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冬の短歌①(Advent Calendar 2023)


目覚めると姉さんはまだそこにいたぼくに手渡すそのぬばたまよ

黒かった。いや暗かった。球状のそれはまるで暗い穴のようなもので、手を差しのべると、手が包み込まれてしまうようなものだった。これじゃ受けとれないよとぼくが言うと、ごめんね裏返したままだったと姉さんは笑った。
Tシャツ、セーター、姉さんは裏返しのまま着ていることが多かった。くるくると美しい手つきでそれを戻すのを見るのがぼくは好きだった。だからといって、傘、マグカップ、国語辞典、なんでも裏返してしまう癖はどうかと思うけど。
じゃあねと言って姉さんは出かけて行った。ぼくの腕のなかではちいさな黒猫がまるまっている。

https://adventar.org/calendars/8598


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