戦国Web小説『コミュニオン』第34話「笑顔」

第34話 「笑顔」

 

 隼介がここに戻ってきて半月ほどが過ぎた。あいさつ巡りをしたのもあって、隼介がこの駐屯地に滞在していることは兵士たちの間にも知れ渡っていた。

 わりと自由行動が許されるのを見ても、隼介が錯乱した上でやってしまったことは咎められていないようである。ただし、そのことを他言するのは軍の方からかたく禁じられている。

 ここの兵士たちとは親しくなり、自由時間の者と会話することが多くなった。隼介は気になっていた。和馬たちはどうしているのかと。戦況が知りたかった。そういった情報に携わっている兵士とも親しくしていたので、ある日聞いてみた。

 

 彼が言うにはこう。戦線は膠着状態。北部戦線は優勢だったが、中央・南部戦線は苦戦しているもよう。楠部隊が敵戦力をひきつけておいて、なおこれである。

 中央・南部攻略部隊が弱いのか、防衛側が強いのかは不明だが、これでは当初の目的であった同時攻撃が果たせない。

 敵本陣はさすがに手強いようで、楠部隊だけでは攻めるに攻めれない。あまりに長引けば、淘來軍は遠征している主力部隊を呼び戻してしまうだろう。

 要するに、かんばしくないようである。

隼介 「マジですか・・・。」

兵士 「マジであります。」

隼介 「そもそも、淘來って主力部隊が別にいるんですよね。」

兵士 「おっしゃる通りです。」

隼介 「ってことは、実際めちゃくちゃ強いんじゃないですか。兵力ハンパないじゃないですか。」

兵士 「同感であります。」

隼介 「知ってました?そのこと。」

兵士 「私も遠征軍のことは、戦争が始まってから初めて聞かされました。」

隼介 「私もつい最近ですよ。何でこんな大事なこと最初に教えてくれなかったんでしょうかね。」

兵士 「それでは、開戦に反対されてしまうと思ったのでしょう。」

隼介 「・・・ですよね。」

兵士 「国民の大半は、今なお知らない人の方が多いかと。」

隼介 「・・あ、まだ公にはなってないんですね。」

兵士 「そのようです。軍の関係者に、ようやく知らされたばかりですから。」

隼介 「あ、ロズガード!ロズガードはどうしてるんですか?こんな時こそ加勢してもらわないと。」

兵士 「同感であります。」

隼介 「援軍要請しないと。」

兵士 「はい。実は、すでにしてあるのです。」

隼介 「そうなんですか!?」

兵士 「はい。ですが、頭数が足りないとかで、すぐには来てくれないようであります。」

隼介 「えぇ~~~~。」

兵士 「ロズガード本国から、あらたに2万の軍勢が出発しているとのことなのですが・・・」

隼介 「いつ到着するんです?」

兵士 「私には分かりかねます。」

隼介 「そうですか。」

兵士 「はい。とにかく、本国から来た援軍と今展開している部隊が合流し次第ということになるようです。」

隼介 「今来てる部隊だけでも戦線に向かうべきだと思いますよ。」

兵士 「私に言われましても。」

隼介 「ですよね。」

 ロズガードか・・・。隼介は思い出す。軍事大国と呼ばれる彼らの戦いぶりを。  圧倒的な突進力の重装騎兵に、攻守に優れた歩兵隊。どちらも凄まじい戦闘力を見せつけ、隼介の脳裏に焼きついていた。

 ほぼ全身をプレートアーマーで覆った騎士。あそこまでガチガチに鎧で固めてしまって重くないのか?とも思ったが、優れた甲冑は頑丈な上に見た目ほど重くはないのだそうだ。また、軍馬まで鎧を着ていたのも印象的だった。

 また彼らが持っていた武器も印象的であった。最初は槍に見えたが、小型の斧と鎌がついたような形状であった。ハルバードと呼ぶらしい。

 歩兵が持っていた大型の盾はスクトゥムというのだそうだ。とても頑丈そうであった。並の攻撃では歯が立たないであろう。セットで持っていた短剣はグラディウスという名の優れもの。厚みがあり、接近戦では殺傷力抜群であろう。

