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「BF」「シージ」から「The Finals」へ 日本で知られない「環境破壊FPS」の魅力と進化を語りたい 

先日、満を持して正式サービスを開始した、マルチプレイFPS『The Finals』。筆者は本作の到来を心待ちにしており、何度かベータテストにも参加してきたが、実際、本作はすばらしい。「ゼルダ」「バルダーズゲート」など前代未聞のゲーム激戦区となった2023年だが、その中でも『The Finals』は一切引けをとらないどころか、同じほど歴史的に大きな意義のある作品だと思う。

オープンベータ時点で20万人がプレイ、正式サービス後も6万レビューと好調。評価が割れている(75%)が、『Apex Legends』(79%)や『PUBG』(57%)のようにF2Pの中では妥当。


しかし残念なのは、「The Finals」がFPS、それも「環境破壊FPS」というややニッチなジャンルに属することで、FPSの文化がそこまで知られていない日本国内では評価されづらいことだろう。

今でこそ『Apex Legends』『スプラトゥーン3』『VALORANT』など対戦FPSが遊ばれている日本だが、『The Finals』を含む「環境破壊FPS」はこれらとは違った魅力がある。しかも「環境破壊FPS」を批評する文章も稀なため、こうした作品に連なるポテンシャルがありながらあまり注目されていない。そこで、20年近くこのジャンルを愛好してきた筆者が、改めてその歴史と意義、その中にあった様々な課題を紹介しながら、この『The Finals』がどう乗り越えてきたか解説したい。


The Finalsとはどんなゲームなのか

さて、そもそも『The Finals』の内容を知らない方に向けて、本作がどういうゲームなのか簡単に説明しよう。

『The Finals』は基本的に1チーム3人、4チームで合計12人が戦うFPSだ。この点では規模が小さな『Apex Legends』といった具合だが、本作で採用されているのはオブジェクトルールである。つまり『Apex Legends』などのバトロワが純粋に「生き残り」をかけた殺し合いである一方、『The Finals』は「金庫」「キャッシュアウト」というオブジェクトを奪い合うことで得点を得られ、そこにキル数は影響しない。

この「金庫」というオブジェクトを
「キャッシュアウト」にまでもっていき
一定時間守り切ればポイントだ


しかし『The Finals』最大の特徴はオブジェクトルールであること、ではない。それは「環境破壊要素(Destructible environment)」だ。本作は韓国のソウル、アメリカのラスベガスなどの都市(厳密にはその仮想空間)が舞台となるのだが、そこにおける大半の壁や床、家具に至るまで破壊できる。するとどうなるか。

例えば、敵が地上5階建てのビル、その最奥で金庫を中心に防御陣形を築いていたとしよう。その扉は全て防がれており、廊下には地雷が仕掛けられている。更に装備を満載した兵士3人が相互の死角を補うように射線を通している。通常、この陣形を築かれると、攻撃側は大いに不利である。しかし『The Finals』ではその限りではない。

そう、壁を壊してしまえばいいのだ。それもビルの外側に開けた穴からなら、全ての防御を無視して突破できる。あるいは床を壊してしまえば、上にある金庫を引きずり落として陣形を解体することもできる。なんなら階下にある柱をあらかた壊してしまえば……、なんと建物が崩壊してあらゆる陣形も罠も全て台無しにしてしまえるのだ。

ビフォー
アフター


しかしこうした「環境破壊」的な要素は、『The Finals』が全く最初というわけでない。


世界を壊す、というロマン 1990年代から2000年代初頭まで

実はFPSで環境破壊の要素があったのはそう最近のことではない。かのFPSのパイオニアの一つ『DOOM』には「ドラム缶」がマップのあちこちに点在していて、このドラム缶を破壊することで敵にダメージを与えることができたし、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』でも、剣で看板を切ると、切った角度によって看板が多彩に壊れるなんて演出もあった。

ただし『DOOM』をはじめ、当初のゲームにおける「環境破壊」とは、「ドラム缶」のように予め破壊可能なことが設定され、どのように壊れるか、どのような影響を及ぼすかといった効果まで定められた物体に定められていた。一見して色々なものが破壊できるゲームでも、何が壊れるか、そしてどう壊れるかは、全てスクリプト上の「演出」でしかなく、同時にこうした一つ一つの「演出」は、開発者のハンドメイドによって実装されていたため、とてつもない手間がかかっていた。

