戦国Web小説『コミュニオン』第43話「できることを」

第43話 「できることを」

 

 そこは牢獄であった。鉄格子の奥には少年がいる。とても大柄な少年。常人ならぬ身長のその少年の体には、いたるところに傷がある。囚人用と思わしき衣服のそでから見える太い腕は、切り傷やすり傷にまみれていた。

 しかしその迫力ある肉体とは裏腹に、その表情はやたらと無邪気に見える。実年齢は17~18歳であろうが、もっともっと幼く見える。少年は爽やかな笑みを見せる。

 鉄格子を挟んで少年を見つめる少女。少年と同じぐらいの年齢の美少女。少年はこの少女と話をしていた。楽しそうに会話をする二人。実際には同い年ぐらいであろうが、少年の表情があまりに無垢なため少女の方が年上に見えてくる。

 二人は一日中、こうして鉄格子を挟んで楽しく会話をして過ごす。少年は時に、同じ話をする。それでも少女は初めて聞くように合わせてあげた。楽しそうに話す少年を見ていると、少女もまた嬉しくなった。

 だが少女は知っていた。今目の前にいる少年は、間もなくいなくなってしまうであろうことを。だから、この会話もこれで最後になるであろうことも。

 正直、寂しかった。いつまでも彼とここで、楽しいことだけ話していたかった。でも、これでいい。いつまでもこんな日々が続くはずがないのだ。楽しいことだけが続くはずがないのだ。だから、これでいいのだ。

 

 少年はここがどんな場所かも分かっていないようであった。牢獄・・・本来ならば忌み嫌われる場所なのであろうが、彼は嫌悪感など微塵も感じてはいなかった。むしろ快適な、楽しい場所だと感じていた。

 この狭い世界から出たいとも思わない。出たところで、何か楽しいことが起こるとも思えない。それどころか、なぜか嫌なことが待っているような、そんな気さえしていた。だから決して「出たい」とは言わないし、思いもしない。そんな日々がつづいていた。

 だが、それもまた過去の話。少年はそろそろここから出たいと思うようになっていた。嫌なこともあるだろうが、良いこともある。ここを出なければできないこともある。ここを出てやりたいことがある。

 何より、自分を待っている人たちがいる。だから、ここから出ることにした。

 そのためには、聞かなければならない話がある・・らしい。見なければならない物もある・・らしい。

 

 誰かが来る。気配を察した二人はその方を向く。姿を現したのは少女。これまた同い年ぐらいの少女であった。彼女は険しい顔をしていた。

 少年と話をしていた少女も、彼女の顔を見ると表情を曇らせた。少年だけは変わらず無邪気な笑顔で、新たに来た少女を歓迎する。

少年 「ねぇ、聞かせて。」

 最初からいた方を少女A、今来た方を少女Bとしよう。少女Bは険しい顔のまま、牢の前まで歩み寄る。彼女は両手に何かを抱えていた。布で巻かれたやや薄く長いそれは、とても重そうに見える。

 もしかしたら、この少女の身長より長いかも知れない。少女がその片端を石づくりの床におろすと、「ガッ」という硬いものどうしがぶつかる音をたてる。

疲れたと言わんばかりにひとつため息をつくと、反対の片端を鉄ごうしに立てかける。縦方向になり、それが少女の身長よりも長いのが分かる。

少女B「・・・・・。」

 少年の顔を見つめる少女B。念を押すかのように確認する。

少女B「聞きたい?」

少年 「聞きたい。」

 笑顔で即答する少年。少女が始めたのは、ある戦士の話だった。

 その戦士は強かった。途方もなく強かった。精鋭部隊の先陣として多くの敵を討ちとった。彼の武勇伝はそのどれもが凄まじく、人間離れしていた。

 少年は彼女が話す内容に、どんどんと引き込まれていく。と、突然、少女Bは口をつぐむ。

少女B「・・・・・。」

少年 「で?で?続きは?聞かせて。」

少女B「・・・まだ思い出さない?」

少年 「ん?」

少女B「・・・・・。」

 少女Bは再び、戦士の武勇伝を話し始める。

 戦士はその風貌も凄まじかった。人並み外れた体格で、戦場にて幾本もの矢が刺さったまま戦ったという。見た目や耐久力だけではない。その攻撃力もまた、人とは思えぬほどの凄まじさであったという。並の武器では彼の力に耐えきれず、すぐに壊れてしまったほどに。

