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過ぎたるは及ばざるがごとし

 学生の頃、ワンダーフォーゲル部に入って少し山登りなどしていました。入部してはじめての夏、テント泊で行ったのは奈良の大峰山脈。そのときはじめて、一週間入浴しないで過ごすという経験をしました。帰りの電車で、汗臭い集団に眉をひそめられないかと心配になるほどでした。
 そのとき思ったのは、人間って一週間風呂に入らなくても、案外大丈夫なんだな、ということでした。昨今は毎日入浴するのが普通ですが、これは人類史上ごく近年になって習慣化したことです。おかげで清潔感が保たれ、感染症が防げるようになりました。一方で、別の問題に悩まされるようになっています。それが、肌の乾燥です。

 人間の皮膚は表皮細胞の上に何層もの角質層が重なって構成され、全身を覆っています。肌の水分は、角質層の下の表皮細胞から供給されます。角質層の上にいくほど水分量は少なくなり、最後ははがれて垢となります。
 外気にさらされている角質層は常に乾燥の危険がありますが、それを防いでいるのが皮脂と呼ばれる油分です。皮脂は皮膚の皮脂腺から分泌されますが、頭や顔面、胸部や肩甲骨の間に多く、脛には少なく、手のひらと足の裏にはない、というもの。その分泌量はホルモンの影響を受けるため、思春期には多くなり、加齢によって減少していきます。また、個人差も大きいものです。

 界面活性剤の入った洗浄剤を使うことで、この皮脂による汚れはきれいに落とせます。しかし、過ぎたるは及ばざるがごとし。洗いすぎることで、皮膚を覆っていた必要な油分が失われると外気にさらされて乾燥し、刺激に敏感になるためにかゆくなり、湿疹、肌荒れになるという悪循環に陥ります。これを防ぐために、油分の入った保湿クリームを塗るわけですが、もう一つ、肌の乾燥を防ぐ方法があります。それは、洗い過ぎをやめて、自分にとって適切な頻度を見極めることです。

 皮脂の分泌量は年齢を重ねるごとに減っていきます。それなのに、若い頃と同じ洗浄剤で、同じ頻度でゴシゴシ洗っていたのでは、肌が乾燥するのも無理はありません。クリームを塗って保湿するものも大事ですが、皮膚を覆う皮脂こそ、自分の体に1番よくあう保湿剤です。汗をかかない時期は1日おきにする、毎日入浴するが洗浄剤を使うのは1日おきにする、など、一人ひとりにあった頻度で洗うことが、最良のスキンケアにつながるのではないでしょうか。

 そして、ときには1日、肌になにもつけないで過ごすこともよいスキンケアになります。それが皮膚本来の機能を回復させることにつながるからです。過ぎたるは及ばざるがごとし、とならないためにも、なにもつけないで快適でいられる時間を大切にしたいものです。

(参考:「東海大学ライフサイエンスシリーズ スキンケアのすすめ」小澤明著)

https://www.creema.jp/item/7049318/detail

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