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『クラッシュ・バンディクー』の闇:パプパプとアボリジニ闘争

先日発売されたばかりの『クラッシュ・バンディクー レーシング ブッとびニトロ!』をプレイしていたのだが、驚いた。

あの「パプパプ」が、まだ『クラッシュ』にいたのである。

「パプパプ」というのは、『クラッシュ・バンディクー』シリーズのうち初代から『レーシング』『カーニバル』『5』などに登場する「ボスキャラ」だ。日本語では「ふとっちょの パプパプ」とも渾名されるような、巨体を持つおかっぱ頭のへんてこな部族の族長であり、常に語尾に「~パプ」とつけて話す癖がある。

察しの良い方ならすでにおわかりだろうが、このパプパプは『クラッシュ・バンディクー』の舞台タスマニアに住んでいたタスマニア先住民、いわゆる「アボリジニ」と同一視できる。

一方、オーストラリアという国家において、アボリジニ問題は直視しなければならない「闇」である。歴史上、苛烈な弾圧及び虐殺が行われ、特にタスマニアに住んでいたアボリジニたちは絶滅まで追い込まれた。

そして現代、ノーティドッグは『The Last of Us PartⅡ』の同性愛描写で巷を騒がせるなど、政治的な文脈を入れることに躊躇がない。だからこそ、『クラッシュ・バンディクー』という子供にも大人気だったゲームシリーズが密かに描いてきた「闇」について、今回はお話したい。


あえて「タスマニア」と現実の舞台を使った『クラッシュ・バンディクー』

『クラッシュ・バンディクー』の舞台はオーストラリアの州の一つ、タスマニア州だ。四方を海に囲まれたこの島には、その豊かな自然環境から大陸では見られない貴重な生物が多数生息しており、現在でもオーストラリアの貴重な観光地として知られている。

本作の物語は、マッドサイエンティストである「コルテックス」が、このタスマニア島に研究所を築き、原生する生物を相手に人体実験をしている中、偶然知能を得て脱出したバンディクーの一匹(一人?)が脱出するところから始まる。このバンディクートこそタイトルにもある通り「クラッシュ」。彼は各ステージに待つコルテックスの部下を倒しながら、最終的に彼の飛行船を撃墜してタスマニアの平和を守りきる。


このように、「原生生物」であるクラッシュが「外来人」であるコルテックスを倒すというのが、シリーズを通して一貫した筋書きだ。バンディクートは人間による自然開発及び外来種によって数を減らし、絶滅危惧種に指定されている点も偶然ではないだろう。

『クラッシュ・バンディクー』はシンプルなアクションゲームながら、オーストラリアのタスマニア島という実在のロケーションを扱うことで、植民地支配とそれに対する抵抗がプロットとして組み込まれている。

更に、『1』では一度コルテックスは退治されるのだが、『クラッシュ2』ではコルテックスが「世界を守るために協力してほしい」とクラッシュを騙した後、コルテックスが裏切る展開も用意される。騙されやすい原住民に、狡猾な外来人という構図もまた、極めて露骨な対立構造だ。

あえて架空の舞台ではなく、明確に特定の土地を示した上で、外来人による一方的な侵略行為とそれに対する反抗という、嫌でも過去の歴史を想像せずにいられない構図を、コミカルにゲーム化したノーティドッグのスタンスは非常に興味深い。

対コルテックス戦。そもそもクラッシュはコルテックスによる原生動物への人体実験から生まれた。


つい最近、『The Last of Us PartⅡ』で女性同士がキスをするという濃厚な同性愛描写によって、その「政治性」までが議論の対象にもなったノーティードッグ。とはいえ、彼らが「政治的なゲーム」を作るのは今から20年以上も前から同じだったのは、ここからもご理解いただけるだろう。



オーストラリアの暗部、アボリジニ問題

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