商業漫画家になる意味ってある?

 これから書くことは数字で考えた時に商業媒体で漫画を描くのと、作家個人で漫画を描くのがどっちが良いかという話なので、どちらかを貶めようというつもりはありません。「漫画家」って周りの人に胸を張って言えるのが大手出版社で漫画を描いていることだけだと思う人がいるならそれでいいと思うし、そのために商業媒体で漫画を描く人がどうだとかって言うつもりは僕にはありません。
 ちなみに、僕が商業媒体で描くのは「商業媒体に自分が読みたいと思える漫画がないから、俺が描いて、それを読んだやつが俺が描いた漫画みたいな漫画描いてくれねえかな!」という理由なので、特に「商業漫画を描くということ自体への矜持」はありません。その話は長くなるので割愛しますが、そういう人が書いている記事なのでそういう人じゃない人が読むとムカムカするかもしれません。
 また、近年「編集不要論」が散見されるようになったので、作家側である僕が、今まで語られてきた内容とは別の側面からアプローチした記事を書いてみたいと思いました。僕の主観も多いと思うので、考え方の一つとして読んでいただけたら幸いです。

目次

1.「漫画」はオワコン
2.出版社とやるか、個人でやるか
3.商業漫画は無報酬のコンペで作られる
4.商業漫画を描くなら社会現象レベルに売れないと赤字
5.商業媒体で描くのは、版権を売るということ
6.商業漫画家になる意味ってある?

1.「漫画」はオワコン

 保険はさておき、ネットが普及したことによって、出版社だけではなく作家個人が影響力を持つ時代になりました。同人イベントが一般にも周知され、ユーザーが作家から直接作品を購入することは珍しくありません。

 こういう状況下で、出版社の下で漫画を描くメリットとは何なのか?

 以前までは影響力があったといえる漫画雑誌も、youtubeやスマホゲームといった「他の娯楽」に押されていて、全盛期ほどの勢いはありません。漫画を描いている人は忘れがちですが、一般ユーザーからすれば漫画は「娯楽という分野の中の」「消費行動の一つ」でしかありません。一つの娯楽としてみた時、漫画は「動かない、音も出ない、モノクロ漫画に至っては白黒」というコンテンツです。もし僕がこの2018年に産まれた子供だったとして、成長して漫画を読んだり描いたりしようと思うかと聞かれたら正直微妙です。僕が1990年に産まれてオタクになったから漫画を描いているだけだと言われたら全く否定できません。たぶんその通りです。それぐらい「漫画という娯楽そのもの」に力がなくなっているのは紛れもない事実で、それは「漫画が面白くなくなった」のでも、「面白い漫画がない」のでもなく、「漫画より面白いものがたくさんでてきてしまった」からです。こどもが自由に使える携帯端末が家庭にあって、youtubeを無料で見ている時代です。紙の本しかなくて、漫画しか娯楽がない時代ではありません。「漫画が売れない」と言われていますが、僕はこれを当たり前のことだと思っています。漫画という娯楽を凄く好きな人達が1人10冊の漫画を買うよりも、趣味の一つとして漫画を選択している一般のユーザーが100人いて、1冊ずつ買う方が、経済というのは動きます。

2.出版社とやるか、個人でやるか

 商業漫画が一般のユーザーに趣味の一つとして定着して広く売れるようにするにはどうしたらいいのか……というのは出版社の人たちが頑張るお話なので、今回はひとまず置いておきます。

 「じゃあさっきのは何の前置きなんだよ」という話ですが、漫画が凄く好きな人達が作家個人から作品を購入する文化ができているのに、商業媒体で活動することの意味ってある?ということです。
 それで「【商業漫画家であること(何かの雑誌・アプリ等の商業媒体に掲載されること)】に意義を感じている人にはあんまり関係の無い話だよ」という冒頭を書くことになったのですけど、ここまで読んだ方で「俺は〇〇で連載するのが夢だからお前みたいなこと言うやつ嫌いだぜ!」って方にはこのあとの記述は全く役に立たない情報だと思うので、原稿作業に戻ってください!よろしくお願いします!読んでくださってありがとうございました!

