森

【小説】全ては土の中

この物語はアナログゲームサークル「ひとりじゃ、生きられない。」で販売中のゲーム『冬虫夏草』に付属している小説です。

『冬虫夏草』は、「きのこ菌」が土に隠れている「虫」たちを見つけ、体を乗っ取り全滅させるボードゲームです。

「きのこ菌」と「虫」たちの”かくれんぼ”がはじまります!
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なあ、あんた知ってるか?
最近、この辺はヤバいらしい。なんたって、「きのこ菌」と「虫」たちの抗争が激化したって話だ。

タンポポがこの地に飛んで来た頃は、この辺も約束の地なんて呼ばれてちやほやされてた。
でも、この地で「虫」たちが大量発生してからは、今俺たちのいる地下も一変した。聞いた話によると「虫」たちは、植物からたんまり栄養を吸収して次々に枯らしていったらしい。それで「地球」は、具合が悪くなっちまったみたいだ。まあ精神的なものもあったんだろうけどな。ああ見えて「地球」はデリケートだから。とにかく困った「地球」は、天候を操って「虫」を死滅させようとした。だけど、もう手遅れさ。虫ってのはなかなか屈強で、一度大量発生するとどうにもこうにも手がつけられねえ。天候なんかじゃ殺せやしないんだ。そこで、地球は禁断の手を使った――

「きのこ菌」に、「虫」の体を乗っ取れって使命を与えたんだ。
生きる意味を持たない「きのこ菌」に、生きる意味を与えちまったんだ。

これまで誰からも必要とされなかった「きのこ菌」だ。いきなり虫をきのこに変えて地球を救えって言われても、最初は受け入れられなかった。けど、「地球」ってのは、おだてるのがうまいんだ。いつの間にか「きのこ菌」は、僕は僕にしかできない仕事をしてるんだって思いこんでものすごく働いた。誰かに必要とされる喜びを感じたんだな。彼らったら笑顔で体を乗っ取るんだから、「虫」たちも戦々恐々らしいぜ。そんなもんで結局、「虫」たちはどんどん死滅していって、今残ってるのは「ニイニイゼミ」と「コウモリガ」の二種類。だけど残された「虫」たちだって、死ぬのを待つだけってわけにはいかないだろ? だから、彼らは殺された仲間の分も必死に生きようと死にもの狂いになってるわけさ。必死に隠れて見つからないようにしてるらしいぜ。それで戦況が激化したんだな。

そういえば、こないだ地下酒場で会った若い「ニイニイゼミ」の兄ちゃんが言ってた。「きのこ菌は地球のことなんて、どうでもいいんだ」ってね。確かに、はじめは「きのこ菌」も「地球」のために働いた。でも、今は「地球」のためじゃない。「自分」のために殺してんだ。それが生きがいになってんだな。どうやら殺し文句は「きみのぶんまでちゃんと生きるから」らしい。ほんと笑っちまうよ。「自分」のためにやってんだか、「地球」のためにやってんのか、「虫」のためにやってんのか、もうわかんねえんだな。でも、労働ってのはどこの世界でもそんなもんかもしれねえ。なんで働いてるかわかってないやつ多いんじゃないか? 俺だってそうだし、あんただってそうだ。

ところであんた見ない顔だな? 普段は、なにやってんだ?
んっ、「冬虫夏草」をとってるって? ああ、きのこになった「虫」たちのことか。あんたらは、そんな名前で呼んでるんだ。今日も、とりにきたのか? にしても、あんなの持って帰ってどうすんだよ? 使い道なんてないだろ。

まあいいや。じゃあ、俺も自己紹介しなきゃな。
俺は地下の住人のモグラだ。名前? 名乗るほどのものでもねえよ。
おっ、今何か聞こえたか? ほら、静かにしろ……

――もういいかい?
――もういいよっ!!!

おっと、また戦いの声だ。噂じゃ、そろそろ「虫」たちも全滅しちまう頃だからな、「地球」も「きのこ菌」に新しい仕事を用意したらしい。なんでも、それは誰かの役に立つ仕事って話だ。そのために「きのこ菌」はさらにやる気を出したみたいだな。今年で最後にするって言ってたぞ。

さあ戦いのはじまりだ――

小説:舟崎泉美 イラスト:河野修宏

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小説はここまでです。
「きのこ菌」と「虫」どちらが勝利するかはゲーム『冬虫夏草』をお楽しみください!

http://gamemarket.jp/game/%e5%86%ac%e8%99%ab%e5%a4%8f%e8%8d%89%ef%bc%88%e7%ac%ac2%e7%89%88%ef%bc%89/

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