戦国Web小説『コミュニオン』第2話 「青春の日々」

第2話 「青春の日々」

 

 青龍館道場。この道場は国内で一番の門下生の数を誇る。とくに年齢制限はないが、この国は19歳から兵役が義務づけられているため、主に16~18歳の若者たちが多くを占める。男子600人あまり、女子300人あまりの大道場である。

 教えの内容は、剣・槍・弓・薙刀・兵学の五種。その中で希望するものだけ受けることができる。月謝は一律で、どれだけ受けても受けなくても同額。が、入門するだけして、なんの教えも受けない者も多い。

 ちなみに、各門下生の現状

 

相葉隼介(あいばしゅんすけ)・・・剣・槍・薙刀。現在は試合に向け、剣のみ

藤堂和馬(とうどうかずま) ・・・剣・弓・兵学。現在は試合に向け、剣のみ

夕凪沙耶(ゆうなぎさや)  ・・・剣・弓・薙刀・兵学。現在は試合に向け、剣のみ

滝川静流(たきがわしずる) ・・・薙刀

輪之内厳(わのうちげん)  ・・・兵学

梶涼平(かじりょうへい)  ・・・剣・槍。現在は試合に向け、剣のみ

 

 

 早朝。道場から出てくる隼介。大きなあくびをしながら伸びをする。今は夏だが、朝は涼しい。ここち良い朝である。けっきょく昨日は道場、つまり和馬の家に泊まった。

 久しぶりだった。和馬の家に四人で泊まるのは、じつに三年ぶりであろうか。楽しかった。静流はまだ寝ている。今日も稽古はあるが、静流はきっと午後からしか参加しないだろう。

 和馬と沙耶は二人で散歩に行ってしまった。いっしょに来るかと誘われたが、遠慮しておいた。あの二人がいっしょにいると、どうも入りづらい。他に誰かいればいいが、そうでなければ抵抗がある。そこを昨日はちょっとばかり無理してみた。

 

 隼介も散歩することにした。しばらく歩いていくと、遠くに数人の男女を見つける。みな若く、隼介と同世代。ガラの悪い8人の少年たちが1人の少女にからんでいる。

 「可愛いね~、どこ行くの。」「きみ、青龍館でしょ、今から稽古?」 「あ、青龍館なんだぁ~、どうりで綺麗だと思った~」とか言いながら少女の肩に手をまわす。明らかに嫌がっている少女。

 ・・・またか。青竜館道場の門下生へのナンパが最近多いらしい。 しょうがない・・・。隼介が少年たちを追い払おうと声を出そうとした瞬間、

厳  「(声)待てぇ~~~~い!!! 」

 「誰だ!!?」

厳  「その子はうちの道場の子だ。放してやってくんねえか。 」

隼介 (心の声「お!?」)

 厳だ。輪之内厳だ。いつもふざけたお調子者だが、なんだかカッコ良く見える。

隼介 (心の声「・・意外な展開・・・。ちょっと様子を見てみよう。」)

 ゆっくりと少年たちに歩みよる厳。

厳  「嫌がってる。放してやってくれ。 」

 「なんだてめぇは!」「邪魔、お前。」「どっか行け。」「空気読めよ。」

 凄む少年たち。

厳  「やめとけ。ケガするぞ。 」

隼介 (心の声「おぉ!?厳の奴、カッコ良いじゃないか・・・」)

 「カッコつけんなよ、青龍館ごときが。」「弱小道場が威張んじゃねーよ。」

厳  「弱小かどうか・・・試してみるか。 」

隼介 (心の声「お!!言った!!」)

 「上等だコラ~!」少年の一人が殴りかかる。拳は厳の顔面をとらえ、みごとに殴り飛ばされる。

隼介 (心の声「ええ~~~~~~~!!??やっぱり弱い。予想はしてたけど、予想以上に弱い!!??」)

 爆笑する少年たち。「よわ~~~~~~、弱すぎじゃね。」

厳  「ふっふっふっふっふ・・・ 」

 ゆっくりと立ち上がる厳。

厳  「嬉しいか?一発入ったぐらいでそんなに嬉しいか?分かってねぇなぁ。 」

 「は?なに言ってんだお前」

厳  「殴らせてやったんだよ。これから一方的にやられるお前たちが可哀そうだからよ。 」

 「やってみろや!」少年の一人が殴りかかる。拳は厳の顔面をとらえ、みごとに殴り飛ばされる。

隼介 (心の声「ええ~~~~~~~!!??さっきと同じ~~~~!!??」)

