戦国Web小説『コミュニオン』第42話「なかったことに」

第42話 「なかったことに」

 

 黙り込んでしまった大将軍。

 しばらくの沈黙を挟み、こう告げた・・・

大将軍「楠。」

楠  「はっ。」

大将軍「・・・左将軍の任を解く。」

 沈黙。

楠  「承りました。」

 またも沈黙。

楠  「私には、この会議に参加する権限がございません。退席させていただきます。」

 去っていく楠。会議は続いた。大将軍は空席となった左将軍に、蒼雲を任命した。そして淘來軍本陣を陥落させるべく進軍を命じる。そして残る将軍らにロズガード軍の接近を阻止せよとの命令をくだす。

 

 

 

 それから一ヶ月。牢獄にて。最近は隼介の口数が減ってきている。もうあまり話すことがないのだ。それでもいつも機嫌は良かった。特に何も話さなくとも、沙耶が近くにいてくれさえすれば満足していた。それは沙耶も同様であった。ここではいつも平穏な空気が流れていた。

 同じ敷地内の別の建物。いつも会議が行われている部屋では、張りつめた空気が流れている。連日ここには急報が舞い込んでいた。その多くが、戦線からのものであった。以下は、北部ルートを進軍した蒼雲率いる討伐隊からである。

 

 「敵主力部隊すでに帰還」「援軍求む」「増援されたし」

 「敵と交戦。敗北」「後退中」「山中の砦にて応戦中。援軍求む」

 「砦陥落。後退中」

 これを最後に連絡は途切れる。そして以下は、ロズガード軍の抑えのために出陣した部隊からである。

 

 「国境付近、平原にてロズガード軍発見。数3万。我が方の半数以下なり」

 「敵の動きなし。警戒を続ける」「敵と交戦。敗北」「後退中」

 「敵重装騎兵のみ追尾してくる模様」

 「後退、南下中。敵重装騎兵のみ追尾してくる模様」

 「我が方、国境付近にて布陣。」「敵と交戦。敗北」

 「中央門まで後退。追尾の敵重装騎兵、平原にて停止」

 

 

 つまり、淘來軍にもロズガード軍にも惨敗を喫してしまったのである。討伐隊は敵の遠征軍が帰還する前にカタをつけるつもりだったが、どうも間に合わなかった様子。

 敵から攻撃されたのか無謀にもこちらからしかけてしまったのかは分からないが、戦闘となり負けてしまったようである。

 そして山中に築いた砦(駐屯地)に籠って追撃してきた敵を迎え撃つも、これまた敗北。あとはどうなったのか分からない。

 

 ロズガード戦に至ってはひどいものである。半数しかいない敵に敗れてしまったのだ。二度目の戦いはもっとひどい。敵は重装騎兵しかいないにも関わらず、またも負けている。そして中央門まで逃げ帰ってしまった。

 その抑えの敵部隊も、重装騎兵のみ。完全になめられている。そして事実、こちらは打って出れない。ということは、残ったロズガード軍は敗走中の蒼雲部隊を攻めている可能性すら出てきた。ただでさえ追われているのに、逃げ道すら塞がれてしまったかも知れない。絶体絶命である。

 

 そんな折、途絶えていた蒼雲部隊からの連絡が入る。

 

 「相葉隼介の回復はいかに。可能なれば復帰せよ。」

 

 なんと、名指しで隼介に救援を求めてきた。沙耶が軍の高官に呼び出される。

 

沙耶 「無理です。」

高官 「どうしても無理か?」

沙耶 「はい、無理です。」

高官 「・・・・・。」

沙耶 「彼はもう戦線へ復帰することはできません。」

高官 「戦いは困難を極めている。今は少しでも戦力が必要なのだ。」

沙耶 「ですから、戦える状態じゃないんです。」

高官 「多少記憶がなくとも構わん。彼が行かねば全滅もあり得る。」

沙耶 「隼介が一人行ったところで、なんとかなるわけないじゃないですか。」

高官 「あの者であれば、あるいは・・・」

沙耶 「・・・・・。」

高官 「会話はできるんだろ。」

沙耶 「ですが、少しでも精神を乱すことがあれば、また錯乱するかと思います。」

高官 「・・・・・。」

 高官、大きなため息。

高官 「君がそう判断するなら、そうなんだろう。分かった。」

沙耶 「・・失礼します。」

 沙耶、その場を去り、再び隼介のいる牢獄へと戻る。

隼介 「おかえり。」

沙耶 「ただいま。」

隼介 「何だった?」

沙耶 「何が?」

隼介 「呼ばれた理由。」

沙耶 「あぁ、なんでもない。」

隼介 「そっか。」

 また牢獄には静かな時間が流れていく。

 

