フィクション日記『亜紀』

苛立ちが止まらない。
心底どうでもいいことに苛立って仕方ない。

例えば電車で、まだ人が降りきってないのに乗ってくる人。その先の駅の階段で、下り側を上ってくる人。駅前の歩道の自転車用通路を歩く人……。

そんなどうでもいいことに、いちいち腹を立てながら家に帰る。
決して丁寧とは言えない手つきでドアを開けた。

「ただいま。」

「おかえり。」

廊下の奥から声が飛んできた。

「ご機嫌斜めだね。」

優しく微笑んでくれる彼にも眉間の皺がなかなか伸びない。

「そうかもしれない。」

そう言うと彼は、私の背中を優しく押してリビングに連れて行く。

ソファに座らされ、温かいココアを渡される。

「はいおまけ。」

ココアの上にマシュマロが浮かぶ。

「はい、飲んで。」

言われるがままにひと口飲む。

「ありがとう。」

彼は何も言わずに私の目の前にしゃがみ、
私の眉間の皺をみょんっと伸ばした。

「おつかれさま。」

私はこの瞬間のために生きてるんだな。

どうでもいい事達が心底どうでもよくなって消えた。

いつもありがとう。

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