戦国Web小説『コミュニオン』第1話 「平和な日々」

戦国Web小説『 コミュニオン 』

    「プロローグ」

 そこは牢獄であった。鉄ごうしの奥には少年がいる。とても大柄な少年。常人ならぬ身長のその少年の体には、いたるところに傷がある。囚人用と思わしき衣服のそでから見える太い腕は、切り傷やすり傷にまみれていた。

 しかしその迫力ある肉体とは裏腹に、その表情はやたらと無邪気に見える。実年齢は17~18歳であろうが、もっともっと幼く見える。少年はさわやかな笑みを見せる。

 牢の前には少女が一人、鉄格子をはさんで少年を見つめている。少年と同じぐらいの年齢の美少女。少年はこの少女と話をしていた。楽しそうに会話をする二人。実際には同い年ぐらいであろうが、少年の表情があまりに無垢なため少女の方が年上に見えてくる。

 二人は一日中、こうして鉄格子をはさんで楽しく会話をしてすごす。少年はときに、同じ話をする。それでも少女は初めて聞くかのように合わせてあげた。楽しそうに話す少年を見ていると、少女もまた嬉しくなった。

 少年はここがどんな場所かも分かっていないようであった。牢獄・・・本来ならば忌み嫌われる場所なのであろうが、彼は嫌悪感など少しも感じてはいなかった。むしろ快適な、楽しい場所だと感じていた。

 このせまい世界から出たいとも思わない。出たところで、なにか楽しいことが起こるとも思えない。それどころか、なぜか嫌なことが待っているような、そんな気さえしていた。だから決して「出たい」とは言わないし、思いもしない。

 誰かが来る。気配を察した二人はその方を向く。姿を現したのは少女。これまた同い年ぐらいの少女であった。彼女はけわしい顔をしていた。少年と話をしていた少女も、彼女の顔を見ると表情をくもらせた。少年だけは変わらず無邪気な笑顔で、あらたに来た少女を歓迎する。

少年 「ねぇ、聞かせて。」

 最初からいた方を少女A、今来た方を少女Bとしよう。少女Bはけわしい顔のまま、牢の前まで歩みよる。彼女は両手になにかを抱えていた。布で巻かれたやや薄く長いそれは、とても重そうに見える。もしかしたら、この少女の身長より長いかも知れない。少女がその片端を石づくりの床におろすと、「ガッ」という硬いものどうしがぶつかる音をたてる。

疲れたと言わんばかりにひとつため息をつくと、反対の片端を鉄ごうしに立てかける。縦方向になり、それが少女の身長よりも長いのが分かる。

少女B「・・・・・。」

 少年の顔を見つめる少女B。念をおすかのように確認する。

少女B「聞きたい?」

少年 「聞きたい。」

 笑顔で即答する少年。少女がはじめたのは、ある戦士の話だった。その戦士は強かった。とほうもなく強かった。精鋭部隊の先陣として多くの敵を討ちとった。彼の武勇伝はそのどれもが凄まじく、人間離れしていた。少年は彼女が話す内容に、どんどんと引き込まれていく。

 と、突然、少女Bは口をつぐむ。

少女B「・・・・・。」

少年 「で?で?続きは?聞かせて。」

少女B「・・・まだ思い出さない?」

少年 「ん?」

少女B「・・・・・。」

 少女Bはふたたび、戦士の武勇伝を話しはじめる。戦士はそのふうぼうも凄まじかった。人並み外れた体格で、戦場にて幾本もの矢が刺さったまま戦ったという。

 見た目や耐久力だけではない。その攻撃力もまた、人とは思えぬほどの凄まじさであったという。並の武器では彼の力に耐えきれず、すぐに壊れてしまったほどに。

 そんな彼が愛用していたのは、「大斬刀」(だいざんとう)という名の巨大な刀であった。青龍刀のような形だが、大きさは尋常ではない。人の身長ほどもあるらしい。彼がこれで一振りすれば、何人もの敵が斬り飛ばされたという。

 本当か嘘かは分からないが、少年はますます興味をひかれていく。

少年 「そんなに強かったの?」

少女B「うん。強かった。でも彼は強過ぎた。人を殺し過ぎた。多くの人から憎まれて、恐れられて・・・でも、それでも彼は戦いつづけた。たぶん、辛かったと思う・・・。」

少年 「・・・かわいそうだね。」

少女B「・・・そうだね。」

少年 「でも、しょうがないか。」

少女B「・・・しょうがないかどうかは・・・分からないけど・・・。」

少年 「続きは?あるんでしょ?」

少女B「続き?あるよ。」

少年 「聞かせて。」

少女B「それは・・・あなたしだい。」

 少女Bは、持ってきた長いものの布を外し始める。少しづつ姿を現していく中身。それを見ていた少年の様子が変わっていく。隠れていたそれのぜんぼうが明らかになったとき、少年の脳裏から何かがあふれてきた。

 それは決して心地良いものではない。むしろ極端に不快で、おぞましい記憶であった。少年は目を背ける。あふれかけた何かを必死に抑え込む。

 少女が持ってきたそれは、巨大な刀であった。戦士が愛用していたという「大斬刀」という武器が実在しているとするなら、まさにこんな形をしていたであろう。

 時はさかのぼる・・・



第1話 「平和な日々」


 大陸の最南端、ここは和の国・醒陵(せいりょう)。戦乱つづく大陸において、軍事大国・ロズガードの庇護のもとつかの間の平和を享受していた。ゆえに、戦を知らぬ若者も多くいた。


 とある道場。若者たちが稽古にはげんでいる。年の頃、十六~十八ぐらいであろうか。木刀で素振りをしている者たち、竹刀で立ち合っている者たち、弓で的を射る者たち、木槍を突く者たち、勉学にはげむ者たち。活気に満ちた少年たちが、大きな道場と中庭、敷地内の屋敷で汗を流し書を読んでいた。