社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』より この無茶ぶりが許されるのは後にも先にも宮本茂だけである。


しかし欧米ゲーム業界では、この定められた演出をより創発的なルールとして進化させるため、「物理演算(physics)」と呼ばれる技術が研究されていた。

その中で起きた革命が、2000年に発表された物理エンジン「Havok」だ。Havokはゲーム=仮想空間内における物理法則を設定できるミドルウェアで、Havokを組み込むことにより、技術的に実装の難しかった「物理演算」が、多くのゲームで比較的容易に実現可能になった。つまり、ゲーム1本ごとにわざわざ実装していた物理法則を、Havokによってある程度共通化しつつ、同時に極めて現実的な物理法則(あるいはとんでも物理法則)を、様々なゲームで再現可能になったのだ。

このHavokを組み込み、物理演算の魅力を世界に広めた作品が、2004年にValveが発売した『Half-Life 2』である(※①)。本作が開発されているゲームエンジン「Source」にはHavokが組み込まれ、当時のゲームとしては類を見ない、リアルな物理演算が大きな魅力の一つだった。さらに本作には「グラビティガン」という重力を自在に操る銃が存在し、これによって銃弾ではなく、周囲の家具や資材を飛ばして攻撃するという、非常に斬新な戦闘を楽しむことができた。

「Half-Life 2」といった作品をはじめ、この2000年代当初、Havokの革命によって環境破壊はある種のトレンドとなり、多くのゲームに搭載されるようになる。『Burnout』『Bioshock』『Far Cry 2』『Crysis』『Dead Space』など、物理演算を搭載し、それによって環境破壊が可能になったゲームは枚挙に暇がなく、またこれらの多くがHavokの力を借りている。

しかし、こうした環境破壊要素を備えたゲームのすべてが必ずしも面白かったかというと、残念ながらそうでなかった。

これは環境破壊に限らず2000年代の欧米ゲームに共通する問題だが、当時の物理演算を使ったゲームプレイはあくまで「こんなすごいことができる!」というテクノロジーのデモンストレーション、あるいはテクノロジーへの開発者側のロマンが実直に反映されたものが多く、環境破壊せず普通に銃撃戦をした方が早いゲームなど、ゲームデザインとして昇華した例があまりなく、「確かにリアルだが、それが面白いのか」という点に留まっていたように思う(※②)。

しかし2010年、この「環境破壊」を単なる「テクノロジー的ロマン」ではなく、ゲームプレイにまで本格的昇華したことで成功した作品が登場する。

2003年における『Half-Life 2』の技術デモ。

(※①:「環境破壊FPS」として、本来パイオニアとして紹介するべきは2000年発売の「Red Faction」だろう。イリノイ州のVolitionが開発した本作は、ほとんどの壁や床を破壊できる当時としては画期的な破壊表現が可能で、それも「Geo-Mod」という独自のテクノロジーで共通化している点も、Havok的物理演算の到来を予期していた。もっとも、やはりゲームプレイのクオリティが今一つであったがために、埋没していくことになった。)

(※②:厳密には、『Half-Life 2』は物理演算をゲームデザインに昇華する努力をした形跡があり、特に作中屈指の傑作レベル「レーベンホルムに行かない」では、補給のない状況でグラビティガンだけを使い、ゾンビだらけの町を脱出するという内容になっている。もっとも、他のレベルは大変お粗末だし、他のHavok実用例を見ても十全に活用できていたと言いづらい。その中で最高の成功例は2017年、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』まで待たなければならない。)

「BFBC2」から「Siege」まで 環境破壊FPSの確立

そのタイトルは『Battlefield: Bad Company 2』(以下、BFBC2)。スウェーデンのゲームスタジオ「DICE」が手掛ける「バトルフィールド」シリーズの一本で(※①)、全世界で1200万本を売り上げるなど、当初の同シリーズとして桁違いのヒットに輝いた名作である。