 

 隼介はふと思う。・・・はたして、彼らに大斬刀は通用するのだろうか・・・。別に彼らと戦うわけではないが、ふと気になった。あの頑丈そうな甲冑や盾で防がれてしまったら、己の最大の武器である筋力が完封されたことになる。

 持久力やら反射神経やら心理を読む力やら、隼介が秀でているものは多々あるが、なんだかんだ言ってもやっぱり筋力である。隼介を超人たらしめているのは、ずば抜けた筋力に他ならない。

それが通用しないのであれば、おそらく負けることになろう。いや、通用しないはずはない。それでも、淘來軍相手に戦った時のようにはいかないのかも知れない。

 聞いた話がどんどん思い出される。重装騎兵がいるように重装歩兵もおり、やはりプレートアーマーで全身を覆った騎士が、槍や剣を武器に戦うのだそうだ。醒陵の鎧武者よりも耐久力があると聞く。う~~~ん・・・強そうだ。

 ま、考えてもしかたないか。と、頭を切り替える。

隼介 「では、また。」

兵士 「はい。稽古ですか、これから。」

隼介 「はい。」

兵士 「精が出ますね。」

隼介 「好きなんですよ、鍛えるの。」

兵士 「さすが斬りこみ隊長殿。」

隼介 「どうも。それに、なまったままの体でいたくないんで。」

兵士 「やっぱりさすがであります。」

 隼介、看護棟の横にあるスペースに大斬刀を持ってくる。ここならこの大きな武器を振り回しても問題ないぐらいの広さがある。まずは軽~く振ってみる。

 右手だけで柄を握り、ゆっくり頭上で振り回す。上から見て反時計回りに回る巨大な刃は、ゆっくりであってもその破壊力を感じさせる。一回転、二回転、三回転。

 

 そしてその流れで薙ぎ払う。少し遅れてやってくる慣性の法則が、隼介の右手を左へ引っ張り、一瞬遅れて右肩を引っ張り、連動して体全体が左へと引っ張られる。隼介はその流れに逆らわず、そのまま左へと重心を移す。

 すると自然に右足が一歩、左へと踏み出す。続いて左足も自然と一歩出る。その一歩は体重の乗った右足を軸に、やや回るように踏み出される。

 そのまま体ごと一回転。左足が地についた時にはまた正面を向いている。とともに右手はまた頭上にて大斬刀を振り回し続ける。

 

 「動いているものはその運動を続ける。」それを慣性の法則とするなら、大斬刀を扱うのに重要な要素はまさにこれである。勢いを止めない。生み出した勢いを止めることなく流し続けることにある。

 隼介は誰に教わるともなく、自然とそのことを学んでいった。しいて言うなら、大斬刀から教わった。隼介は稽古をすることによって、得物と対話を深めていく。

 物言わぬ物だからこそ、相手の声に耳を傾ける必要がある。静かに問いかける必要がある。根気よく問いかけ続ける必要がある。すると多くを語り出す。

 隼介はその声を聞くのが大好きであった。得物が教えてくれるのだ。自分の体がどう動けばいいのか。体もまた教えてくれる。どう動けばこの得物と一体化できるかを。

 

 

 隼介は日々稽古を続けた。汚染されてしまった己の世界を浄化するかのように。壊れてしまった心を再生させるように。何かあるとすぐに乱れてしまう心。

 それをまぎらわせるためにも、隼介は毎日稽古を続けた。実は先日も彼の心を乱す出来事があった。沙耶が帰ってしまったのだ。隼介が淘來人の捕虜に慰問したいと言った時、沙耶は拒絶反応を見せた。そしてそのまま去っていった。