 ここから本題です。

 コミックスの販売数って、プロと言われてる人たちでもピンキリです。大手出版社で連載しているものでも推定販売数(※発行部数ではない)が1000~3000部だったり、中には「人気ないから紙のコミックス出せなくて電子書籍だけだけどごめんね!」なんてことは当たり前に起きています。前述の通り、一般の人が漫画を買う習慣がなくなってきていることに加え、逆に漫画作画のデジタル化が普及したことによって漫画家を名乗る人たちは増えてきている(と僕は思っている)ため、業界は売れてない漫画家で飽和状態です。面白くないものが売れないのは仕方ないことなので、それは各作家さんが努力することですが。
 じゃあ首尾よく紙の単行本を出してもらえて、1000~3000部売れたからよかったね!じゃないというのが今回のテーマなんですが、

1000~3000部売れるんだったら、作家が個人で本を売った方がよくね?

と僕は思っています。というのも、これは漫画業界の制度に問題があります。ちなみに、「俺は天才だから今の漫画業界でも100万部売れる漫画描けるからどんなに苦労してもペイできるぜ!」って人は商業媒体で描いたほうが良いと思います。僕はそうじゃない人の話をします。

3.商業漫画は無報酬のコンペで作られる

 商業媒体で漫画を描くときにまず行われるのが、「漫画家と担当編集間」でのやり取りです。担当編集(※以下担当)のOKが出て初めて「連載会議」にかけられ、その可否が問われます。担当の一存で連載が始まる会社もあったりするので「会社による」としか言いようがないんですが、大まかな流れは以下の通りです。

①漫画家と担当でネーム(漫画の下書きより前に、コマ割りや台詞を決めたラフのようなもの)を推敲する
②編集部内で連載会議にかける
③連載が決まったら原稿を描く、連載が通らなかった場合はネームを直す・又は新しいネームを作る

 漫画家の方や漫画家志望の方は何も疑問に思ってない方が多いんですが、他業種で働かれてる方は違和感を感じるのではないでしょうか。

これ、一般的には「外注の無報酬コンペ」です。

これが、「一つの会社内で行われている、社員同士のやり取り」なら全く問題ありません。ネームが没になっても、漫画家に給与が発生しているならこれを咎めようとは思いません。社員同士で企画を持ち寄り、会議で採用される企画もあれば没になる企画もある……一般の企業ではよく見られる光景ですね。
 しかし、商業漫画家って出版社から本を出しているのでなんとなくそこに所属しているように見られますが、彼らは個人事業主です。専属契約を結び、原稿料が発生しない期間も出版社から契約料が支払われるケースもありますが、ほとんどの出版社ではそのような契約が有りません。

 これの何が恐ろしいのかというと、「没になったとき一銭も出ない」ということです。漫画って、掲載が決まった漫画の完成原稿分の原稿料しか支払われないんです。

 ネームの修正って、現状のように「出版社と漫画家の関係」が「企業と個人事業間での取引」である限り、デザインやイラストの業界で言えば完全にリテイクです。だから僕はリテイク料が発生してしかるべきだと思うんですが、漫画にはそれがない。
 これは「対等な取引ではない」と僕は考えます。前提として漫画家側の「出版社に漫画を載せていただく」、出版社側の「漫画を載せてやる」というような精神性による上下関係がなければそもそも成立しないはずの取引で、「原稿料・リテイク料等の対価を【払って(貰って)】クリエイターに技術を【提供してもらう(提供する)】」のが「対等な取引」です。
 こうしてネットが普及するまで漫画家個人には作品を世に出す術がありませんでした。「漫画を載せていただく(作品を世に出す場所を提供して貰う)」「漫画を載せてやる」という従来の関係性は、漫画業界の仕組みができた当初、間違っていなかったかもしれません。しかし、前述の通り作家個人がユーザーへ直接作品を提供できる時代に変化しました。そういった漫画家に対し、慣習を理由に今までの取引形態を続けるのは「時代遅れ」以外の何物でもありません。

