戦国Web小説『コミュニオン』第21話「斬りこみ隊長」

第21話 「斬りこみ隊長」

 

 先の戦闘で、隼介と和馬は高い評価を受けた。隼介はその戦闘力を。和馬はその戦術眼を。そして隼介は斬りこみ隊長に抜擢され、同時に歩兵1番隊の隊長に昇格。それに伴い、新品の甲冑が贈られた。

 鎧・兜・籠手・脛当・佩楯(はいだて。太ももの前面の防具)のフルセットで、全身の大部分を守ることができる優れた防具である。ただ隼介は視界が狭まるのを嫌い、兜だけは受けとらなかった。頭部の守りは今まで通り、額当てのみの軽いものである。和馬もまた弓兵1番隊の隊長兼・参謀となる。

 和馬にも隊長昇格時に甲冑が贈られていたのだが、動きやすさを重視し軽装のままであった。

 

 さっそく鎧を着てみる隼介。威風堂々とした鎧武者が姿を現す。金属でできているため、それなりの重量がある。が、隼介からしてみれば大した重さではなかった。腕を上げたり膝を上げたりして、動きやすさを確認する。問題なし。

 それもそのはずで、この鎧は隼介専用のオーダーメイドであった。隼介の体にフィットした形状に仕上がっているため、使いやすくて当然である。

 腰の刀に手をかける。そして居合抜き! そこから袈裟斬り、斬り上げ、真っ向斬りとすばやく動きを繋げる。悪くない。動きにくさはすこしも感じない。

 納刀し、次に手にしたのはあの巨大刀。まずは右手で軽く振り回してみる。頭上で振り回したので袖(そで。肩の防具)が邪魔になるかと思っていたが、そんなことはなかった。

 その流れのまま勢いよく袈裟斬り! 斬る瞬間だけは両手持ちにし、振り終わりで左手に移行。風をきる音が鈍く鳴る。悪くない。隼介はこの鎧を気にいった。

 

 短い休息のあと進軍が再開されることとなったが、この平地に残っているであろう淘來残党軍を抑えるため、また補給路の警備のためロズガード軍はこの地に留まる。大打撃は与えたものの、完全に制圧したとも言い切れないためである。

 やはりというべきか、進軍する前にまたしても例の問題が発生した。先の戦闘により捕えられた捕虜の扱いについてである。やはり捕虜たちは処刑されるやも? という流れに。

 ふたたび反対した隼介により、収容所に送られることとなる。が、それに激怒する大山。上役が決定したことなので表立って異を唱えはしないが、あらためて隼介との確執が浮き彫りになる。

 

 決して仲が悪くなったわけではない。実戦においての隼介の勇猛果敢な戦いぶりは、大山の中でも彼の評価を高めていった。隼介を尊敬もしていた。だがそれでも大山は、この件に関してだけは納得ができなかった。

 

 

 

 楠率いる北部攻略部隊は東進し、山岳地帯へと足を踏み入れる。季節はまだ夏だが奥に入れば入るほど涼しく、体力的には平原を進むよりかは楽であった。時には細い山道を進み、森の中を歩き、ある峡谷へとさしかかる。

 切り立った崖の間を見下ろせば、かなり下に川が流れているのが見える。こんなところを転落してしまえば、おそらく助からないだろう。

 山の斜面に拓かれた細い道は、人がギリギリ二人並べるか並べないかといった幅しかない。しばらく進むと、向かい側の山との間隔が近づいていく。距離にして30メートルといったところか。

 

 吊り橋が姿を見せる。わりと頑丈そうな吊り橋が、こちら側の山の斜面と向かい側の山の斜面をつないでいる。幅も人が二人並べるほどはあり、ゆっくりであれば馬も通れそうである。

 吊り橋は今進軍している山道の横側から出ており、向かい側の山につながってはいるものの、そちらは少し進めば道は途絶え険しい山林が待ち構えていることが、斥候(せっこう。少人数の偵察隊)の調べですでに分かっている。なのでこの吊り橋は無視し、山道をそのまま進軍していく。

 