『BFBC2』の特徴は、ここまで何度も述べてきた「環境破壊」である。本作に登場する物体の多くはプレイヤーが実際に破壊することが可能で、家屋の壁や金網を壊したり、支柱を壊せば家屋そのものを倒壊させることもできる。この破壊表現はかなりリアルで、現代のゲームと比べても遜色がない。

ただ『BFBC2』の面白い点は、「M-COM」と呼ばれるオブジェクトを巡って戦う対戦型FPSという点である。ここまで紹介したゲームの多くは、「環境破壊できる」というだけでそこで深々とゲームデザイン上組み込まれていたわけではなかった。しかし本作はオブジェクトを奪い合う対戦FPSである以上、「環境破壊するべき」ゲームなのだ。

例えば、攻め手としては敵が立てこもっている家屋をロケットランチャーや砲弾で壊し、身を隠すための場所を減らすことだってできるし、逆に守り手にとっても、敵が潜伏しやすい森などは爆薬で吹き飛ばしてしまったり、都合よく壁の一部にだけ穴を開けて一方的に射線を通すなんてことができる。何でも、そしてどこでも壊せる本作だからこそ、環境破壊を本格的な戦術に組み込んだ熱い対戦を楽しませることに成功した。


続いて、「環境破壊」を取り込んだFPSの成功例が『Rainbow Six: Siege』(2015年)である。本作は特殊部隊を扱うFPS「レインボーシックス」シリーズの最新作であり、中でも「Siege」は総プレイヤー数が8500万人と桁違いの成功を収めている。

では「Siege」とはどんなゲームなのか?「Siege」のルールは『Counter-Strike』などでお馴染みの「爆破ルール」をベースに作られている。プレイヤーは攻撃側・防御側に分かれ、攻撃側は爆弾を設置して一定時間守る、防衛は爆弾を解除するか相手を全滅させれば価値というもの。「Siege」はそこに環境破壊要素も加わっており、壁や天井を破壊して独自にルートを作るという試みもできる。

ここまでなら「BFBC2」にも近いことはできたが、「Siege」の大きな進化は「環境破壊」だけでなく「環境生成」も可能という点だ。

例えば、銃弾を通さないバリケードや、敵の行進を遅くする鉄条網、あるいは壁を壊せないように補強したり、銃座やジャミング装置を設置するなど、自分たちが有利になれる環境を作り出せるという点が、「Siege」の特徴だ。そのため、環境を破壊する側も、どこをどの順番から壊すか考えたり、壊す道具も爆薬、テルミット、ハンマーなどを使い分けるといった深みが加わった。

一部の壁のみ補強し、その他に罠を仕掛けるなども可能

「BFBC2」における戦場は、基本的に何も考えずに破壊するだけの一方的、不可逆的なものだったのに対し、「Siege」における戦場は、攻撃・防御側双方が「環境を作る/壊す」という双方向的・可逆的な戦術を交える点において、もう一段階戦術レベルの多様性が深まり、ただ銃撃戦が上手ければよい(エイムが良ければよい)FPSにはない奥深さを作り出すことに成功した。

(※①)厳密には前作「Battlefield Bad Compnay」から環境破壊は組み込まれていた。ただ本作はやや実験的な要素も濃かったため、ゲームプレイとして花開いた続編の「2」を今回紹介している。事実、「BFBC2」は武器やビークルを含むほとんどが「BFBC」そのままであり、売上・評価どちらも「BFBC2」が大きく上回っている。


「The Finals」環境破壊FPSの極北として

さて、そろそろ話を「The Finals」に戻そう。

ここまで述べてきたように、「環境破壊(Destructible environment)」というテーマは、実は欧米ゲーム文化の中で重視されてきたテーマだった。それは2000年代に広まった「Havok」など物理エンジンと、それに伴うテクノロジー主義的な欧米ゲームの哲学を、2010年代にマルチプレイFPSとして昇華した「BFBC2」「Siege」といった作品の成功によって裏打ちしたことからも明らかだろう。

そして「The Finals」は、まさにこの「環境破壊」のテーマを2010年代における「BFBC2」「Siege」から踏襲しながら、2020年代へと継承する作品であると同時に、2023年において(FPS/対戦に限らず)欧米ゲームの「テクノロジー的ロマン」をアップデートした非常に重要な作品だと言えるだろう。

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