 少年たちだけではなかった。門下生の中には、少女たちの姿も多く見られた。全門下生のうち、三分の一は女子ではなかろうか。中には稽古をさぼってしゃべっている男女もいる。若さゆえか、師範代の先生にみとれながら、ちっとも稽古や勉学に身の入らない者も少なくない。

 原因は教える側にもある。なぜか師範代の先生方は、美男美女が多いのである。とても武道を教えているとは思えない、どこかゆるい空気が漂っている。決して真剣でないわけではないが・・・少年少女たちの活気の源は、「学ぶ」ことにあるわけではなさそうだ。

 そんな道場の一角、ひときわ盛り上がっている場所がある。この道場の中で、唯一道場らしい熱気をおびている。立ち合い稽古をしている二人を囲んで、何十人ものヤジ馬が声をあげて観戦している。

 その二人のうち片方は、とほうもなく背が高い。2メートルちょっとといったところか。体格もしっかりしている。彼が一瞬で間をつめ激しく小手を打つと、相手は竹刀を叩き落された。

 「一本!!!」

 歓声があがる。

 「すげ~~~、マジすげ~~~!」「今日いけんじゃね?五十人いけんじゃね?」などなど、驚きを見せる。負けた相手は打たれた前腕をおさえている。

隼介 「大丈夫?」

 心配そうにかけよる大柄の少年。相手は防具の面ごしに苦笑いし、「ああ、大丈夫。」と返し、待機している者たちの横に正座する。すぐに次の対戦相手が立ち、向かい合う。

 「始めぇ!!!」

 開始直後、大柄の少年は大きく踏み込んで面を打つ。相手はとっさに下がって竹刀で受けるが、あまりの強さによろめく。すぐさま大柄少年が胴を打つ。

 「一本!!!」

 歓声があがる。彼は筋力だけでなく、技も速さも人並み以上であった。次の対戦相手も難なく打ち負かす。またまた歓声があがる。

 「おっしゃ~!十人抜き!!」「あと九十!!」

 彼の名前は相葉隼介(あいばしゅんすけ)。この道場で一番強い門下生である。もともと体格に恵まれているうえ、稽古も人一倍こなす。この百人抜き稽古も、彼だけに課せられたものである。

 課せられた・・・というより、仲間の一人が言った「お前、百人ぐらい倒せんじゃね?」の一言に周りが勝手に盛り上がり、やるはめになっただけだが。結果は二十八人抜きであった。その日以来、彼はほぼ毎日この百人抜き稽古を続けている。

 約一月続けてきたが、先日四十人抜きを達成。次は五十人というところまできた。あだ名は『豪傑』『猛者』『熊さん』などなど・・・

 そのうち稽古を終えた女子門下生たちも集まってきた。歓声に黄色い声が上乗せされ、さらに盛り上がりを見せる若者たち。彼女たちの視線を気にしつつ、快進撃を続ける隼介。

 が、彼女たちは隼介を応援しつつも視線は時おり、横に待機して座っている男子門下生の方へ向けられた。まるで誰かを探しているよう。そしてその一点に彼の姿を見つける。凛とした姿で正座する美少年。

 ヤジ馬たちが大声で声援を送る中、彼は隼介の立ち合いを静かに見守っている。彼こそはここの道場主の一人息子であり、弓術の達人として一目おかれる少年であった。

 彼の名前は藤堂和馬(とうどうかずま)。細身でやや長身の、見ようによっては女性にも見えなくはない、まぁ、いわゆるモテる奴である。

 男どもは男どもで、隼介を応援しつつも視線は時おり、まわりを囲む女子門下生たちへ向けられた。一番熱い視線を集めたのは、長い黒髪の少女・夕凪沙耶(ゆうなぎさや)。彼女もまた細身で長身、絵に描いたような美少女である。道場中の男子の注目の的となっている。まぁ、いわゆるモテる女子である。

 隼介が四十人目を打ち負かした頃にはすでに陽は傾き、きれいな夕焼けが彼らを照らしていた。白熱するヤジ馬たち。道場の師範代たちも集まり、この時間帯はいつも異様な盛り上がりを見せるようになっていた。七月の暑い夏を、より一層熱くする。

 見れば見るほど隼介の、常人離れした強さが浮きぼりになっていく。彼と立ち合ったことがある者も多く、隼介がとてつもなく強いことは皆知っていた。

 知ってはいたが、予想以上の、いや、期待以上の強さに狂喜してしまう。道場一というのは、本当に道場一なのだ。どの師範代も、道場主の師範でさえ敵わないのだ。本当に強いのだ。技に関してはさすがに先生方におよばないが、それを埋めてなお余りある圧倒的な筋力があるのだ。彼の強さに皆酔いしれていた。

 彼の強さは自分のことのように嬉しかった。彼は人気者だった。皆に好かれていた。それは彼がただ強いだけでなく、性格も良かったからである。

 強さにおごることなく、謙虚で明るい好青年だったからである。立ち合いに際しても、相手を気づかっているのが分かる。さすがに四十人倒した今となってはそんな余裕は見せられないが。

 疲労でじょじょに動きがにぶくなり、相手におされる場面が増えてきた。体力の限界が近づいていた。周囲の声援はより一層大きくなる。

 「がんばれ~!」「隼介~!!」「豪傑、負けんな~~!!」

 ヤジ馬の最前列にしゃしゃり出てきた少女が叫ぶ。

 「おいコラ隼介~~~!!なに下がってんだ~~!!本気出せコラ~~~!!」

 両隣の男子の肩にのしかかって、飛び跳ねるように声援を送る。

 「手加減してんじゃね~ぞコラ~!!」

 あまりに激しく動くため、両隣の男子が前のめりに倒れてしまう。

 「あ、ごめん。」

 少女の名前は滝川静流(たきがわしずる)。見たままの元気な奴だ。白熱するヤジ馬とは裏腹に、和馬は冷静に隼介を観察していた。

 ・・・静流の言うことはごもっともだ・・・

 たしかに持久力は限界が近づいていた。が、本気を出していないのは確か。いや、本気ではあるのだろうが、相手にケガをさせないだけの余裕がなくなってから前に出れずおされているのが和馬には分かった。そんなことお構いなく戦えば、まだまだ何人も蹴散らせるだろうに・・・

