戦国Web小説『コミュニオン』第30話「もう帰ろう」

第30話 「もう帰ろう」

 

 民家を出た隼介。聞こえてきたのは戦闘音。金属と金属がぶつかり合う音、雄叫び、断末魔など。味方の軍勢が近くまで来たようだ。声のする方から足音が近づいてくる。何人か分からないが、少なくはない。そして姿を現す淘來兵たち。

 片手剣を持ち、甲冑を着ている。彼らは隼介を見ると立ち止まり驚愕する。そして覚悟を決めたようににらみつけ、構える。

 そうそう、これぐらい分かりやすいと良い・・・

 明らかに敵である。隼介は走り出す。そしてフルスイング! 淘來兵たちはそれを、すばやくバックステップでかわす。なんと、甲冑を着ているにも関わらず隼介の攻撃を全員がよけたのである。雑魚ではないようである。皆なかなかの手練れであることに間違いない。

 が、そんな彼等でさえ逃げてきたのである。戦況は明らかにこちらが優位に立っている。そして逃げた先にて遭遇したのが相葉隼介。大斬刀の悪鬼に出遭ってしまったが最期、さすがに彼らの命運も尽きたのかも知れない。

 隼介の袈裟斬り! それをかわして胴斬りを狙う淘來兵。見事な動きである。並の相手であれば、この胴斬りは直撃していただろう。が、相手は隼介。

 袈裟斬りの流れで回転し、左の後ろ蹴り! 豪快に蹴り飛ばされる淘來兵。間髪入れずにべつの淘來兵が側面から隼介に突きを放つ。が、それをすばやくかわすと同時にその手首を掴んだ。そして強く握りしめる。握力だけで手首は砕け、剣を落とす。

 さらに間髪入れずにべつの淘來兵が真っ向斬り! 大斬刀から手を放し、それをかわす隼介。大振りの真っ向斬りがすかされバランスを崩し、前のめりになったその淘來兵のうなじに手を当て、思いっきり地面に顔面を叩きつける!

 

 ・・・あっという間に三人を戦闘不能に追い込んでしまった隼介。それを見ていた残りの淘來兵たちが、あらためて驚愕する。実力の差を思い知った彼ら。束になってかかっても、勝てる気がしない。だが簡単に逃げれるとも思えない。

 ふたたび大斬刀を手にとり、ゆっくりと歩み寄る隼介。残る敵は三人。三人は隼介を囲んだ。しばらくそのままの状態が続く。

 突然背後にいた淘來兵が動いたのを察する。見ると彼は逃げ出していた。と思った瞬間、他の2人も逃げ出した。誰を追っていいのかすぐには判断がつかなかった。

 

 逃げられた。隼介に一瞬の隙をつくり、そして逃げ出す。戦闘力も人並み以上の彼らは、逃げ足も人並み以上であった。大したものである。

 そして、

 

 そう。それでいい。逃げたいのなら、逃げれるのなら逃げればいい。そう思う隼介であった。先ほどの姉弟らしき少年少女のことを思い出す。本当に姉弟なのかは分からないが、逃げれるものなら逃げて欲しい。

 まだ隼介は彼らがいた民家の前にいる。隼介、彼らのことが気になり、また中に入る。すると・・・いた。まだいた。

 

 少年は隼介に気づくと、ふたたび短刀を突きつけてにらみつけてくる。少女は横になっている。やはり彼女は動けないのだろうか。だとすると少年もここを離れないだろうか。

隼介 「・・・動ける?」

少年 「・・・・・。」

隼介 「今逃げないと、もう逃げれなくなるよ。」

少年 「・・・・・。」

 しばらく沈黙が続く。

隼介 「火の手が近づいてる。醒陵の兵士たちもすぐに来る。逃げるんだ。」

少年 「・・・・・。」

隼介 「逃げるんだ。」

少年 「悪鬼・・さん?」

隼介 「え。」

 少年は隼介のことを大斬刀の悪鬼であると認識していた。驚いた隼介。こんな小さな子供まで、その名を知っているなんて。

隼介 「・・なに?」

少年 「なんでこんなこと、するの?」

隼介 「・・・・・。」

 少年は変わらず短剣を突きつけたまま話しかけてくる。

隼介 「ごめん・・・俺にも・・・分からないんだ。」

少年 「・・そうなんだ・・・分からないんだ。」

隼介 「・・・ごめん。」

 いつかの言葉が蘇ってくる。

 「なんで・・こんなこと、するの。」

 「それはこっちのセリフだよ!」

 誰が誰に言って、誰に返したのかすら忘れてしまったが、これらのフレーズだけは覚えている。

 

 ・・あぁ・・・連鎖してるんだ・・・悪意が、憎悪が、怨恨が・・・

 

