従業員に金を持って逃げられました。

はじめてのnoteへの投稿が、こんなにも不穏に満ちたタイトルになるとは思わなんだ。どうもこんにちは、タンザニアでパン屋を経営しております、ジャクソンです。

私はいつも、何かしらの文章を書くとき、どんな人に読んでほしいのか、読み終わった後にどんな気持ちになってほしいのか、はじめに考えてから書いています。が、これから書くこの文章は、そんなことを一切考えずに書きます。

自分の気持ちを整理し、前にすすむためだけに書く、完全なるマスターベーションです。お付き合いいただける方、お時間いただきありがとうございます。

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タンザニアで会社をつくって9ヶ月、パンを焼き始めてから3ヶ月が経ちました。自分で言うのも何ですが、たったこれまでの道のりですら、私にとっては決して平坦ではありませんでした。

言葉にできないくらい嬉しいことも、人に伝えることが憚れるような哀しいこともたくさんありました。日々起こる大小様々な事件に、私の脆いハートは乱気流に飲まれた飛行機のごとく、毎日上下左右に激しく揺さぶられました。

いつもは、Twiiter上で小出しにぽつぽつと吐き出しているのですが、今回ばかりは呟くことすらままならなず、ご飯すら喉も通らな・・いや、ごめんなさい嘘つきましためちゃくちゃ通ってました。まあ、細かいことはどうでもいい、とにかく私は、タイトルの通り従業員に金を持って逃げられたことで傷心しました。

どれくらい傷心したかというと、このことを公言できない期間が約1ヶ月あったくらいには傷心していました。ほら、口に出した途端に現実になりそうな気がして・・ってよく言うじゃないですか。あれです。いや、メンヘラかよ。そう、私は立派なメンヘラだ。

これを書いているのが2019年11月22日なのですが、毎日欠かさずつけている日記によると、事件が起きたのは10月21日らしいので、かれこれ私は1ヶ月間引きずっていたようです。

言葉にしてしまえば簡単です。「従業員に金をもって逃げられた。

そう、たったそれだけのことです。途上国で事業を始めるなら、覚悟しておかなくてはならない登竜門的イベントの一つなのかもしれません。あるいは、いつものように笑い飛ばして終わらせるべき些細なことかもしれません。

これまでにも、業務用冷蔵庫を勝手に売り飛ばされたり、知り合いに貸した金を持ち逃げされたり、半年待って到着した機材が3つも不良品だったり、歓迎されないイベントは日々起こっていました。

でもそれらが霞んでしまうくらい、「従業員に金をもって逃げられた。」というイベントは、想像以上に応えました。「わたし・・あなたのこと、信じてたのに・・!」と、昼ドラで主人公が言う安いセリフが口をついて出ちゃうくらい、思てたんと違う・・って、なりました。

従業員が金を持って逃げるまで

先に結論から言ってしまうと、今回、従業員2人に逃げられました。4人いる従業員のうちの2人です。おそらく2人は、別々に動いていたら偶然時期が被っただけだと思われますが、結果的に私たちは同時期に2人のメンバーを失いました。

そのうちの一人は、私がタンザニアで事業を始めるきっかけをくれたKelvinちゃんでした。(いまこれを書きながらもKelvinって文字を打つのが辛い・・完全にメンをヘラっている・・初恋の彼氏に浮気された高校生かよって自分で突っ込んでいる。)

きっとこれを読んでくださっている方の中には、「おい、Kelvinって誰だよ」って思われている方もいらっしゃると思います。

Kelvinは、私にタンザニアで事業を始めるきっかけをくれた張本人です。出会いは約5年前、私がダルエスサラーム大学に留学していたときに関わっていたNGOでの活動でした。ストリートで生活している子ども向けに青空教室を開いており、そこに生徒として来ていたのがKelvinでした。

1年前にタンザニアに戻ってきたとき、偶然再開を果たし、そこから親睦を深め、私は彼のためにパン屋を始めることを決め、彼を雇うに至りました。(詳しくは、私たちが事業を始めるときにやったクラウドファンディングのページをみていただけたらと思います。)

私たちの事業は、タンザニアのストリートボーイに雇用を創ることを目的にしているため、Kelvinを含め従業員は皆家なき子できた。Kelvinを信頼して、彼のストリート仲間にメンバーとしてジョインしてもらい、今年の8月にスタートしました。