 霧が出てきた。視界が少し悪くなったが支障があるほどではない。と思っていた矢先、突然矢の雨に見舞われる。真横からの攻撃! どうやら向かい側の山の斜面から狙われているもよう。霧のため敵の姿が目視できない。混乱する兵士たちが何人か崖から転落していく。

和馬 「落ち着いて対処せよ! 弓隊は応戦!」

 和馬の指示により反撃が開始されるが、敵の位置が捕捉できないため正確性に欠ける。が、だとすれば相手にとっても同じはず。

楠  「後退! すみやかに後退! 敵の攻撃よりも崖に気をつけろ! 」

 混乱を鎮めつつ、来た道を戻っていく。

 

 

 山中の森の中にて態勢を立て直す。被害を確認したところ、そこまで多くの死傷者は出ずに済んだ様子。とはいえ、あの峡谷で敵が待ち伏せしていることが分かった以上、このまま進軍を続けることができなくなった。

 敵の数はまだ分からないうえ、地の利も敵にある。まずは斥候を出し、地理や敵の情報を把握することが先決である。それまでは警戒態勢を維持しながらここで待機となった。

 

 

 山中にて身を潜めること数日、以下のことが分かった。

 しばらくあの峡谷の道を進めば、また吊り橋があり向こう側へ渡れること。吊り橋を渡らず更にそのまま進んでいっても、歩いて川を渡れる場所があること。川や峡谷は入りくんでおり、同様の吊り橋が幾つか点在すること。切り立った崖も数多く、転落に注意しなければならない箇所が幾つもあること。向こう側の山中に敵の砦があること。敵の戦力は少なくとも1000はいること。弓兵・弩兵・歩兵がいることはもちろん、騎兵までいること。

 それも山中でも高い機動力が出せるよう訓練された騎兵たちが数十騎いること。

 

 数で言えばまだこちらの方が上だが、なにせ峡谷がある。飛矢の雨にさらされる道を通過しなければ話にならない。

 そして、数が上とは言ったものの、二倍いるかいないかといったところ。先の二度の戦闘により、楠部隊は半数以下となっており、そのうち戦闘要員は2000名余しかいない。

 この数でゴリ押しするのも無理があると思えた。が、幸い援軍が来る運びとなった。ようやくである。援軍が到着し態勢が整いしだい、攻撃が開始されることとなる。

 援軍を待つ間にも、次々と新しい情報が届けられる。現在地から敵の砦までの道は幾つかのルートがあり、迂回すればいくらでも攻めようがあること。

 数さえそろえば挟み撃ちすることも可能であること。これらの情報がもたらされる度に、どんどんとこちらが有利になっていく。

 

 それにしてもこの部隊の斥候たちは優秀である。危険な敵地で、必要な情報を次から次へと入手してくる。その優秀な斥候の一人に、皇がいた。和馬の推薦であった。彼は霧に乗じて敵地にもぐり込み、霧に乗じて戻ってくる。

 たとえ任務中に霧が晴れてしまってもそのまま潜伏、敵状を偵察、さらに多くの情報を得て戻ってくる。まさに適任であった。

 

 しかし、意外な人物も偵察任務についていた。大山である。彼はこの任務に志願し、皇に教えを請いながら重役をこなしている。おかげで周囲の地理や敵状が頭に入っていた。

 なぜ彼はこの任務に志願したのか? 不思議に思う者もいた。向いているとは思えない。誰がどう見ても戦闘専門タイプではないか?

 だが、それには理由があった。今のままでは隼介に追いつけない。戦闘以外でも手柄を立てて、発言力を高めなければと考えていたのだ。

 

 その理由とは、捕虜に関してである。許せなかったのだ。敵兵を生かしておくのが。なぜ生かしておく必要があるのだ? 生かしておいたら、また災いの種になるじゃないか。しかもこちらの労力を割いてまで、というのがさらに納得がいかない。

 ひとしきり偵察任務を終え上層部に報告。上層部の者たちは岩の裂け目にいた。外から見ると狭そうだが、中は意外と広かった。重要な役割をこなしてはいたが、別段高く評価されることもなく「うむ。ご苦労。」とだけ言われて終わった。