 

 

 さかのぼること約半月。蒼雲率いる討伐隊は、淘來領の山中にいた。彼らは北門から出発し、短い平原を抜け山中に入り、中継基地である砦に立ち寄ったのち再び山中から出る。かつて北部攻略部隊が通った道である。

 この討伐隊はそのほとんどが北部攻略部隊にいた将兵たちで構成されており、彼らがこの景色を眺めながら歩くのは三度目となる。だが山中から出た時には、見慣れない光景が広がっていた。

 平地を埋め尽くす敵兵たち。遠征から舞い戻ってきた淘來の主力軍であった。どれだけの数がいるのかも分からない。パッと見だけでも数万はいるように見える。

 討伐軍は4万。倍近くいる敵の軍勢を前に、度胆を抜かれる。討伐は諦めざるを得ない。誰もがこのまま逃げ帰ることになるのだと思った。しかし・・・

 

 しかし蒼雲はそうは思わなかった。彼はかつて北部戦線で活躍した戦士たちを過信していた。それ以上に自分を過信していた。なんと、攻撃命令が下る。

 予想に反して始まってしまう戦闘。無数の矢が飛びかうなか、皇率いる歩兵第1部隊に突撃命令が。走り出す皇。それに続いて部隊の兵士たちも走り出す。

 そして敵の歩兵部隊に激突!敵の前衛にダメージは与えたものの、突撃の勢いはすぐに止まってしまった。皇は善戦するも、隼介ほどの突進力は発揮できなかった。それでもやはり精鋭部隊。じょじょに敵を圧していく。

 だが、隼介がいた時とは決定的に違う。隼介はいわば、ドリルであった。敵の壁に穴を穿つドリル。穴が開けばそこがもろくなり、そこから陣を突き崩せたのだが、皇はもちろん涼平にも剛田にもそこまでの力はなかった。歩兵第1部隊がじょじょに圧しつつある中、他の部隊は苦戦していた。

 戦況に明らかな転機が訪れたのは、敵陣からある二つの部隊が突撃をしかけた時のことだった。一つ目の部隊は槍部隊であった。その先鋒にて槍を振るう男の猛攻は凄まじく、まさしく達人と呼ぶにふさわしかった。瞬く間にこちらの部隊を一つ瓦解させてしまう。

 

 超人的な槍使いの登場に浮足立つ醒陵軍だったが、恐るべきはこの男だけではなかった。時同じくして、こちらの別の部隊もまた一つ瓦解していた。

 その渦中では、巨大な刀を持った男が醒陵兵を次々と斬り飛ばしている。この怪力男の手にかかれば、鎧を着ていようが防御しようが意味をなさなかった。まさに豪傑と呼ぶにふさわしい。

 この二人の超人たちの登場により、醒陵軍はもろくも崩れ去った。そして敗走・・・

 

 

 

 蒼雲部隊が淘來軍と戦っている頃、国境付近では醒陵軍とロズガード軍が対峙していた。醒陵軍を率いるは、前将軍と右将軍。かつて中央攻略部隊と南部攻略部隊を率いていた二人である。

 北部戦線に比べ、いまいちパッとしない戦果しかあがらなかったため、国内には彼らを無能な将軍であると認識してしまった者たちもいたが決してそんなことはない。楠が有能すぎただけのことである。

 だが、やはりこの二人ではロズガード軍3万は荷が重かった。敵重装騎兵の前に壊乱、次に訪れた敵歩兵隊の攻撃に耐えきれず敗北してしまう。敗走した醒陵軍を追ってきたのは、重装騎兵のみ。数は5000である。

 さすがにそれはなめ過ぎだろ、と二度目の戦闘に突入するもあえなく敗退。中央門へと逃げ帰ることとなる。敵はそれ以上追ってくることはなく、平原に留まっていた。さすがに地の利がなければ、いくら強くても攻めれないようである。

 が、攻めれないのはこちらも同じ。むしろたった5000の敵に数万の軍勢が足止めされてしまったことになる。残りの2万を超えるロズガード軍の足止めに失敗してしまった・・・

 

 

 