 なんだかんだで四十九人抜き達成!呼吸は乱れ、疲労困憊の隼介。そんなこと気にもとめず絶叫するヤジ馬たち。

 「おっしゃ次五十!」「あっと一人!あっと一人!」「次~!次誰や~?!!」

 五十番目の相手が立ち上がる。背丈は普通だが、がっしりとした体格。防具の面ごしに強い眼光を感じる。ヤジ馬たちが、先ほどまでとは違った盛り上がりを見せる。

 「うぉ~~~、ここにきて・・・」

 彼の名前は梶涼平(かじりょうへい)。剣においては道場で二番目の強さである。まぁ、彼の場合はあくまで門下生の中での話だが。

 向かい合う隼介と涼平。涼平の眼光から強い闘気を感じ取り、隼介も士気をとり戻す。・・・涼平だったら、手加減してる場合じゃないよな・・・

 いつの間にか静かになっているヤジ馬たち。かたずをのんで開始の合図を待つ。

 「始めぇ!」

 両者互いにぶつかり合う。つばぜり合い。二人の力は拮抗している。普段なら力比べで隼介に勝てるはずもないが、今は互角のようだ。突如竹刀をいなす涼平。

 並の者なら全力で押している時にいなされれば、体勢を崩しわずかばかり隙を見せてしまうものだが、隼介はそうはいかない。すぐに踏みとどまり、またすぐに相手に向かって踏み込む。

 しかし涼平、またもいなす。今度はわずかに体勢を崩してしまう隼介。その隙を突いておし切り、間合いを開ける涼平。ここぞとばかりに打ちかかる。

 防ぐ隼介。間髪入れず、次から次へと打ち込んでいく涼平。まさに電光石火。防戦一方の隼介。周囲はかたずをのんで見守っている。隅まで追い込まれる隼介。

 涼平、やや強めの一撃。これをかわして即座に打ち返す隼介。今度は隼介の連打。互角の戦い。じょじょに隼介がおしていく。序盤ほどの速さはないものの、力で押し込めだした。が、それを逆手にとられてしまった。

 速さのない力任せの一撃が空を切り、大きな隙を生じさせた。隼介の竹刀の切っ先は床ぎりぎりのところに。ここで涼平の面!なんとか竹刀をあげ受け止める!・・・が。

 バキッ!!

 隼介の竹刀は叩き折られ、面が入る。

 「一本!!!」

 どっと歓声があがる。

 「すっげ~~~!!!」「おっしぃ~~~」



師範代「整列!せいれ~~~つ!」

 白熱した門下生たちの耳に、師範代の声は届かない。

師範代「並ばんか~~~!!!あとヤジ馬は離れろ!!」

ヤジ馬は壁際に行くが、まだざわついている。稽古に参加していた者たちは並び直し正座。挨拶をし、稽古終了。

師範代「あんまり遅くまで道場に残るなよ~。」

 と言って去る師範代。皆がやがやと喋りながら着替えを始める。ヤジ馬の中から、やや細めの優男が出てくる。

厳  「コラ~~、女子はさっさと出てけ~~。」

 女子門下生たち、「うっせ~よ」などと言いながら道場から出ていく。しかし、和馬を取り囲んでいる女子たちは聞く耳持たず和馬と喋り続けている。笑いつつも少し迷惑そうな和馬。

厳  「お~~い、女子出てけ~~。脱ぐぞ。俺脱ぐぞ。いいのか。全裸になるぞ。いいのか。全裸になっていいのか。」

静流 「お前は稽古しとらんだろう。なぜ脱ぐ。」

厳  「ん?ノリ?」

静流 「お前はノリで脱ぐのか?」

厳  「必要とあらば。」

静流 「ねーーよ。」

 彼の名前は輪之内厳(わのうちげん)。この道場の門下生だが、ここでは兵学しか学んでおらず、武道は習っていない。道場へは兵学の授業の後、見学・・・というか、遊びに来ているだけだ。彼はゆくゆくは、軍師になるつもりでいるらしい。

