見出し画像

Traveler with Finder 1. 三国・越前松島水族館

始まりはいつからか、僕は長い間「旅」と「カメラ」に憧れていた。いや、僕の一家は旅行好きでよく県内外に行っていたし、今やスマートフォンにカメラが付くのは当然の時代なのだから、そういう意味ではカメラもすでに持っていた。
しかし、僕が憧れていたのはそういうのではなく――一眼レフを首から下げ、肩から下げたバッグに旅行道具を詰め、一人でローカル線に乗り込む、そういうものだった。影響を受けたのは「キノの旅」か、「水曜どうでしょう」か、あるいは他の――まあ、いずれにせよ一人旅ではないのだが。とにかく、自由な旅を。この数年間、ずっとそんなことを考えていた気がする。どこか行きたい観光地があるというわけではなく、とにかく旅をしたいと。

そして――そのチャンスは意外と早く訪れた。家の押入れ奥深くから発掘された、Minoltaの骨董品レンズ、厳しい学生の財布状況でも購入できる中古の一眼レフボディとレンズ。かくして必要なものをすべてそろえた僕は、10月らしい涼しい朝、初めての一人旅に出かけた。

旅の始まり・ローカル鉄道「えちぜん鉄道」

画像1

地元福井県のローカル鉄道「えちぜん鉄道」が、ホームに入ってきた。白と青を基調にしたこの鉄道のデザインも、ずいぶんと見慣れたもの。だが、せいぜいが数駅程度の移動にしか使わなかったこれまでとは違い、今日はこの鉄道で計1時間以上移動することとなる。

今回の目的地は福井県の北部、三国の臨海部だ。まずは鉄道、バスを乗り継いで「越前松島水族館」へ。その後、かの有名――なのだろうか。少なくとも県は観光の目玉スポットとして売り出している「東尋坊」へ。そして最後には、「三国サンセットビーチ」へと向かう。
今回のメインは三国サンセットビーチの夕日だ。その名の通り、美しい日没が見れるこのビーチ。ここの夕日を一度カメラに収めておきたい。

かくして電車に乗り込み、空いている座席へ。相変わらず車内はスカスカで、座る場所はいくらでもある。まあ、このスカスカ具合がローカル線らしいといえばそうだ。静かで空いている電車で、窓から景色を眺めながらの旅――思ったより理想的だ。

画像2

ものの10分程度すると、外の景色は一面の田園となる。一度でも乗ったことがある人には共感してもらえると思うが、この電車で見るこの景色には、絶妙によいレトロ感を感じられる。古すぎず新しすぎずなえち鉄の車内からこういった景色を眺めると、無性にフィルムカメラが欲しくなってくるものだ。ローカル線の席で持ってきた文庫本を読み耽る。ふと顔を上げると、一面の田園風景――座っているのが僕でなければ、結構絵になっていそうだ。

そんなことを考えて30分ほど、乗り換え駅のあわら湯のまち駅に。温泉街として有名なあわらの街並みは、駅をでてすぐの場所から広がる。ここもまた探索したいが、今回の目的地はここではない。程なくしてやってきたバスに乗って、15分ほど――

画像3

松島水族館へ

ついた。第一の目的地、越前松島水族館だ。
半世紀以上の歴史を持つ、福井の数少ない――まあ、お世辞にも大きいとは言えない水族館だが、それでもこの田舎県で生まれ育った人間としては思い出のスポットである。

チケットを購入して館内に入ると、まずはじめにマンボウがお出迎えしてくれる。早速カメラの電源を入れ、シャッターを切る。
・・・・・・撮れない。周りが暗い上、水槽の中に、衝突対策なのか透明のビニールシートのようなものが貼ってあり、マンボウが映らない。仕方ないので、この写真は諦めた。
それにしても、この水族館にいる生き物の中でいえばマンボウはかなり大きい方なのだが、なんというか威厳がない。まあ、それがマンボウが愛されるゆえんといえばそうなのだが。

そうして建物を抜け外に出た。案の定というか、子連れの客が非常に多い。まあ、水族館なんて大抵は親子かカップルばかりで、僕のように一人で魚を見に来ているのは珍しいのだろう。
と、近くの道に人だかりができていた。水族館目玉イベントの一つ「ペンギンのおさんぽタイム」の始まりだ。

画像4

トコトコという擬音が似合う足取りで、フンボルトペンギンが群れをなして歩いてきた。正直、純粋にとても可愛い。近くで見ている子どもたちを邪魔しないよう、少し離れたところでレンズを望遠に差し替え狙う。

