戦国Web小説『コミュニオン』第40話「波紋」

第40話 「波紋」

 

 隼介が投獄されて一ヶ月が過ぎた。その頃戦況は膠着状態に陥っていた。醒陵は中央攻略部隊を中央門、南部攻略部隊を南門の守備にあたらせている。

 そもそもは各守備隊だったのが、開戦に伴い攻略部隊の中核を成した。形としては元に戻った形である。北部に関しては、もともとの守備隊はかなり小規模であったが、開戦に伴い楠部隊が派遣され、北部攻略部隊となった経緯がある。

 今となっては北門も重要拠点となっているため、彼らがそのまま北部守備隊となる。

 

 北門を攻めたロズガードの部隊は本国に帰還せず、いまだ国境付近の淘來領に布陣している。隙あらば攻めて来る姿勢である。また度重なる戦闘で疲弊した淘來軍であったが、遠方には主力軍が健在であり、侮れぬ戦力を有している。醒陵とロズガードの同盟が決裂したことで、今や三つ巴の様相を呈してきた。

 国内では直太丸と蒼雲の二大勢力が互いに牽制しあい、国としての方針もまとまらぬまま時間ばかりが過ぎていく。今日もまた、醒陵本陣(本拠地)では長老会の双璧が議論に火花を散らしていた。

蒼雲 「だからわしが陣頭指揮をとると言っておろう!」

直太丸「あのな、蒼雲。それ負けるよ。」

蒼雲 「負けん。」

直太丸「負けるって。」

蒼雲 「負けんと言っておろうが!」

直太丸「いや別にな、お前の実力認めとらんわけじゃないぞ。」

 ニコニコと穏やかな白髪の老人・直太丸と、鋭い目つきで激昂している黒髪の老人・蒼雲。話しているのはこの二人だけ。他にも十数名の軍高官と数名の長老会メンバーが会議には参加しているのだが、黙ったまま。この日も今後の方針について話し合われている。

蒼雲 「ならよかろう。」

直太丸「確かにお前の戦術すげぇ~。戦術に関しちゃわしの次の次の次ぐらいはすげぇ~。」

蒼雲 「・・・・・。」

直太丸「かも知れん。・・あ、その次かな。」

蒼雲 「で!?」

直太丸「でもさ、一回二回の戦闘で勝っても最終的には負けるじゃん、お前。」

蒼雲 「ぬぬぬ・・・」

 蒼雲、怒りの形相。ただでさえ怖い顔が、修羅のようになっていく。それでも直太丸は動じない。相変わらずニコニコと笑っている。そして会議に参加している(いない?)皆の顔を見る。

