シャオミのミニドローンを分解する

概要

スマートフォンを中心としたガジェットを製造・販売している中国の小米(シャオミ)が2018年4月26日に発売したミニドローン「米兔遥控小飞机」を入手したので,分解し搭載部品を調査しました.なお,今回分解したミニドローンは5月2日に広東省深圳市の小米旗艦店で入手したものです.

筆者の過去のアクションカムやスマホ等のガジェットの分解記事はこちらにまとめてあります.あわせてご覧ください.

外箱

まずは外箱からです.125mm角程度の非常に小さい箱に全てが収まっています.商品名に「米兔(小米のキャラクターのウサギ)」とあることや,ポップな外装,399元(約6800円)という価格から考えると,本格的ガジェットというよりはおもちゃとして売り込んでいきたいのではないかという印象を受けました.

箱の底面には仕様が簡単に記載されています(シリアルナンバーにはモザイクをかけてあります).製造は小米グループのドローン関連製品を担当している北京飞米科技有限公司のようです.また,目を引く点としてはWi-Fiに関する記述が"IEEE 802.11a 5GHz"となっている点が挙げられます.普及率の高い2.4GHz帯のWi-Fiではなく5GHz帯のWi-Fiを利用しているのは,混信を嫌ってなのか,あるいは動画を送信する上での帯域を考えてなのか,何かしら意図がありそうです.

余談ですが,中国の5GHz帯のWi-Fiへのチャンネル割り当てはWikipediaの各国の無線LANチャンネル一覧の記事を見るにかなり独特で,W56と呼ばれる100Ch-140Chのあたりがほとんど使用できません.一方,日本ではW56は5GHz帯のWi-Fiにおいて唯一屋外使用が許可されてる周波数帯だったりします.このように各国で使用可能な周波数帯が異なるために,複数の国に持ち込まれる可能性のあるスマートフォン等の端末では,携帯電話回線の情報等を利用して,滞在中の地域で使用されているチャンネルだけをスキャンするようにする機構が搭載されているようです.

さて,話をミニドローンに戻します.上の写真の仕様の欄にはCMIIT ID(中国における無線機器の型式認可番号)も記載されていました.各国の型式認可番号で検索できるデータベースであるFCCID.ioでこの番号を検索すると,5GHz帯は5725-5850MHzに対して認可が下りているようでした.この周波数は無線LANのチャンネルに直すと149Chから165Chに対応しています.この周波数帯は日本では使用不可,EUでは近距離通信用途限定で出力が制限されています.一方で北米や中国,シンガポールでは特に制約なく使える周波数帯であり,レーダー機器に干渉しないように動的に使用するチャンネルを切り替える機構(DFS:Dynamic Frequency Selection)の実装が要求されないという特徴があります.通信が切れたからといってすぐにドローンが墜落するというわけではありませんが,操縦不能になっては困るという特性を鑑みてこの周波数帯を使うような設計としたのかもしれません.

開封

さて,外箱を開くとこのようにプロペラとプロペラガード,バッテリーが取り外された状態でミニドローンが入っていました.中央の四角いくぼみにバッテリーがはまるようになっています.

ドローン本体とその下の厚紙を外すと,プロペラ等のアクセサリーが現れます.右側のオレンジ色のものがバッテリーです.

バッテリーは920mAhのリチウムイオンポリマーバッテリーでした.サイズ感としてはアクションカムのバッテリーと大差ない印象ですが,写真左上に見える黒い端子部はアクションカムでよく見かける端子部に比べるとピッチが狭くなっていました.

バッテリーを本体に取り付けると上の写真のようになります.また,モーターの上部にオレンジ色のマーキングがしてあるのが分かると思いますが,プロペラにも同じようにオレンジ色のマーキングがしてあり,オレンジ色のマーキングのあるもの同士,マーキングのないもの同士を組み合わせて取り付けるようになっています.

一般的に4個のモーターを使うドローン(クアッドコプター)ではプロペラの回転で生じる反作用を相殺するため,時計回りに回転するモーター2個と反時計回りに回転するモーター2個を組み合わせます.このようにモーターの回転方向が異なるため,プロペラもそれぞれにあったものを使う必要があります.