 爆笑する少年たち。「よわ~~~~~~、っていうか何?こいつ何?」 「ウケ狙ってんじゃねーの。」「頭も弱いんじゃね。」

厳  「ふっふっふっふっふ・・・ 」

 ゆっくりと立ち上がる厳。

厳  「嬉しいか?二発入ったぐらいでそんなに嬉しいか?分かってねぇなぁ。 」

隼介 (心の声「やめとけ。もうやめとけ。二度あることは三度あるから!!!」)

厳  「二度あることは三度ある!とでも思ってんだろ!? 」

隼介 (心の声「お!?」

厳  「じゃぁ・・・本気でいくぜ。 」

 構える厳。さっきまでとは違った、鋭い気を放つ厳。その気迫に少年たちがたじろぐ。

隼介 (心の声「・・・厳の奴、本当は強いんじゃないのか?」)

厳  「おらぁーーー!!! 」

 殴りかかる厳。その顔面を少年の拳がとらえ、またもやみごとに殴り飛ばされる。

隼介 (心の声「ええ~~~~~~~!!??いや、ええ~~~~~~~!!??」)

 爆笑する少年たち。「よわ~~~~~~、っていうか何?こいつ何?」 「やべ~~~よこいつ。ある意味最強だよ。」

厳  「ふっふっふっふっふ・・・ 」

 ゆっくりと立ち上がる厳。

厳  「嬉しいか?三発入ったぐらいでそんなに 」

隼介 「もういいわ!!!!!! 」

 飛び出す隼介。「おぉ!?」突然現れた隼介の巨躯(きょく)に驚く少年たち。

隼介 「お、おま、お前・・ええ~~~~!!!???何??今の何??? 」

厳  「なんだ隼介、見てたのかよ。 」

 「隼介って、相葉隼介!?」「え、青龍館の?」「やべ~~よ。」そんな心の声が聞こえてくるかのように動揺の色をみせる少年たち。

厳  「お。どしたの? 君たち。 」

隼介 「・・・・・。 」

 無言で少年たちを見る隼介。それだけでたじろぐ少年たち。凄まずとも、その巨体だけで威圧的な隼介。

隼介 「帰ってくれるかな。暴力とかはちょっとさ。」

 「・・・お・・おぅ・・・」退散していく少年たち。

厳  「大丈夫だった? 」

少女 「・・はい。ありがとうございました・・・」

厳  「青龍館だよね。送ってくよ。」

少女 「いえ、もう近くなので、」

厳  「いいよ。送るよ。」

少女 「いえ、ありがとうございました・・・」

 走り去っていく少女。

厳  「・・・あら。」

隼介 「そっけないね。」

厳  「てか凄いな隼介。戦わずして勝っちまったよ。」

隼介 「そだね。 」

厳  「『武』だね。これぞ正しく『武』だね。」

隼介 「ん?」

厳  「矛を止めると書いて、武。」

隼介 「・・・何それ。」

厳  「まぁいいや。」

隼介 「それより厳の方が凄いよ。俺が来なかったらどうするつもりだったの。」

厳  「さぁ~~~。」

隼介 「さぁって。」

厳  「まぁ、なるようになってたんじゃない?」

隼介 「そうだろうけど・・・勝算あったわけ?」

厳  「ないよ。」

隼介 「ないんかい!!!???」

厳  「あるわけないだろ。8対1だぜ。」

隼介 「・・・よく強気でいけたね。」

厳  「ハッタリは大事だぜ。」

隼介 「ハッタリだけじゃまずいでしょ。ってか、それで本当に軍師になるつもり?」

厳  「だってしょうがね~じゃん。状況が状況だったんだから。」

隼介 「・・・・・。」

厳  「それに、死にゃ~しないよ。 」

 隼介、笑ってしまう。

隼介 「そだな。うんうん、なんか厳、本当に凄い奴に思える。」

 二人、道場へ向かう。 その間、とるに足りない話をしながら歩く。厳とは仲がいいが、考えてみればこうして二人で話す機会はあまりなかった。実際に強いことは大事なことだけど、強そうに見せるのも戦いにおいては大事。そんなことを厳は語っていた。

 隼介にはピンとこなかった。実際に強く見た目も強そうな彼にとっては、無縁な話なのかもしれない。そんなことよりも、圧倒的に不利な状況を有利に運ぼうと試みる、厳の前向きな姿勢に好感をもてた。