 そしてそれは、何も知らない人達にぶちまけられ、染み込んで、また次の誰かへとぶつけられることになる。もしかしたら何十年も、何百年もこんなのが続いてる? いや、もっと長い? だとしたら、それこそ本当の怪物だ。

 世代を超え国を超えて はびこる大きな怪物。そして決して死なない。普段は形をもたず、悪意・憎悪・怨恨といった目に見えないエネルギーとして息を潜めているが、条件がそろったとたん、それは形となって現世に姿を現す。

 

 そう、大斬刀の悪鬼も、それが目に見える形として現れた姿の一つ。

 

 そして気づいたことがもう一つ。この少年は、かつての自分だ。誰かを守ろうと必死になっているんだ。あの時の自分は、「敵」を殺すことで難を逃れた。

 が、この子は逆に「敵」に殺されるだろう。守ろうとした人もろとも。自分にはたまたま、強靭な肉体があっただけのこと。この少年とて同じこと。

 成長し強さを手にしたなら、殺す側にまわっただろう。同時に、自分とてこの少年のように幼ければ、やはり殺される側にまわっただろう・・・

 

 

 外の喧噪が近づいてくる。足音が近づいてくる。かなり多い。それはこの家の前を通過していく。逃げている足音のようである。兵士なのか町人なのかまでは分からない。とにかく多くの人が逃げている。

 隼介の中で『あの日』がオバーラップしてくる。恐怖にひきつり逃げる少女。それを追いかける、狂ったような暴徒たち。それを返り討ちにした大柄な少年。隼介に戦慄がはしる。明らかに動揺している。

少年 「・・・悪鬼・・さん?」

 喧噪に悲鳴が加わってくる。凄まじい阿鼻叫喚が耳を刺す。外で何が起こっているのかは明らかである。それは少年にも分かっている様子。少年も戦慄していた。

 

 そしてこの家に、醒陵兵たちが突入してきた。隼介と目が合う。彼等は恐ろしい目をしていた。隼介にはそれが、あの日の暴徒に見えてくる。

兵士 「・・・1番隊の隊長殿でありますか?」

隼介 「・・・・・。」

兵士 「我々は4番隊であります!」

隼介 「・・・・・。」

兵士 「4番隊の各小隊もこちらの戦域に展開しております!」

隼介 「・・・・・。」

 口調こそ丁寧ではあるが、勢いがあった。抵抗する者は容赦なく手をかけるであろう勢いが。現に彼らの槍には血がしたたっていた。顔や防具にも鮮血がついている。今さっき人を殺したばかりであろうことがうかがえる。

隼介 「え?」

兵士 「・・・・・。」

 今の隼介には、もはや彼の言っている意味が理解できなかった。隼介の心は半分、14歳の『あの日』に戻ってしまっていた。

 不審に思う兵士たちだったが、奥にいる少年に目を向ける。隼介にばかり気が向いてしまい気づかなかったが、短剣を突きつけているではないか。

 その後ろにも誰かいる。兵士たちの目に殺意が宿る。命令は、もはや彼らを支配してしまっていた。

 

 「見たなら殺せ」という命令が・・・

 

 歩み寄る兵士たち。少年には理解できた。自分は間もなく殺されるということが。激しくなる動悸。硬直する体。逃げ出したいけど逃げるわけにはいかないという思い。

 ・・あぁ・・やっぱり、僕たち・・ここで死ぬ・・・

 

 

 

 鮮血が舞う。壁に叩きつけられて落ちる体。3人が即死した。死んだのは兵士たち。殺したのは隼介。

 

隼介 「・・・・・。」

少年 「・・・・・。」

 何を考えているのか分からないような、呆然とした隼介。そんな隼介を、そしてこの現状を、これまた呆然と見つめている少年。想像を絶する光景を目の当たりにし、心臓の鼓動はさらに激しく脈打っている。

 人がやすやすと斬り飛ばされ、宙を舞って落ちた。目の前に立っているのは恐ろしいほどの力をもった怪物。確定したであろう自分の死が、いまだ訪れてこない。理解が追いついてこない少年。


 そして家の出入り口へと歩き出した隼介。外に出ると、醒陵兵たちが走り回っていた。地面にはおびただしい数の死体が倒れている。近くの兵士たちが隼介に気づく。そして歩み寄り何かを言おうとした瞬間、斬り飛ばされていた。地に落ちる兵士たち。視線が集まる。

 

 沈黙。喧噪の中、隼介の周囲だけが沈黙する。状況を理解できない兵士たちが隼介に歩み寄ったとたん・・・またも彼らは斬り飛ばされた。それを見ていた兵士たちは唖然としている。

 

 

 隼介は・・・限界を超えてしまったのだ・・・

 精神が崩壊した隼介は歩き出す。間合いに入った者は誰であろうと斬り飛ばしていった。兵士たちは隼介を説得しようとするも、話が通じない。

 間合いに入るわけにもいかないので、だんだんと隼介の前方十数メートルに人だかりができてくる。人だかりは押されつつ、隼介とともに移動していく。隼介の後ろからも、距離をおいて兵士たちがついてくる。が、やはり誰も止められない。