プロペラまで組み上がった状態で売るのであれば,この部分の考慮はあまり必要ないかもしれませんが,(とはいえ,プロペラ破損時の交換を考えると重要なポイントではあります.)このミニドローンのようにユーザーが組み立てる前提の機体では必要な工夫といえるでしょう.

プロペラとプロペラガードを取り付けると上の写真のようになります.500mLのペットボトルよりも少し小さいくらいの大きさです.

飛ばしてみる

ちょっと見にくいですが,ホテルの部屋で実際に飛ばしてみました.少し流されることもありますが,特に操作していなければある程度きちんとホバリングしていました.ただ,ドローン全般に言えることだとは思いますが,騒音は凄まじいものでした.

底面の観察

ミニドローンの底面は上の写真のようになっています.機体中心部に見える網目状の円形の物体は地面との距離を計測するための超音波センサです.超音波の送信用と受信用で別々の素子を搭載するセンサも多く見かけますが,送受信一体型のセンサを採用して小型化を実現しているようです.また,中心部から放射状に伸びる通気穴の間にある4つの丸穴のうち,左右の2つはオレンジ色と青色のLEDによるインジケーターとなっていて,充電ステータス等の表示に使われています.上下の2つはそれぞれただの飾りかと思っていたのですが,説明書を読んでみると下側の丸穴の場所にはオプティカルフローセンサが搭載されているようでした.

オプティカルフローは画像中に映っている物体がどの方向に移動しているかを複数枚の画像から計算し,ベクトルとして表したものです.身近な応用先としては光学式マウスが挙げられます.光学式マウスと同様に,ミニドローン側から地面の模様を読み取り,オプティカルフローを求めることで機体がどの程度流されているかの検出をしているものと思われます.

分解

さて,本題の分解です.上の写真のプロペラ部へ伸びるアームの付け根にそれぞれくぼみがあり,そのうち2つはネジの頭が露出した状態になっていますが,もう2つは目隠しシールが貼り付けられていました.

写真の通り,目隠しシールはピンセットで簡単に剥がすことができました.この目隠しシールはオレンジのマーキングがないプロペラ部へ伸びるアームの付け根のネジ穴に貼り付けてあったので,もしかすると,底面だけ見てもモーターの回転方向が分かるようにする,上面のプロペラ・モーターのマーキングと同様の工夫かもしれません.

また,モーターへ伸びる2本のアームの下側をよく見るとモーターからのケーブルが収納されていることが分かります.このケーブルはアームに設けられた僅かな突起によって固定されるようになっています.

ここまでに述べた4つの穴のネジを取り外すだけで,底面のふたを取り外すことができます.ふたを取り外すと,オプティカルフローセンサの固定やLEDの光を筐体外部に導くプラ部品が目に入ってきます.

このプラ部品はメイン基板にツメで取り付けられているだけなので,簡単に外すことができました.プラ部品にはサブ基板がスポンジで取り付けられていて,そこからメイン基板へとフレキシブル基板が伸びていました.メイン基板側のコネクタのロックを外してフレキシブル基板を取り外し,メイン基板からプラ部品とサブ基板を完全に分離したのが上の写真です.面白いのは信号の伝送特性への配慮からか,ぐねぐねと曲がったフレキシブル基板が採用されていたことです.あとで述べるように,このサブ基板には6軸(加速度+ジャイロ)センサーが搭載されているので,センサからのデータを高速に伝送する都合上このような配慮がされているのだと思います.

プラ部品を外すと,他にメイン基板を固定しているネジはないので簡単にメイン基板を外すことができます.

部品チェック:メイン基板・おもて面

さて,恒例の基板チェックです.メイン基板のおもて面(機体天面側)にはメインのSoCとそれに関連するICが鎮座しています.メインのカメラモジュールもこちら側に取り付けてあるのですが,カメラ関連は後ほどまとめて取り扱います.