直太丸「ねぇ。」

 直太丸、その一人を指さす。

直太丸「あ、今こっち見るなよって思ったっしょ。」

蒼雲 「今しかないのだ!淘來の遠征軍が戻ってくる前に、」

直太丸「ロズガードがにらんでんだよぉ。」

蒼雲 「だから!中央と南部の軍を北上させて防衛、北部の軍で淘來を叩けばよかろう。北部の連中だったら問題ない。」

直太丸「単独では攻めれん。」

蒼雲 「わしが指揮すれば問題ない。」

直太丸「楠が率いてたからあそこまで強いんだよ。」

蒼雲 「・・・愚弄するか。」

直太丸「いやこれ事実。」

蒼雲 「話にならんな。」

直太丸「そうだね。皆の意見聞こうかな。どう?」

 皆、黙ったまま。

直太丸「これだよ。」

蒼雲 「こうしている間にも淘來の軍勢が、」

直太丸「なぁ蒼雲。」

蒼雲 「・・・なんだ。」

直太丸「お前は攻撃隊長としては申し分ないけど、国の舵取りには向いてない。」

蒼雲 「なんだいきなり。」

直太丸「視野が広い方ではなかろうて。」

蒼雲 「で?」

直太丸「ここは退いてくんないかなぁ~。」

蒼雲 「・・・・・。」

直太丸「いかんか?」

蒼雲 「うむ。そうはいかん。」

直太丸「ふぃ~~~~、どうしたもんかね。」

 直太丸と蒼雲、同時に大きなため息を吐く。

直太丸「話戻すけど、開戦させたのは蒼雲の考えなんだよね?」

蒼雲 「違う。」

直太丸「でもさ、北門が襲われた時、都合よく楠の部隊がそこにいたんでしょ。」

蒼雲 「そうだ。」

直太丸「訓練生を殺させておいて、その上で敵を返り討ちにしたかったんだよね。」

蒼雲 「なんでそうなる。」

直太丸「いやぁ~~、そう思っちゃうよ。都合良すぎるじゃん。」

蒼雲 「邪推だ。」

直太丸「そうかなぁ。」

蒼雲 「楠が派遣されたのはわしの指示ではない。大将軍が命令したのではないか。」

直太丸「そう仕向けたってわし思うんだけど。」

蒼雲 「相談は受けた。北門の警備が薄いんじゃないかとな。だったら兵をまわせと答えた。それだけだ。」

直太丸「ふ~~~ん。」

蒼雲 「・・・・・。」

直太丸「じゃ、次。北門で裏切った兵士たち。あれみんな蒼雲が送り込んだんだよね?」

蒼雲 「違う。」

直太丸「醒陵に不満持った人らと淘來の間者を集めたんでしょ、あそこに。」

蒼雲 「邪推だ。」

直太丸「そうかなぁ。」

蒼雲 「そもそも、わしには何の権限もない。人事に関しても同様。」

直太丸「ふ~~~ん。」

蒼雲 「どうしてもわしを悪者にしたいようだな。」

直太丸「んなこたないよ。」

蒼雲 「ならいいが。」

 話し合いは今日も平行線が続く。

 

 

 

 北部駐屯地。現在ここには楠部隊が駐屯している。北部守備隊と名を改めた、かつての北部攻略部隊である。一連の戦いで華々しい活躍を遂げた彼らは、国内から絶大な支持を得ていた。特に高い名声を得たのは、歩兵第1部隊であった。

 彼らの活躍なくして、北部戦線の優勢はなかった。また、彼らの活躍に隠れてしまってはいるが、上層部の間では和馬がそれ以上の評価を受けていた。

 その高い戦術眼が認められ、これからも参謀としての活躍が期待されている。

 隼介が抜けてしまった歩兵第1部隊。隊長の座は皇が引き継いでいた。正直、彼は困惑していた。

皇  「あ~~~あ・・・」

和馬 「どうした?」

皇  「う~~ん、いやぁ・・・」

和馬 「ん?」

皇  「僕じゃあ相葉くんの代わりは務まんないよ。」

和馬 「またそれかよ。」

皇  「だってさ、向いてないって。」

和馬 「皇が適任でしょ。」

皇  「梶くんだって剛田くんだっているじゃん。」

和馬 「でも、強さ的に言ったら、やっぱり皇じゃない?」

皇  「どうかな~・・・」

和馬 「ま、決まったことなんだし。」

皇  「う~~ん、そう・・だねぇ。」

 爽やかな笑顔を見せる和馬。

和馬 「覚悟、決めろよ。」

 苦笑いの皇。

皇  「・・うん。」

涼平 「頼りにしてる。」

皇  「あ、梶くん聞いてた。」

剛田 「こいつ、人の話聞いてんのか聞いてないのか分からん時があるよな。」

和馬 「お前もな。」

 彼らは休暇中であった。警備とは言っても、淘來軍もロズガード軍も近くにはいない。しばしの休戦といった感じであった。ここには兵力も十分にあり、たとえ敵が攻めて来たとしても、今は余裕で迎撃できる態勢が整っていた。

 そのため休暇が多かった。今まで戦い続きの日々だったのが一転、ここに来てからの日々は穏やかそのものであった。もちろん、隼介を巡る一連の騒動は彼らの心配するところではあった。とにかく、隼介には休養が必要である。