 再び蒼雲部隊。砦にて態勢を立て直したものの、敵の猛攻は苛烈を極めた。しぶとく抵抗したものの、あえなく陥落。またも敗走することとなる。

 部隊は散り散りとなってしまった。が、意外にもここからの蒼雲が強かった。散り散りになったと見せかけて、実はいくつもの小隊をつくり連携して敵を罠にはめていった。

 山林にて奇襲をしかけ動揺を誘う。そして囮の部隊が戦闘をしかけわざと敗走する。それを追ってきた敵を有利な場所へ誘い込み側面から伏兵が奇襲。囮部隊も反転して突出しすぎた敵を囲み殲滅する。

 山中のいたるところでこのようなゲリラ戦をしかけ、数で勝る敵を翻弄していく。神出鬼没の醒陵軍に、淘來軍の追撃は次第に鈍くなっていった。

 

 実は、若かりし頃の蒼雲は傭兵であった。荒くれ傭兵団の首魁(しゅかい)であり、ゲリラ戦は得意とするところである。だが、正攻法での戦闘はそこまで得意ではない。にも関わらず、本人はそれを自覚できていなかった。

 何はともあれ、戦況は持ち直した・・・かに見えた。しかし、第三勢力の参戦がまたしても戦局を変える。

 

 山中へと攻め入るロズガードの歩兵隊。大型の盾・スクトゥムと短剣・グラディウスを手にした歩兵とは別に、そこには全身をプレートアーマーで覆った重装歩兵たちの姿もあった。

 重装歩兵は片手持ちのロングソードと盾、両手持ちのロングソードや槍、戦斧、ハルバード、他にも多彩な武器を持っていた。彼らは決してこちらの陽動にはひっかからなかった。

 罠であることがバレている。その上で、逃げ道を塞ぐ形でじょじょに迫ってくる。しびれを切らした幾つかの小隊が正攻法でしかけるも、真正面からでは決して彼らには勝てなかった。特に重装歩兵の防御力は高く、槍や刀ではほとんどダメージを与えられず、次々と返り討ちにされていく。

 

 またしても追い込まれた蒼雲だったが、ただ黙ってやられてばかりはいなかった。利用できる地形においては落石や落とし穴なども併用し、進攻を鈍らせる。

 が、あくまで鈍らせるだけであり、東からは淘來軍、西からはロズガード軍が着実に迫って来ていた。ついに蒼雲は山林での抗戦をあきらめ、密かに撤退命令を各小隊へと出した。

 そして和馬率いる小隊に、撤退経路の確保を命じる。しかしそれは、逃げ道を塞ぐロズガードの部隊に正面切って戦いを挑むことに他ならない。

 

 ・・・こんな時に隼介がいてくれたら・・・

 

 誰も口にはしなかった。だが、誰もがそう心の中でつぶやいた・・・

 

 

 

 醒陵本陣、牢獄。隼介は、沙耶の様子がいつもと違うことに気づく。どうも落ち着きがないように見えるのだ。どこか不安気であった。

隼介 「ねぇ。」

沙耶 「ん?」

隼介 「どうしたの?」

沙耶 「何が?」

隼介 「なんとなく。」

沙耶 「・・そう。」

隼介 「・・・・・。」

 沙耶の目をじっと見つめる隼介。視線をそらす沙耶。

隼介 「何か心配なことでもあるの?」

沙耶 「どうして?」

隼介 「なんか・・不安そうだから。」

沙耶 「そんなことないよ。」

 顔には出さないが、動揺する沙耶。隼介の観察力は鋭かった。心の内を悟られまいと、笑ってみせる。が、目をあわせない。

隼介 「・・・何か隠してる?」

沙耶 「何を?」

 笑顔で返す沙耶。だがやはり目を見ない。

隼介 「何か・・大事なこと。」

沙耶 「ん~~ん。隠してないよ。」

隼介 「ならいいけど。」

 隼介、無邪気な笑顔を見せる。ここに来てからいつも見せている笑顔である。が、隼介は気づいていた。沙耶が何かを隠していることに。でもあえてそれには触れなかった。きっと知らなくていいことなんだ。知らない方がいいことなんだ。そう判断したからである。

 