まず,中央左側の大きなICがこのドローンのメインのSoCである中国Leadcore TechnologyのLC1813です.LC1813はCortex-A7を4コア内蔵したSoCで,2013年にスマートフォン向けとしてリリースされたSoCです.チップ上の刻印に"4914"とあるので,これが製造日を表すデートコードだとすると2014年第49週の製造であると推測できます.右隣のICは同じくLeadcore TechnologyのLC1132です.こちらは情報が出てきませんでしたが,周辺にコイルとコンデンサが多いことから,LC1813用の各種電圧を生成する電源ICだと考えられます.こちらにもデートコードらしき刻印があり,2013年第42週の製造と推測できます.

Leadcore Technologyは国立の研究機関を前身とした中国の通信機器メーカーである大唐電信の子会社のファブレス半導体メーカーです.あまり日本では聞かないメーカーですが,親会社である大唐電信が中心に開発を進めた中国を中心に使用されている携帯電話の3G規格であるTD-SCDMAに対応したチップを投入する等の特色があるメーカーのようです.また,Leadcoreのチップは小米製品ではRedmi 2Aに採用されている他,過去に小米への技術提供の話題が出ていたりと関係の深いメーカーでもあるようです.

上に述べたように,今回使用されているLC1813は2013年リリースのICでさほど新しくなく,刻印から推測できる製造年月日もこのミニドローンのために新たにチップを製造したとは思えない日付となっています.

次にLC1813の上部にある大きなICですが,こちらはKingston Technologyの04EMCP04-NL02DM627です.KingstonはUSBメモリやSSDで有名なのでご存知の方も多いかと思います.Kingstonは自社で半導体チップ自体は製造せず,外部から購入したチップをパッケージングして販売する業態の企業です.このICはFlashメモリとDRAMを1つのパッケージにまとめたMCP(Multi- Chip Module)です.MCPはドローンと同様に実装面積の制約が厳しいスマートフォンでも多用されています.例えば,過去に分解した偽iPhone XでもSamsungのMCPが採用されていました.

基板下部の銀色のモジュールはShenzhen Longsys TechnologyのWi-FiモジュールであるLTM8830です.このモジュールはQualcomm AtherosのQCA9377-3という,SDIO(SDカードの信号線をデータストレージ以外の用途に使う規格です)でSoCと接続するWi-Fiチップを使ったモジュールとのことです.

残念ながら,今回は上に述べた大きいIC以外の周辺回路のIC類を完全に特定することはできませんでした.基板中央左側のUSBコネクタのそばにある"7222"という刻印のICは,ON SemiconductorのNLAS7222シリーズに形状が非常に似ていましたが,NLAS7222の刻印は"7222"ではないようなので,NLAS7222そのものではないようです.しかし,NLAS7222の用途がUSBの信号を切り替えるスイッチであることを考えると,おそらく同等に使える他社の部品なのではないかと思います.

あとで述べるように,この基板にはUSB2.0対応のカメラコントローラーが搭載されているため,メインのSoCではなく,そちらにUSBの信号を送るためのスイッチなのではないかと推測しています.しかし,現在までにミニドローンをUSBカメラとして使うモードは特に公表されておらず,USBでPCに接続した場合は飛行中に撮影した動画像をUSBメモリのようなマスストレージデバイスとしてPC側に読み出すことができるという機能があるだけです.(デバイスマネージャーを見ると"Android"という気になるデバイスとしても認識されていたりはするのですが…)今後のアップデートで何らかの機能追加があるのか,気になるところです.

"7222"の刻印のチップの上にある"9513B 7260"というチップに関しては全く素性が分かりませんでした.場所的にUSB関連の何らかのICではないかと思います.

右下の"11G"と書いてあるICと"2206 7T2"と書いてあるICも同様に素性が分かりませんでした."11G"とある方はフォントの雰囲気やその上下の線状のパターンからRichtekの電源ICかと思ったのですが,検索した限り特に引っかかりませんでした.

最後に,右側に見える"D18HK"と書かれている3つ脚の部品ですが,これは品番はわからなかったものの,モーターへの配線の直近に配置されていること,この基板上では比較的大型なパッケージであること,メイン基板の表裏で合計4個取り付けられていることから,モーターを駆動するためのMOSFETであることはほぼ確実だといえます.