 それどころか、連載の企画ともなれば数か月から、時には年単位で準備が行われるのですが、その連載の話がなくなった時、準備に要した期間に対する拘束料もありません。その上、「漫画は漫画家と編集で作るものだから、没になっても他社にネームをもっていかないで」なんていう編集もいます。(ネームの著作権は漫画家にあって勿論担当にその権利はないので、何か担当に恩があって義理立てする必要がある以外は無視して別の編集にマルチ投稿していいと思います。僕はしています。)
 「え?会議が通ったなら連載っていつかは始まるものじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、一度会議を通った企画が編集長の方針が変わったり、人事異動で編集長自体が変わったりして「連載がなかったことになる」なんて話は珍しくありません。連載が決まったために他の仕事をやめたり、他の漫画家のアシスタントをしている人なら、その先生に「連載ができそうなので」とお断りを入れてアシスタントの予定を減らしてもらい、そうして既にペン入れなどの原稿作業をしている作家の生活を「編集長変わって連載なくなったわ!ごめんね!」の一言でめちゃくちゃにしても、作家は出版社を咎められないわけです。「連載させてあげるね、何らかの事情でできなくなった場合は連載準備のために損失した金額分は保証するからね」みたいな約束一つもされていないので、漫画家はただ泣き寝入りするしかありません。
 僕も3ヵ月ぐらいかけた「小説のコミカライズ案件」があったのですが、「連載枠がなくなることはない」との担当編集のGOサインで12話分のプロットとネームを用意したところで編集長から急に「1から作り直して」と言われ、「じゃあこの無駄にした3か月間は誰が保証してくれるんだ?」と感じ、現状の出版社と漫画家の関係に疑問を持ちました。僕は当時生活の当てがあったので3か月のうちの漫画に費やした時間が無駄になったからって生活できなくなったわけじゃないんですが、「一銭も出ないコンペに付き合ってやる意味ってあんのか?」と純粋に思ったわけです。特に、小説のコミカライズなどのいわゆる「版権物」に関しては、原作の著作権が原作者にあるので「どこかの会社で没になったから別の会社に持ち込む」ということができません。この案件に費やした時間や労力が一切の無駄になってしまいます。

 僕は今、ありがたいことに連載を控えているのですが、現在進行中の作品はもともと全200ページ程を想定して趣味で描いていた漫画の前編部分(約100ページ程)を今の担当編集に目にとめてもらったのが2018年の4月で、既に100ページできていたものだったので「じゃあ今年の冬頃に」と推敲を始め、実際に連載が開始するのは来年、2019年の4月。その作品を商業漫画として再度世に出すまでに1年かかりました。でも、僕はそれ自体には何も不満を持っていません。
 良いものを作るために時間がかかることはあります。でも、だからといって「2018年の4月から2019年の4月の1年間が無駄になってもいい」わけじゃありません。僕はこの間、たくさんの人に支えて貰って……と言えば聞こえがいいですが、ようは迷惑をかけています。漫画に割いた、働けたはずの時間を、出版社は保証してくれません。既に3話分の完成原稿が手元にある今だってわからない。これって、win-winの取引なんでしょうか?

 僕はこれを、「やりがい搾取」だと思います。

やりがい搾取
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
やりがい搾取(やりがいさくしゅ)とは、経営者が金銭による報酬の代わりに労働者に「やりがい」を強く意識させることにより、その労働力を不当に安く利用する行為をいう。東京大学教授で教育社会学者の本田由紀により名付けられた。

具体的なお金の話はこの後の項で書きますが、現状、商業媒体で漫画を描くことは基本的に「出版社からお金をもらって漫画を描いているプロ」という立派な肩書が貰えることぐらいしか良いことはありません。嫌味とかではなくて、その肩書自体は本当に立派なことだと僕は思います。そのための努力や労力が、その肩書にはあります。
 ただ、その立派な肩書は、「漫画を描いている本人」以外には1円の価値もありません。「売れない漫画家だったらタダで食べれるご飯屋さん」とかありません。(あったら行きたいので教えてください。)その肩書のために「本来ならリテイク料が発生するべきであるネーム直し」や、「確約されていない連載の準備で起きる損失」を、「漫画家が無かったことにする(無報酬であることを容認する)」ことが「やりがい搾取」以外の何なんでしょうか?僕には他に思いつきません。

 漫画家を志してる人の中には社会人経験が一度もない人もいます。一度でも社会人として会社に勤めたことのある人ならこの関係の異常性を感じると思うし、もちろん会社員である出版社側の人間はわかっててやっています。漫画家にタダ働きさせる傍ら、外部の企業に何かを外注するときはちゃんと正当な手順で「お取引」してるんです。
 だからこれを読んで「何を今さら、当たり前のことを」と思う人が多い……というか関係者に近い人ほどそう思うと僕は考えてるんですけど、「そうと知らない人に誰も教えてあげない」のも気持ち悪い業界だなと思います。

 各出版社にこの「漫画家との関係」を改めようという自浄作用があるとは思えないので、今後も「無報酬コンペで金になりそうなやつだけ使う搾取型取引」にポジティブな進展はないでしょう。その結果「商業媒体で漫画を描こう」と思う人が減ろうが僕は知ったこっちゃありませんので、僕は僕のためになるほうを適宜選んでいこうと思います。