 で、結局それがうまくいかないところもまた、彼の憎めないところであった。そうこうしているうちに、道場に到着。すでに門下生たちが集まってきていた。

隼介 「厳は剣とかやらないの?」

厳  「やらん。兵学一筋。」

隼介 「そっか。」

厳  「兵学も面白いぞ。」

隼介 「ふ~~ん。」

厳  「良かったら教科書貸そうか?」

隼介 「いいや。」

厳  「そっか。」

隼介 「興味ないことはないんだけどね。そうゆうのって、誰が書いてんの?」

厳  「そりゃ兵学者だろ。」

隼介 「まぁ、そりゃそうだよね。」

厳  「オススメはこれ。」

 厳、ある一冊の本を見せる。「いいや」って言ったのに・・・

厳  「この人の書いたやつすげぇ。マジすげぇ。」

隼介 「へ~~。」

 隼介、かるく読んでみるがよく分からない。

厳  「多分この国で一番すげぇ軍師。」

 表紙には著者とおもわしき『直太丸』という名前が載っている。

隼介 「・・なお・・た・・まる?」

厳  「じかたまる。」

隼介 「・・知らない。」

厳  「え~~、有名なのに。ちなみに俺のお爺ちゃんと名前が同じ。」

隼介 「だから好きなの?」

厳  「いや、それとは関係ないけど。」

隼介 「そっか。」

厳  「じゃ、また。」

隼介 「うん。」

 厳は兵学の授業がある部屋へ向かう。隼介は道場にて、剣の授業へ。午前中は、ひたすら基礎練習。まずは木刀の素振り。隼介は通常よりも太く重い木刀を使っての素振りを行う。それが終わったら型稽古。皆、汗だくになって木刀を振る。

 中にはやる気が尽き、座ってしゃべっている奴らもいるが、もはや師範代の先生方も注意しない。邪魔さえしなければ好きにしろ。そんな感じである。


 そして昼休憩。手ぬぐいで汗をぬぐいながら、まわりを見回す。広い道場で多くの門下生たちの中で稽古していると、誰が来ていて誰が来ていないか、よく分からない。

 遠くに和馬を見つける。彼にしゃべりかけようと思ったが、幾人もの女子と話をしていて声をかけづらい。和馬はそんな隼介に気づき、笑顔を向ける。そして話を中断して、隼介のところに来た。