 ・・・やっぱり目立つ仕事しなきゃ評価は得られんか・・・

 残念な思いではあったが、今までにはなかった力が身についたという自負もあった。プラマイで言えば、少々のプラスといったところ。落胆することもなく、その場を後にする大山。

 岩穴から出て歩き出す。森の中に、木の枝などで雨避けが作られている箇所が幾つもあった。布を屋根代わりにしているところや、小屋もどき(?)が作られているところもある。兵士たちの寝床である。

 彼らは野宿している。あまり住みやすい環境とは言えないが、皆もう慣れてしまっている感がある。大山も仮眠をとろうと自分の寝床へ向かっていた。

 

 隼介を見かけた。巨大刀を振り回している。どうやら稽古をしているようである。文字通り巨大な刀を軽々と振り回す様は、まさに豪傑といった貫禄を感じさせる。先の戦闘での隼介は本当に凄かった。

 捕虜に対しては寛大な隼介だが、あの時の、戦場で巨大刀を振り回していた時の隼介はどこか違っていたようにも見えた。敵に対する慈悲などみじんもない。そりゃあ戦場なのだから当たり前だが、それでも以前とは違う。初陣や二度目の戦闘では、恐怖や怒りといった感情が臨界点まで達して爆発してしまったような状態だった気がする。

 

 ・・・まぁ、みんな慣れてくさ。何をするにしたって。捕虜に対する考えも変わってくんねぇかなぁ・・・

 そんな冷めたことを思いながら通り過ぎていった。

 

 

 一方の隼介。大山が思った通り、先の戦いでの彼は今までとは違っていた。怖いから戦うとか、怖いから殺すといった理由で動いてはいなかった。

 無心だった。ただただ、この武器を、作られた目的のままに使用した。そして、自分の体のおもむくままに動いた。無心、とは言いつつ・・・愉しかったのかも知れない。

 

 いやいや、そんなはずはない! 愉しいはずがない! と、心は否定する。しかし、体は愉しんでいるような気がする。隼介は巨大刀を振り回しながら、自分の体と対話する。

 

 愉しいか?

 ・・あぁ・・愉しい。

 何がそんなに愉しい?

 ・・この武器の重さ。硬さ。

 重さ? 硬さ? それが愉しいのか?

 これを思いっきり振るのが愉しい。

 ・・・そっか。でも、人にぶつけるんだよ? それでも愉しい?

 ・・敵なら・・いいでしょ?

 ・・・・・。

 

 隼介、自分との対話の中で、なんとなく自分の体(潜在意識?)の思っていることが理解できてきた。やはり愉しいのだ。

 なぜ?

 この武器を存分に使うことで、自分のこの常人離れした肉体も使い切ることができるから。それもこれも、淘來兵を「敵」だと断ずることで成し得ていることも分かった。

 

 斬りこみ隊長。

 隼介は許可されたのだ。無心になることを。無心になって敵を斬りまくることを。むしろそれが推奨され、義務ですらある。考えてはいけない・・・

 敵だから倒す。考えてはいけない・・・

 

 しかし、それでも隼介は「敵」以外に対してはとたんにその心を乱される。戦意のない者は、とても敵と断ずることはできない。無抵抗な者が横暴にあっているとなれば、拒絶反応を起こす。

 

 

 

 さらに数日後、ようやく援軍が到着する。6000名余の戦闘員、そして2000名余の補助要員(非戦闘員)が楠部隊に合流、総勢10000名を超える。援軍に来た人員の方が数が多かった。

 周囲は人であふれかえることとなる。部隊は場所を少し移すことに。山中の比較的に平らなところが多い場所を探す。そして川からは遠すぎず近すぎずといった高原を見つけ、陣を移した。

 水源が近い方が良いが、増水する可能性や水攻めにあう危険も考慮しての判断である。まずは大量の木が切り倒され、小屋がいくつも作られた。ここでどれだけ滞在するか分からないので、念のため長期戦に備えるためである。

 

 この日の夕方には、多くの兵員宿舎の他、武器庫、食糧倉庫や看護棟まで作られた。山の森の中に突如、臨時駐屯施設が出現したのである。まだ不十分であるが、暗くなってきたので作業は中断。しかし、明日には一通り形にはなっているであろう。