 「じゃぁまた明日ね~~☆」などと言いながら出ていく女子たち。

沙耶 「じゃ、また後で。」

和馬 「うん。」

 沙耶と静流も出ていく。男子たちは着替え、各々帰っていく。残っているのは、隼介・和馬・厳・涼平の四人だけ。

厳  「つ~~か隼介、お前ほんと強いな~~。」

隼介 「いやぁ、やっぱ力だけじゃいかんね。」

厳  「いやいや、つ~~か最後のあれ、あれだってまだ負けてなかったし。竹刀折れてなかったら、勝ってたかもしんないし。」

隼介 「まぁ、負けは負けだしね。」

厳  「そりゃ折れるよ竹刀も。あんだけ戦ってりゃ。」

隼介 「和馬、どうだった?」

和馬 「ん?」

隼介 「今日の俺。」

和馬 「うん、いいと思うよ。」

隼介 「どうすりゃ良いかな?次から。」

和馬 「う~~~~ん・・・」

厳  「持久力だって、持久力。いや、今でもめちゃくちゃあるけど。」

和馬 「も、必要だけど・・・」

隼介 「うん。」

和馬 「一度、最初っから遠慮なしにやってみたら?」

隼介 「ああ・・・」

厳  「う~~ん、それは死人が出るかも。」

和馬 「どれだけ持久力があっても、やっぱり限界はあるし・・・やっぱそこかな。」

隼介 「そっかぁ。」

和馬 「無駄に攻めさせるから無駄に体力使うんだろうな。」

隼介 「・・うん・・なるほど。」

和馬 「まぁ、いいんじゃない。」

隼介 「いいって?」

和馬 「やりたいようにやれば。今度の試合だって、一回勝てばいいわけだし。」

隼介 「・・まぁ。」

厳  「でもそれじゃ百人は抜けんだろ。」

和馬 「多分ね。」

厳  「おいおい。ダメだろ。」

和馬 「いいと思うよ。じゅうぶん強いし。」

厳  「強いけど、」

和馬 「稽古だって誰よりもやってるし。」

厳  「いやいやいや、でもさぁ、」

和馬 「勝つのが全てじゃないし。」

厳  「え。負けてもいいってこと?」

和馬 「うん。」

厳  「え~~~。」

和馬 「しょせん、稽古だし。」

厳  「そ、それ言っちゃぁおしまいでしょ。」

和馬 「(笑顔)や、俺はさ、それも含めて隼介だと思うから。良いところだと思うよ、そうゆうところ。」

厳  「そうゆうところって?」

和馬 「相手気づかうところとかさ。」

厳  「俺は見たいな~、百人倒すところ。」

和馬 「まぁ、それは俺も思うけど。」

厳  「なぁ、涼平。」

涼平 「・・・・・え?」

厳  「えじゃね~よ。聞いとけよ。」

 そこへ、道着から着替えた沙耶と静流が戻ってくる。

沙耶 「お待たせ。」

和馬 「おぉ。」

 そして六人は帰路につく。帰り道。六人はいつもたむろしている神社に。もう日は暮れている。鳥居を抜けやや長い階段をのぼる。といっても、百段あるかないかといったところ。

 見えてくるのはお社と御神木。大人が三人手を繋いでようやく囲めるほどの太い幹が天に向かって伸びている。その幹からは、これまた太い枝が幾本も伸びており緑の葉をこれでもかというほど茂らせていた。

 根もまた太い。地面から露出している部分がたくましく、大地をえぐるように掴むようにして生えているように見える。きっと目に見えない地下には、もっともっと深く長く広がっているのだろう。

 隼介、御神木を見上げる。隼介はこの大樹が昔から好きだった。荘厳としたその姿は、隼介の心を掴んで離さなかった。威厳とともに、包み込むような穏やかな雰囲気もかもし出している。

 樹齢何年だか知らないが、おそらくは百年二百年どころではないだろう。この国の歴史を古の時代から見てきたのであろうか。もしこの大樹が声を持っていたとしたら、何を語りだすのだろう・・・

 和馬がお社に座る。すぐに沙耶が隣に座る。隼介の隣に来た静流が、彼と同じように御神木を見上げる。が、すぐに隼介に向きなおって、

静流 「楽しい?」

隼介 「ん?」

静流 「見てて。」

隼介 「うん。」

静流 「そっか。楽しいんだ。」

隼介 「なんか、癒される。」

静流 「昔から好きだよね、この木。」

隼介 「そうだね。」

静流 「ねぇそれよりさ、行くでしょ、隼介。」

隼介 「ん?どこに。」

静流 「祭り。」

隼介 「ああ、夏祭り。」

静流 「行くでしょ?」

隼介 「あ~~~~っと、」

静流 「みんな行くでしょ?」

厳  「行く行く。つ~~か当たり前じゃん。」

沙耶 「私は無理。試合あるから。」

和馬 「俺も。今年は無理だな。」

厳  「は?え?聞いてないよ。」

和馬 「今言った。」

厳  「え~~~行かね~の?」

静流 「行こうよ。」

厳  「そ~だよ。夏の祭りと書いて夏祭りだぜ。」

静流 「それは意味分かんないけど、行こうよ。」

厳  「涼平、行くよな?」

涼平 「・・・・・え?」

厳  「聞いとけよ。」

静流 「隼介、行くよね?」

隼介 「う~~~~ん・・・」

静流 「大丈夫だって。隼介だったら、ちょっとぐらい稽古サボっても試合勝てるよ。」

沙耶 「試合出ないからって、そうゆうこと言わないでよ。」

厳  「そうだぞ。空気読めよ。」

沙耶 「アンタも出ないでしょ。」

厳  「はい。」

静流 「でも本当に稽古しなくても勝てそうなんだもん。」

沙耶 「気楽なもんね。」

静流 「・・・・・。」

和馬 「ま、確かに隼介だったら、少しぐらいサボっても勝てそうだけどな。」

隼介 「いやいやいやいや。相手は『玄武館道場』だよ。強豪だよ。」

和馬 「うん、まぁ。そうだけど。」

静流 「隼介ぇ、負けたら負けたでいいんじゃない。」

隼介 「え。」

沙耶 「何言ってるの。」

隼介 「そうだよ。」

静流 「そこまで勝つこと考えなくてもいいんじゃない。」

隼介 「いやいや、勝ちたいよ。普通に試合勝ちたいよ。」

静流 「でもさぁ、年に一回だよ、夏祭り。」

厳  「稽古中は負けるな言うし、祭りのためなら試合負けていい言うし、どないやっちゅうねん。」

静流 「・・・・・。」

厳  「って、涼平が言ってました。」

涼平 「・・・・・え?」

厳  「聞いとけや!なんで俺がツッコミやねん。」

静流 「ねぇ行こうよ~。」

隼介 「う~~~ん・・どう思う?」

和馬 「好きにすれば。自分のことなんだし。」

隼介 「そ~だな~~~、たしかに年に一回だもんなぁ・・・」

静流 「そ~だよ。」

沙耶 「試合だって一回しかないよ。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「せっかく地方大会まで進めたのに・・・」

 彼らが言っている試合とは、毎年夏に行われる剣術大会のことである。正式名称は『青少年剣術大会』。7対7の団体戦で、主に道場ごとに出場し16~18歳までの少年少女たちがしのぎを削る。

