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PS5で発売される15本の要注目ゲームと、今後のSIEの戦略を解説する

2023年5月25日、ソニー(SIE)は“PlayStation Showcase 2023”をYouTube、Twitchで放送した。本番組ではのべ33タイトルの新作情報が公開され、PS5とPSVR2を軸にした今後のSIEの戦略も垣間見える、想像以上に興味深い内容だった。

はっきり言って、この発表はゲーム業界でほとんど波紋を呼んでいない。なんといっても日本語放送もなく、そのうえ海外タイトルが主だったので、日本の多くのゲームファンは配信を見ても「なんじゃこりゃ」と一瞥して帰ってしまったことだろう。しかし実際には、ゲーマーなら是非注目してほしいゲームが最低でも15本、さらにそこから今後のゲーム業界やクリエイター、そしてSIEの思惑が垣間見える、中々に興味深いものだったのだ。

この発表が知られていないのは、あまりにも勿体ない。そこで、少しでもこのPlayStation Showcase 2023の解像度をあげるべく、特に注目したいタイトルを15本、筆者自ら短評を交え、それがいかに期待でき、逆に不安すべき点はどこかを考察したい。またそうしたラインナップを通じて、供給不足で一度躓いたPS5を軸にした戦略をSIEはいかに立て直し、今後に備えているかという考察も行いたい。


そもそも、発売前プロモーションに対する姿勢の話

最初に断っておくと、筆者はゲーム企業の発売前プロモーションに「過剰に」反応する昨今のゲームメディアの風潮に、危機感を抱いている。あの伝説的ゲームのリメイクがついに発売!だとか、かのAAA級シリーズ最新作がオープンワールドで!だとか、発売前に煽るだけ煽って実際に出ると総スカンというのは一度や二度ではないだろう。

あえて言うが、発売前のゲームはあくまで「空想」である。これは比喩ではなく直喩で、そもそもトレイラー(特にティザー)を作っている時点でゲームは完成すらしていない。トレイラーを観たゲームファンは「このゲームは一体どうなるのだろう」と期待に胸を膨らませている一方、トレイラーを作るディベロッパーも「このゲームは一体どうなってしまうのだろう」と額に嫌な汗をかいている。「Gameplay Trailer」と示されたものも、実際にはプロモ用に一から作られたゲームだったなんて例も珍しくない。

だから、どれほどすばらしいクリエイター、楽しかったシリーズ、莫大な予算や技術を費やされていようとも、それが完成しておらず、ましてプレイも不可能である以上、それは「作品」未満である。実際、トレイラー段階で告知していた内容からかけ離れていた『Cyberpunk 2077』のような例や、発売すらされなかった作品も多々ある。当然、パブリッシャーが「プロモーション」として作品を最大限好意的に映したものであるわけで、我々メディアやゲームファンはそれを愚直に喜ぶ、煽るよりも、むしろ彼らの意図を汲み取ったうえで冷静に実態を掴もうとするリテラシーが必要ではないかと思う。

無論、発売前のプロモーションを楽しむな、喜ぶなと言いたいわけでない。さりとて、それを思考停止で受け入れて、発売される前に「消費されきっている」のは作品にも失礼だろう。あくまで「彼らのプロモーション」としてほどほどに距離を取りつつ、本当に自分が期待する作品、興奮する作品は発売前から盛り上げる、ぐらいでちょうどよいのではないかと思う。

筆者がこの記事を書く理由も、こうした現状に対する危機感からだ。そこで本稿ではある程度、開発スタジオの実績や背景、またSIE側の思惑などを客観的・物証的に検証しつつ、「プロモーション」の装飾を差し引いてタイトルの短評を述べる。そのため、とりあえずビッグタイトルで盛り上がるSNSなどでは読めない、ゲームゼミならではの発見に満ちたものになっているはずだ。

閑話休題。そろそろ本題に戻ろう。


『Fairgame$』

いきなり責めたタイトルだと思う。内容はハイテクな強盗をテーマにしたPvP。ゲームプレイはほとんど明かされなかったが、サイバーパンクとグラフィティを詰め込んだ独特のアートが印象深い。

開発のHaven Entertainment Studiosは、Ubisoftで『アサシンクリード』開発を率いてたジェイド・レイモンドが、Ubisoftを何人か引き抜いて独立したスタジオのようだ。そのくせ、Ubisoftと同じカナダ・モントリオールに拠点を構えているのは、中々肝が座っている。実際、ハッキングして強盗をはたらくというコンセプトはいささか『Watch_Dogs』めいており、ソニー傘下(ワールドワイドスタジオ)の中でもかなりの予算で動いていると考えられるだろう。

トレイラーの内容はかなりティザー寄りで、ゲームプレイはあまりわからなかった。強盗というテーマでは『Payday』シリーズを思い浮かべるが、あくまでPvPなのでそうではない。そういえば『Kane and Lynch』という若干マイナーな犯罪TPSゲームで、プレイヤー同士が協力しながらも時に出し抜く銀行強盗モードが存在していたが、あんな感じだろうか。


『HELLDIVERS 2』

2015年に発売されたトップダウン・シューター『HELLDIVERS』の続編。ただインディー規模で作られた前作と異なり、広大なフィールドが舞台、視点もTPSとかなり予算規模が変化しているようだ。

個人的にも期待が持てる作品。何と言っても開発はArrowhead Game Studioだ。筆者はこのスタジオは『Magicka』以来のファンである。『Magicka』はインディーゲーム黎明期のトップダウン・シューターなのだが、銃や魔法をそのままぶっ放すのではなく、元素を組み合わせて即席の魔法を作って戦うというのがかなり面白かった。SIE傘下に入って作った『HELLDIVERS』は『Magicka』ほど尖ってはないが、クオリティはかなり安定している。

問題はトップダウンからTPSに「視点」を変えたことだ。いうまでもなく、いくらシューターと言ってもトップダウンとTPSでは全くゲームデザインの設計が異なる。しかも、TPSはトップダウンよりも圧倒的にレッドオーシャンで、それこそソニー傘下にはNaughty Dog等がTPSで成功させた中、そこを打開するのは大いに困難が伴うだろう。

ただ、これは明らかにArrowheadが「俺たちはトップダウンしか作れねえわけじゃねーぞ」という心境あっての変化だと思う。インディースタジオが一定の予算と技術を用いて、あえてAAA級の大作を持前の独自性を維持したまま作れるのか。そういうチャレンジに注目したい。


『アヴェウムの騎士団』

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