昨日の散歩

 Googleマップに訪問先の評価や写真・コメントなどを投稿しているのだが、そうすると近所の他のスポットの情報をくれることがある。
 少し前に「近所にあなた好みの喫茶店がありますぜ!」とか言ってきていて気になっていたので、結構遠いけど散歩がてら行ってみるか~と出掛けることにした。
 途中にクリーニング屋があるので、歩きついでに寄ってYシャツを預け、2キロぐらい歩いて暑くて面倒になってきたので、たぶんこっちの方向だろうと思われる「さつきが丘」行きのバスに乗る。
 しばらくバスでワープして、さつきが丘団地入り口で降りて歩いたらすぐに目当ての店は見つかった。
 住宅街の中にひっそりとある自家焙煎の小さな喫茶店。確かによさげな店だった。だが「木曜定休」の看板も下がっている。つまり、今日はやってない。残念だけど、まあ、またくればいっか……と切り替えて、さつきが丘団地へと向かう。帰路には遠回りだが、2キロぐらい行けば先にジョナサンがある。この団地の中を歩くのも久しぶりだし~と、キャロル&チューズデイのアルバムを聞きながら歩いていく。
 時々、出前の寿司をとる「さつき寿司(ランチの並が800円くらいで美味い)」がこの辺にあったな、一度くらいお店を訪ねて食べてみたいと思っているがなかなか実現してないし、場所を試してみるか~と、なんとなく遠回りして坂を下っていくと、テニスコートなんかがある広場の脇にトイレと水飲み場を発見した。
 暑くて汗だくだったし、脇道にそれて小休止する。
 と、コートのそばに幟が立っているのが見えた。なにかの移動販売車が停まっているみたいだ。食べ物の移動販売だと面白そうなので、さらに寄り道してみる。
 飲食の販売車かと思ったが、近寄ってみるとなんと古本屋だった。
 こんなとこで古本を? 古本市とかではなく小型トラックで移動販売?
変わってるなあ。ちょっと非現実的というか。謎だ。しかも、そんな店にたまたま巡り会うとは……。俄然、興味が湧いてきた。
 小型トラックの荷台の前と左右に本棚を積みこみ、幌を開けて陳列している、という感じか(屋根があるから、もっと工夫されているのかも)。
 トラックの脇に座って本を読んでいた店主が、「中にも入れますから」と荷台の後部の脚立階段を指した。脚立から荷台に上がる……屈まないと頭がぶつかりそう。姿勢を変える度に車体が微妙にゆれる。隠れ家のような楽しい雰囲気。古書の匂いと夏の香りが入り混じるのは不思議な感覚だ。
 全体的に子供の本が多い気がした。けど、こっちはそれも守備範囲なので狭い荷台でしばらく品揃えを観察した。新旧取り混ぜて児童書がメインなようだ。もう少し状態が良ければ買うかも……という本はあったが、何が何でも買っておかねばっ!という本は見当たらない。あるいは、もう書店では手に入らない自著があったりしたら買い取ることにしているのだが、それもないようだった。
 店主さんがとても親切で(暇だったのかも)「どんな本をお探しですか?」なんて声をかけてくれたりしたのだが、いやいやいや、普段全く来ない場所にふらっときて、あるとは思ってない移動古本屋に入ったのだからして、なにか具体的な目的をもって本棚を探すなんてことはないのです。これはもう、ただの「目星ロール(クトゥルフTRPG的表現)」に過ぎないわけで……。
 でも、これだけじっくり見て回って一冊も買わないってのは気が引ける。
 それに、である。
 たまたま喫茶店を見てみようと思いたち、たまたまそこが定休日で、たまたまさつきが丘団地まで歩くことに決め、たまたまさつき寿司へのルートを確認しに脇道にそれ、たまたま喉が乾いていて水飲み場を見つけていなければ、この古本屋さんを見つけなかったのだ。たまたまが五つだぞ。
 これだけの偶然が重なった結果出会った店なのだから、なにか一冊くらい私を呼んでいる本があるはずだ……そう思ってしつこく探していたら、装甲騎兵ボトムズの高橋監督が書いた小説、『孤影再び』を発見!
 これ、持ってなかったんだよね。連載中は掲載していた雑誌も知らなかったし。
 よしよし、これは買う価値があるぞ。というわけで購入。
 店主さんは、不意に来た客がひやかしでなく本を買ったので、ちょっと驚いていたように見えた。そりゃそうだよなあ……。
 「普段来ないところなんで、こんなお店があって驚きました」と言ったら、「さつきが丘の方ですか?」と聞かれた。「違うんですよ。少し離れたとこに住んでて。ここには本当にたまたま来たんです」と答えたけども。
 いつもここでやっているのか聞いたら、月イチでさつきが丘に来ているとのことだった。
 月に一回!? 本当にたまたま出会えたのだな。なんたる偶然か……。
 本を手に立ち去りながら、なんだか嬉しくて思わず笑ってしまう。
 で、なんとかジョナサンにたどり着いて、しばらく本を読んでから、また歩いて帰ったのだった。

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