 大会は、予選審査 → 地区大会 → 地方大会 → 全国大会 

 という流れで、勝った団体(道場)が次の大会へと進める。すでに地区大会は勝ち抜き、次は地方大会での玄武館(げんぶかん)道場との試合を控えている。

 とは言うものの、隼介らがいる青龍館(せいりゅうかん)は毎年ずっと地区落ちもしくは予選落ちであった。門下生が多い大道場ではあるが、弱小道場と言ってもよい。

 去年初出場した隼介・和馬・涼平は地区大会で勝ったものの、残りのメンバーが惨敗したため、地方大会へは進めなかった。が、今年はなんとか念願の地区大会突破を実現。初の地方大会へと進めることとなったのだった。

 なお、女子の部というものはなく、男女混合である。ただし、男子対女子という試合は行われず、人数調整がされる。スタンダードなのは、男5・女2であるが道場によってさまざまで、さらに言えばその年次第である。ちなみに今年の青龍館道場での女子出場者は沙耶だけである。

沙耶 「それに、来年が最後だよ。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「隼介、それでいいの?」

隼介 「・・・結論!・・・夏祭り、行かない!」

静流 「・・・・・。」

厳  「え、じゃあ行くの俺と静流と涼平だけ?」

涼平 「俺行かない。」

厳  「あ、聞いとった。」

静流 「・・・・・じゃあ私も行かない。」

隼介 「行けばいいじゃん。」

静流 「行かない。」

隼介 「・・・そう。」

厳  「そっかぁ、みんな行かねーか。だったら俺も、行く!他の奴と行く!」

和馬 「じゃ、俺そろそろ戻るね。」

厳  「って突っ込めよ。」

隼介 「うん、じゃあ。また明日。」

 和馬は来た道を戻りだす。彼の家は道場だからだ。

沙耶 「あ、ちょっと待って!」

 立ち止まる和馬。

沙耶 「今から行っていいかな~!」

和馬 「え?うち?」

沙耶 「うん。」

和馬 「何で。」

沙耶 「もうちょっと話したいことあるから。」

和馬 「でももう遅いよ。」

沙耶 「大事な話だから。」

和馬 「・・・まぁ、いいけど。」

 沙耶、和馬といっしょに歩きだす。二人を見つめる隼介。

隼介 「あのさぁ!!!」

 立ち止まる二人。

隼介 「あの~~~・・・」

和馬 「どした~~。」

隼介 「俺も行っていいかなぁ!」

和馬 「え。」

隼介 「あ・・・俺も行きたい。」

和馬 「おぉ。来い来い。」

静流 「じゃあ私も!」

和馬 「おぉ。」

 隼介と静流も合流。

和馬 「厳、涼平、またな。」

厳  「ああ。」

涼平 「うん。」

 歩き出す四人。

厳  「あのさぁ~~~~!!!」

 止まらない四人。

厳  「俺もさ~~~~!帰るわ~~~!!」

和馬 「知ってる。」

 笑う四人。手を振る。

和馬 「また明日な。」

厳  「おぅ。」

 四人、去る。

厳  「読まれてるな。」

涼平 「・・・何が?」

厳  「いや。」

涼平 「・・・ん?」

厳  「いや、なんでもない。お前は・・読めないな。」

涼平 「ん?」

厳  「何考えてんのか。」

涼平 「・・ああ。」

厳  「ちなみに今、何考えてんだ?」

涼平 「厳が言ってたことがずっと気になってて。」

厳  「え。」

涼平 「ずっと考えてる。」

厳  「・・・俺、何て言った?」

涼平 「夏の祭りと書いて夏祭りだぜって・・・そのままだよね。どうゆう意味?」

厳  「意味なんてねーよ!適当にしゃべってんだよ!ってそんなことずっと考えてたのかよ!な、なんなんだよお前、手ごわいぜ、手ごわすぎるぜ梶涼平!」

 などと一方的に喋りながら帰っていく二人。

 

 