今回、逃げていなくなってしまったのは、KelvinとJamesの二人でした。実は、彼らがいなくなってしまう約1ヶ月ほど前から、不穏な雰囲気は漂っていました。

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Jamesの場合

彼は、従業員の中でもっとも賢い子でした。読み書きも計算も完璧で、私が何かしらのタスクを与えると、私が望む成果に更にプラスして返してくれる、とてもクレバーな子でした。しかし、そのクレバーさが仇となったようです。

彼は、いなくなる一ヶ月ほど前から、頻繁に体調を崩すようになりました。体調が悪くて休む時も連絡をくれず、何日も来ないという日が続きました。

おまけに、彼が休んでいた日に、他の従業員が偶然街中で彼を見かけるということもありました。様子がおかしいな?と思いつつも、注意勧告することしかできず、適切な手立てを講じることができずにいました。そして、一週間音信不通だった彼が、ある日何食わぬ顔で工房に現れたのです。

にこにこしながら普通に私に挨拶してくる彼をみて、流石の私も我慢できず、彼を工房の外に無言で連れ出しました。その日はすごく忙しかったので、彼と話し合う時間が十分に取れず、かといって、一週間音沙汰なしだった彼を、何事もなかったかのように他のメンバーと一緒に働かせるわけにも行かず、工房の外でしばらく放置していました。

きっと帰ってしまうだろうな、と思っていたのですが、なんと2時間後に用事で外に出てみると、彼は号泣しながらその場に立ち尽くしていたのです。彼の反省をみた私は、彼をもう一度迎え入れることにしました。いつか人生の師が言っていた「give & give & give!」を思い出して。

しかし、あんなに号泣していた彼は、翌日ついに現れませんでした。夕刻、やっと電話が通じてどうしたのか聞いてみると、彼はのんびりと言いました。「朝起きたらお腹が痛くて。」前日あれだけ言ったのに、彼には何も響いていなかったのか・・と思うと、怒りよりも虚しさだけが残り、私は何も言えずに電話を切りました。彼は、その日以来、工房に来ることはありませんでした。

翌日、彼が住んでいるところ(社宅として会社で用意していた場所)に行くと、家はもぬけの殻になっていました。

これまで、彼が必要だというお金は躊躇なく渡してきました。おばあちゃんの葬儀代、ストリートの友人のマラリア治療費、彼の病院代、その他家具代・・。全て合わせると日本円で10万円くらいになります。それらはお給料から少しずつカットする約束だったのですが、彼もお金も、もう戻ってくることはありません。

Kelvinの場合

私が勝手に自分の相棒だと思っていたKelvinちゃんも、Jamesと似たような状態でした。ただ、彼の場合は、仮病を使うことすらありませんでした。何日も連絡なしに来ない日が続き、数日後、昼過ぎにふらふらとやってきたかと思うと、これまた何食わぬ顔で入ってきて、仕事を始めようとするではありませんか。

これには私もさすがに怒り、Jamesの時と同じく彼を外に連れ出しました。(ちなみに、KelvinとJamesのこの事件は、それぞれ1日違いで連日で起こりました。)

すると、Kelvinは漢泣きを始めたのです。何度も謝る彼をみて、反省してくれたと信じ、彼をもう一度工房に迎え入れることにしました。

しかーーーし

彼もJamesと同じく、翌日以降現れることはありませんでした。それどころか、彼は翌週「mambo?(やあ元気?)」と、呑気に電話をかけてきたのです。「mamboじゃないよ。やる気ないならもう来なくていいよ。」と言って電話を切ると、彼は私に長文のメッセージを送って寄こしました。内容を要約すると、

「君は僕の人生を台無しにした。」

という内容でした。

工房から去っていったのは自分なのにおかしいな?一体どういう思考回路をしてるんだろうか・・?と思っていたら、その一週間後、またKelvinちゃんから電話がありました。心を入れ替えて戻ってきたい、というお願いかな?と思っていたら、次に聞いた言葉は予想とは全く異なるものでした。