和馬 「大丈夫?眠くない?」

隼介 「ちょっとだけ。」

和馬 「やっぱり。今日な、お偉いさんが見にくるぞ。」

隼介 「お偉いさん?」

和馬 「楠平八郎(くすのきへいはちろう)って知ってる?」

隼介 「知らない。」

和馬 「(苦笑)そっか。醒陵軍左将軍だよ。」

隼介 「せ、せ~りょ~ぐん、ん? さしょ~?」

和馬 「せいりょうぐんさしょうぐん。」

隼介 「せいりょうぐんさしょうぐん?」

和馬 「そ。」

隼介 「偉いの?」

和馬 「偉い偉い。」

隼介 「どれだけ?」

和馬 「この国の軍隊の、上から・・・三番目になるのかな。」

隼介 「へ~~~。」

和馬 「(苦笑)あんまり興味なさそうだね。」

隼介 「(苦笑)うん、あんまり。」

 そこに厳が走りこんでくる。

厳  「おお~~、いたいた!」

隼介 「おぉ、厳。」

厳  「やっべ~~よ、今さ、道場に軍の人たち来てるよ。しかも結構偉い人。」

隼介 「うん、知ってる。」

厳  「知ってたの。」

隼介 「今、和馬から聞いた。」

厳  「そっか。ねぇ何しに来たの。」

和馬 「視察・・みたいなもんかな。」

厳  「視察?」

和馬 「なんか、最近いろんな道場の様子見てまわってるらしいよ。」

厳  「なんで。」

和馬 「使えそうな人材探してる・・みたいなこと言ってたかな。」

厳  「誰が。」

和馬 「父上。」

厳  「マジかマジかマジか~~~~~!!!???ついにこの俺の時代が来たというわけか!!!」

和馬 「なぜそうなる。」

厳  「ここで俺が実力見せつければ、またたく間に軍師になるって~~わけよ。」

和馬 「あそ。」

厳  「あそって・・・」

隼介 「実力ったって、何見せつけるの。」

厳  「それは知らんけど。」

隼介 「知らんのか。」

厳  「何を見せつければいいんだ。・・・知略だな。」

隼介 「知略・・・」

厳  「そうだ知略だ!この俺の類稀な頭脳を見せつければいいんだよ。」

隼介 「今朝のあれ見る限り、ないと思うよ。」

厳  「いや、ある。」

和馬 「そもそも、一人ひとり見るわけじゃないから、キビシイと思うよ。」

厳  「そこをなんとかするのが頭脳の見せどこr」

隼介 「ま、俺たちには関係ないね。」

厳  「聞けや。」

和馬 「いやいや、それがな、」

隼介 「ん?」

 和馬、周りの目を気にしつつ、少し小声になる。

和馬 「大いに関係あるんだなぁ。」

隼介 「どゆこと?」

和馬 「けっこう注目されてるみたいだよ、隼介。」

隼介 「どゆこと?」

和馬 「あんまりでかい声で言うのもあれだけど、将軍、隼介のこと知ってるらしい。」

厳  「ええ~~!?将軍が!?隼介を!?」

和馬 「うん。」

厳  「すっげ~~~~・・・」

和馬 「だからさ、ちょっと今日は、いつも以上に気合入れた方がいいかもな。」

隼介 「・・・・・。」

厳  「うわぁ~~~、隼介、尊敬するぜぇ~~~。」

 沙耶と静流もやってくる。

沙耶 「和馬。」

和馬 「おぉ。」

静流 「隼介おはよ~。」

隼介 「おぉ。ってかもう昼だよ。」

静流 「眠い。」

隼介 「ずっと寝てたじゃん。」

 和馬はつねに女子の視線を集めている。沙耶はつねに男子の視線を集めている。 隼介は基本的に視線を集めている。ゆえに、この三人が集まると、自然と周囲の意識が集まってくる。

沙耶 「和馬ぁ、なんの話してたの?」

和馬 「うん、あの」

厳  「将軍が来てんだよ、将軍が。」

静流 「ええ~~~!!??マジで!?何で何で??」

厳  「隼介を観にきたんだってよ。」

静流 「ええ~~~!!!???何で何で何で~~~???」

和馬 「いや、隼介を観に来たわけじゃないけど、なんかね、視察だって。道場の。」

厳  「でもでも、隼介のことは注目してんでしょ、将軍は。」

和馬 「らしい。」

厳  「さすがだよな隼介。」

涼平 「うん、さすがだ。」

厳  「って居たのかよ涼平!?びっくりするわ!!!」

 「え、何々!?」「隼介がどうしたって!?」「え、軍の人来てんの!?」「隼介を観にきた!?」「将軍が隼介を~!?」「俺たちも観られるって!?」

 話はまたたく間に広まり、えらい盛り上がりを見せる。

 午後からは立ち合い稽古。木刀を竹刀に持ち替え、防具をつけ立ち合う。皆、いつもとは比べものにならないほどの気合いの入りよう。いつもは稽古をサボって道場の壁際でおしゃべりしてるような奴らまで、今日は声を張り上げ稽古している。 師範代の先生方は思う。

 ・・・お前ら、いつもこんなんじゃないだろ・・・

 しかし、将軍は一向に来る気配がない。しばらく道場全体が熱気を帯びていたが、だんだんといつもの空気に戻りつつあった。その時、道場主・藤堂翔馬とともに、見知らぬ男たちが三人道場に入って来た。三十歳前後であろうか。筋肉質で傷だらけの腕。鋭い眼光。顔にも斬り傷がある・・・

 ・・・来た・・・あの男だ。間違いない。後ろの二人もきっと軍の人だ・・・

 稽古は何事もなく続いていたが、皆の意識はこの男たちに向けられた。緊張感が道場全体を包んだ。男は全体を見回す。そして案の定、隼介を見つけると、その立ち合いを凝視しだした。

隼介  「・・・・・。」

 しばらく稽古を観ていた男たちは、翔馬とともに去っていった。 じゃっかん緊張感が緩む。が、夕刻。ふたたびやって来た彼ら。間もなく稽古が終わるというのに。 いや、正確には隼介の百人抜き稽古が残っているが。

 みな、察する。これを観にきたのだ・・・。ふたたび緊張感が道場を包み込む。

 

 