 誰かの気配を感じる隼介。いつも世話をしてくれている兵士ではない。姿を現したのは静流であった。驚きの顔を隠せない沙耶。隼介は歓迎するも、静流の表情は険しかった。

隼介 「静流?来てくれたんだ!ありがとう。」

静流 「・・・隼介?」

 あまりに陽気な隼介の様子に戸惑う静流。そして沙耶の顔を見る。

静流 「・・・・・。」

沙耶 「静流、どうしてここに?」

静流 「隼介に会いに来た。」

沙耶 「許可がいるんだよ。」

静流 「もらった。って言うか、様子見てこいって隊長さんから言われた。」

沙耶 「隊長?」

静流 「北門のところの偉い人。守備隊長。」

沙耶 「・・そう。」

 静流、隼介の方を見る。

静流 「隼介。」

隼介 「うん。」

 ニコニコしながら静流を見つめる隼介。まるで幼児に戻ってしまったかのように表情が幼く見える。以前の隼介とは明らかに違う。

静流 「元気してた?」

隼介 「うん、元気だよ。静流は?」

静流 「私は・・あんまり。」

隼介 「どうかしたの?」

 静流、沙耶の顔を見る。

静流 「・・・・・。」

沙耶 「う~~んとねぇ・・体調は良くなった。けど、記憶がね、戻ってこないみたいで。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「ねぇ、静流、大丈夫?」

静流 「大丈夫・・じゃない。」

 急に心配そうな顔になる隼介。

隼介 「どうしたの?」

静流 「どうしたもなにもないよ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「戦争してんだよ。」

沙耶 「静流!」

 静流はここに来る際、禁止事項は言い渡されなかった。隼介の精神を乱す言動は禁止するといった内容である。しかし今となっては、多少無理してでも戦場へ向かってほしいという軍の意向が見える。

隼介 「戦争って・・戦いの?」

静流 「そう。」

隼介 「どことどこが?」

静流 「ここだよ。」

隼介 「え。」

静流 「国を二つも相手にしてんだよ。」

隼介 「勝ってるの?」

静流 「負けてる。」

沙耶 「静流!」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「静流、悪いけど出てって。」

静流 「沙耶。」

沙耶 「良くない。良くないよ。」

静流 「何が。」

沙耶 「今そうゆうこと言うの、良くない。」

静流 「・・・・・。」

沙耶 「隼介、今の冗談だからね。」

隼介 「そうなの?」

沙耶 「そうなの。」

隼介 「冗談なの?」

沙耶 「冗談なの。」

隼介 「・・・静流?」

静流 「・・・・・。」

沙耶 「静流、悪いけど、ホント悪いけど出てって。」

静流 「どうゆうこと?」

沙耶 「・・・来て。」

 静流を連れて外へ出る沙耶。沙耶は隼介の容態に関して、一切合切を静流に伝える。負の感情に繋がる記憶は思い出せないこと。そのおかげで今は精神が安定していること。もし戦場での記憶が蘇ったら、またしても精神が崩壊してしまうと懸念していること。

 もしかしたらそのまま廃人になってしまうかも知れないとさえ危惧している。静流は黙り込んでしまった。

静流 「・・・・・。」

沙耶 「だからさ、そうゆう・・嫌な思い出は、なかったことにしてあげてよ。」

静流 「なかったことに・・・」

沙耶 「軍の人らはさ、また隼介を利用したいんでしょ。嫌だよ、そんなの。静流だってそう思うでしょ?」

静流 「・・・うん。私もそう思う。」

沙耶 「だから・・・さ。なかったことに。」

静流 「・・・分かった。」

 沙耶の意見に賛同する静流。その上で再び牢獄へと戻ってくる沙耶と静流。

隼介 「ねぇ静流。」

静流 「ん?」

隼介 「何か話してよ。」

静流 「何かって?」

隼介 「なんでもいいからさ。」

 隼介は少々飽きていた。沙耶とは毎日会話しており、話すことがもうあまりないのだ。しかし静流は困惑する。何を話そうとするにも、嫌な記憶ばかりが出てくる。良い思い出もたくさんあるが、それにはだいたい闇もセットでついてきた。

 14歳の時、隼介の家で過ごした日々。あの日々が隼介の優しさを教えてくれた。それは同時に、自分が殺されそうになった記憶とも繋がっている。隼介が守ってくれたと同時に、人を殺めさせることにもなってしまった。

 駐屯地に行った隼介に会いに行った時もそうだ。本当に会うことが出来たあの瞬間は嬉しかったが、その後で訓練生の虐殺事件が起こった。

 戦争が始まってからもそうだ。山中の駐屯地で再会を果たせた時は嬉しかった。が、自分のせいで大山は命を落とし、隼介の心にも傷をつけてしまった。

 昏睡状態で搬送されてきた隼介を看病した時は、運命すらも感じた。でもそれはただの勘違いだったことも思い知らされた。

 