 見事なものである。こういった建築技術をもった者たちや、輜重(しちょう。補給関係)に携わる者たち、傷を負った兵士を治療する者たちが補助要員としてサポートしてくれる。補助要員のありがたみを感じる兵士たち。昨日までよりは快適な空間で過ごすことができる。

 

 

 さっそく出来たばかりの宿舎に入る隼介。巨大刀を壁に立てかけ、腰にさした大刀と脇差を外して置く。そして鎧を脱いで籠手・脛当・佩楯・額当てといった防具を外す。解放感。大の字に寝転ぶ。

 しばらく寝転んでいたが起き上がり、足の裏やふくらはぎのマッサージを始める。気持ちいい。ここのところ酷使しまくっていただけに、ここぞとばかりに体のメンテナンスを始める。体に感謝しなければ。いつもありがとう。

 それから隼介は防具を磨き始めた。道場にいた頃は当たり前のように手入れしていたものだが、進軍が始まってからはそれどころではなかった。新品の鎧がすでに少し汚れていた。

 汚してしまってごめんなさい。いつも守っていてくださり、ありがとうございます。

 そんな思いを込めて磨く隼介。磨けば磨くほど、本来の隼介が戻ってくる。寛容さが、謙虚さが、穏やかさが戻ってくる。そこへ和馬がやってきた。

和馬 「よぉ。」

隼介 「おぉ。」

 座り込んだ和馬、大きく伸びをする。

隼介 「珍しいね、こっち来るの。」

和馬 「そういやぁ、そうだな。」

 弓隊の隊長となってから、和馬は今までほど隼介たちのところへ出向くことがなくなっていた。

隼介 「こっち来てても大丈夫なの?」

和馬 「ん?」

隼介 「作戦会議とか、そういったのはないの?」

和馬 「とりあえず終わった。」

隼介 「そうなんだ。」

和馬 「まずはここの陣地を完成させてからだって、攻撃は。」

隼介 「そっか。」

和馬 「ようやくまともな場所で寝れそうだ。」

隼介 「確かに。」

和馬 「醒陵もこれぐらいの技術はあるんだな。」

隼介 「何が?」

和馬 「臨時の建設というか、陣地構築?」

隼介 「あぁ。」

和馬 「正直なめてた。」

隼介 「ハハッ。」

和馬 「ただ・・ロズガードの方が上かな。」

隼介 「やっぱりそう思う?」

和馬 「うん。出来の良さもそうだし、何より早い。」

隼介 「まぁね。」

和馬 「それに、兵士がそれ出来ちゃうってのもまた・・・」

隼介 「凄いね。」

 寝転ぶ和馬。

和馬 「一万か・・・。」

隼介 「何が?」

和馬 「今のこの部隊、一万人超えたよ。」

隼介 「え、そんなに?」

和馬 「うん。」

隼介 「人足りないとか言ってるわりには、けっこう来たね。」

和馬 「志願兵が多いみたい。」

隼介 「へ~~。」

和馬 「隼介が頑張ってくれたおかげかな。」

隼介 「いやいや。」

和馬 「でもそれ、けっこうマジだよ。」

隼介 「何が。」

和馬 「隼介の武勇伝に触発された人がどんどん増えてるって噂。」

隼介 「武勇伝って・・・。」

和馬 「ま、実際に活躍してるわけだし。」

隼介 「そっか・・・。」

 これがプロパガンダというやつか・・・。自分の知らないところで、どう利用されているのか分かったもんじゃない。

和馬 「しかしまぁ・・・」

隼介 「ん?」

和馬 「遠くへ来たもんだな。」

隼介 「あぁ・・・。」

和馬 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

 黙り込んでしまう和馬。それを受けてか隼介も黙ってしまう。いろいろと思うことはあるが、言葉にする必要もないか、といった感じであろうか。ふたたび防具を磨きだす隼介。

和馬 「そういえば、」

隼介 「ん?」

和馬 「来たよ、看護婦として。」

隼介 「え。」

和馬 「ここに来てる。」

 え? 沙耶が?