4.商業漫画を描くなら社会現象レベルに売れないと赤字

 で、この現状の出版社と漫画家との関係(ネームにリテイク料が発生しない、連載が白紙になった時の担保がないといった一方的な搾取)を「面白い漫画じゃないから没になったんなら仕方ないんじゃないの?」で終わらせてしまうなら、「じゃあそもそも個人で印刷して売った方が良くね?」と思うわけです。
 実際のところ、本当に面白くない漫画しか描けない人だったらそもそも連載会議にかけてもらえるようなところまでいかず、フェードアウトしていってしまう。出版社とやるか、個人でやるか、で悩めるような人はそこそこ実力があるから、個人でやっていったらイケるんだろうか?と考える。もちろん、「まだそこに辿り着いてはいないけど、将来的に漫画で生活していこう」という人も、「ネットが普及したこのご時世だったら自分一人でやったほうがいいんじゃないか?」という考えを持つのがごく当たり前な時代になりました。

 現在は作家一人で漫画を描いて、印刷所に印刷をお願いし、イベントでの対面販売や書店委託までの全てを行えます。これを一般的には、「完全オリジナルの一次創作漫画(商業雑誌に掲載されているような漫画と同じ、作者に全著作権がある漫画)」「既存の漫画やアニメやゲームを基に描いた二次創作漫画」を問わず、同人活動と呼びます。
 同人活動に詳しくない人には「コミックマーケット(通称コミケ)」などの同人イベントのことを「アニメキャラクターのエッチな、偽物の漫画を売っている場所」と認識されがちですが、コミケに限らず多くの同人イベントで「完全オリジナルの一次創作漫画」も頒布されています。「商業媒体で活躍する漫画家に匹敵する技術を持つ人」や、今回のテーマとなっている「意図的に同人で漫画を描いて生活をしている人」も多く見られ、自主制作漫画誌即売会である「コミティア」には、各出版社が「出張編集部」と呼ばれる即席の編集部を設け、漫画家の持ち込みを募っています。冒頭で書いた「漫画が凄く好きな人達」はこれらのイベントや、「とらのあな」をはじめとする同人ショップの店舗や通販で、漫画を買って読んでいます。
 少し同人知識がある方は「壁サー」という言葉を御存じだと思います。簡単に言うと、「イベント会場の壁側に配置されているサークル(壁サークル)」のことで、そのサークルの作品を購入したい参加者の列が長蛇になってしまうため、会場の広いスペースや、場合によってはイベント会場の外に列を流すためにシャッターの前などに配置されているサークルのことです。
 こういったサークルは、コミケの1日で3000~5000部頒布したりします。会場に5000部搬入しているようなサークルは同人ショップと呼ばれる各書店でも委託販売しているので、「コミケ発行」の総部数が1万部以上のサークルもあるかもしれません。そういう影響力を持ったサークル主は、商業媒体でも活躍していたりしますが、今回はそういった「壁サーの人」の話ではありません。1度の発行で、委託販売分を合わせて300~1000部前後の印刷をする人(コミケなどのイベント会場で150~500部程度を頒布する人)の場合です。

 というのも、僕がそうだからです。だから僕を例にして話を進めます。

 ちなみに、同人サークルでこれぐらいの数字だと、「全然売れない人ではないけど凄い人でもない普通の人」です。オリジナルだと「ちょっと頑張ったね」ぐらいで、二次創作だと元ネタのジャンルにもよりますが「稼ぐ気ならもっと頑張れよな」ぐらいの人です。僕は二次創作で稼ぐつもりはなかったので、趣味でよくわからないニッチな漫画を描いてました。
 二次創作を認めているコンテンツもありますが、そうでない場合はあんまり儲けてもいけないので、たくさん売れてしまう作家さんはノベルティを無料で配布したりして利益を調整します。