 そんな彼が愛用していたのは、「大斬刀」という名の巨大な刀であった。青龍刀のような形だが、大きさは尋常ではない。人の身長ほどもあるらしい。彼がこれで一振りすれば、何人もの敵が斬り飛ばされたという。

 本当か嘘かは分からないが、少年はますます興味を惹かれていく。

少年 「そんなに強かったの?」

少女B「うん。強かった。でも彼は強過ぎた。人を殺し過ぎた。多くの人から憎まれて、恐れられて・・・でも、それでも彼は戦い続けた。多分、辛かったと思う・・・。」

少年 「・・・可愛そうだね。」

少女B「・・・そうだね。」

少年 「でも、しょうがないか。」

少女B「・・・しょうがないかどうかは・・・分からないけど・・・。」

少年 「続きは?あるんでしょ?」

少女B「続き?あるよ。」

少年 「聞かせて。」

少女B「それは・・・あなた次第。」

 少女Bは、持ってきた長いものの布を外し始める。少しづつ姿を現していく中身。それを見ていた少年の様子が変わっていく。隠れていたそれの全貌が明らかになった時、少年の脳裏から何かがあふれてきた。

 それは決して心地良いものではない。むしろ極端に不快で、おぞましい記憶であった。少年は目を背ける。あふれかけた何かを必死に抑え込む。

 

 少女が持ってきたそれは、巨大な刀であった。戦士が愛用していたという「大斬刀」という武器が実在しているとするなら、まさにこんな形をしていたであろう。

 

 

少女B「戦士の名前は、相葉隼介。」

少年 「・・・・・。」

少女B「隼介。あなたのことだよ。」

 

 

 

 淘來領、山中での攻防。

 涼平 vs 槍使い

 槍使いの瞬速の突きが涼平の胸に直撃!鎧がなければ致命傷であった。フラフラとよろめきながら後ずさる涼平。その隙を逃すまいと踏み込む槍使い。

 だが、彼は動きを止める。彼の眼前には槍の切っ先があった。その距離わずか1センチ。陽動ではなかった。涼平が敵の突きを受けて後ずさったのは、本当にかわすこともさばくこともできなかったから。しかし、涼平はそのピンチを一瞬にしてチャンスへと覆してしまえるほどの実力を持っていた。

 涼平と槍使いは静かに相手の様子をうかがう。涼平の鎧には、いくつもの傷がついていた。ところどころ、縅糸が切断されている。敵の突きのダメージを軽減しようと、身をよじった際に刃が滑り縅糸が切れたのだ。

 そして、小さいながらも幾つか穴が開いていた。・・・そう、実はすでに何度も直撃を受けていたのだ。だが致命傷ではない。勝機を見出すべく、涼平の静かな視線は槍使いへと注がれ続ける。

 槍使いの装備は涼平よりはやや軽装に見えた。鎧をまとい兜もかぶっていたが、動きやすさも重視したのか隙間も多くあった。その防具をつけていない部分には、切り傷がついている。一つ二つではない。いくつもの傷が刻まれており、血がにじんでいた。・・・そう、涼平もまた善戦していたのであった。

 だが・・・

 

 だが、涼平の足下には血だまりができていた。致命傷でなくとも、こうも出血していては消耗が激しい。このまま戦い続けていればやがて動けなくなる。その時こそ、勝敗は決してしまうであろう・・・

 

 

 同じく淘來領、山中での攻防。

 剛田 vs 巨大刀使い

 剛田と巨大刀使いの、激しい打ち合いが続いていた。だが、敵の強烈な攻撃の前に、剛田の六角金砕棒は弾かれ続けていた。剛田とて力自慢の怪力男。そんな剛田が力比べで歯が立たなかった。

 渾身の力を込めてくり出した一撃も、敵の巨大刀にぶち当たったとたん呆気なく弾かれてしまうのだ。弾かれるたびに後ずさり、体勢が整わぬうちに次の一撃を放たねばならなくなる。そうこうしているうちに、打ち返す余裕すらもなくなった。

 そこに斜め下から強烈な斬り上げが放たれた!なんとかガードだけは間に合った・・・が、受け止めきれず吹っ飛ばされる剛田。宙を舞って地に落ちる。それでもなんとか立ち上がる。

 敵をにらみつけながら、剛田は鎧の損傷度を確認する。直撃した部分が破損している。ガードしていてこの威力。もしも通常の槍や刀であったなら、武器はもちろん鎧ごと叩き斬られていたであろう。

 敵の強さとともに、この金砕棒の心強さをも実感した。だが、守ってばかりでは勝機はない。力でダメなら技と速さか?武器を脇差に換えて接近戦で勝負する?