 それでも隼介は、自分は間違ったことはしていないと思っている。沙耶が帰ったのを好機とばかりに、静流は昼間も隼介に寄り添おうとする。だが隼介は一人、稽古に打ちこむようになった。なので静流との会話は今まで通り夕方から夜、そして早朝のみである。

 沙耶が帰ってしまったのはショックだが、それでも良しとしなければ。むしろ、来てくれたことに感謝。短い間ではあったが、とても価値のある時間が過ごせた。

 良い思い出ができた。沙耶が隼介のためにと提案してくれたあいさつ回り。ここの兵士たちと仲良くなれたのもそのおかげ。そして何より、夕日の中で初めて沙耶を抱きしめたこと。

 大したことではないのかも知れないが、あの時の記憶が隼介の中で宝物となった。残念ながら次の日に、沙耶は帰ってしまうことになってしまったのだが・・・

 なんだか『あの日』に似ているなぁ~・・と思う。表が裏になるように、明るくて暖かい昼が暗く寒い夜になるように、とても幸せな時間がとても苦しい時間へと反転してしまった。

 でも以前の自分とは違い、その苦しい時間を良くないものだと捉えることはしなかった。いや、良くはない。良くはないけど否定はしない。不快だし怖いし大きな苦痛を伴うできごと。それでもそれもまた自分の一部。自分を構成する重要なピースとなってくる。

 隼介は大斬刀を振り回しながら、そんなことを考えるともなく考え続ける。武器との対話は自分との対話。何も考えない時間こそ、本当の自分が考えを巡らせている時間。

 無心であればあるほど、迷いや不安・恐怖といったものが抜けていく。だからこそ隼介はこの時間が好きなのだ。そんな養生と稽古の日々が半月ほど続いた。

 

 

静流 「ずいぶん元気になったね。」

隼介 「そうだね。」

 夜。いつものように病室には静流がいる。もはや病室にいる必要もないほど回復した隼介。隼介の部屋は個室だが基本的に病室は相部屋となっており、他の病室にはそれなりに多くの患者がいる。患者・・・いわゆる傷病兵である。

隼介 「ありがとね。」

静流 「ん?」

隼介 「いつもありがと。」

静流 「ん~ん。」

隼介 「俺さぁ、そろそろここ出た方が良くないかな。」

静流 「・・・なんでそんなこと言うの。」

 静流、どうやら「自分から離れたい」と言われたのだと思った様子。

隼介 「もうずいぶん回復したって言うか、もう治ったも同然だし。」

静流 「・・私・・何か悪いこと言った?」

隼介 「え?いやいやいや!違う違う。そういうことじゃなくて。」

 静流が誤解していることに気づき、焦る隼介。

隼介 「なにも病室じゃなくてもいいのかなって。だって、ケガした人けっこういるじゃん。」

 確かに負傷した兵士たちが多くいる。あまりにひどい者は兵士として復帰できる見込みなしと見なされ醒陵内部(国境から離れた場所)へと搬送され、戦線復帰できそうな者は残される。

 今のところそういった兵士たちがあふれているわけではないが、いざとなればどっと増える可能性だってある。そんな中、元気になった自分がいつまでもここに居座るのは良くない気がしてきたのだ。

静流 「あぁ、そうゆうこと。」

隼介 「うん。・・あ、でもあれなのか。俺ってもしかして、その・・監視対象?だったりする?」

静流 「・・まぁ・・そういう部分もなきにしもあらず・・かな。」

隼介 「そっかぁ。」

 監視対象。隼介は錯乱して味方を殺傷してしまったためここへ強制送還された。ある意味で要注意人物なわけである。もちろん今は回復し、普通にしていれば何の問題もないことは軍も分かってくれている。静流はそんな隼介を見張る役割も仰せつかっているのである。

