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『FF16』のゲームデザイン上の問題と、「初心者配慮」の落とし穴

先日、友人が『ファイナルファンタジー16』をクリアしたので、感想会を行うことにした。そこで色々と議論したのだが、その中で『FF16』の本質的な問題がゲームデザイン上にあるのではないかと気づいたので記事にしたい。

本題に入る前に、少し『FF16』に対する自分の見解について整理しておく。ざっとソーシャルメディアのポストを確認したところ、『FF16』はかなりの賛否両論だ。ただこの評価は実際のところ「FF」という日本の特にオタク文化と強く根付いたゲームシリーズに対する過度な自意識、およびそれを踏まえたアジテーションによるものが大きい。

筆者なりには、『FF16』は「平均的によくできた大作ゲーム」という評価が妥当ではないかと思う。ストーリーに不満もあるが、アクションの練度や演出の個性には光るものがあり、総合的に「AAA級ゲーム」の平均的なクオリティを維持している。言い換えると、本作で挙げられる不満(例えばストーリーとゲームプレイの整合性が微妙だとか)は他の凡庸な大作ゲームにはよく当てはまるものであり、それらが同じように非難されない方が客観的ではないだろうと思う。

なので、単に『FF16』というゲームの評価を語るだけならそれでおしまいなのだけど、本作には一つだけ看過しがたい問題がある。



死ぬとポーションが増える

結論から言うと『FF16』の問題とは、「死ぬとポーションが自動で全部補充される」という仕様である。

本作をプレイしたことがない人に向けて説明しよう。まず、本作は近接アクションゲームである。本作のアクションをディレクションしたのは、以前カプコンで『デイルメイクライ』シリーズに関わった鈴木良太であり、全体的にはスタイリッシュランクの概念がない「DMC」めいたアクションを楽しむ内容となっている。このアクション自体は中々クオリティが高く、攻撃、回避、パリィに召喚獣アクションの塩梅は特に優れている。

そして本作には回復アイテムに「ポーション」がある。いつもの「FF」お馴染みの回復アイテムで、消費すると失った体力をすぐに回復できる。ここまでは全く問題はない。ところが、死ぬとこの消費したポーションをすべて補充した状態で復活してしまう。これが問題である。

通常、アクションゲームは死ぬこと、ひいては被弾することを避けるゲームである。敵の攻撃を極力よけつつ、敵に攻撃を極力あてる、畢竟アクションゲームはこの2つをプレイヤーに問うゲームである。そのために隙の大きい強攻撃と、隙の小さい小攻撃があったり、安定するガードとハイリスクなパリィといった選択肢があるわけだ。

ポーションのような回復アイテムは、この「当たるな」というルールの中で「当たったことを帳消しにする権利」を与えることにより、「一定回数までなら当たってもいいよ」という猶予をプレイヤーに与えるものだ。ただしこの「権利」を得るには、一定回数まででなければいけないとか、冒険中に手に入れた金銭を支払うとか、それ自体が被弾の隙を生むといった、何かしらの制約、リスクがかけられるのが前提にある。


ところが本作は死ぬとポーションを完全に補充した状態でプレイできる。その結果、本作は本来避けるべき「死」によって何故か利益が得られるのだ。そのため、本作はポーションが枯渇したタイミングでは正しくプレイすること……つまり死なないように、ダメージを受けないようにすることが「間違ったプレイ」で、わざと棒立ちして死ぬことが「正しいプレイ」になってしまうことがある。なお他のゲームでいうeasyモードにあたる「ストーリーフォーカス」だけでなく、通常の「アクションフォーカス」でも同じ状態が起きる。

ポーションはほぼ使い切っている
死ぬと……
すると全て最大数まで補充される

更に問題なのは、このポーションが一定の価値があることだ。具体的には、本作でポーションは「宝箱を開ける=探索」「はぐれた雑魚敵を倒す=戦闘」といったプレイヤーの努力で得られる報酬、つまり「ご褒美」になっている。ところが死ぬと即座に3~5個のポーションを同時に手に入れられる。するとプレイヤーがわざわざ脇道を探索するより、さっさと死んだ方がより多くのポーションを得ることがある。

逆に苦労して寄り道してポーションが出たときの落胆はすさまじい

またポーションは各地の店で、ギルという通貨を用いて購入することができる。これは更に重大な問題で、本来死ぬだけで「無料」で手に入れられるポーションを、わざわざ強敵を倒して手に入れたギルを「有料」で要求するというのが、明らかに矛盾している。実質的にヴァリスゼア全土に卑金属と貴金属と謳って売りつける詐欺師が点在していることになり、もはや大陸滅亡は致し方なかろう。

本作のポーションは水や空気と異なり、有限であり、価値あるものであり、それによって「攻撃を避ける」「探索をする」というプレイヤーの行動を報奨している。しかし、死ぬとポーションが補給されてしまうことにより、時によっては意図的に被弾し、結果死ぬことがプレイヤーの「利益」になる。具体的にギルで換算すると、初期状態でポーション(1つ200ギル)とハイポーション(1つ400ギル)合計で「2000ギル」の利益がプレイヤーが死ぬ度に発生するという意味不明のルールになっており、しかもポーションの最大所持数が増えるたびにその利益は増す。

大した金額には見えないが、雑魚敵を倒しても数十ギルなんてザラ。ポーションを普通に買うと赤字だ。

何より問題なのは、そもそもこうした実質的なルールが自明ではないまま、むしろプレイヤーの探索や戦闘、買い物といった行為にポーションが組み込まれていることだ。端的に言えば、プレイヤーがポーションのために時間と労力を費やして探索したり、ギルを費やして買い物すると、「実はそれ死ぬだけで無料で手に入りますよ」ということに気づく。これまでポーションに費やしたギルは全部無駄金だったわけである。

当然、これはプレイヤーに対する背信、あえて言うなら「詐欺」に他ならない。仮に宝箱がミミックだったり、ものすごく弱い武器が高額で販売されているのは構わない。それはルールに「詐欺」が組み込まれており、しかも「詐欺」を見抜くこと自体が攻略の一環になるからだ。しかし本作のポーション補充は明らかに自明でなく、しかも見抜いたところで「意図的に死ぬ」という明らかにアクションゲームのルールに反するプレイをすることが最善手になってしまうので、明らかな欠陥と言える。


「初心者への配慮」ではない

言わずもがな、本作の「ポーション補充」仕様は、特にゲーム初心者に対する配慮、詰み防止といった「善意」に基づくものであり、わざとプレイヤーを馬鹿にしたくて導入しているわけでない。『FF16』を巡って開発者一同は度重ねて、特にFFシリーズファンには慣れないアクションを楽しんでもらう工夫を盛り込んだと豪語しており、「ポーション補充」もその一環だと容易に推定できる。

初心者に優しくする、という善意は決して間違ってない。それが仮にグローバルに数百万本を売る大作のマーケティング上の制約に基づく方針だったとしても、闇雲にトライ&エラーするだけのハードコアなゲームが正しいとは微塵も思わない。

しかし、ここに「初心者への配慮」という大作が陥りがちな問題がある。

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