隼介 「そうなの?」

和馬 「うん。さっき会った。」

 さっき会ったって言うのは、自分より先に和馬に会いたかったってこと? 沙耶は和馬に会いに来たってこと?

和馬 「隼介にも会いにくると思うよ。」

隼介 「・・・・・。」

 宿舎の入り口に誰かがいた。少女がいた。

静流 「隼介っ。」

 静流であった。

和馬 「お。来たか。」

静流 「おぅ。」

隼介 「・・あ、静流か。」

静流 「うん。静流だ。」

 勘違いしていた。てっきり沙耶が来たのだとばかり思っていた。

静流 「うわぁ・・・傷ふえたね。」

隼介 「あぁ。」

 久しぶりに隼介に会った印象は、傷がふえたことのようだ。確かに北門での初陣のあと、二度の戦闘を経験し傷を何度も負った。が、どれも軽いもので、幸い大きなケガはしていない。それより、静流だってケガしていたはずだ。むしろ隼介よりも深い傷を負っていたはずだが。

隼介 「静流は大丈夫?」

静流 「何が。」

隼介 「足。ケガしてたでしょ。」

静流 「治った。」

隼介 「ホントに?」

静流 「うん。まぁ、完全にってわけじゃないけどね。」

隼介 「そっか。」

 静流がケガしてからそれほど時間は経ってないはず。まぁ、ここまで来れたっていうことは大丈夫なのだろう。実は元々、思ってたほど深い傷ではなかったのかも知れない。

隼介 「無理しないでね。」

静流 「心配してくれるんだ。」

隼介 「そりゃぁ、まぁ。」

静流 「ありがと。・・・あ、それ隼介の?」

 静流の視線の先には鎧がある。磨いたばかりでピカピカに光っている。黒い金属部分と赤い威し糸(おどしいと。縅糸とも書く)の色合いが、派手すぎず地味すぎず、それでいて強い存在感をかもし出していた。

隼介 「うん。」

静流 「カッコ良い~~!」

隼介 「ありがと。」

静流 「触ってもいい?」

隼介 「いいよ。」

 静流、鎧に近づく。そして恐る恐る触ってみる。

静流 「うわぁ~~~、鎧だぁ~~~。」

隼介 「うん。鎧だし。」

静流 「これ着て戦ってるんだ。」

隼介 「うん。って言っても、まだこれもらってから戦ってはないけど。」

静流 「そっかぁ。じゃぁ新品なんだね。」

隼介 「うん。」

静流 「和馬は?」

和馬 「鎧?」

静流 「うん。」

和馬 「もらったけど使ってない。」

静流 「何で?」

和馬 「俺は動きやすい方がいいから。弓兵だしね。」

静流 「ふ~~ん。・・・ねぇ・・あれは何?」

 静流の視線の先には巨大刀。壁に立てかけてある巨大刀は、あまりに大きい。そしておぞましくも見えた。そのフォルムは禍々しく、明らかな殺意が込められている。相手を防具ごと叩き斬ってやろうという作り手の意思が感じられる。

 こんなものを扱える人間は、並外れた筋力の持ち主しかいない。どう考えても隼介の武器である。

静流 「・・・・・。」

 巨大刀の刃から、血が滴っているような・・・そんな錯覚が。

隼介 「あれも、俺の。」

静流 「・・そっか・・」

隼介 「うん。」

 隼介が人を殺めたことがあるのは知っている。そして今も殺めていることだろう。槍であろうが刀であろうが、殺すことには変わりないはずなのに、この巨大刀から感じる殺人力(?)は不気味すぎた。

 殺傷力というより、やはり殺人力といったフレーズがしっくりくる。この大きさ、この形状が、とにかく殺したがっている。そんな意思を感じた。

静流 「・・・・・。」

隼介 「それももらえた。将軍からじきじきに。」

静流 「・・ふ~~ん、そっか。」

隼介 「・・うん。」

 静流があまりいい印象を持たなかったのは伝わっていた。話題を変えようと思った時、どかどかと兵士たちが宿舎に入ってきた。皆、歩兵1番隊の隊員であり、戦場での隼介の活躍を間近で見てきた者たちである。

