもったいないし、縦書きよりも横書きの方が字数入れられるし良くないですか?」と聞いたら「うーん、そうかもねー。ではあなたが業界で力をつけて提言すればいいと思いますよ。がんばって!」と優しく言われた記憶がある。
(いま思えば先生も他に言いようがなかったんだろうなと思うが......◯◯先生、あの節はすみませんでしたァ!)

また、担当Dが登壇した7月5日のシナセン主催のオンライン講義でも「脚本を勉強している以外の方の参加も促しているので、いわゆる脚本という形にしてもらえればちょっとした文字数とかは気にしない」と発言されていたことから、ここは思い切って「20字×20字」のフォーマットは捨て、ト書きをもっと書いてもいいように文字数を増やしつつ、文字サイズや字送りなども調整しながら、最終的に「30字x20字」にすることにした。

(いっそのこと、前述の松崎悠希さんの提言されている「横書きハリウッド形式」で応募しようかとも思ったが、明らかに今回の応募規定に外れるのでリスクが高いと判断して止めた)

そして9割がた原稿を完成させた7月の中旬を過ぎた頃、WDRプロジェクトに関する小栗旬さんと担当Dの対談がWEBにアップされた。

https://www.nhk.or.jp/wdr/interview.html

特に小栗旬さんはかなり踏み込んだ思い切った発言をしていて、その内容は悲鳴に近いものがあると個人的には思ったし、はっきり言って彼らにとってはメリットよりリスクの方が多いような内容だったが、同時にこのプロジェクトへの期待とプロジェクトに賭ける覚悟を強く感じた。

さらにその翌日には松崎悠希さんが上記の対談を援護射撃するようなTweetを投下した。


自分としては「このト書き多めの30x20のフォーマットが、"正解ど真ん中"かどうかは分からないが、どうやら間違ってはいなさそうだ」と少なからず思うことができた。
そして、さらに原稿を見直し、説明セリフをいじくり回し、削っていった。

10月から始まるWDRプロジェクトが、どういうルールで、どういう共通フォーマットを使ってスタートするのかはもはや知る由もないが、このプロジェクトを推していた自分としては、WDRでは万難を排して「横書き」を共通フォーマットとして進めてくれたらいいなと思った。
(”ハリウッド形式”という言葉は余計な摩擦が増しそうなので使わなくてもいいと思うw)

松崎悠希さんは「二年以内には状況が変わる」と予測していたが、もしNHK発のプロジェクトがその旗を振れば(そして成功を収めれば)、その変革はもっとスピードを増すはずだし、また変革自体も結果的に穏やかなものになると思う。

...ただ、プロジェクトの責任者たちにいたっては、絶対に局内(魔窟だと聞いている)の廊下とかで恐ろしい先輩たちに「…勝手に脚本のフォーマット変えてんじゃねぇぞォ?...手ブラのよォ…雑魚のォ…若造がよォ…代々木公園の底無し沼でよォ…泳いでみっか...?おぅ?」とか絡まれてガン詰めされるだろうし、現場では年配の演者さんや技術さんに「横書きィィィ?!読みにくいんだけどォーーー!!ちょっと説明してくれるゥゥゥーーーー???」というクレーム対応のため一億回くらい頭を下げて説明しなければならないであろうと想像する。

願わくば、そこで「脚本担当です!すみません、実は今回——」と一緒に頭を下げて回りたかった。


局内に、業界内に、ひとりでも多くの賛同者が現れることを祈念している。

<続く>

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