部品チェック:メイン基板・うら面

さて,次はメイン基板のうら面(機体底面側)です.裏面は地面を捉えるセンサに関連する部品が多く搭載されています.まず中心にある網目状の部品は前にも述べた超音波の送受信を行う素子です.それらの周辺の中国SG Micro社製SGM8634(オペアンプ),SGM3157(アナログスイッチ)といったアナログ関連のICや,"E13"という刻印のDTA143ZMと"E23"という刻印のDTC143ZMは超音波の送受信の前後の信号処理や,中央の素子の駆動のための回路を構成しているものと思われます.

DTA143ZMとDTC143ZMは対になる抵抗内蔵型トランジスタ(デジタルトランジスタとも)で,どちらも日本のローム社がオリジナルなのですが,刻印の字体が全く違うことから,どちらか一方,あるいは両方とも,別メーカーによる類似品である可能性があるかと思います.形状,ピン数,周辺の部品から,機能自体はおそらくDTA/C143ZM同等のものであるとは思います.

写真右下にはWi-Fiアンテナも見えます.Wi-Fiアンテナは樹脂のブロックの上に板金でできたアンテナが実装されていて,メイン基板との距離を稼ぐことによってアンテナの性能を極力損なわないようにするような工夫が見られました.

Wi-Fiアンテナの左隣には台湾Nuvoton TechnologyのARM Cortex-M0マイコンであるMINI58TDEが搭載されています.このマイコンはリアルタイム性の要求される,6軸センサベースの基礎的な機体の制御を主に担当しているのではないかと思います.また,モーターを駆動するための信号の生成も担当していると考えられます.以前分解したより小さいドローンでは,これと同じクラスのマイコンが機体の全ての制御を担当していました.全ての制御,といっても,そのドローンには6軸センサしかセンサが搭載されていなかったので,処理の負荷は同程度ということになるかとは思います.

さらにその左隣にある"LPS Fk6Q2"という表記のICは最初はさっぱり手がかりがつかめなかったICです.まず,周囲に電源用コイルがあることからDC-DCコンバータIC等の電源ICだとは推測できました.しかし,刻印で検索をかけても全く情報が見当たりませんでした.ここでもう一度よく刻印を見直すと,小文字のように見える"k"が入っているのが気になりました.刻印に小文字が入っているICは少なく,過去に分解したガジェットで刻印に小文字が入っていたのは怪しいスマホ内のDC-DCコンバータと推測される部品とBluetoothスピーカ電球のスイッチング電源部のICの2例だけでした.今回のICも含めて,すべて(取り扱う電圧は違いますが)電源に関連するICと推測されるICであることから,これらは電源ICを中心に製造・販売している同じメーカーの製品なのではないかという仮説が立てられました.また,スマホと電球のICには小文字を含んだ5文字の刻印だけがされていましたが,今回のICには"LPS Fk6Q2"というように"LPS"という文字が入っていました.このことから,"LPS"はICの種類を表すのではなく,メーカー名称に関連しているだろうと考え,電源ICを中心に製造している"LPS"という名前のメーカーを探した所,Low Power Semiconductorという中国のメーカーがヒットしました.型番までは特定できませんでしたが,LPSの同一パッケージのICを販売しているサイトを見てみると,今回のICと同様に"LPS"+小文字入りの5文字というパターンの刻印がされたICと,小文字入りの5文字の刻印のみのICの両方がヒットしたので,これらのICはLow Power Semiconductor製の電源ICであるという推測は妥当だと思われます.

次に,中央右端にあるのは台湾Realtek SemiconductorのRTS5803という,USB2.0対応のUSBカメラ用ICです.おそらくミニドローンに2つ搭載されているカメラのいずれかと接続されているのだとは思うのですが,ここの仕様には謎が残ります.もったいぶるようで申し訳ないですが,この謎についてはカメラのチェックのところで検討したいと思います.