同人の場合

 僕が個人で漫画を描いて、仮に(仮にですよ!)500部印刷するとします。同人誌にも相場というものがあって、値付けは個人の自由なので相場に沿わないからと言ってどうということはないのですが、30ページ前後の本だとだいたい500円です。商業漫画の新人賞などでよく見られる規定が32ページの読み切りですが、同人印刷の場合は表紙をつけるので、「表表紙、表表紙の裏、裏表紙の裏、裏表紙」の4ページを追加して、36ページの同人誌になります。(本当は奥付を書いたり口絵を付けたりするので38ぐらいかもしれないですが、あとで漫画原稿部分の原稿料を計算するので36にしておきます。)
 同人誌の場合は、もちろん原稿料がありません。なので、同人誌の売り上げだけが利益になります。36ページの同人誌を500部刷った場合、僕がよくお世話になっている印刷所で印刷すると、ちゃんと計画的に原稿を完成させて早く入稿することで割引してもらえる「早割」を使えば(商業で連載することを前提に計算するなら、納期は守れると思うので)、印刷代は約50000円です。一冊あたり100円ですね。単純に考えるなら、400円の利益×500部になるので、個人で32ページの漫画を描いたときの利益は20万円です。イベントの参加費用(スペース代や、地方に住んでいる場合は移動費など)がかかるので、手取り20万円になるということはないのですが、フリーターの年収は200万円以下(月収16万円前後?)と言われています。若くて実家に住んでたり、扶養する家族がいない作家さんだとこれぐらいで十分だと思う人もいるかもしれないですね。

商業の場合

 対して商業の場合ですが、晴れて掲載となれば原稿1枚あたりの原稿料が発生します。「僕はどこだといくらを提示されてる」とかを言うのはちょっとアレなので(僕はいいんですけど、関係者の人になんか言われそうなので)今回は勝手ながら、同じnoteで記事を書かれている佐藤秀峰先生の記事を参考にします。

 こちらの記事には、「以前は雑誌連載の場合、新人の原稿料は7000円くらいが最低でしたが、今は5000~6000円くらいになっているというのが肌感覚です。」とあります。この場合の「新人の原稿料」というのは「新人作家の読み切り漫画が掲載されたとき」のことで、流石に連載作家に支払われる原稿料ではない思うのですが、僕がそもそも商業漫画を描くことになったきっかけが連載を前提としたものだったので、最初からこれよりも少し高めの原稿料でした。

 ここは余談なので読まなくても良いのですが、僕は日本で漫画の作画レベルが一番高いのはエロ漫画雑誌だと勝手に思っています。読んだことのある人はご存知だと思うのですが、高い技術を用いてかなりの密度で作画されています。漫画表現に興味があり、性描写に対しての嫌悪感が無ければ、読むのを積極的にお勧めしたいぐらいです。
 原稿料は一般漫画雑誌の新人漫画家と同じ7000円前後。友人の中には商業エロ漫画雑誌で描くために、元手のかからない電子書籍でエロ同人を売って生活費を工面している作家もいます。彼らは高い作画技術を持っているため、自身の意志で、または一般漫画雑誌の編集に引き抜かれ、エロ漫画から一般漫画に転向することもあります。できればエロ漫画業界でも技術料に見合った原稿料が支払えるビジネスモデルができたらいいなと感じます。

 話を戻します。
 今回は「連載ができるか?どうか?レベルの、新人に毛が生えた人」の話をしているので、新人よりは少し高めの設定で8000円とします。実際にはアシスタントを導入したりするので8000円という原稿料の設定は少し厳しいのですが、「一人で描いた同人誌」と原稿に掛かったコスト(労力・費用とも)の条件を同じにするならアシスタント無しで1枚8000円で描いた32Pの漫画でも良いと思います。原稿料は25万6000円になります。

あれ?やっぱり商業連載の方がよくない?

 この例では、同人誌の売り上げは20万円、商業掲載の場合は25万6000円になりました。「なんだ!やっぱり商業の方が良いじゃん!」と思いますか?

 ここで、前半の話が関係してきます。

 「3.商業漫画は無報酬のコンペで作られる」の通り、商業連載には担当編集との間で行われる推敲の際に、リテイクが発生します。もちろん、リテイク料はありません。
 ちなみに、来年4月から始まる僕の連載の1話目に関していえば、2018年4月から6月の間に6回の修正があります。「根本的な設定を変更し、何ページも書き換えたもの」もあれば、「リテイク料を要求するには心苦しいような、台詞だけを変更したもの」まで大小さまざまです。
 この場合の損失を計算するにあたって、「ネームの修正に関する適切なリテイク料」を定めていないため「何円の損失だ」とはっきり言えませんが、個人で活動していたなら「リテイクをやっている時間に他のことができた」わけです。だから、同人活動との差別化のために、出版社はリテイク料ないし拘束料を支払うべきだと僕は考えます。