 百人抜き稽古開始。一人目。対戦相手と向かい合う隼介。

 「始めぇ!」

 開始直後に即座に踏み込んでの面一閃。直撃。

 「一本!!!」

 将軍と思わしき男。この見事な打ち込みに、顔色ひとつ変えない。両脇に控える男たちも同様である。いつもは騒がしいヤジ馬も、この日ばかりは黙って正座しながら観ている。

 二人目の対戦相手と対峙。

 「始めぇ!」

 両者ともに踏みこむ。なんとこの相手、真正面から隼介にぶつかっていったのだ。当然吹っ飛ばされる対戦相手。その勢いはすさまじく倒れてしまう。

 彼は倒れたまま立てない。なんとか立とうとするが、やはり立てない。一本ではないが、続行不可能とし隼介の勝ちとなる。

 どうもこの日は、皆の気合いが違うようだ。今までならば、二人目で隼介に正面から全力でぶつかる者などいなかった。するとしたら、じゅうぶんに疲れている時に限ってであった。

 そして百人抜き稽古は順調に進んでいく。やはり皆、序盤なのに積極的に攻めていく。が、ある者は力負け。ある者は速さ負けして、またたく間に決着がついていく。そして二十人目。対戦相手は・・・梶涼平。

 

 

 「始めぇ!」

 持ち前の瞬発力で踏み込む隼介。涼平は、即座に退いた。間髪入れず連打が続く。一定の間合いを保ちつつ、軽くさばいていく涼平。他の者たちが皆熱くなる中、涼平は逆にいつもより冷静な戦いを展開させていく。

 素人目に見れば、隼介が涼平を圧倒しているようにも映るが、当然隼介はそうでないことは分かっていた。決して大技は放てない。その瞬間を狙って涼平は打ち込んでくるはずだ。しかも激しい打ち合いを避けているから、反撃する余力をたえず保持している。

 隼介だけではなかったのだ。この百人抜き稽古で実力を上げていたのは。隼介の陰に隠れてしまってはいるが、あらためて、この梶涼平という男の強さを目の当たりにした。

 隼介、連打をやめる。一定の間合いをあけつつ、対峙を続ける二人。両者、隙がない。二十秒ほどにらみ合い。

涼平 「・・・・・。」

 涼平、わずかに切っ先を下げる。

隼介 「・・・・・。」

 わざと隙をつくって誘い込もうとしているのだ。当然隼介は気づいている。 この誘い・・・乗るか・・・そるか・・・。隼介も切っ先をわずかに下げる。 誘いには乗らず、隼介も隙をつくって相手の出方を待つ。

 打ち合いと違って静かだが、打ち合い以上に緊迫した空気をつくっている。

涼平 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

 どちらも誘いに乗らない。これではらちがあかないと思ったのか、隼介、あろうことか大胆に切っ先を下げてしまった。その隙を突いて大きく踏み込む涼平。

 そのまま鋭い突きが隼介の喉元に飛んでいく・・のが見えた瞬間! 隼介は即座に退がると同時に下から涼平の突きを跳ね上げる。渾身の跳ね上げに、涼平の竹刀は激しく弾かれた。

 次の瞬間、隼介の面!・・を叩き落して軌道をそらす涼平。凄まじい反射神経と運動能力。が、即座に隼介の突き! 見事、切っ先が涼平の喉元をとらえる。その場で崩れ落ちる涼平。

 「一本!」

 歓声があがる。今まで顔色一つ変えなかった将軍らしき男も、驚きの顔を見せた。涼平も凄いが、相葉隼介という男はそのさらに上、次元の違う領域にいるのだ・・・と、誰もが思ったに違いない。

 あの大きな隙は、勝てると思っての布石だったのだ。力・技・速さ・・・・加えて戦略まで一流ときている。

 涼平は失神している。が、大事はないようだ。百人抜き稽古は順調に進んでいく。涼平が意識をとり戻したときにはすでに、三十人を抜いていた。

 そして四十人目の対戦相手は藤堂和馬。対峙する二人。

 「始めぇ!」

 両者動かない。和馬の剣の腕は、おそらく涼平に次いで道場で三番目。ここは冷静に見ていこう、という隼介の意図がうかがえる。そもそもこの日の隼介の作戦としては、「無駄に体力を消耗させない」というものであった。

なので、力で圧せる相手はさっさと力で圧し切る。速さで勝てる相手はさっさと速さで勝負をつける。そうでなければとことん慎重に。この作戦は成功であった。

 現に今の隼介は、いつも以上に余力を持っていた。しばしにらみ合いが続く。 和馬が動く。じりじりと間合いをつめていく。隼介は動かない。 じょじょにつまっていく間合い。

