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「カラー情報の使いかた」 

 JAFCAレディスウェア部会 専門委員 小森美穂子氏

このコラムは、季刊「流行色」2021年秋号に掲載の「ファッションカラーの現在 〜カラー表現とカラーパレットについて〜」より抜粋したものです。

2021年8月初旬、JAFCAの2023年春夏レディスウェアカラーの選定会議に参加しました。
6月に決定した同季のインターカラー(グ ローバルなカラー情報)を参考に、より日本市場でリアリティのあるカラーパレットに編集、選定する作業です。
その際改めて気づいた事がありました。

インターカラーやJAFCAをはじめとするカラー情報団体が発信するカラーパレットは「メッセージ」です。
ファッションや世の中をマクロに考察し、新しい美しさのコンセプトを色で表現したものです。
これまで関わった過去のカラーパレット資料を眺めると、コンセプトに時代ごとの移り変わりはあるものの、パレットにタイムレスな美しさを感じました。

サプライチェーンが世界で発達した90年代後半、アパレルの製造リードタイムが劇的に短縮されました。それまで1年程度かかっていたものづくりが、アイテムによっては数ヶ月で製造可能になりました。店頭動向や在庫情報はPOSで管理され、売り上げが即時に明らかになり、トレンド情報は高い精度が求められるようになります。

一方でカラーパレットは、70年代から現在まで変わることなく、2年から1年半前に発信を続けています。そこで情報の送り手と受け手のあいだに齟齬が生まれ、「メッセージ」と「売れ筋情報」が混同されるようになったのです。流行色という呼び名の印象もあり、情報団体のカラーパレットは「市場で流行する・売れる色」情報というミスリードが生まれたと推測します。

現在ではマーケティング企業が多数存在し、カラーやデザインの売れ筋情報を日々提供しています。わかりやすく“似合う”を診断するメソッドやサービスも拡大の一途です。
長期予測で発信される情報は、それとは性質が異なります。カラーパレットは、社会をめぐる状況から考察された有力なコンセプトを、情感豊かにまとめたB2B情報です。創造とアイデアの 種です。

現在アパレル企業は、リードタイムの短い商品と長期の開発品を、季節やアイテムによって使い分けています。近年そのバランスが大きく前者へ傾いたため、早期の陳腐化につながり、過剰在庫を生みました。目新しさやわかりやすさだけを根拠にすると、市場も商品も環境もやせ細ります。
ファッションをサステイナブルにするには、十分な時間をかけた商品コンセプトの構築、製造技術の更新、そして商品色のエモーショナルな魅力を備える必要があります。

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