 加えて、完成原稿が必ずしも掲載される保証がありません。連載企画と言わず、読み切りでも構いません。むしろ新人の読み切りほど、「原稿完成したんだね。預かっておくから、掲載されたら原稿料渡すね。」みたいなことが往々にしてあります。紙の雑誌の場合はページ数に制限があるので読み切り枠があったりなかったり、代原(代理原稿の略)の場合は代原の原因となる先生がちゃんと締め切りに間に合っていれば(その方が良いんですけど……)一生日の目を見ません。商業漫画には、32ページの漫画を制作した1か月分、連載企画となれば数か月から年単位の損失に対し、一切の保証がありません。

 これは、「家に籠って1か月かけてだらだら32ページ描いた同人作家が500部ぽっち刷った20万円の原稿」と、「25万6000円だが、リテイク料も拘束料も支払われず、出版社側の自己都合で一銭にもならないかもしれない大きなリスクを背負った原稿」なんです。

でも、売れたら印税があるんじゃないの?

 ここまで「連載がポシャったら一銭にもならんやで」の話をしました。ここからは「首尾よく連載が始まって、紙媒体のコミックスが出た場合の印税の話」をします。
 もともと、漫画の原稿料は「コミックスの印税で採算をとるしかない」と言われているほど安いものなのですが、最近は「連載作品でも紙のコミックスを出してもらえない」ことが少なくありません。1巻目は紙のコミックスも売ってたけど、2巻目からは電子書籍だけ……という作品を見たことのある人もいるのではないでしょうか?

 印税は、実売部数ではなく印刷部数で計算されます。「新人でも初版は1万部」と言われていた時代もありましたが、今は5000部、またはそれ以下のこともあります。1巻目が出て5000部中の3000部も売れなければ、恐らく2巻目以降は絶望的とみなされます。待っているのは、打ち切りです。
 逆に言えば出版社も慈善事業ではないので、編集部は3000ないし5000部以上売れるだろうという見込みがある作品を連載します。連載を獲得できる時点で、3000人前後の「金を落とすファン」を獲得できる作品である・獲得させたいと編集から認識されていると考えてもよいと思います。それが、出版社による広報があって初めて3000部以上の売り上げになる、個人で300部~1000部程度の同人誌を発行している作家だと僕は考えます。

 例えば、個人で2000部前後発行している作家は商業媒体で漫画を描くメリットが全くありません(と僕は思います)。ここまで描いた通り、商業漫画の原稿にはリテイク料が発生せず、企画自体が無くなる場合もあります。また、同人印刷で36ページ(本文32ページ)の漫画を2000部発行した場合の費用は13万円ぐらいですが、500円の同人誌を2000部頒布した場合の売り上げは100万円です。32ページの漫画の原稿料が87万円だと言っても過言ではないでしょう。
 更に、この原稿は編集者による注文や修正という作家にとっての無駄なコスト(本来ならリテイク料や拘束料で補うべきコスト)がないものです。例え担当との推敲でより良いものになったとしても、既に2000人のファンが作家の一存で描いたものをよしとして購入しているため、商業媒体での連載となれば作家は出版社に対して出版社が想像している以上の経済効果を求めます。そして、その力(編集力・広報力)が現在の商業漫画業界にあるとは感じていません。

 これに対して出版社側のアンサーとなるはずなのが、印税です。
 初版が5000部だとします。単行本1冊のページ数中、本文は190前後だと思うので、1話を32ページとしたので6話で1巻分、1年で2巻を発行できることにします。
 コミックスによって価格が違い、まことしやかに囁かれている「10%」という税率もその限りではないのですが、計算しやすいので「印税率が10%の、500円の単行本」ということにします。つまり、1冊印刷されたときの印税は50円。5000部刷ったら25万円です。

・原稿料の単価が8000円の作家が32ページ描いてひと月に貰える原稿料約26万円×12ヵ月で312万円で、単行本が2冊出て、5000部ずつ刷ってもらえたら、印税は50万円=トータル362万円

・2000部売上げる同人作家が同じように12ヵ月毎月1冊同人誌を描いた場合、1年で得られる利益は87万×12ヵ月で1044万円(同人で1年に12本描く作家はあんまりいないですけど、同じことをしたらという条件なので)

現実的に考えたら夏コミと冬コミで新刊2冊ずつ、計4冊でも348万円です。何もイベントはコミケだけじゃないので、気が乗ったらもう1冊描いたりしてもいい。専業同人の人はもう少し頑張ってると思いますが、編集にしごかれながら売れるかどうかもわからない漫画を毎月締め切りに終われて描くよりは精神的にも肉体的にもゆとりがあると思います。