画像5

模様も毛並みも綺麗で、顔も結構可愛い感じだ。レンズを通してみると、ペンギンのイメージもちょっと変わって見える。

次に室内展示へ。ダイオウイカやリュウグウノツカイなどの巨大で基調な生き物が標本で展示されていたり、多種多様のクラゲが展示されていたりと、なんとも貴重なものが見れる。

画像6

こうしてみると、クラゲもなかなか面白い見た目をしていて撮りがいがある。周りが暗いのは難点ではあるが、それでもこの一枚はよく撮れた。フワフワと水を漂うクラゲを見ると、幾ばくか落ち着いていくのを感じる。

そして次にかわうそ館へ・・・・・・行ったはいいのだが。

画像7

全員、絶賛睡眠中だった。まあ、カワウソなんてそんなものだろう。前に行ったときはずいぶんとはしゃいでいる姿を見れたが、こればっかりは諦めるほかない。

そうして次に向かったのが、個人的にこの水族館の、隠れた最大の名所、ドクターフィッシュだ。
ドクターフィッシュ、人間が手足を水に入れると、その皮膚の角質を食べてくれる面白い魚だ。これを飼育している水族館はいくらかあるが、この水族館のドクターフィッシュはやたらと食いつきがいい。手ごと食われるのではないかと思えるほど、うじゃうじゃと固まって食べに来る。
さて、近くの手洗い場で手を洗い、さっそく手を水槽へ――

画像8

なんだか今日は食いつきが悪い。いや、これでもかなり食いついている方だとは思うのだが、いつもはこんなものではなく、もっとガブガブ来るものだが。
まあ、それでもこの感覚はなかなかクセになる。絶妙にくすぐったい感覚で、手に食いつく魚も見ていて癒やされる。やはりここは間違いなくよいスポットだ。

画像9

そして、ふれあい館。ここはなんというか、すごいところだ。その名の通り、この建物は海の生き物たちを触って触れ合おう、というものなのだが。問題は、その触れ合える魚というのが――

画像10

ナマコ、ネコザメ、アカエイ、そして巨大なミズダコまで。
まあ、もちろん触れる展示ということで、おとなしく危険がない生き物ではあるのだが。それにしても、触れる生き物がまた、なんともクセがある。ちなみに他のところでは、伊勢エビ、カニ、クエ、サザエにも触ることができる。なんとも変わったチョイスだ。

画像11

その後、アシカやペンギンの水槽をのんびりと見て回っていると、館内放送でアナウンスが入った。水族館のメインイベント、イルカショーだ。

この水族館、イルカショーのプールが広いとか、特殊なギミックがあるとか、そういったものはないのだが、代わりにイルカと観客席との距離が非常に近い。下手に前に座っていると、派手に水しぶきを食らうこととなる。カメラが濡れないよう、少し後ろに座り、レンズを中望遠に。館内にいたほぼ全ての人がショーに集まり、あっという間に座席は埋まっていった。

そしてショーの開始。飼育員さんの合図に合わせて、イルカが次々技を決めていく。

画像12

二匹のイルカのジャンプは大迫力だ。水しぶきを巻き上げながら、水面から勢いよく飛び出す。器用に鼻先でフープを集めて飼育員さんに渡したり、何度見てもその知能の高さには驚くものがある。

画像13

大ジャンプして、尾びれでボールをキック。いくつになっても、イルカのショーは見ていて楽しい。そして今回は、その勇姿をカメラに撮るという楽しみも。

画像14

シャッタースピードを限界まで短くして、水面を割って飛び出すその一瞬を写す。ただただ楽しかった。

さあ、次は――と思った矢先

画像15

そうしてペンギン、イルカ、魚達を堪能し、そろそろ次の目的地の東尋坊へ――と思って、バスの時刻を確認するところで問題は起きた。それは、あまりに突然なゲリラ豪雨の予報だった。

カメラは雨に濡れるとよくないし、そもそも最大の目的であるサンセットビーチの夕日は雨では撮れない。なのでしっかり天気予報を見ながら計画を立てたのだが――まさかの雨だ。

画像16

結局、日程が半分も行かないまま帰宅する羽目になってしまった・・・・・・まあ、変に粘ってカメラが壊れようものならたまったものではない。夕日はいつでも撮るチャンスがある。次またチャレンジしよう。

画像17

湯のまち駅近くにある足湯で休みながら、そう決意した。まあ、今思えば今回、初めての一人旅にしてはかなり予定を詰めていたので、むしろ水族館に行くだけとなってちょうどよかったのかもしれない。

・・・・・・なお、ゲリラ豪雨の予報は見事に外れ、日没時は快晴であったようだ。orz

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?