『RDR2』批評 それは「偽物」から「本物」を取り戻す物語


 『Red Dead Redemption 2』は紛れもなく2018年を代表するビッグタイトルだ。
 桁違いの開発規模、桁違いの売上、桁違いの評価。何より筆者自身、ゲームで久しく得られなかった感動を与えてくれた『RDR2』は最高のゲームだと思う。
 一方、日本での評価はあまり高くない。もっさり気味の操作性、過酷で二転三転する物語、複雑な時代背景、総じてこの作品は極めて難解である。
 だが、こうした批判が集まりがちな要素にも、それが必要なだけの理由がある。この難解さこそ『RDR2』を傑作たらしめているのだから。
 そこで『RDR2』という作品そのものの背景、開発者の哲学、アーサーの人生、そういった点を踏まえることで、本作を何倍も楽しむことが出来ると思う。

 内容はネタバレを含むが、未プレイの方や途中だけプレイした方にも是非読んでいただきたい。本稿を読んでいただければ『RDR2』を何倍も楽しんでいただけるという自信が筆者にあるからだ。

巨匠「Rockstar」の正体

 『RDR2』という作品を理解する上で、まずこのゲームを「誰が作ったのか」皆さん厳密にご存知だろうか。
 「それはロックスターだろう」と思ったあなたは半分正解。確かに『RDR2』を開発したのは、世界的にも有名なゲーム企業「Rockstar」である。だが世界には9箇所もRockstar関連のスタジオが点在していることは、日本であまり知られていない。
 中でも代表的なRockstarはイギリスのエジンバラに居を構える「Rockstar North」だろう。代表作『Grand Theft Auto』シリーズの開発を担当し、Rockstarの中で最も人材とノウハウを持つ大御所だ。
 一方、『RDR2』の前作である『Red Dead Redemption』(2010)を開発したのは、アメリカのカリフォルニア州に存在する「Rockstar San Diego」というスタジオだ。このスタジオは『Red Dead Revolver』(2004)やレースゲーム『湾岸 Midnight Club』シリーズを開発した実績もある。
 そして本作、『Red Dead Redemption 2』はRockstar Northを中心にRockstar San Diegoを含む世界各地のRockstar Studios共同のプロジェクトとして開発された。
 つまり、『RDR2』は「統合Rockstar Studios」という作者による「新作」なのである。

 ここまで説明した内容は、単なるゲームトリビアではない。これまでのRockstar作品で描いてきた内容を鑑みることで、各Rockstar Studiosの本質が浮かび上がり、そこから今作『RDR2』で描こうとした内容も明らかになるからだ。
 例えば、Rockstar Northが開発してきた『GTA』シリーズ。言わずとしれた傑作クライムアクションであり、数々のギネス記録にも輝く、世界で最も人気のあるタイトルの一つだ。
 しかし、その本質について日本で議論されることは殆ど無い。今どき、広大なオープンワールドを持つゲームなどいくらでも発売されているのに、このシリーズが未だに絶賛される理由何だろうか?

 筆者はRocksta Northの妥協なき作風と、そこに潜む「嘘」にあると考えている。

Rockstar Northが囁く甘い嘘

 Rockstarはリアリティに徹底的にこだわる事で有名だ。ニューヨークの摩天楼を見事に再現した『GTA4』や、美しい西海岸を描く『GTAV』。道路、ビル、公園、看板の一つに至るまで徹底的にコダワリがあり、それ故に実際に自分がアメリカに生きているような感覚をプレイヤーは得られる。
 だが、『GTA』の世界は必ず「嘘」が紛れている。それはわざとらしすぎるほどの嘘である。
 例えば、『GTA4』の舞台はどう見てもニューヨークなのに、作中では「リバティーシティ」と呼ばれている。自由の女神像はビル・クリントンに差し替わり、どう見ても「タコ・ベル」まんまのファストフード店の看板には「クラッキン・ベル」と書かれている。街を走っている車や路地で拾える銃も、実在しても不思議でないほど精巧だが、よく見ると色々な実写や実銃を混ぜて作ったキメラ的偽物だ。

クラッキン・ベルはシリーズ恒例のファストフード店で、『GTA:SA』では主人公の友人がバイトしていたりする。

 こう説明すると、「ゲームなんだから仕方ないじゃないか」と反論されるかもしれない。そう、『GTA』をはじめとする「リアリティを追求したゲーム」の、最大の課題はここにある。
 それは、ゲームがリアルであればあるほど、ゲームの限界が看破された時にプレイヤーの落胆も大きくなるという、リアリティのバックファイアだ。どれほどリアリティを追求しても、ゲームである以上完全に再現することなど出来ない。どれだけ広いオープンワールドでも、見えない壁がプレイヤーの行く手を遮ってしまう。この先何十年経っても、ゲームがゲームである以上現実にはなりえず、その都度プレイヤーは落胆し続けるのだ。
 だからこそ、Rockstarは「嘘」を混ぜる。90%はリアルなのだけど、10%は見え透いた嘘を、さりとて違和感なく説得力のある上質なフィクションを取り入れる。
 そうすることで、ギリギリまで没頭させておいて、「やっぱりゲームだな」と気付いてしまう刹那に、「いやいや、これはフィクションなんだからそれでもいい」と騙してしまう。『GTA』は限りなく写実的な騙し絵なのである。
 故に『GTA』は現実のアメリカを再現したリアリティだけで評価されているわけでない。むしろ1割のフィクション、それも全く違和感なく溶け込むような上質な「嘘」と嘘の塩梅こそ、無数のリアルなオープンワールドが量産される現代でも、『GTA』が評価される理由だ。

 話を戻そう。この「上質な嘘」という点においては、前作『RDR』を開発したRockstar San Diegoも負けず劣らず素晴らしかったと言えるだろう。
 Rockstar San DiegoはRockstar Northのノウハウを見事に回収しつつ、20世紀のアメリカという歴史をビデオゲームの中に構築してみせた。それっぽい銃、ありそうでない州、実在しないメキシコの独裁者、いずれも優れた贋作だ。

 だが、「ストーリーテリング」「物語手法」という点に注目すると、実は米英異なるRockstarが、それぞれ真逆の物語を構築していた事が明らかになる。
 オープンワールドの作り方以上に日本で注目されてなかったRockstarのストーリーテリングだが、そこに『RDR2』という大作に繋がる鍵があったのだ。

(以下、物語の差異として両Rockstarの「家族」の観念、それらを踏まえた上での『RDR2』のアーサーの人生、そしてRDR2が傑作たりえる理由を解説します。)

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コメント1件

いつも見てます! プチ詰み気味だったRDR2を再開するモチベーションになりました! いつも読み応えのある記事をありがとうございます!!
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