 そして、隼介の間合いに入る。隼介からなら攻撃できる距離である。が、微動だにしない隼介。この距離から攻撃しても、和馬なら簡単にかわせてしまうのが分かるからだ。もっと近くに来させねば・・・

 

 

 ゆっくりと、そして確実に距離を縮める和馬。隼介は動かない。

 まだ動かない。まだこの距離では攻めない。おそらく和馬は、自分の間合いに入った瞬間に、一気に勝負をかけるつもりだろう。

 両者にとって、その一瞬が勝負の分かれ目となる。そして・・・和馬の間合いに・・・入る。即座に放たれる和馬の突きが隼介の喉元に届く・・直前、隼介それをいなしつつ体当たり。

 吹っ飛ばされる和馬だが、すぐに体勢を立て直す。そこへ隼介の連打。全身全霊、余力を考えない、最大限の力と最大限の速さの連打。退がりつつさばいていた和馬だったが、抗しきれず竹刀を叩き落された。と思った時にはすでに隼介の竹刀の切っ先が、喉元で止まっていた。

 「勝負あり!!」

 またも歓声。将軍も驚きながら、笑顔を見せている。そしてそのまま連戦連勝。 五十人抜き達成! 六十人抜き達成!! 七十人抜き・・・はさすがに無理だった。

 作戦は功を奏しいつも以上に体力が続いた。が、純粋に限界に達したのである。 六十八人目。もはや立っているのがやっとの隼介に、余力じゅうぶんな対戦相手の渾身の一撃が入った。

 「一本!!!」

 敗北の合図とともに、ひざをつく隼介。激しい歓声が巻き起こる。そして皆、いっせいにかけより称賛の嵐。もはやその場に将軍がいることなど忘れてしまっている。その将軍ですら道場主に、笑顔で隼介への称賛の言葉を伝えている。

 皆笑顔。隼介も笑顔で皆の称賛に応えるが、立てない。察した和馬と涼平が肩を貸す。将軍、惜しみない拍手を送る。つられて皆、拍手。

 いまだかつて、この道場でこのような光景があっただろうか。この一体感。隼介も、対戦した者たちも、観ていただけの者たちも皆、なんというか・・・一つになった気がした・・・

 

 

 

 その日の夜、道場。門下生は帰り、隼介・和馬・沙耶・静流の4人だけが和馬の部屋に残っている。隼介は大の字になって寝転んでいる。すぐ横に静流が座って、今日の隼介の武勇伝について熱く語っている。