 光と闇はそれ単独では存在せず、すべて繋がっているように思えた。静流は何も言えなくなってしまう。

静流 「・・・・・。」

隼介 「どうしたの?」

静流 「・・・・・。」

隼介 「ごめん・・俺・・何か悪いこと言った?」

静流 「ん~~ん。言ってないよ。」

 と、口では言うものの、涙がこぼれてしまう。

沙耶 「・・・静流?」

静流 「できないよ。なかったことになんて・・できないよ。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「隼介。」

隼介 「何?」

静流 「今、みんな隼介のこと待ってるんだよ。」

隼介 「え。」

静流 「和馬も涼平も、他のみんなも、隼介のこと待ってるんだよ。」

隼介 「・・・どうゆうこと?」

沙耶 「静流。」

 沙耶、静流を見ながら顔を横に振る。

静流 「だって、いいのかなぁ。こんな大事なこと、私たちが決めちゃっていいのかなぁ。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「何も知らないままさ、すべてが終わったあとで、最悪の結果だけ知ることになったとしたらさ、それこそ耐えられないと思わない?」

沙耶 「・・・・・。」

 

 

 

 淘來領、山中での攻防。見事なゲリラ戦を展開するも、包囲網は着実に狭まっていった。蒼雲の戦術に落ち度はなかった。ただし、それが通用しない敵部隊が三つ存在しており、そのせいで劣勢を覆せずにいた。

 その一つは例の槍使いの達人。二つ目は巨大刀使いの豪傑。そして三つ目は、ロズガードの黒騎士であった。

 

 狭まった包囲網はやがて、強豪者同士の対決を誘発させることとなる・・・

 

 

 

 山林の中、金属音が鳴り響く。乱戦のなか槍と槍をぶつけ合う兵士たち。その中に涼平の姿があった。涼平の凄まじい連続突きを難なくさばいているのは、かの槍使い。

 涼平の攻めが一通り終わり、わずかな隙が生じた瞬間、今度は槍使いが凄まじい連続突きを放つ。速い!とにかく速い。ギリギリのところでなんとかさばいていく涼平。

 涼平が持つ槍は隼介から贈られたものである。今までのものより扱いやすく、素早く動かすことができる。この槍でなければ、もしかしたらこの連続突きを凌げなかったかも知れない。それほどまでにこの敵は強かった。

 今度は涼平が相手の隙を突いてしかけるも、難なくかわされ間合いを空ける槍使い。にらみ合う二人。涼平の頬に横に切り傷が入り、血が流れだす。

 さばききったと思ったが、一発かすっていたようである。

 

 

 同じく山中の別の場所。醒陵兵が槍を叩き折られると同時に宙を舞った。斜め下から放たれた巨大刀の斬り上げが炸裂したのだ。1秒後、地に落ちた兵士はすでに息絶えていた。

 金属製の腹当ては割られ、斬撃が体の深くまで通過しているのが分かる。槍で防御しようものならこうなってしまう。

 巨大刀を手にしたその怪力男の視線の先には、巨大な金砕棒を手にした怪力男がいた。剛田である。その背後から淘來兵が襲いかかるが、剛田はとっくに気づいていた。振り返りもせず、片手で金砕棒を右斜め後ろへと振る。とっさに盾で防御するも、ぶち当てられた衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされる。

 金砕棒を手にした剛田もまた、問答無用の破壊力を有していた。隼介に見いだされた、本領発揮の剛田である。にらみ合う二人の怪力男。その剛腕対決が、今始まる。

 

 

 同じく山中の別の場所。醒陵兵たちとロズガードの重装歩兵たちが戦っている。高い戦闘力を誇る歩兵第1部隊の兵士たちだが、彼らの攻撃は重装歩兵にはなかなか通用しなかった。甲冑の隙間があまりないのだ。それでもそのわずかな隙間を狙い、槍で突く。もはや槍は捨て、脇差で狙う者もいる。