 これ、同人でそこそこ売れてる人からすると多分当たり前のことなので、「壁サーみたいな漫画上手い人って持ち込み来ないけど、何で?」と思ってるのは出版社側だけです。売ってくれるかもわからない漫画描く意味ないからです。売ってくれるかもわからないのに、売ってくれなかった時の保証もないからです。10万部売れたら「結構売れてる!」ってザワザワしちゃうぐらい、そうじゃない漫画家のコミックスが売れてないのに、自分の漫画が売れると確信して「商業媒体に乗り込んでやろうじゃないか」ってやつはそもそも同人なんかやってない。

 つまり、同人作家が個人で2000部売って生活できる時代に「リテイク料なし、掲載白紙になったときの担保なし」なんて闇取引を相変わらずやってる時点で、ビジネスモデルとして破綻しています。泥船です。
 だから、僕たち累計発行部数が300~1000の同人作家は「もう少し頑張って専業同人で食えるようになろうか」「商業作家で頑張ってみようか」を迷うわけです。

5.商業媒体で描くのは、版権を売るということ

 ここまでは一次創作、二次創作問わず「漫画で生活したい人」について書きました。ここからはオリジナル作品のみに焦点を当てたいと思います。
 コミティアのカタログ「ティアズマガジン」に載っている「販売冊数別サークル数」によれば、アンケートに回答した1145サークル中、COMITIA124で1000部以上頒布したサークルは2つ、500~999部は12サークルだったようです。僕が「もうちょっと頑張ればコレで食っていけなくはないよね」とした「会場での150部以上の頒布」を、200以上のサークルが行っていることになります。この中には「プロの人」「プロを目指している人」「プロになるか迷ってる人」「意図的にプロにならない人」「プロになるつもりがない人」など、様々な人がいます。

 近年、既に個人でヒットすることに成功した作品・作家を商業媒体で起用する傾向があります。場合によっては、全く修正せずに単行本化することもあります。

 僕は、これを「割と良いな」と思ってます。

 従来までの「編集による会議後、連載に臨む」方式だと、仮に編集部の他の全員が自分の作品に好意的であっても、自分の担当編集の一存で、会議にかけられることなく没になったりしたわけです。ぶっちゃけ、自分の担当が自分の漫画を好きじゃないことなんてザラにあって(持ち込んだ時に担当した編集がそのまま付いたりするので)、僕は「編集部内で絵柄が好評だったんで賞あげた手前連載させないといけないんですよね」と編集の口から直接言われたこともあります。(そいつは着拒してますけど……。)
 こういった俗に言う「担当ガチャ」問題に関しては、僕も利用した「DAYSNEO」が解決していると思います。漫画家と編集のマッチングサイトで、編集が気になる作家にコンタクトをとる形式なので、僕がDAYSNEOを利用する前に他社で起きた「持ち込んだ作家の漫画全然気に入らないんだけど決まりだから賞に出してやったら編集部内が気に入ってて俺が担当する羽目になった」みたいなことは起きないと思います。

 それはそれとして、既にSNSで話題になっている漫画を商業媒体で連載するというのは、一見「編集が仕事をしていない」ように見えて、意外とwin-winの関係なのではないか?と思います。上述してきたような、「発生するべきはずのリテイク料」や「掲載されないリスク」による損失が少なくなっています。

 しかし商業媒体で連載するということは「出版権(以下、版権)を出版社等に売る」ということです。著作権は著作者本人である漫画家に残りますが、版権を渡してしまうと同名の漫画を個人的に頒布したりすることができなくなります。人気作品でグッズ展開も予定されているなら、グッズを個人的に作ることは「競合する」とされて禁じられるでしょう。今後は、公式で販売されるグッズの収益の一部だけを著作者として受け取ることになります。今まで個人で活動していて、そこそこ人気があり、作品そのものへのファンもいる状況で「版権を出版社等に売る」という選択は自分にとって本当にメリットなのか、影響力のある作家ほど考えなくてはならない問題だと思います。商業展開することで爆発的に印刷部数が増えるのであれば、印税等によってこれまでとは比べ物にならない利益になると思いますが、前述した通り、商業展開の印刷部数が数千部だった場合は、個人でユーザーに提供したほうが良い場合があります。
 また、出版社の方針や、配信媒体がアプリの場合ならアップルやグーグルの規約・レギュレーションによって、漫画の内容や設定を変更せざるを得ない場合があります。漫画の場合、明らかになっていなかった設定が、該当する関係会社の方針に反するものであっても、それを知らない編集が声をかけてしまい、商業化にあたり変更することになる可能性もあります。何か思想やこだわりがあって漫画を描いている人は、注意しなければなりません。