RTS5803の左にあるのは各社が販売している24C64というI2C(2線式通信規格)対応のEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM:電気的に消去可能なプログラマブルROM)です.EEPROMは電気的に書き換えができ,電源を切っても内容が保持されるメモリです.SDカード等に用いられるFlashメモリもEEPROMの1種ですが,一般的には1バイト単位で書き換えが可能でちまちまと小さいデータを書き込んでいくのに適したものをEEPROM,ある程度の大きさのブロック単位でしか消去ができないものをFlashメモリと呼び分けています.EEPROMは小さいデータを書き込むのに適しているという特性から,センサの補正データなど,少量のパラメータを保存するのに使われることが多いデバイスです.RTS5803はカメラセンサ関連のパラメータをI2C EEPROMに保存する機能を持っているので,おそらくここでもその手のパラメータの保存に使われているのだと思います.最初に書いたように,24C64を含む24C(LC)xxシリーズは各社から販売されており,ピン配置や基本的な制御方法はどのメーカーのICを使っても同一です.余談ですが,24Cxxシリーズは身近なところでは,PCのメモリモジュールに搭載され,メモリモジュールの動作に関するパラメータ(動作周波数や各種レイテンシ等)を保存しておくのに使われています.マザーボード側ではこのデータを読み出すことで,適切なパラメータでメモリモジュールを駆動することができるという仕掛けです.

基板右上には気圧センサが搭載されていました.基板写真で黒いままになっているのは下の写真のようにスポンジが貼り付けてあるからです.スポンジは粘着テープで基板に貼り付けられていますが,粘着テープは気圧センサ本体の範囲だけ切り抜かれており,センサの機能に影響がないようになっています.おそらく,ゴミ等が機体外部から入り込まないようにするための工夫でしょう.

残念ながら,このセンサの刻印の情報からはメーカーを特定することは出来ませんでした.ミニドローンの公式サイトに気圧センサが搭載されていると明記されていることや,上記のような工夫がされていること,穴あきの缶パッケージという点からこれが気圧センサであることは間違いないと思います.

サブ基板&カメラモジュール

さて,メイン基板を一通り解説したのでサブ基板とカメラモジュールに移ります.

サブ基板上のICはTDK-Invensenseの6軸(ジャイロ+加速度)センサであるMPU6500のみでした.Invensenseは2016年にTDKに買収されたMEMSセンサメーカーです.TDKに買収される前からMEMSの多軸センサでは名なメーカーで,以前分解したドローンにも同社のMPU6050が搭載されていました.

メイン基板上のICは先ほど一通り説明しましたが,そのほかにも赤外線送信用のLEDと受信用の受光モジュールが搭載されています.受光モジュールは前後に1つずつ搭載されているので,ほぼ全周をカバーするようになっているのだと思います.これらの部品は公式ページに書いてあるように,複数台のミニドローンで対戦するためのものだと思われます.ちなみに,受光モジュールはリモコン用の汎用品のように見えました.

さて,最後にカメラモジュールについてです.まず,このミニドローンには2つのカメラモジュールが搭載されています.1つは動画像を撮影するための,機体正面に付いているカメラ,もう1つは機体底面部に付いているオプティカルフローカメラです.分解前の時点では機体底面部のオプティカルフローカメラは光学式マウスセンサを転用した,オプティカルフローが直接出力されるセンサを使用しているのではないかと思っていましたが,正面のカメラとともにOmniVisionのイメージセンサを使っているモジュールが搭載されていました.(あくまでフレキシブル基板上ののシルク印刷からの推定ですが.)

メインカメラとして搭載されているOmniVisionのOV2685は1600×1200ピクセル(約200万画素)のイメージセンサです.このセンサはMIPIと呼ばれる,少ない信号線で画像データを送信することのできる規格に対応しています.

一方,オプティカルフローカメラは同じくOmniVisionのOV7740でした.こちらは640×480ピクセルの,いわゆるVGA解像度のイメージセンサです.こちらのセンサはMIPIではなく,複数本の信号線を使うパラレル出力のセンサとなっています.

さて,ここまででカメラモジュールの紹介が一通り終わったので,何回か言及しているカメラとRTS5803の謎について検討しましょう.ここでいう謎というのは「RTS5803は何のために搭載され,どこに接続されているのか」ということです.