 皇もまた、ここで戦っていた。不覚にも槍を弾き飛ばされるが、すぐに抜刀して鎧の隙間を貫く。さすがに皇ほどの達人ともなれば、この重装歩兵とて敵いはしないようである。

 とは言え、簡単には有効打を放たせてもらえない。隙間を外し、鎧に切っ先を突き立ててしまう。が、なんとその切っ先はわずかであるが鎧に刺さる。

皇  「え?」

 思わず声に出てしまう。そんなに鋭いの?戦闘が続くなか、今度ははからずも鎧の上から斬りつけてしまう。わずかながら鎧に切り傷が入る。この刀は相当に鋭いと見える。

 今度は意図的に鎧の上から本気で突いてみた。すると、なんと刀は刺さった。たまたま突いてしまった時と違い、今度は深く刺さる。致命傷であろう。刀を抜くと、相手は膝を落とし戦闘不能となる。刃を見ると、なんと刃こぼれ一つしていない。

皇  「・・・・・。」

 強度も尋常じゃない。こんな刀があるのか・・・。皇はこの刀の鋭さと強度に驚きを隠せない。隼介から贈られたこの刀は、皇の本気を引き出すこととなる。

 刃の劣化を気にすることなく戦いを展開させる。すると、あれほど手こずっていた重装歩兵が、いとも簡単に倒せてしまう。気づいた時には皆倒してしまっていた。

 ・・・よし!ひとまず片づいた。と、仲間たちの方を振り向くと・・・

 

 仲間たちも皆倒れていた。一人だけ立っている者がいる。漆黒の鎧をまとったあの黒騎士である。

黒騎士「・・・・・。」

 皇、その黒騎士の放つ空気に気圧されそうになる。・・・強い。相当に強い。皇は敵が常人離れした強さであることを感じとる。それは皇に死を予感させた。

 が、その予感をすぐにはねのける。皇もまた、常人離れした強さを持っているのだ。その自負がわずかな心の乱れを鎮める。

 そしてフルフェイスの兜の奥に光る眼を見すえ、静かに構える・・・

 

 

 

 そして再びここは醒陵本陣の牢獄。

静流 「みんな戦ってるんだよ!」

隼介 「・・みんな・・戦ってる?」

静流 「そう。和馬も、涼平も、他のみんなも。」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、必死で埋もれた記憶を手繰り寄せようとすると、おぼろげながら黒い何かが浮かんでくる。が、やはりそれは確かな形として姿を現さない。

静流 「思い出して、本当のこと。」

沙耶 「やめてよ!」

静流 「やめない。」

沙耶 「やめてって!」

静流 「・・・・・。」

隼介 「聞かせて。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「もっと聞かせて。」

静流 「分かった。でも、沙耶にも納得してもらいたい。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「隼介の選択は、隼介のものだよ。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「その隼介が聞きたいって言ってる。」

沙耶 「・・・・・。」

静流 「私はこれ以上隠すのは良くないと思う。」

沙耶 「・・・隼介。」

隼介 「うん。」

沙耶 「隼介はさ、本当のこと知って後悔するのと、知らないまま幸せでいるのと、どっちがいい?」

隼介 「・・そりゃぁ、幸せな方がいい。」

沙耶 「・・・じゃぁ、ここにいたいんだね?」

隼介 「ん?う~~ん、そろそろ出たいかな。」

沙耶 「どうして?」

隼介 「沙耶と稽古したいから。」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「それに・・・待ってるんでしょ?みんな。」

沙耶 「・・・そうだね。」

 初めてだった。「ここから出たい。」と言った隼介は。

沙耶 「うん・・そうだね。」

隼介 「そんなことより、さっきの話。聞かせてよ。どうしてみんな俺を待ってるの?」

沙耶 「静流。いいよ。」

静流 「・・・・・。」

沙耶 「って言うか、私がどうこう言うことでもないんだよね、本当は。」

静流 「ありがと。」

沙耶 「でもね、多分話すだけじゃ、すぐには思い出せないと思う。」

静流 「そうなの?」

沙耶 「私も今までいろいろと話したけど、言葉だけじゃ弱いみたいで。」

静流 「時間ないのに・・・」

沙耶 「・・・五感に訴えれば、もしかしたら。」

静流 「五感?」

沙耶 「たとえば、なんだろ・・・もっとこう、強烈に訴えてくる何か・・・何かを見せれば、あるいは・・・」

静流 「・・・?」

沙耶 「そうすれば、すぐに思い出すかも・・・」

静流 「何を?」

沙耶 「それと繋がってる記憶を。」

静流 「・・・分かった。ありがと。」

隼介 「ねぇ、聞かせてよ。」

静流 「・・うん。また来るね。その時に話す。」

隼介 「うん、お願い。」

 去っていく静流。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』31~45話

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