 一方、道場へ戻った隼介たち。四人は隣接した屋敷の和馬の部屋へ。

和馬 「あんまり大きな声はなしな。」

沙耶 「ごめんね、急に。」

和馬 「いいけど。で、なんだっけ。」

沙耶 「どうしてもさ、どうしても試合に勝ちたくてさ。」

和馬 「おぉ。」

沙耶 「どうしたらいいかな。」

和馬 「うん。・・・練習しかないんじゃない?」

沙耶 「そうなんだけどさ。」

和馬 「あ、その前に。」

沙耶 「ん?」

和馬 「ちょっと言いにくいんだけどさ。」

沙耶 「何。」

和馬 「もしかしたらだけど・・・沙耶は試合出れないかもしれん。」

三人 「え!?」

 思わず声をそろえる沙耶・隼介・静流。和馬、口に人差し指を当てて「静かに」と促す。

沙耶 「どうゆうこと?」

和馬 「いや、本当にもしかしてだけど。試合、7対7の団体戦だよね。」

沙耶 「うん。」

和馬 「玄武館道場、女子の門下生あんまりいないの知ってる?」

沙耶 「そうなの?」

和馬 「もしあっちに女子で試合出る人いなかったら、こっちも女子出れないと思うん だ。」

沙耶 「そうなの!?」

和馬 「うん、多分。」

沙耶 「・・・そう・・か・・。や、でも!どうしても勝たないと、私道場やめさせら れる。」

隼介 「え。」

沙耶 「実はさ、ずっと前からお母さんに反対されててさ、ここに通ってるの。」

和馬 「何で。」

沙耶 「うん・・・どうせ行っても金の無駄だろって。」

和馬 「そう。」

沙耶 「本当に結果が出るならいいけどって。じゃなきゃやめるか道場かえろって・・・」

和馬 「ああ・・うん・・分かる。」

沙耶 「分かる?」

和馬 「(苦笑)分かるよ。だって、親さんの評判あんまり良くないから、うちの道場。」

静流 「ええ~~~、でも、一番人気あるよ『青竜館道場』。」

和馬 「門下生にはね。でもここまで緩いの、うちぐらいだよ。」

静流 「そうかなぁ。」

和馬 「玄武館の稽古、見たことある?」

静流 「ない。」

和馬 「だろうなぁ。」

静流 「厳しいの?」

和馬 「厳しいって言うか・・あれが普通なんじゃないかな。」

隼介 「で、試合には出れるのかな。」

和馬 「だから、分からん。」

隼介 「じゃあさ、じゃあさ、沙耶はどうすればここに残れるの。」

静流 「・・・・・。」

和馬 「どうしたもんかね。」

沙耶 「どうしたらいい。」

和馬 「・・・・・。」

沙耶 「ごめんね、こんな話急に。」

和馬 「分かった。父上に相談してくる。」

沙耶 「え、本当に?」

和馬 「うん、ちょっと待ってて。」

 和馬、部屋を出ていく。

沙耶 「ごめんね、こんな話につきあわせちゃって。」

隼介 「反対されてんだ。」

沙耶 「うん。」

隼介 「勝てって?親さん。」

沙耶 「うん。」

静流 「厳しいんだよね、沙耶んとこ。別に女だからいいのに。」

沙耶 「強くなれなかったら、意味ないし。」

静流 「別にいいし、強くならなくて。」

沙耶 「じゃ何で道場来てんの?」

静流 「ん?青春するためじゃんっ☆」

沙耶 「そうゆうのが嫌なんだよ、うちのお母さんは。」

静流 「何で。」

沙耶 「道場って鍛えるための場所でしょ。」

静流 「もっとさぁ、楽しくいこうよ。」

沙耶 「強くなりたいの。」

静流 「なんで?」

沙耶 「え?・・なんでって・・・。」

静流 「楽しい?」

沙耶 「楽しくはないけど・・・強くならないと・・・それに、」

静流 「ん?」

沙耶 「和馬だって迷惑してるよ。」

静流 「なんで?」

沙耶 「静流みたいなのが多いから、門下生に。」

静流 「迷惑って・・・」

沙耶 「いつか道場継がなきゃいけないから、このままじゃいけないって、前言ってた。」

隼介 「そうなんだ。」

沙耶 「よく言ってるよ。私の前では。」

隼介 「・・ああ、そう。」

沙耶 「楽しいのは良いんだけど、将来のこと考えると、って。」

隼介 「言ってた?和馬。」

沙耶 「うん。よく言うよ、私には。」

隼介 「・・そう・・。」

静流 「最近、仲良いね。」

沙耶 「ん?」

静流 「沙耶と和馬。」

沙耶 「そうかなぁ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「ねぇ、隼介。」

隼介 「え、そう?」

静流 「・・・・・。」

 沈黙。

隼介 「俺、手伝うよ。」

沙耶 「ん?」

隼介 「やれることあったら、なんでもやるよ。」

沙耶 「ん?」

隼介 「だから、試合のこと。」

沙耶 「ああ。本当に?」

隼介 「うん。・・っていっても、何やりゃいいか分かんないけど。」

沙耶 「だったらさぁ・・・」

隼介 「うん。」

沙耶 「・・本当はさぁ、隼介も試合あるから頼むのよそうと思ってたんだけど・・・」

隼介 「何々。」

沙耶 「つきあってくれない?」

隼介 「え。」

沙耶 「稽古。」

隼介 「あぁ。って言っても一日中稽古してるじゃん。」

沙耶 「夜は?」

隼介 「夜?稽古終わってから・・また稽古?」

沙耶 「うん。いや、ダメならいいんだけど。」

隼介 「沙耶がいいなら俺はいいよ。」

静流 「え~~~でも疲れてるでしょ。夜はやめときなよ。」

沙耶 「私は大丈夫。」

静流 「沙耶が良くても隼介は無理だよ。いつもの稽古やって、そのあと百人抜き稽古やってんだよ。その後なんて体力もたないよ。」

隼介 「俺は大丈夫。」

沙耶 「ありがと!本当にありがと!」

隼介 「おぅ。」

静流 「・・・・・。」

沙耶 「じゃあ、さっそく明日からお願い。」

隼介 「うん。」

静流 「私には教えてくんないのに。」

隼介 「ん?」

静流 「まえ、薙刀教えてくれるって言ったのに。」

隼介 「お前はまじめにやらねーじゃん。」

静流 「だってつまんないもん。」

隼介 「はぁ?いやいやいや。俺、まじめに教えたっしょ。」

静流 「だからつまんないんだよ。」

隼介 「ん?ん?ん?どゆこと?」

静流 「だって、そっけないんだもん。教える時。」

隼介 「そうか?」

静流 「そうだよ。」

隼介 「そうかぁ??」

静流 「そうだって。」

隼介 「そうかぁ。」

静流 「もっとさぁ、相手が楽しくなるように教えてくれればいいのに。」

隼介 「どうやって。」

静流 「それは隼介が考えるんだよ。」

隼介 「・・・(沙耶に)どう思う?」