 今はとにかく休んでほしい。願わくば、二度と戦場になど来なくても済むことを、ただただ願うばかりである。

 兵士が一人やってくる。

兵士 「皇殿とお見受けいたします。」

皇  「ん?はい。」

兵士 「守備隊長殿がお呼びであります。」

皇  「はぁ。」

兵士 「なお、同隊の梶殿・剛田殿もおられますでしょうか?」

皇  「はい、います。彼らです。」

涼平 「梶です。」

剛田 「俺、剛田。」

兵士 「ご両人もお呼びであります。ご同行願います。」

 兵士についていくと、守備隊長の部屋へと案内される。

兵士 「お連れいたしました。」

隊長 「呼び出してすまない。」

皇  「いえ。」

隊長 「・・・うん、うん。」

 守備隊長、皇・涼平・剛田の面構えや体格を観察するように見る。

隊長 「さすが精鋭部隊の中核。いい面構えだ。」

皇  「恐れ入ります。」

隊長 「君が、皇くんかな?」

皇  「はい。」

隊長 「すごいな。・・・分かるぞ、強いのが。」

皇  「恐縮であります。・・・ご用件は?」

隊長 「うむ。実はな、相葉くんから託されていたものがあってね。」

皇  「はい?」

隊長 「受けとってもらいたい。」

 兵士たちが何かを持ってくる。それは甲冑であった。皇・涼平・剛田の三人の前に、それぞれ置かれる。皇の前に置かれたのは、ほとんど黒に近い濃い青の鎧であった。縅糸(おどしいと)は水色や紫色のものが使われている。

 オーダーメイドのため、皇の体に合わせたやや小柄なサイズであった。鎧の他に脛当・佩楯・籠手もセットだったが、兜はなかった。

皇  「・・・・・。」

隊長 「本当は戦線に送る予定だったんだけどな、いろいろあって間に合わなかった。」

皇  「・・・これは?」

隊長 「贈り物だ。相葉くんからのな。」

皇  「・・・・・。」

隊長 「彼はこう言っていた。皇と涼平は多分、兜は要らないって言うと思う。視界の邪魔になるから・・と。」

皇  「ハハッ・・おっしゃる通りです。」

 皇と守備隊長、涼平の顔を見る。いつも無表情な涼平が、珍しく笑顔を見せた。

涼平 「・・はい。同じく。」

隊長 「剛田は嫌がっても兜まで渡してください、とのことだ。」

剛田 「え?」

隊長 「彼は視界がどうこうよりも、打たれ強さを強化した方が活きる、とのこと。」

剛田 「・・はぁ。」

 涼平の前に置かれた鎧は、黒い鎧だった。しかし、縅糸が白色だったため、パッと見だと白い鎧にも見えた。もちろん、脛当・佩楯・籠手もセットである。

 剛田の前に置かれた甲冑は、ほとんど黒に近い濃い緑色。縅糸もまた緑色であった。脛当・佩楯・籠手もセットで、兜まである。

隊長 「そして・・・」

 兵士たちがまた何かを持ってくる。皇の前に持ってこられたのは、刀であった。そして涼平には槍、剛田には金砕棒(かなさいぼう)が手渡される。

隊長 「鎧の他に、武器もそれぞれ渡して欲しいとのこと。手紙も預かっている。後で読んでおいてくれ。」

 それぞれ武器と手紙を受け取った三人。その場を後にした三人は、看護棟の横で足を止める。たびたび暇つぶしに稽古している場所だ。隼介が稽古していたのもここだ。三人はここで手紙を広げる。それを読み始めると、まるで隼介の声が聞こえてくるかのように彼らの心に語りかけてきた。

 皇宛に書かれた手紙にはこう書いてあった。

隼介 「皇、久しぶり。戦線を離脱してしまってごめん。自分だけこんなことになってしまって申し訳ないと思ってる。でも、どうも限界みたいなんだ。本当にごめん。みんなにばっかり無理を押しつけちゃって言い訳のしようもないです。」

 隼介からのメッセージは、いつもの喋り言葉と多少の敬語が混ざったような文章だった。誠意が伝わってきた。感謝と謝罪と心配、そして応援の念が込められているのが分かる。

隼介 「せめてものお詫び、というわけではないけど受けとって欲しい。本当は甲冑を一式贈ろうかとも思ったけど、皇は兜ない方がいいよね。俺もそう。視界が広い方が戦いやすいと思うから。」

 笑みがこぼれる皇。心の中で「うんうん。」とうなずく。

隼介 「あと、新品の刀も作ってもらった。これ、醒陵で一番腕のいい刀鍛冶の人に作ってもらったんだよ。ダメもとで頼んでみたんだけど、本当に作ってもらえた。正直驚いてる。まぁ、刀はあんまり使う機会ないかも知れないけど、ぶっちゃけ皇って槍より剣の方が得意でしょ。だからこれにした。

 良い刀だと思う。あ、実は試しに振ってみたんだ。ごめんね。でも実物がどんなのかも分かんないまま渡すのもどうかなって思ったからさ。うん、これ、良い。良い刀。振りやすい。切れ味は知らない。ごめん。でも多分いいはず。また会おう。追伸、来年も大会あるといいね。また一戦やろうぜ。」

 

 手紙を読み終わった皇。贈られた刀を見つめる。鞘は濃い青色だった。柄紐は紫色である。皇は思う。甲冑や刀の色も隼介の注文なのかな?