和馬はその話を聞きながら、近くで矢のない弓をひいている。 見えない的を狙いながら見えない矢を放つ。その横で沙耶がその様子を見ている。

静流 「本当カッコ良かったよ。みんな隼介見てたよ。」

隼介 「そりゃぁ見てるさ。 ・・・あ、沙耶。」

沙耶 「ん?」

隼介 「ごめん、今日・・無理だわ。」

沙耶 「なにが。」

隼介 「稽古。」

沙耶 「あぁ。見れば分かるよ。」

隼介 「ホントごめん。」

沙耶 「いいって全然。」

隼介 「明日こそは。」

沙耶 「本当にいいって。無理したらケガするよ。」

静流 「そうだよ。隼介だって試合出るんだから。」

隼介 「いや、俺がやりたいんだよ。力になりたいの。」

静流 「・・・・・。」

沙耶 「ありがと。でも・・本当にいいから。和馬ぁ、試合の件、どうなった?」

和馬 「まだ聞いてない。」

沙耶 「そっか・・・」

和馬 「今から聞いてくるよ。」

沙耶 「私も行く。」

和馬 「いいよ。」

沙耶 「行く。」

和馬 「いやぁ・・・」

沙耶 「自分のことだし。」

和馬 「・・・・・。」

沙耶 「やっぱり・・迷惑だった?」

和馬 「そうじゃないよ。嫌な思いさせるかもって。」

沙耶 「・・・・・。」

和馬 「あ、話の内容じゃなくてさ。父上、酒ぐせ悪くてさ。」

沙耶 「酒ぐせ?」

和馬 「時々ひどい有様でさ、あんまり人に見られたくないっていうか・・・」

 笑い出す沙耶。

沙耶 「そうなんだぁ~。私てっきり困らせてるのかと思ってた。」

和馬 「違う違う。じゃ、行く?」

沙耶 「うん。」

隼介 「あ、俺も行く。俺からも頼んでみる。」

 隼介、立とうとするが、なかなか立てない。

沙耶 「いいよ。」

隼介 「いいって。」

沙耶 「ありがと。気持ちだけもらっとくよ。」

 和馬、部屋を出ていく。

沙耶 「待ってよ~。」

 沙耶、追いかけて出ていく。

隼介 「・・・・・。」

 隼介、ふたたび大の字になって仰向けに寝転ぶ。

隼介 「・・・・・。」

 呆然と天井を眺める隼介。突然、顔をのぞきこむ静流。

静流 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

 両手を隼介の顔の真横に置き、すぐ上からのぞきこんでいる。

隼介 「なに?」

静流 「・・・・・。」

隼介 「ん?」

静流 「今なら私でも勝てるぞ。」

隼介 「そだね。」

静流 「好きなのか、沙耶のこと。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「そうか。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「沙耶は和馬が好きだぞ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「うそ。ホントは知らない。でもそんな気がする。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「・・・・・。」

 静流、顔を近づける。

静流 「今なら私でも勝てるぞ。」

 隼介、目をそらす。

静流 「・・・・・。」

 静流、離れて座る。

静流 「あ~~あ。」

 しばし沈黙。そして急に笑顔になる静流。

静流 「ねぇ、なんか話そ。」

隼介 「なにを。」

静流 「なんでもいい。」

隼介 「なんだよ、それ。」

静流 「覚えてるよね、『あの日』のこと。」

隼介 「あの日って?」

静流 「三年前のさ。」

隼介 「・・・うん。」

静流 「感謝してるぞ。」

隼介 「なに・・急に。」

静流 「お礼・・言いたくて。」

隼介 「俺は・・・あんまり思い出したくないな。」

静流 「そう・・だね。」

隼介 「あれからだよ。おかしくなったの。」

静流 「おかしいって。」

隼介 「思い出すたびに、苦しいっていうか・・・何であんなことになったのかなって。」

静流 「大丈夫。もうないよ、あんなこと。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「もうないから。大丈夫。」

隼介 「怖いんだよなぁ。俺はそうは思えないから。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「あの日からだよ。俺たちがバラバラんなったの。」

静流 「なってないよ。みんな一緒にいるじゃん。」

隼介 「一緒にいるけど・・前までと一緒じゃないよ。」

 沈黙。

 