沙耶 「やめちゃえば、道場。」

隼介 「だってさ。」

静流 「あ~~あ。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「あ~~~あ!」

沙耶 「なに怒ってんの。」

静流 「今しかないんだよ。再来年からみんな、徴兵だよ。」

沙耶 「だったら、なおさら稽古しなきゃ。」

静流 「今しかできないことやろうよ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「聞いてる?隼介。」

隼介 「俺は別に・・・っていうか、稽古楽しいし。」

静流 「楽しいんだ。」

隼介 「うん。」

静流 「好きなんだ。」

隼介 「好き。」

静流 「向いてないよ。」

隼介 「向いてるっしょ。」

静流 「向いてない。」

隼介 「向いてるっしょ。どう考えても向いてるっしょ。見ろよ、この体。あだ名は『熊さん』だぜ。」

 沙耶、クスっと笑う。

隼介 「『豪傑』とかならまだいいよ。『猛者』もまだいいよ。『熊さん』って。ってか誰だよ、最初に熊さんっつったの。」

沙耶 「ごめん私。」

隼介 「お前かぁ~~~!!」

 笑顔の隼介と沙耶。静流だけはまだ不満顔。

静流 「でも競ったりするの好きじゃないでしょ。」

隼介 「ん。」

静流 「争ったりさ。」

沙耶 「・・ああ。それは・・あるね、隼介。」

隼介 「そうか?」

静流 「そうだよ。」

隼介 「そうかなぁ。」

静流 「そうだよ。」

 隼介、ふと思い出したかのように鬱屈した表情に。それを見て、少女二人も同調してしまう。

隼介 「・・・うん・・そうだよ。誰だって・・嫌でしょ。」

 沈黙。各々、心の奥底にある『あの日』の記憶が蘇ってくる。

 清々しい青空。そこに流れる白い雲。雨の匂い。

 こんなに綺麗な映像なのに。こんなに透き通った空気なのに。

 魂だけはなぜか、真っ黒な石の塊になってしまった。

 『あの日』からだ。三年前のあの日から、自分たちは変わってしまった。

 真っ黒になってしまった固くて重い石の塊。

 それが、胸に埋まっている。隠しても隠しても、時おりふと顔を出す。

 三人しか知らない『あの日』の出来事。

 親友にも打ち明けられないまま長い時間が過ぎてしまった。

 きっとこのまま、死ぬまで隠し通していくのだろう・・・

 

 一方その頃、和馬は父の部屋の前に来ていた。父・藤堂翔馬(とうどうしょうま)はここ青竜館道場の道場主である。肩書きは立派だが、世間からは金のことしか頭にない成金ヤローだと思われているふしがある。

和馬 「父上、入ってもよろしいでしょうか。」

翔馬 「(声)おぉ!入れ入れ!」

 上機嫌な父・翔馬の声。ふすまを開ける和馬。そこには幾人もの若い女に囲まれて、酔いに酔っている翔馬の姿。

翔馬 「よぉ和馬。お前も女がほしいか。何人ほしい。ん?ん?でもあげな~~い☆」

和馬 「失礼いたしました。」

 ふすまを閉める和馬。

翔馬 「(声)待て待て待て。逃げるこたないだろ。なんか用があったんだろ。」

 ふすまを開ける和馬。

和馬 「はい、実は」

翔馬 「女がほしいと!?お前も女がほしいと!?ん?ん?でもあげ」

 ふすまを閉める和馬。

翔馬 「(声)待て待て待て。冗談だ冗談。なんか用があったんだろ。」

 ふすまを開ける和馬。

和馬 「はい、実は」

翔馬 「女がほ」

 ふすまを閉める和馬。

翔馬 「(声)待て待て待て。二度あることは三度ないと示しがつかんだろ。なんか用」

和馬 「玄武館道場との試合に関して、お聞きしたいことがあります。」

翔馬 「(声)おぉ、何だ。」

和馬 「玄武館の出場者の中に、女子門下生はおりますでしょうか。」

翔馬 「(声)え~~~!!!!???本当に女くれって話だったかぁ!!!????」

和馬 「違います。」

翔馬 「(声)・・あ、違うの。なんだ、つまんねぇ。」

和馬 「あちらに女子がいなかった場合、こちらも女子は出場できないのでしょうか。」

翔馬 「(声)そりゃそうだ。あ、ちなみにおらんぞ。あっちは7人とも男だ。」

和馬 「・・そうですか。」

翔馬 「(声)ん?」

和馬 「こちらの出場者に一人、女子がおります。」

翔馬 「(声)あぁ・・そうだった。至急代役たてんとな。」

和馬  「それが・・この者、どうしても試合で勝たねばならぬと言っておりまして。」

翔馬 「(声)出れんのだから仕方あるまい。」

和馬 「この試合で勝たねば、この道場をやめさせられるとのことです。」

翔馬 「(声)ぬ・・・親か。」

和馬 「はい。」

翔馬 「(声)ん~~~、とは言ってもなぁ・・・」

和馬 「なんとかなりませんでしょうか。」

翔馬 「(声)ちなみに、誰だ。その女子門下生ってのは。」

和馬 「夕凪沙耶です。」

 突如ふすまを蹴り飛ばす翔馬。吹っ飛ばされたふすまが、和馬の真横を飛んでいく。ものすごい焦りの形相で部屋から出てくる翔馬。

翔馬 「夕凪沙耶ぁ!??いかんぞぉ、あの娘をやめさせるワケにはいかんぞぉ。わが道場の看板娘だぞぉ~~~!!!!」

和馬 「父上。・・・声が大きいです。」

翔馬 「金づる失うわけにはいかんだろ!!!」

和馬 「父上。黒いの出てます。」

翔馬 「綺麗どころ集めてんだよ!師範代も門下生も!!」

和馬 「父上。出てますよ、黒いの。」

翔馬 「・・・・・すまん、とり乱した。」

和馬 「なんとかなりませんでしょうか。」

翔馬 「とは言ってもなぁ、出場者を女子に代えてくれなんて・・・承知せんだろうなぁ。うん、まぁ、分かった。かけ合ってみる。」

和馬 「ありがとうございます。」

翔馬 「うむ。」

 翔馬、部屋へ戻る。

翔馬 「お、ま、た、せぇ~~~☆ ごめんねごめんねぇ☆ 飲もう飲もう☆」

 和馬、礼をして去る。

 

 

 ところ変わって、隼介・沙耶・静流がいる部屋。いまだに沈黙が続いていた。そこへ和馬が戻ってくる。沈んだ空気を察するが、あえて和やかにほほ笑む。

和馬 「かけ合ってくれるって、向こうに。」

沙耶 「ありがと。」

和馬 「でも、ちょっとまだどうなるか分かんない。」

沙耶 「分かった。」

 和馬が来たことで、沈んだ空気は軽くなっていた。軽くなった心は、風の涼しさを感じさせた。心が沈むと五感まで鈍るようだ。ふたたび短い沈黙ができたが、さっきまでとは違いおだやかな空気であった。