 ただ、こういった問題については昨今、出版社側が寛容になりつつあります。商業媒体で連載している作品の、作家本人による番外編の制作や二次創作、その販売を認めているケースもあります。
 自分の作品をどうしたいのか(売れればいいのか、自分がやりたいことを曲げたくないのか)ちゃんと把握して、そのために自分がするべきことは版権を譲ることなのか、版権を手元に置くことなのか、二次創作の可否を交渉することで解決する問題なのかどうか、考えることが重要だと思います。

6.商業漫画家になる意味ってある?

 で、結局どうなの?って話なんですけど、「めちゃくちゃ売れたい」とか「めちゃくちゃ売れる自信がある」ならその方がいいんじゃないかなって僕は思います。ただ、漫画を描きたいだけだったら商業漫画じゃなくても生活できるし、好きなものを好きなように描けてリスクが少ないのは個人での活動だと思います。出版社で描いても出版社に守られないっていうのも不思議な話なんですが、現状はそうであるとしか言えません。
 どちらかといえば、今まで商業媒体ではめちゃくちゃ売れないと漫画家として生活できなかったけど、ネットや流通の発達で「個人で活動するという選択肢が増えた」という印象です。あんまり売れてない漫画家が漫画を描くのを辞めなくて済むようになったって感じでしょうか。

 僕がこの記事を書いたきっかけは、自分の漫画のアシスタント募集でした。アシスタントをしている友達の話を聞いてて、「先生から(描いた背景の)OKが出るかどうか怖い」って言ってるのが、僕がずっと「何でネームにリテイク料がないんだ」って考えてたのと同じように感じたからです。

 この業界って、これが常態化してるんだなって。立場を使って一方的に搾取する、「やりがい搾取」が常態化している。

 僕からしてみたら、「背景を描いていただく」って感覚なんですけど、昔ながらの方法で漫画を描いてる人たちって「うちの現場で学ばせてあげてる、描かせてあげてる」のスタンスで、アシスタントの人たちも「学ばせてもらってる(やりがい)」と思ってる。実際、学ぶこともあると思う。この記事の最初に書いたことにも通じるんですが、お互いがそれでいいと思ってるんだったらそれでいいと思うんです。
 でも、時代が変わったら価値観も働き方も変わる。僕の価値観だと今までのやり方になんとなく共感できなくて、僕が誰かに背景を描いてもらうなら、どうしても描き直してほしかったらリテイク料を出そうって考えてたんです。それに合わせて、商業漫画を描いてみようかなと思ってからのこの2年間で、商業媒体に対して考えていたことや感じていたことをまとめました。

 これでもし連載がなくなったりしてもいいやと思うし、っていうか、こういうことを書かれてマズいと思うなら改善するべきだ。僕は特に失うものがないので、今後も変だな~と思うことは書きます。

 思ったより長くなっちゃった。アシスタントの件も是非よろしくお願いします!じゃあね。

おまけ(3月28日追加)


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Junichi Kubotani

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私はプログラマーで畑違いですが、興味深く読ませていただきました。

ソフトウェア開発とかで、大企業が無報酬のコンペをやった場合、「下請法」という法律に抵触し、不祥事として報道されるリスクがあります。

出版業界にもそういう法律ってないのかな?と疑問に思いました。
@gridさん
ありがとうございます!漫画に限らずクリエイター界隈あるあるなのかもしれないですが、「慣例に従わないと使ってもらえない」から仕方ないと思っている作家も多いかもしれませんね。

@せぎゅさん
ありがとうございます!note、他業種の方のお話を見られるのが楽しいです。
確かに、何かに抵触するとしたら下請法ですね!詳しく判例を調べたことはないのですが、おそらく漫画の場合はボツになっても汎用性がある(他社に流用できる財産?である)と判断されてしまうために下請法で訴えづらいのかもしれません。ただ、どこかでボツになった作品が別の会社でそのまま採用されることはほどんどないので(出版社ごとに方針があるので)法が改正されるか出版社側が何か対策をしない限りは作家に不利な取引ですね……。
下請法は汎用性の有無が重要なのですね。なるほどなるほど。
小説家にも同じ事が当てはまるかもしれないですね。
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