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フジロックでのボブディランが最高だったたったひとつの理由。それは白髪のキラキラジイサン達だった

*予め断っておくと、筆者は「それなりに熱心」程度の35歳のボブ・ディランファンである。いちばん好きなアルバムは「Bringing~」と「血の轍」、ライブ盤も入れてよいならローリングサンダーレビュー期の「LIVE 1975」ノーディレクションホームは学生時代たぶん10回くらい見た、という度合い。これを見ている諸兄には数十年来の大ファンやみうらじゅんさん等もおられるかとも思い、にわかが語るな!とディラン爺ばりの説教も想定されるため予めお断りしておく。


フジロック2018、初めてのボブ・ディランの出演が終わった。
「くよくよするなよ」「Desolation Row」「やせっぽちのバラッド」「風に吹かれて」といったヒット曲が耳で判別できる形で(ここ重要!)飛び出し、集まった多くの人の夏の思い出を引き受けるだけのセットだったのではないかと思う。

実は自分は、ボブ・ディランを過去3回生で見ているが、がっかりしたことしかない。
がっかりしたことがない、ではない。がっかりしたことしかないのだ。
ブルースバンドを引っ提げて、ぼそぼそとつぶやくおっさん。原型をとどめない曲たち(これ自体は50年以上前から一緒だ)。まったく忖度しないヒット曲不在のセットリスト…。
全盛期を生で見ることのできなかった音楽好きにとって、ディランのライブとは踏み絵であり、「ディランのライブのように無茶苦茶w」は僕世代の音楽好きにとってある種のネタだったようにも思う。「Like Dylan In The Movie」は遠くなりにけり。

そんなディランが、ノーベル賞受賞後はじめての来日だった今回のフジロック、とにかく最高だった。

これまでとの最大の違いは、おそらく時間と場所である。まだ明るい18時50分、夕刻。台風一過の涼しい晴天のフジロックグリーンステージ、3万人がまなざしを向けていた。
しれっと出てきた「あの」パーマの77歳の爺が、ぼそぼそと歌い始める。ああ、ディランだ。クソしゃがれた声。
映画で誰かが言っていた、「あなたの知らないことを私は知っている、というような目つき」。

1曲、2曲、3曲…予想どおりわかりやすい形でのヒット曲は出ない。ただ、77歳の爺さん、すこぶる機嫌がよい。
大股開きでピアノを弾き、と思ったら座り、時には客の何かに反応してにっこり。年を重ねても変わらない孤高の存在感と、年相応のやわらかさが凄みに変わっているよう。

ふと、振り返ってみた。たくさんの顔が見える。もちろんフジロックらしい格好に身をつつんだ若者やカップルもいるが、それに交じって初老の男性や老夫婦、多くの白髪。

彼らが、とても素敵な顔をしていた。

歴戦のファンにとって、ボブ・ディランのライブがヒット曲連打というような甘いものではないことは百も承知である。
これはヒットパレードで大盛り上がりが約束されたポールマッカートニーのライブではない。ひねくれた偏屈オヤジ、ボブディランのライブなのだ。
それを承知で、わざわざ数時間かけて苗場の山におもむき、ステージ上にそれぞれの顔を向けている。
その人生の連鎖。

ボブ・ディランにいろんな人が人生を仮託し、あなたのようになりたい、と願いながら、ギターをかきむしり、多くの人間はギターを下ろし、日常を生きて今に至ってきた。
そんな人々の願いや憧れを、50年以上、このオッサンはひとりで背負ってきたのだ。その途方もない重さと、それを軽やかにすりぬけるしなやかさ。
それがボブ・ディランだ。

そんなディランを見つめる、多くの目。リズム隊のスイング。
「俺はわざわざ苗場までボブディランを見に来たぞ」というような誇らしそうな顔、「あの頃はよかったな」と何かを思い出すような顔、「まーたディラン、曲いじりやがって」というようなにやりとした顔。
いろんな顔が見えて、その数だけそこにある人生が透けて見えてくる。それぞれが持つナラティブ。
そしてその顔すべてが、ステージ上のひとりの人間だけを見つめている。

それが僕にとって今回のライブが最高だった一番の理由だ。
最高すぎて、ビール買いに行く格好でステージの前と後方を4周して、そのたび泣いた。

人の願いを背負う仕事は重い。ましてや50余年。
みんなボブ・ディランになりたかった。誰もボブ・ディランになれなかった。
「裏切者!」とののしられながら、「でっかい音でやろうぜ」とバンドを振り向く、あのディランがそこにいた。

フジロックが終わって、また日常がはじまる。キラキラしていたジイサン達も、きっとまたそれぞれの日常に戻る。僕然り。Do you?
誰かに金を貸してた気がする。そんなことはもうどうでもいいのだ。答えはいつも風にふかれている。今日もがんばろう。

*ボブ・ディランって何かよくわからない、という人には、マーティン・スコセッシの映画「No Direction Home」をおすすめします。第二部の冒頭3分の即興を見れば、ほとんどヒップホップなディランのすごさがわかるよ。
#fujirock #フジロック #ボブディラン  

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