Jamesが昨晩死んでしまったんだ

彼は泣きじゃくっていました。何をいっているのかそれ以上聞き取れなかったので、とりあえずテキストメッセージを送るよう伝えました。

「Jamesが死んだ。葬儀代をストリートの仲間で出し合っているから、ゆかも手伝って欲しい。」

要約すると、そんな内容でした。数日前に破門した(図らずともそういう形になってしまった)Jamesが死んだ・・?!すっかり気が動転した私は、Jamesがなぜ亡くなってしまったのか、いまどこにいるのか、一体いくらぐらい必要になるのか、故郷の残された家族は知っているのか、など忙しく考えました。

一旦落ち着こうと思い、他のメンバーにことの顛末を伝え、Kelvinからのメッセージを見せました。すると、あろうことに皆は大爆笑を始めたのです。

・・・え?人が亡くなってるのに?

事態が飲み込めずに呆然とする私に、メンバーが言いました。

「ゆかは本当にお人好しなんだから。嘘に決まってんだろ!!!」と。

「これから俺がJamesの周りの友達のところにいって、証拠を掴んでくるから待ってて。」そういい、メンバーは調査に出かけました。

数時間後には、「生きてるJamesをこの目でみたぜ!」とメンバーから笑いながら電話がありました。

いやはや生きていてくれて、本当によかったです。そして、おい、Kelvin。(笑)

つまりは、そういうことです。KelvinもJames同様、これまで私にあらゆるお金の相談をもちかけてきていました。おばあちゃんの入院代、夫に暴力をふるわれているお姉さんとその子どもの生活費・・・全てを足すと、日本円で10万円を超える金額を貸していました。

今回のJamesの死亡事件も、彼が現金欲しさにでっち上げた嘘だったようです。

これは後日知ったことですが、Kelvinは他の従業員の財布からもお金を抜いていたそうです。そういえば、パン屋のお金も何度か計算して足りないことがあった・・けど、まあその真相は神のみぞ知る、ですね。


長くなってしまいましたが、このようにしてKelvinとJamesは自ら工房から去って行きました。

結果論として、彼らは私の善意で貸した、あるいはあげた金をだまし取って逃げてしまいました。

でも、「裏切られた」という哀しみは、実はあまりありません。そんなことよりも、彼らに「ここで働きたい」と思えるような場所を作ってあげられなかった自分の力量不足を痛感して死んでしまいたいような気持ちになりました。なっています。

そもそも、私はKelvinみたいな、いえ、もっといえばKelvinのためにタンザニアにきて、事業をはじめたのです。でも、彼がいなくなってしまい、私は一体なんのためにここにいるんだろう・・?とメンをヘラってしまいました。

もちろん、Kelvinちゃんと同じような状況の青年はたくさんいます。彼がいなくなったなら、その空いた枠を別の誰かにあげたらいい。それだけのことです。

でも、人間臭い私の心はそう簡単に切り替えられませんでした。今日までKelvinと、Jamesと、一緒につくってきた数々の思い出が、このアラサーの心を、初恋をしてしまった高校生のピュアハートに戻してしまうのですッッ。(ふざけてないです、いや、ふざけてないとやってけない精神状態)


家族のように思っていた彼らが、今後どんな人生を歩んでいくのか、私は見届けることができませんでした。彼らがどんな風に暮らしたいのか、本当はどんな職に就きたいのか、私にはもう知り得ることができません。


もう彼らが戻ってくることはありませんが、最後に一つだけ言えることは「お前らはパン職人になるべきじゃねえ、俳優や。」ってことぐらいですかね。(笑)






<追記> 2019/12/4
この文章を読んでくださったたくさんの方々、本当にありがとうございます。まだお会いしたことすらない私に、「がんばれ〜」「美味しいもの食べて元気だして!」とメッセージくださった方、そしてなんとなんと、ご支援まで送ってくださった方々、本当に感謝しかありません・・。

一人では何もできないな・・と日々痛感しておりますが、この数日間ほどそれを感じたことはありませんでした。

こんな文章を書くとたくさんの肩を心配させてしまうかもしれない・・と掲載を悩みましたが、この経験が誰かの役に立つことがあったり、「こんなアホでもなんとか事業やってんのか」と元気になってもらえたりしたら、私としては嬉しい限りです。(笑)

前述の通り、この事件からはすでに1ヶ月以上経過しており、今は身も心も元気いっぱいです。残ってくれているメンバーと新しいメンバーとで、楽しい未来を描きながら再出発したいと思います!






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