沙耶 「なんか懐かしいなぁ。」

和馬 「ん?」

沙耶 「昔はよくこうやって四人でここに泊まってたじゃん。」

和馬 「ああ。」

静流 「隼介さぁ、昔っからここで暴れてたよねぇ。」

隼介 「いや、暴れてはないよ。」

沙耶 「暴れてた暴れてた。木刀とか槍とか、薙刀とか振り回してた。」

隼介 「木でできた奴でしょ、練習用の。」

沙耶 「いつの間にか道場の練習にまぎれ込んでるし。」

隼介 「まぁ、遊び場だったね、ここ。」

静流 「よく遊んでもらってたよね、年上の人たちに。」

和馬 「それが良かったんだろうなぁ。稽古が遊びみたいなもんだったから。」

沙耶 「和馬はさぁ、いっつも弓持ってたよね。」

和馬 「あぁ、玩具みたいなもんだったね。」

沙耶 「あ~~~思い出した。人に当てまくってたでしょ。」

隼介 「やってたやってた!」

静流 「ひどい奴だったよね。」

和馬 「いや、でも布巻いてたでしょ。矢の先に。」

沙耶 「だから?」

和馬 「だから、痛くないようにさ。」

三人 「痛かった!」

和馬 「ごめん。」

隼介 「ってか暴れてたのお前じゃん。」

和馬 「俺もひどかったけどお前もひどかったの。」

静流 「悪ガキだったよね、二人とも。」

隼介 「もういいじゃん。かなり前の話でしょ。」

静流 「昔はしょっちゅう怒られたよね、二人とも。」

沙耶 「そうだったそうだった。殴られてたね、翔馬先生に。」

静流 「あの頃から考えたら、いい奴になったよね、二人とも。」

隼介 「まぁ、子供だったし。」

和馬 「まぁ・・な。」

沙耶 「でもなんか、急にやんちゃしなくなったよね。」

和馬 「俺?」

沙耶 「2人とも。」

和馬 「う~~~ん・・・かな。」

隼介 「かなぁ。」

沙耶 「3年くらい前から。」

和馬 「あぁ、そうだったわ。」

沙耶 「でしょ。」

和馬 「隼介がさぁ、」

隼介 「なに?」

和馬 「なんか急に優しい奴になっちゃってさ、」

隼介 「俺?」

和馬 「うん。いや、もともと良い奴だったけど、穏やかになったって言うか、思慮深くなったって言うか・・・」

隼介 「ほぅ。」

和馬 「で、影響受けたのを覚えてる。」

隼介 「そうなんだ。」

和馬 「うん。なんか大人な感じになったから、俺も大人にならなきゃって。」

隼介 「え?え?俺に影響されたんだ!?」

和馬 「うん。そうだそうだ、思い出した。」

隼介 「初耳だわ・・・。ってか、俺、和馬の方がずっと大人に思えるけどな。」

和馬 「そうかぁ。」

隼介 「・・・あ、」

和馬 「ん?」

隼介 「3年前ってちょうど、入門した頃だよね。」

和馬 「だな。」

隼介 「本格的に武道始めたから・・かな?」

和馬 「かもな。人の痛みを知ったんだよ。」

沙耶 「なに大人ぶってんの。」

隼介 「いや、それはでかいと思うよ。」

和馬 「うんうん、ホントホント。」

沙耶 「人の痛みが分かる人は、木刀振り回したり、人に矢をぶつけたりしません。」

和馬 「や、だからね、あれからはしてないでしょ、そんなこと。」

沙耶 「でも弓は絶対に手放さなかったよね。」

隼介 「そうそう、どこ行くにしても弓持ってた。」

和馬 「もう体の一部だし。」

 沙耶、笑う。

和馬 「ん?」

隼介 「え、なに? いま別におかしくなかったよね。」

和馬 「なぜ笑う~~。」

沙耶 「いや、なんでもない。」

和馬 「だからなぜ笑う~~。」

沙耶 「今も変わってない。」

和馬 「・・・だから?」

沙耶 「可愛いなって。」

和馬 「ん??」

沙耶 「可愛いっていうか、男の子だなぁって。」

和馬 「ほぅ。」

隼介 「・・え!?笑うとこ!?それ笑うとこなの!?」

和馬 「し~~~~~、声でかい。」

隼介 「お、おぅ。」

 今度は静流も笑い出す。

隼介 「今度はお前!?」

静流 「なるほどね。分かる。」

沙耶 「分かるでしょ。」

隼介 「分かる?」

和馬 「分からん。」

 沙耶と静流、目が合う。また笑う。

隼介 「え!?何!?面白いの!??何が面白いの~~!!??」

和馬 「だから声がでかい~~~。」

 話は尽きず、若者たちの夜はふけていく。やがて話し疲れ、いつしか皆眠りに落ちていった。隼介もすでにまぶたを閉じ、眠りに落ちる一歩手前で、まどろみの中考えるともなく考えていた。

あの頃は良かった。なんて大人になったら思うのかな・・・

「楽しそうだな」とはよく言われた。うん、楽しかった。

でも、同時に怖かった。楽しいことばかりじゃないってこと、なんとなく予感してたから。

運命は、少しづつ布石を打ってくれている? 突然の闇に絶望せぬように、あえてその断片を、大人になる前に見せてくれるものだとしたら?

だとすれば『あの日』に起きたことは、その布石なのかもしれない。

思い起こされるは殺意の視線。

 

狂ってしまった人たちがこちらを睨んでいる・・・



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コミュニオン主題歌

『ひとすじの光』


作詞・作曲・歌 うおしーらん 


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