Jリーガーになるために必要不可欠だった三冊の本


テスト勉強であれば「あっ、これ進研ゼミでやったところだ!」ともなるけれど、必死に生きている最中に「あっ、あの本に書いてたことだ!」と 気づく場面は ほとんどない。

だから、内容をノートにまとめたりもしない。何となく「良いな」とか「覚えておきたい」と感性が揺れるだけで 十分だと思う。そのたびに、人格が形成されていく手応えがある。

そう、読む本によって人格は決まる。プレッシャーに感じる必要はなく、そもそも人格なんてものは、知らぬ間に勝手に作られていくもので、読書とは、そのプロセスに能動的に関われる 数少ない手段だ。

理想の人格がイメージできるのであれば、その彼(彼女)が知っているであろうこと、大事にしているであろうことが 書かれてそうな本を買えばいい。なりたい自分を、少しずつインストールすることができる。


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1. スタンフォードの自分を変える教室

これを読んでも自分は変わらない。いつもの本と同じように、読み終わった直後だけ 君の意識はインフレし、決意を新たにし、年間計画の作成に取りかかり、運が良ければ 何らかの実際的なアクションが生じる。そして、翌朝には無事に、いつも通りの口先野郎に戻っている。

この本の良いところは、そうして変われずに悩んでいる我々に「しゃあないみんな同じやで」「まあ人間っちゅうのはそういう生きもんや」という慰めを、実験心理学と脳科学の事実に基づいて与えてくれる。

また、なぜ努力できたのか/なぜ努力できなかったかということが、意志力という概念をもってパターン化され、網羅されている。「こうやったら努力できるんとちゃうか?」という具体的提案まである。

まさに僕は口先野郎で、理想だけは立派で、しかし行動が続かず、決意 挫折 自己嫌悪のスパイラルの中で暮らしていた。だけど「自分が悪いのではなく、方法が悪い」という開き直りは、大きなパラダイムシフトになった。

それ以来 何をするにしても、どうすればこの努力を始められるか、続けられるか、成し遂げられるか、緻密な作戦を考えるようになった。成功とも失敗とも距離を保ち、そういう現象と過剰に自己を関連付けることをやめた。 一喜一憂するのではなく、傾向と対策する。俺自身ではなく、やり方を磨いていく。

人生が死ぬまで勉強だとすれば、僕たちは死ぬまでに かなり勉強が上手くなれる。



2. フリーエージェント社会の到来

結局のところ、就職 or プロのような二択で迷っていたのは、別に迷っていたわけではなく、ただ不安だっただけだ。自分の父親はサラリーマンで、同級生の95%は普通に企業に就職してサラリーマンになるし、通学の電車で目にする95%は(おそらく)サラリーマンだ。

実際には「雇われる」みたいな働き方も社会の一側面でしかないけれど、狭い世界を生きている学生にとって、まさか社会というものが多面体の形をとっているとは想像もつかない。敷かれたレールがどうこうとパンクを語っている暇もなく、そこを脱線しないように走るだけで尊い。

1〜3年くらいの契約で、個人事業主としてファーストキャリアをスタートさせることは、僕の感覚では勇気が必要な行為だった。それができたのは、同じように終身雇用という後ろ盾を持たず 起業家として、フリーランスとして、スポーツ選手として、本当に仕事を楽しんでいる人に出会えたから。

そして、個人の時代が来るとか来ないとか知ったこっちゃないけれど、自分はこの本を読んで、あと『WORK SHIFT(リンダ・グラットン)』とか『ORIGINALS(アダム・グラント)』とか、まあ『ZERO to ONE(ピーター・ティール)』も含めて、そういう生き方がしたいと思ったからだ。

ここでは、フリーエージェント(雇われない働き方)の人たちにとっての意味のある仕事について「自由」「自分らしさ」「責任」「自分なりの成功」を挙げている。特に、自分らしさについて

「フリーエージェントたちは、夏の夕立のように『自分らしさ』が空から降ってくるのをただ待っているわけではない。情熱をかたむけて仕事に打ち込むことを通じて、自分らしさを表現しようとしている。カルヴァン主義の労働倫理では禁欲が求められたのに対し、フリーエージェントの労働倫理では、自己表現が許されているーというより、ときには自己表現が求められるのだ」1

自分らしさが空から降ってくるのを、僕は待ちたくないと思った。



3. ブルーオーシャン戦略

大学サッカー部をビジョナリーな組織にするために、既存の施策ではもう限界があるなあと思って、とりあえずビジネスの世界にヒントを求めるようになった。

社員(部員)150人、創業(創部)100年近くの組織のリーダーをやっていたわけだから、これはかなりのHard Thingsで、普通に冷静に考えて、経営の勉強をやってみるのが最適解だろうと思った。

とりわけ、この本は分かりやすい。ここで学んだことを行動に移せたかどうかは定かではないが、チームは求めていた日本一を獲得して、自分の中で「スポーツもビジネスも同じじゃん」という確信が生まれるきっかけになった。

大学のチームで結果を残したから、僕はそれに便乗してプロになれたと思っているし、スポーツもビジネスも別物ではないと信じ切れたから、プロになった。そういう意味でも、影響力の大きい本だった。


ブルーオーシャン戦略の根幹を成すアイデアは「戦略キャンパス」と呼ばれるものだ。

横軸にはプレイヤーが持つ性質を並べ、縦軸は力の入れ具合を表す。既存のものと被らないようにしたり、新たに性質を付け加えたりして、独自の価値を築いていくみたいなことだ。

プロになってからは「これ個人の戦略にも当てはまるんじゃね?」と思い立って、レギュラーの人と控えの自分を比較し、どこで勝負すべきか、何を伸ばし何を削るべきかを考えていた(病んでいたんだと思う)。

これも意味があったかは分からないけれど、客観的に現状を分析し、戦略を練って、策を講じていくのは楽しかった。そして 分析の方法も、ここにあるような戦略も、打つべき策も、世の中には掃いて捨てるほどある。自分に能力がないのではなく、作戦ミスだ。

そう考えるクセができれば、不安も焦りも一旦置いといて「まあとりあえず本を読もう」としか思わなくなる。行き詰まっているのではなく、勉強不足なのだから。


伸びしろですね


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これらは「Jリーガーになるために必要不可欠な本」ではない。そんな本はない。あくまで、僕の人生において思いを巡らせたときに、要所要所で効いていたと感じる「Jリーガーになるために必要不可欠だった本」たちだ。

読書とは、まさに ジョブズの語る Connecting the dots のようなもので、彼の言葉を借りるのであれば "your gut, destiny, life, karma, whatever(直観、運命、人生、カルマ、何であれ)" その自分の情熱というものに対して 誠実に、そのためだけに本を読んで、振り返ったときに それが一本の線で繋がっているような、そういう体験のことを言うのだと思う(どうしても本が読みたくなるような、新しく、情熱的な挑戦の中に自分はいるだろうか?)。

今の自分に向かって伸びるその線分は、確証であり、誇りであり、自分自身でもある。本を読まない人には、この感覚が分からないことだろう。



400回くらい観た(観ろ)



*1, ダニエル・ピンク(2008)『フリーエージェント社会の到来』ダイヤモンド社, p80.




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井筒 陸也

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