 

 「皇さん呼んでこい! あと梶さんと剛田さんも!!」

 「将軍にも伝えろ! すぐに伝えろ!!」

 精鋭部隊と恐れられた歩兵1番隊の兵士たちも、隼介が相手では手も足も出ない。むしろ彼の強さと恐ろしさを誰よりも間近で見てきたぶん、よけいにである。1番隊の彼らがこれである。他の部隊の兵士たちでは話にならない。

 

 

 町の外で殲滅戦の推移を見守っていた楠将軍。かたわらには和馬の姿が。今回の戦闘では、弓兵隊ではなく参謀として参戦していた模様。他にも重臣たちがおり、今はここが本陣と呼べる陣である。

 いつの間にか雨が降り出していた。雨は少しづつ勢いを強めていく。町のあちこちで上がっていた火の手も消えてしまった。が、それでも構わない。もはや勝ったも同然であろう。

 そこへ立て続けに報告が入る。しかし、どうも要領を得ない。報告をする彼らは皆焦りの表情をあらわにし、

 「異常事態です!」「緊急事態です!」「敵の精鋭部隊出現、被害が出ております!」「詳細は不明です!」などと、矢継ぎ早に告げていった。

 

 これらの報告を受けた時点では、敵の抵抗が多少あった程度だろうと思った。異常事態とはまた大袈裟な、と鼻で笑った。だが、

 「隊長に異変が!」「味方が攻撃を受けております!」

 との報告が入った時点で、それまでの報告が何を意味するのかを理解した。将軍をはじめ和馬も重臣たちも、隼介が錯乱してしまったことを理解した。

 やがて町から人だかりが出てくる。100人ほどの人だかりが、じょじょに楠将軍のいる本陣へと近づいてくる。その中心にはぽっかりと大きな空間が。中心には大きな体格、巨大な刀を持った鎧武者・・・隼介である。

 

 雨は激しさを増していた。激しい豪雨は兵士たちを、そして隼介の体を濡らしていく。

 陣の前に長槍隊が並ぶ。そして槍衾が形成される。人だかりは隼介と槍衾に挟まれまいとして、円の前方が開いていく。隼介はスピードを変えず槍衾へと歩いていく。

 そして間合いに入ったとたん、隼介は大斬刀で槍の穂先を薙ぎ払う。隼介は殺すつもりなのだ。敵なのだ。歩みを止めようとする者はすべて・・・

和馬 「退けーー! 長槍隊、退けーーー!!!」

 参謀である和馬の命令である。長槍隊の兵士たちは命拾いしたとばかりに隼介に道をあける。真っ二つに割れた長槍隊の間を、隼介は真っ直ぐ歩いてくる。激しい雨の中、死んだような目をしながら呆然と歩き続ける。

和馬 「隼介、止まれ!」

隼介 「・・・・・。」

 隼介は止まらない。本陣に向け歩き続ける。その間に立ちふさがる和馬。

和馬 「隼介ぇ!!」

隼介 「・・・・・。」

 どんどん近づいてくる隼介。距離にして30メートル。

和馬 「・・・・・。」

 和馬、弓を構える。

和馬 「隼介・・止まるんだ。」

隼介 「・・・・・。」

 止まらない。距離にして20メートル。弓に矢をつがえる。

和馬 「止まらないなら・・・」

 止まらない。距離にして10メートル。弓をひく。

和馬 「・・・・・。」

 止まらない。距離にして5メートル。

和馬 「・・・・・。」

 弓をおろす和馬。距離にして2メートル。隼介の殺傷圏内である・・・

隼介 「和馬・・・」

和馬 「・・なんだ。」

隼介 「道・・こっちであってたっけ?」

和馬 「・・・え。」

 隼介は本陣に向かっていたわけではなかった。ただただ、来た道を帰ろうとしていただけなのだ。

隼介 「帰ろう・・もう・・帰ろう・・・」

和馬 「・・・そうだな。」

 微笑む隼介。微笑み返す和馬。安心したのか、意識を失い倒れる隼介。

 

 

 

 隼介は国境の北部駐屯地へ強制送還される。訓練を受けた、初陣を迎えたあの場所へ。表向きは任務終了に伴い帰還したことになっている。本来なら厳罰に処されるところだが、これまでの戦功を考慮しこのような対処となった。

 また、戦争が終わったわけでもなく、英雄としての隼介の存在がまだまだ必要であることも理由にある。いずれにせよ、隼介は戦線離脱となった。

 

 しかし、隼介の意識が戻ることはなかった・・・

 


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コミュニオン主題歌

『ひとすじの光』

作詞・作曲・歌 うおしーらん


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