RTS5803は前に述べたように,USBカメラ,すなわちUSBデバイスとして振る舞うICです.このミニドローンのメインのSoCであるLC1813も同様にUSBのデバイスとして振る舞うことができるチップですが,ホスト(いわゆるPC側)になる機能は持っていません.(タブレット向け品種のLC1913はホストにもなれるようです.)USBの通信はホストとデバイスの間で行われ,デバイス-デバイス間での通信はできません.したがって,RTS5803は一体どこのホストに接続しているのかという謎が生まれるわけです.メイン基板おもて面のところで書いたように,ミニドローンのUSBコネクタ周辺にUSBの信号を切り替えるスイッチICが搭載されていることから,PCからのUSBの信号をLC1813に接続し,録画した映像をPCに転送する通常のモードの他に,実はRTS5803をPCと接続するモードが用意されているのかもしれません.しかし,後者のようなモードは今のところ公表されていませんし,普段使わないモードのためにわざわざ比較的高機能そうなICを載せるかといわれると,なかなか疑問ではあります.

さらに,RTS5803はパラレル出力のセンサに対応したICであり,製品紹介のページにもOV7740に対応している旨の記述があります.となると,RTS5803に接続されているのはメインのカメラではなく,底面のオプティカルフローカメラであるということになります.オプティカルフローカメラといってもVGA解像度のカラーカメラなので,USBカメラとして使うことはできるかもしれませんが,わざわざドローン底面のVGA解像度のカメラを普通のUSBカメラとして使うメリットはないでしょう.また,このページによれば,LC1813はMIPIを使うカメラとパラレル出力(図内の"RGB/YUV")のカメラを1つずつ接続できるようです.この仕様は元々の想定用途がスマートフォンであるため,リアカメラとフロントカメラを装備することを考えてのものだと思いますが,OV7740の信号がそのままではLC1813に接続できないものであるので,USB規格に変換してLC1813に接続している,という仮説も消えることになります.(そもそも前述の通り,誰がUSBホストなのか?という問題がありますが…)

ここまでの考察を踏まえると,RTS5803を使っている理由は,

・実はLC1813がUSBホスト機能を持っていて,負荷軽減等の何らかの理由でオプティカルフローカメラはUSB経由で接続したかった

・RTS5803は実はUSB以外の通信規格でLC1813に接続されていて,上記と同様に負荷軽減等の何らかの理由で採用した

・PCからミニドローンをカメラとして扱う必要のあるアプリが今後リリースされる

といったところになるのではないかと思います.結局謎は解けませんでしたが,今後の小米からのアプリ等のリリースに期待したいと思います.

所感

安価,小型,スマートフォンから操縦という特徴から,トイドローンとして先行するRyze RoboticsがDJIとIntelの技術を活用して開発したTelloと比較されることが多いのではないかと思っていますが,分解した感想としてはこの2機種はかなり設計思想が違うのではないかという印象です.

TelloはIntelのハードウェア技術(具体的にはIntelが買収したMovidiusのビジョン処理チップであるMyriad 2)とDJIの飛行制御のソフトウェア技術が搭載されていたり,メインカメラの解像度も500万画素と小米のミニドローンと比べると高くなっています.どちらかといえば,最新の技術が投入されているというところを最大の訴求点とし,MavicやSpark等の今までの製品ラインとの一体感を保ちつつも,よりローエンドに製品ラインを拡張するといった路線の製品になっていると思います.

一方,小米のミニドローンは以前のドン・キホーテのアクションカムの分解ほどではないにせよ,変化の速いスマートフォン向けSoCの分野ではもはや古いといってもいいようなチップを買ってきて,本来とは違うドローンという別の用途でうまく活用するという戦略を取っているといえます.ドローンを飛ばすことについては素人なので,それぞれの飛行性能の比較は私にはできませんが,このような戦略を取ることでTelloの699元に対して399元と,「性能ほどほど,値段は安い」製品を実現しているのではないかと思います.

ここまで書いてきたように,Telloと小米のミニドローンは設計思想がかなり違い,値段もそれなりに違います.個人的にはTelloと小米のミニドローンが正面衝突してシェアを食い合う戦いになるのか,小米のスマートフォンでいうところのMiシリーズとRedmiシリーズのように,「安くてもスペックにはこだわりたい」層と「ともかくコスパ重視」層,というような棲み分けが実現するのかという点も含め,今後もウォッチしていきたいと思っているところです.

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