 隼介の中での僕のカラーって青系なの?そして抜刀。刀身は陽光を受け、光を放つ。角度を変えると波紋が見える。鮮やかな瓦の目乱。

 その第一印象は、「美しい」であった。

 袈裟を振ってみる。軽い・・と思うのは気のせいか?そして振りやすい。鞘を置き、右手で横薙ぎ・袈裟、両手で逆袈裟を振る。軽く握っているだけなのに、しっかりとフィットしている感覚であった。またその軽さと振りやすさからか、振った瞬間にまるで刀身から重さが消えてしまったかのような錯覚に陥る。

 ・・・これが名刀というやつか・・・

 それが皇の正直な感想であった。これは凄い。驚きを隠せない。

 

 

 涼平もまた隼介からの手紙を読む。その冒頭は、皇への手紙に書かれていた内容と同じであった。

隼介 「涼平、久しぶり。戦線を離脱してしまってごめん。自分だけこんなことになってしまって申し訳ないと思ってる。でも、どうも限界みたいなんだ。本当にごめん。みんなにばっかり無理を押しつけちゃって言い訳のしようもないです。

 せめてものお詫び、というわけではないけど受けとって欲しい。本当は甲冑を一式贈ろうかとも思ったけど、涼平は兜ない方がいいよね。俺もそう。視界が広い方が戦いやすいと思うから。」

 涼平の顔に笑みが。心の中で「その通り。」とうなずく。

隼介 「あと、新しい槍も贈るので、良かったら使って欲しい。醒陵で一番良い槍を贈りたいって言って取寄せてもらったよ。ぶっちゃけ一番良い槍かどうかは分からん。ごめん。でも、すごくいい槍だよ。振りやすいし、軽くて頑丈そうだから。

 あ、実は試しに振ってみたんだ。ごめんね。でも実物がどんなのかも分かんないまま渡すのもどうかなって思ったからさ。また会おう。追伸、来年も大会あるといいね。また全国大会目指そうぜ。」

 

 手紙を読み終わった涼平。贈られた槍を見つめる。確かに良い。今まで使っていたものより若干重いかも知れないが、これなら攻撃力は高くなる。

 ・・・あれ?軽いって書かれてなかったっけ?まぁいいや。そして振ってみる。風切り音を鳴らしながら、その槍はスピーディーに動き回る。

 振りやすい。重くなったはずなのに、振ってみると全然そんな気がしない。むしろ若干軽くなったようにも感じる。そして突く!前よりも速い。

 連続で突いてみる。それらの連続突きは、音もなく空を穿つ。

 これは凄い。隼介への感謝が湧いてくる。とともに、かつて自分が隼介に言った、「隼介は実戦向き」というメッセージが、隼介自身の戦闘だけに留まっていないことに気づく。戦友への支援(?)まで的確にこなせてしまう彼は、部隊長としても「実戦向き」な存在であると感服した。

 

 

 剛田もまた隼介からの手紙を読む。

隼介 「剛田、久しぶり。戦線を離脱してしまってごめん。自分だけこんなことになってしまって申し訳ないと思ってる。でも、どうも限界みたいなんだ。本当にごめん。みんなにばっかり無理を押しつけちゃって言い訳のしようもないです。

 せめてものお詫び、というわけではないけど受けとって欲しい。甲冑を一式贈るよ。兜ない方がいいと思うかも知れないけど、剛田はかぶった方がいいと俺は思う。視界は悪くなるけど、打たれ強さを強化した方が剛田の長所は活きると思うんだ。」

 剛田、苦笑い。そして心の中で

「やっぱ分かってるな、こいつ。戦いじゃ勝てんわ。」とつぶやいた。

隼介 「あと、新しい武器も受け取ってほしい。」

 剛田、手渡された金砕棒を眺める。それは六角金砕棒であった。すべて金属でできた末広がりの六角柱に、これまた金属の鋲(びょう)がびっしりと打ち込まれている。長さは剛田の身長と同じぐらいある。さすがに大斬刀ほどではないが、相当な重さである。