 いや、隼介ならばいざ知らず、自分にはそこまでの技も速さもない。失敗して反撃を受ければ、一発で終わりである。やはり自分にはこれ(金砕棒)しかない。

 突進して一回転する剛田。その流れで渾身の一撃を放つ。が!しかし、大きな金属音を響かせながら、その一撃は止められた。なんと、敵は普通にガードしてしまったのだ。

 そして始まる力比べ。じわじわと押してくる敵。やはり筋力は相手の方が上である。巨大刀の刃は、剛田の鎧へと触れる。押し返せない。

 そしてそのまま押し切られ、フラフラと後ずさる。そこへ目がけて強烈な横薙ぎがくり出される!とっさにガードするも、またも吹っ飛ばされる。わずかに宙を舞って地に落ちる。すぐには止まらず転がっていく。転がった先には大木。豪快に激突し、ようやく止まる。

 

 立ち上がれない。今度は立ち上がれない。三度も大きな衝撃を受け体は悲鳴を上げていた。その上、勢いよく転がったせいか方向感覚も掴めない。

 そこへ、とどめを刺さんと豪傑が迫りくる・・・

 

 同じく淘來領、山中での攻防。

 皇 vs 黒騎士

 その漆黒の甲冑をまとった騎士に、皇の攻撃はかすりもしなかった。甲冑を着ているにも関わらず、その動きは驚くほど俊敏であった。隙間がそれほど空いてないプレートアーマーで、である。

 だが皇は気づいていた。その速さより恐るべきは、その読みの鋭さであることに。事実、速さにおいては皇の方が上であった。この黒騎士は、相手の動きを瞬時に読み、素早く対応しているのである。

 そして突然の反撃!黒騎士は手に持つロングソードで袈裟斬りを放つ。だがこれを難なく受け流す皇。読みの鋭さは皇だって負けていない。

 左足で大きく踏み込んでの受け流しだったので、敵のやや側面に回り込んだ位置となった皇。その流れで逆袈裟斬り!黒騎士の兜を側面から斬りつけた。

 金属音とともに、兜に傷が入る。すぐに斬り返す騎士。すばやく間合いをとってそれをかわす皇。

 予想通りの強さであった。皇以外の者であったら、やられていたであろう。現に皇とともに戦っていた小隊の兵士たちは、皆倒されてしまった。驚くべき強さであるが、皇もまた同類である。

 相手がかわすことに専念すればこちらの攻撃は当たらないが、相手が攻撃してきたならば話は別。そこにつけ入る隙があることを早くも突き止める。とはいえ・・・

 

 この刀でなかったらヤバかった。通常の刀であれば、おそらくさっきの一発で切れ味は極端に落ちていたであろう。ましてや得意とは言い切れない槍であったならば、先ほどのような攻めはできなかったはずだ。

 この刀であれば、攻め続けることができる。攻め続ければ勝機も見えてこよう。再び攻めかかる皇。

 流れるような連続攻撃をしかけていく皇だが、やはり当たらない。どれも見事にかわされていく。そしてまたも突然の反撃!ロングソードが水平に真っ直ぐ伸びてくる。その突きをかわすと同時に胴斬り!見事なカウンターを決める皇。

 だが、やはり鎧に傷をつけただけで終わってしまう。懐深くまで潜り込んでの一撃だったが、やはり防具ごしにダメージを与えるのは容易ではない。・・・いや、この黒い甲冑が頑丈なのだ。通常のプレートアーマーであれば斬り裂いていたはず。

 騎士は真っ直ぐ伸ばした右腕を、今度は横薙ぎのため右側面へと振り抜かんとする。皇にはそれも読めていた。難なくそれをかわし・・・かわせない。

 かわそうにも刀が騎士の鎧から離れない。反射的に刀を手放して間合いをとってしまう。こうしなければ確実に斬られていた。

 

 間合いをあけて、ようやく気づく。騎士は己の胴に直撃した皇の刀を、左手で掴んでいた。だから外れなかったのである。そして気づく。あの一連の動きは罠であったのだと。こちらがどう対応するかを読んだ上で、あえてあの突きを放ったのだ。

 相手の読み通りの動きをしてしまった皇。その結果、勝機の要であるあの刀が奪われてしまったのである。五分五分に見えていた戦況は、瞬く間に劣勢へと突き落とされる。皇は考える。この逆境をどう覆すのかを。