隼介 「勝手にここ抜け出したらまずいんだよね。」

静流 「当たり前じゃん。」

隼介 「だよね。いやぁ、なんだか申し訳なくて。元気になったくせして病室占領してるの。しかも個室。」

静流 「いいの。隼介はいいの。」

 「隊長殿はいらっしゃいますでしょうか?」

静流 「・・呼んでるよ。」

隼介 「はい!」

「入ってもよろしいでしょうか?」

隼介 「どうぞ。」

 「失礼いたします。」

 入って来たのは先日、隼介に戦況を教えてくれた兵士だった。隼介よりはやや年上だが完全に隼介を尊敬しきっており、格上に対する態度で接してくる。事実、軍での階級(?)は隼介が上ではあるが。

 兵士は「急報が入ったのでご報告に参りました。」とのこと。だが、静流の前では話にくいのか言葉を濁らせる。

隼介 「あ、もしかして内密な話ですか。」

兵士 「・・若干、はい。」

隼介 「悪いけど静流、」

兵士 「あ、いえ。席を外していただくほどでもありません。」

 この兵士は静流が隼介の幼馴染だということは聞いている。英雄の幼馴染に対して失礼な態度はとれないといった感じである。

兵士 「ロズガードの援軍、明日にも合流するとのことです。」

隼介 「ほんとですか。」

兵士 「はい。」

 明日にも合流。本国から来た2万の援軍が、現在展開している部隊と合流するようだ。そして戦線に向けて出発する。

兵士 「合流後は中央と南部戦線への加勢に向かうとみられます。」

隼介 「これで一安心ですね。」

兵士 「はい。以上、報告でありました。」

隼介 「ありがとうございます。」

 去っていく兵士。別に隼介が上官というわけでもないのに、わざわざ報告しに来てくれた。しかもけっこう大事な情報を。「いいのかな?」とも思いつつ、「せっかくなので今の立場は活用させてもらおう。」とも思っている隼介。

静流 「どうゆうこと?」

隼介 「同盟国が助太刀してくれるみたい。」

静流 「勝てる?」

隼介 「多分ね。」

静流 「じゃあもう戦わなくていいんだね、隼介は。」

隼介 「・・それは・・どうかな。」

静流 「どうして。」

隼介 「まぁ・・いろいろ、あるらしい。」

静流 「いろいろって何。」

隼介 「・・う~~~ん・・・俺も知らない。」

静流 「・・・・・。」

 戦は終わる。そしてまた始まる・・・

 以前蒼雲が言っていたことが思い出される。

 「これからは醒陵とロズガードの二人勝ちの時代が来る。」

 「このまま東へ東へと軍を進め、華の国々を一気に併呑することとなろう。」

静流 「私が言ったこと、忘れてないよね?」

隼介 「・・・うん。」

 静流が言いたいのは、あのことだろう。次にまた錯乱したら、もう元には戻れないかも知れないということ。正直、隼介には自信がなかった。また戦場で殺意ある視線を直視してしまったら、自分は自分を保てない気がする。

 もしかしたら、少しぐらいなら耐えられるのかも知れない。だが、戦場でそんな悠長なことは言ってられない。「今日はもう限界なので、ここまでにします。」なんてことがまかり通るわけがない。

 そうでなくとも錯乱する恐れはある。捕虜への慰問の時がいい例だ。予期せず感情が暴走してしまい、危なく錯乱するところであった。

 あの時は静流がいてくれたおかげで助かったが、戦場ではそうはいかない。つまり、外部からの圧力だけでなく、内部からも自然発火する恐れがあるのだ。

 どうすればいい?・・・いや、どうしようもないではないか・・・

隼介 「・・・・・。」

静流 「もう休もっか。」

隼介 「・・そうする。」

 静流は、隼介が先ほどの数秒間にひどく消耗したことに気づいていた。そして休息をうながす。目を閉じた隼介は、すぐに眠りにつく。

静流 「・・・・・。」

 静流もどうしたらいいのか分からない。隼介にはもう戦って欲しくない。かといって、それは静流にも隼介にもどうこうできることではない。

 ただ幸いなのは、しばらくの間は平和が訪れるであろうことだ。その平和がどれだけ続くかは知るよしもないが、それでも気休め程度にはなってくれるだろう。

 次の戦いの日まで、少しでも隼介の心が癒されますように。そう願い、自分も眠りにつく。だが、しかし・・・

 