隼介 「剛田は力があるけど、得物の扱いが時々荒い。だから刃の劣化も早い。戦いの時さ、最初の方と比べて、最後の方は切れ味悪くないかな。」

 剛田、「そうなんだよ。」と心で相づちをうつ。

隼介 「戦闘が長引くにつれて、攻撃力も下がってるはず。ま、俺も人のこと言えないんだけどね。大斬刀使う前はそうだったから。だから、君の場合は打撃系の武器の方が相性いいかもね。

 無理に丁寧な攻撃を心がけるより、むしろそんなこと考えなくても済むような得物に換えた方が、剛田らしい戦いができるはず。また会おう。追伸、来年も大会あるといいね。また玄武館と青龍館、勝負しようぜ。」

 

 手紙を読み終わった剛田。贈られた金砕棒を振り上げる。重い。これは重い。そして地面に叩きつける。先端が少し地面に埋もれる。確かに、これをぶち当てれば相当な攻撃力ともなろう。だが、こんなの扱えるのか?重すぎやしないか?

 ・・・でも・・・あの隼介が贈りつけた(?)のであらば、使えると判断してのことだろう。それに、打撃系の武器であるから、刃で攻撃するものより劣化は緩やかである。筋力と持久力があるのならば、確かにこちらの方が有利なのかも知れない。

 

 もう一度金砕棒を振り上げる。そして振り回してみる。ブォン、ブォンと鈍い風切り音を鳴らしながら、その重く硬い金属の棒は勢いを増していく。

 一度勢いをつけてしまえば、それなりのスピードが出る。そしていろいろと振り方にバリエーションをつけてみる。さすがに剛田も力だけの武道家ではなかった。技術も持っていた。

 薙ぎ払った流れで一回転、そこから袈裟斬り(袈裟打ち?)、からの打ち下ろし。斬り上げ(打ち上げ?)たかと思えば、反転して踏み込み、柄での突き。さらには、正面を向いたまま薙ぎ払い左手だけで振り抜き、背面で右手に持ちかえそのまま次の薙ぎ払いに繋げたりと、早くもこの武器を自分のものとしていった。

 

 剛田のその能力も凄いが、それを見抜いていた隼介もまた優れた洞察力の持ち主である。皇も涼平も剛田も、改めて隼介の凄さを実感する。それとともに、隼介の自分たちへの心配りが心に沁みた。今ここにはいないけれど、やっぱり今も一緒に戦ってくれている。そう感じた。

 

 三人は夢中になって隼介からの贈り物を振り続けた。無我夢中で稽古に打ち込んでいた。いや、稽古しているつもりはない。ほとんど遊んでいるようなものであった。この点、やはり隼介と通ずるものがあるようである。

 この三人は、根っからの武道家なのである。こういった行為が自分の一部なのだ。近くを通る兵士たちは、皆立ち止まってそれを見ていた。あまりに見事な姿であった。

 そのうちそこに人だかりが出来ていき、やがて同じような質の者たちがそれに参加していく。皆各々が、自分のやりたい稽古を始めだす。元歩兵第1部隊の者が多くを占めていたが、それに感化されたのか、他の者たちもじょじょにそれに加わっていった。その輪はどんどん広がっていく。

 

 それは見ようによっては、武道の祭典であった。誰に言われたわけでもなく、剣を振り槍を振り、力を技を速さを追求していった。その根源にあるのは何であろう?「強くなりたいから」それは確かにあるだろう。

 が、それ以上に彼らは無心であることを楽しんでいるように見える。武器と対話することで、彼らは無心になれた。本当は、武器はなくともいいのかも知れない。無心になるための媒体として、武道家が武器を選んだまでのことかも知れない。

 

 「道」を追求する者は皆、無心の境地にある・・かどうかは分からないが、体が一つのことだけに熱中していると、頭の中は空っぽになる。他のことは忘れ、そのことだけに没頭する。彼らは怒りでも憎しみでもなく、今はただただ無心に剣を振り槍を振る。

 

 隼介が投げ入れた小石は、波紋となって大きく広がっていった。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』31~45話

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