 彼らは和馬に気づき、あいさつする。若いが隊長なので位は和馬の方が上である。その上、参謀ともなればただの隊長よりも上であり、隼介よりも高いことになる。

 

 そしてその後、静流に目を向ける。隼介が自分の幼馴染だと告げると、彼女にもあいさつをする。気さくな雰囲気にのまれ、瞬く間に兵士たちは静流と仲良くなってしまう。そして静流は、隼介や和馬の幼い頃の話をしだす。兵士たちは喜んでその話を聞いていた。

 静流は戦場での隼介の様子を聞きたがった。喜んで話す兵士たち。が、聞いたことを後悔することになる。兵士たちは隼介の圧倒的な戦いぶりを熱く語った。それはもう英雄のごとき扱いであった。こんな凄い人は他にいない。強すぎる。

 

 隼介が彼らからどれほど好かれているのか、尊敬されているのか静流は実感する。それはそれで良かった。だが、具体的な描写が良くなかった。

 隼介が振るう巨大刀が相手にどんな結果をもたらしたのか。少々オブラートに包んではいたものの、おぞましい映像が静流の脳裏に浮かんでしまう。静流の顔色を見て、それを察する隼介。

隼介 「もういいじゃん、この話は。そろそろ戻らなくていいの?」

静流 「あ、うん。」

 強引に話を切る。兵士たちは、まだまだ話したりない様子。

隼介 「ありがとね、来てくれて。でも本当、無理しないで。」

静流 「・・うん。」

隼介 「戻らなくていいの? 看護婦さんも所属部隊? みたいなのあるんでしょ。」

静流 「あるよ。宿舎は向こうにあるから。ケガしてなくても遊びにきて。」

 「行く行く~~。」と、ノリの良い兵士たち。しかし、

隼介 「それは怒られるでしょ。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「ホントありがと。」

静流 「・・うん。じゃ。」

 去っていく静流。なんとなく隼介に追い出されたような気分であった。しかし隼介に悪気はなかった。むしろ逆で、静流に嫌な思いをさせたくなかったのだ。あのまま放っておいたら、兵士たちはまだまだ戦場での話を続けただろう。

 またそれとは別に、規則的にこの場所で雑談をしていることがあまり良くない気もしていた。看護婦がどれだけ自由行動が許されているのかは知らないが、自由奔放な静流が規則を破って兵員宿舎へ遊びに来ているのだとしたら、それはまずい。そんな配慮もあったのだ。

 とは言え、強引に話を切りすぎたな、という思いもあった隼介。すぐに後を追いかける。

隼介 「静流。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「なんか・・ごめんね。」

静流 「何が?」

隼介 「追い出しちゃったみたいな感じになって。」

静流 「ん~ん。」

隼介 「気にしてないならいいけど。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「・・・ん?」

静流 「いや・・その・・・」

隼介 「何?」

静流 「・・ん~ん、何でもない。」

隼介 「そっか。じゃ。」

静流 「じゃ。」

 宿舎へと戻っていく隼介。その後姿を見つめる静流。静流が言いかけてやめたことは、あの巨大刀のことであった。正確には、あの武器を持って戦う隼介のこと。久しぶりに再会した隼介は、今までと変わらない隼介だった。

 が、きっと戦場では違うんだろうな、といったこと。それにひいてしまっていた。

「頑張ってんのに、ひいちゃってゴメン。」「なんかあの でっかい刀、怖いね。」と言ったところで隼介も困ってしまうだろう。だから言いかけてやめた。隼介の消えた背中を見ている静流。

 

 隼介と静流が二人で会話していたところを偶然見ていた者がいた。大山である。歩み寄る大山。

大山 「静流。」

静流 「・・大山?」

大山 「おぅ。久しぶり。」

 笑顔で返す静流。

静流 「久しぶり。元気してたか。」

大山 「おぅよ。」

静流 「隼介・・・」

大山 「・・・・・。」

静流 「頑張ってんだね。」

大山 「・・・ああ。なんてったって、斬りこみ隊長だからな。」

 笑顔が消える静流。

静流 「・・・怖い名前だね。」

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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