 

 朝。その日もいつもと変わらぬ朝であった。少し肌寒さを感じるまでに、季節は移ろいでいた。

隼介 「いいね。」

静流 「何が。」

隼介 「秋。」

静流 「そうだね。」

隼介 「夏も好きだけど、秋は秋で良い。」

静流 「そうだね。一番好きなのは?」

隼介 「季節?」

静流 「うん。」

隼介 「う~~ん、そうだねぇ・・・全部。」

静流 「全部か。」

隼介 「うん。春も夏も秋も冬も、全部好き。」

静流 「じゃぁ私も。」

隼介 「何それ。」

 平和な会話である。しばらくはのんびりと静流との会話を楽しむ。最近では静流も看護婦としてすることがなくなり、看病というよりは話し相手といった感じであった。そして外へ出る隼介。日課である稽古を始めるのだ。

 この日は隼介以外に200人ほどの兵士たちが稽古に参加していた。兵士たちに以前から稽古をつけて欲しいとお願いされていたからである。

 隼介はそれを「回復したあとで」という条件で、快く引き受けた。隼介自身も、やる気がある人に稽古をつけるのは好きなのであった。彼らは熱心に教えを受ける。個々の力量の差はあったが、皆やる気はみなぎっていた。

 

 隼介は相手の力量に合わせて教え方、教える内容を変えていった。言葉による説明が必要だと思った者には懇切丁寧に説明し、見て覚えるタイプにはあえて言葉は控えめにしたりといった感じで。それでも生徒(?)は200人もいる。

 本当はもっとマンツーマンで教えたいのにな~、と隼介は嬉しい悲鳴をあげる。もちろん教わる側は楽しんでいた。英雄から稽古をつけてもらえる。しかもそれが、とっても優しくやる気をどんどんと引き出すようなやり方で。

 彼らが楽しいのは当然のこととして、当の隼介自身もなんだかんだで楽しんでいた。また道場での日々が帰って来たかのようであった。

 

 ・・・そう言えば、最初にいた部隊のみんなにも教えてたなぁ・・・

 そんなことを思い出す。後に精鋭部隊と呼ばれることとなる、歩兵第1部隊の中核を成す者たちが多数いた。ぶっちゃけ、今教えている者たちとは実力が段違いに上であった。

 元々高い能力だった上に上達も早かった。今教えている中にも少しは腕のたちそうな者がいるにはいるが、実際の戦闘となるとどうだろう・・・といった印象を受けた。彼らとの違いは何だろう?と考えたが、ただ単に実戦を経験しているか否か、そこに尽きると思った。

 

 実践・・実戦。そうだよな。実際に経験しなければ分からないこともあるよな・・・

 

 幾度にもわたる実戦を通して、隼介が学んだことが幾つもある。その一つに、士気は伝播する、ということが挙げられる。勝機を感じればおのずと士気は上がるし、逆ならば当然士気は下がる。そしてそれは周りに伝播する。

 特に今、目の前にいる者たちのような実戦経験のない者が多ければ、それは悪い方向により顕著に出るだろう。

 まだ勝敗が決しないうちから恐怖に負け一人が敗走を始める。するとそこから陣が崩れ、本当に敗北へと繋がる。また敵の罠とも知らず「勝てる」と思いこまされ一人が突っ走る。すると我先にと他の者たちも殺到し、不利な場所へとおびき出されたあげくに全滅。

 そういった光景を何度も見てきた。今目の前にいる者たちの喜々とした表情を見ながら、

 ・・・これだけではないんですよ。技術とかではない、言葉では説明もできないことがたくさんあるんですよ・・・

 といったことを思うが、言葉にしたところで何も伝わらないと思い口には出さない。どこか歯痒かった。とても大事なことなのに、教えることができないなんて。

 自分は知っているのに教えられない。自分で経験するまで分からない。そしてそれを経験して生きていられるか、なんてことも分からない。

 叶うならば、この人たちがそんな経験しなくても済みますように。もしこの人たちの笑顔が消えてしまうことがあるならば、せめてまた笑える日が来ますように。

 