 突然笑い出す静流。

静流 「私はたださ、隼介に感謝してるって言いたかっただけ。」

隼介 「・・そう。」

静流 「なんか楽しいこと話そ。」

隼介 「楽しいことねぇ。あ!そうそう!厳の話なんだけどさぁ、あいつ何で顔ケガしてるか知ってる?」

静流 「知らない。教えてくんないんだよね~。」

隼介 「俺知ってんだけどさぁ。」

静流 「え~~教えて!」

隼介 「実はさぁ、」

 楽しい話で盛り上がる隼介と静流。時間が経つのも忘れて夢中で話していた。気づけばもう深夜。まだ二人はくだらない話で盛り上がっている。

静流 「え~~~!?厳って覗き魔なの~~!!?」

隼介 「けっこう有名だよ。」

静流 「最悪。」

隼介 「でさぁ、見つかるんだよあの馬鹿。ことごとく見つかるんだよ。」

静流 「え、全裸だよね。」

隼介 「うん。しかも覆面してるし。」

静流 「なんて言い訳したの。」

隼介 「なんて言ったと思う?」

静流 「分かんない。」

隼介 「「怪しい者じゃありません」って。」

静流 「いや怪しいだろ!!!どう見ても怪しいだろ!!!全裸で覆面って!」

隼介 「ヤバいよね。」

静流 「で、その後どうなったの?」

隼介 「逃げ切ったよ。追っ手をふりきって。」

 爆笑する静流。

隼介 「そのカッコウでだよ!?しかも常習犯だよ。」

静流 「常習犯!?なんで捕まんないの。」

隼介 「だって顔隠してるもん。毎回逃げ切るし。」

静流 「でも有名なんだよね。」

隼介 「うん。謎の覗き魔ってことで一世をふうびしたよ。」

 静流、またも爆笑。

静流 「ん?・・・なんでそれを隼介が知ってるの?」

隼介 「まぁいいじゃん。」

静流 「ちょっと? 隼介? あんたまさか厳といっしょに」

隼介 「いやいやいや、違うよ。そうじゃないよ。」

 沙耶が戻ってくる。

隼介 「遅かったね。」

静流 「そうじゃないって、どうゆうこと?」

隼介 「どうだった、そっちは。」

沙耶 「・・・うん、出れるみたい。」

隼介 「良かった。」

静流 「ちょっと沙耶聞いて、隼介ってねぇ、」

隼介 「あ、聞かなくていいから。」

沙耶 「ただ、玄武館の方は女子は出せないみたいだから、対戦相手は男子と。」

隼介 「え。」

静流 「男子? 不公平じゃん。」

沙耶 「いいよ、こっちが無理言って出させてもらうんだから。」

静流 「ケガするよ。」

沙耶 「いいの。ってことだから、頑張るね。」

隼介 「うん。頑張って。・・和馬は?」

沙耶 「まだ話があるみたい。」

隼介 「そっか。」

静流 「ねぇ沙耶聞いて。隼介って覗き魔なんだよ。」

沙耶 「え。」

隼介 「俺は違うよ!」

静流 「近寄んない方がいいよ~~。」

隼介 「だから俺の話じゃないだろ。」

 沙耶も交えて、くだらない話は続いていく。しばらくしたら和馬が戻ってくる。

和馬 「・・・・・。」

 隼介・沙耶・静流は、和馬の沈んだ空気を察する。

隼介 「遅かったね。」

和馬 「・・おぉ。」

隼介 「どした。」

和馬 「うん、ちょっと重い話だった。」

隼介 「なに?」

和馬 「今日、偉い人来てたじゃん。軍の人。」

隼介 「ああ。」

和馬 「いろんな道場、視察してるって言ったじゃん。」

隼介 「うん。」

和馬 「戦力になるか見てたんだって。」

隼介 「ほぅ。」

静流 「え、何かまずいの?」

和馬 「もしかしての、もしかしてなんだけど。徴兵、15歳からになるかもしれん。」

 沈黙。

隼介 「・・・なんでまた?」

和馬 「淘來(とうらい)が国境付近に軍勢集めてんだって。」

隼介 「軍勢。・・・なんでまた?」

和馬 「分からん。けど、警戒はしておかないと・・みたいなこと言ってた。」

隼介 「翔馬先生が?」

和馬 「うん。」

隼介 「ぶっちゃけ・・ヤバいの?」

和馬 「分からん。」

静流 「大丈夫だよ。・・うん・・大丈夫。」

和馬 「まぁ、ロズガードもついてるし。」

静流 「ろずがぁど?」

和馬 「同盟国。」

静流 「味方?」

和馬 「うん。」

静流 「じゃあやっぱり大丈夫だ。ねぇ!厳が覗き魔って本当!?」

和馬 「は?」

静流 「ねぇどうなの?」

和馬 「隼介ぇ。そうゆうことは女子には言うなよ~。」

静流 「あ。ってことは隼介も共犯なんだ。」

隼介 「だから違うって。なんでそうなるの!?」

和馬 「声でかいって。もう深夜だって。」

沙耶 「ねぇ、なんでそれ和馬が知ってんの?」

和馬 「え・・・。」

沙耶 「あ~~~~~!!!???」

和馬 「なんか誤解してないかい。」

 盛り上がる四人。皆笑顔。この日の夜も遅くまで語り合い、やがていつしか皆眠りに落ちていった。隼介はこの日もまた考えていた。眠りに落ちる一歩手前、まどろみの中にたゆたいながら・・・

今日も楽しかった。本当に。みんな笑っていた。みんなも多分、楽しいよね?

でも本当は・・・怖かった。実はみんなもそうなのかな?

『あの日』を境に、何かが変わった。いったい何が?

・・・やめよう、こんなこと考えるのは。飲み込まれてしまいそうだから。

今日の稽古は楽しかった。本気でぶつかれた。みんなも本気でぶつかってきた。本気で観ていてくれた。みんなで限界に挑戦したような、みんなで何かを共有したような。みんな一つだったというか。

人だけじゃなくて、道場も、竹刀も、防具も、床も、壁も、空気まで・・・

何もかもが一つだったみたいな。

・・・思い出した。昔はいつもそうだった。そんな感覚だった。一つになるなんて簡単だった。それなのにいつしか・・・

いつしか、世界に境界線が引かれた。自分と他人、敵と味方、男と女、出来ることと出来ないこと、生と死・・・


・・・やめよう、こんなこと考えるのは。飲み込まれてしまいそうだから。

良かった。こんな時、仲間がいてくれて良かった。

ありがとう、一緒にいてくれて・・・




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