 隼介は笑顔の裏でそう祈った。彼らに祈ったのか、それとも、道場で楽しく稽古をしている記憶の中の自分に祈ったのか・・・

 

 

 夜。静流と二人で病室にいると、また例の兵士が訪ねてきた。戦況に詳しいあの兵士だ。彼は神妙な顔で不可解なことを告げた。

兵士 「ロズガードの援軍、予定通り合流いたしました。しかし・・・」

隼介 「しかし?」

兵士 「南下するものと思われていたのですが、こちらへ向かっているもようであります。」

隼介 「・・・どうして?」

兵士 「分かりません。ですが・・・今、我が軍の大部分は戦線におり、長城を防衛している兵力は最低限であります。この北門におきましても同様です。」

隼介 「・・そりゃあ・・そうでしょう・・・。」

兵士 「・・・はい。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「・・・え?なになに??どうゆうこと??」

兵士 「はい。開戦前は、軍の大半を長城の警備にあてており、防衛力は万全でありました。」

静流 「・・・うん。で?」

兵士 「はい。つまり、現在の国境の防衛力は著しく低下しているのであります・・・」

静流 「あ、そうか!代わりに守ってくれるってことか。」

兵士 「・・・・・。」

静流 「そうゆうことでしょ。」

隼介 「・・・数は?ロズガード軍の。」

兵士 「3万を超えております。」

隼介 「・・・ここの守備兵は?」

兵士 「2000であります。」

隼介 「・・・戦闘要員以外も含めたら?」

兵士 「それでも、3000以下かと・・・」

隼介 「・・・・・。」

 黙り込んでしまった隼介と兵士。静流はまだ状況が掴めていない。

静流 「いいじゃん。守ってもらおうよ。そしたら隼介だって戦わなくて済むんでしょ。」

 隼介、もはや静流の言葉は耳に入ってこない。兵士とだけ会話しているような状態に。

隼介 「・・・総動員しても3000以下・・・10分の1か・・・。」

兵士 「念のため申し上げますが、まだロズガードの意向は分かっておりません。」

隼介 「・・・・・。」

 大きくため息をつく隼介。

静流 「どうしたの。いいじゃん。助かるじゃん。」

兵士 「ロズガードへ国境警備を要請したこともなければ、あちらからそのような旨を伝えられたこともありません。」

静流 「でも、そうゆうことでしょ。」

兵士 「・・・・・。」

静流 「じゃ、何しに来るっての?」

兵士 「・・・・・。」

隼介 「戦線の部隊へは?」

兵士 「報告は向かっていると思われます。」

隼介 「届くのはいつです。」

兵士 「数日は。」

隼介 「・・・すぐに駆けつけたとしても、それからさらに数日か・・・」

兵士 「おっしゃる通りであります。」

隼介 「国内には戦力はもうないのですか。」

兵士 「一応あります。本拠地防衛軍の他にも少々。大至急、一番近い場所に駐屯している部隊に出動を要請しましたが、到着は最速でも2日かかるかと。」

隼介 「数は。」

兵士 「5000。」

隼介 「・・・5000・・・か・・・。門を突破されなければ、なんとかなるか。」

静流 「・・・え・・・敵なの?」

兵士 「分かりません。ですが、その可能性があります。」

静流 「敵なの!??」

兵士 「同盟国といえども、他国です。」

静流 「攻めてくるの?ここに?」

兵士 「可能性はあるかと。」

隼介 「そう見た方がいい。」

静流 「・・・・・。」

 隼介は彼らの笑顔を思い出す。戦いを知らない彼らの笑顔を。

 記憶の中の隼介も笑っていた。仲間たちと楽しく稽古していた日々。

 

 

 今度はいったい、何人死ぬんだ・・・

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』31~45話

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