 しかしすぐには浮かばない。騎士は奪った刀を左手に持ち、二刀流となってゆっくりと迫りくる・・・

 

 

 同じく淘來領、山中。撤退経路を確保すべく、和馬率いる小隊は山中の西側にいた。木々に隠れ敵の様子をうかがう和馬。一番撤退にはうってつけだと思われた道であったが、ここにもすでにロズガードの歩兵部隊が展開していた。

 大盾・短剣の歩兵と重装歩兵の混成部隊である。和馬は自分がこの任務に抜擢された理由を熟知していた。弓矢は貫通力があり、接近戦以上に甲冑兵士に対して有利である。ましてや和馬や彼が率いる弓兵たちは達人ぞろいであり、任務遂行への期待が高かった。

 だが、この任務の失敗は蒼雲部隊の全滅を意味していた。一度戦闘を始めてしまったら、他の敵に知られることなく突き進まなければならない。敵を討ちもらすことなく戦い続け、すみやかに全軍を撤退させる必要がある。

 

 和馬は小隊へと、静かに攻撃命令をくだす。敵歩兵に向けて、一斉に矢が放たれる。撤退戦は佳境へと突入していく・・・

 

 

 

 醒陵本陣、牢獄。隼介は葛藤していた。激しく葛藤していた。極端に不快で、おぞましい記憶の数々。それらの断片が次々と脳裏に飛来してくる。それらは隼介の思考回路をショートさせる勢いで蘇っていく。頭をかかえ震えだす。

 これらを受け入れるべきか拒むべきか。今ならまだ間に合う。封印することもできる。本能はそれを望んでいる。しかし、隼介は再び大斬刀へと視線を向ける。

 「みんなが待っている」とは、どういう意味だ?

 もしかしたら自分は今、大切な何かを失おうとしているんじゃないのか?

 だとしたら受け入れるべきではないか。これ以上何も失いたくはない!

 ・・・そうだ。思い出してきた。失ったんだ。いろんなものを。認めるんだ。失ったことを。その上で・・・その上で・・・

 

 沙耶も静流も、どうしてあげることもできず、ただただ見守るのみ。そして隼介の震えが止まる。

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「隼介?」

隼介 「・・・うん・・・思い出した。すべて思い出した。」

沙耶 「・・・どうする?」

隼介 「・・・・・。」

静流 「隼介?」

隼介 「その上で・・・できることを・・・」

 

 

 

 再び淘來領、山中での攻防。

 涼平 vs 槍使い

 涼平の足下には血だまりができていた。涼平が負った傷は、じょじょに体力を奪っていた。その様子は、隠しようもなかった。勝利を確信した槍使いは突進!一気に決着をつけんと迫りくる。

 

 同じく淘來領、山中での攻防。

 剛田 vs 巨大刀使い

 剛田は立ち上がれない。圧倒的なパワーになす術もなく打ちのめされ、地に伏すより他なかった。力を振り絞りようやく片膝をつくが、敵をにらみつけるのがやっとである。そこへ、とどめを刺さんと豪傑が迫りくる。

 

 同じく淘來領、山中での攻防。

 皇 vs 黒騎士

 勝機の要が奪われてしまい、戦況は瞬く間に劣勢へと突き落とされた。もはや武器は脇差のみ。これで攻めようものなら、先にこちらが斬られてしまうだろう。黒騎士は奪った刀を左手に持ち、二刀流となってゆっくりと迫りくる。

 

 同じく淘來領、山中。和馬小隊の攻防。蒼雲の読み通り、弓の達人たちによる攻撃が敵を圧倒していった。特に和馬が放った矢は、抜群の威力と命中精度を誇った。

 だが、いかんせん数が多い。少しづつ前進はするものの、これでは敵の増援を呼び寄せているも同然であった。撤退経路の確保どころか、撤退をより困難にしてしまう可能性が出てきた。しかしやるしかない。もう後へは退けない。

 

 皆、もはや「隼介がいてくれたら」などとは思わない。代わりに、

 「隼介だったらどうするだろう」と思いはじめていた。

 その結果、呆れてしまうほど単純な答えしか出てこなかった。

 

 できることを、できるだけ、できる限りやる。

 

 ただそれだけだった。

 隼介はただできることをやっていただけなのだ。隼介だからできたこともある。隼介が成し遂げた数々の偉業は、もちろん隼介だったからこそできた。

 でも、そんなことは関係ない。隼介はただただ、できることをやったんだ。もちろんうまくいかなかったこともある。

 偉業を成し遂げた裏で、心を壊してしまった。完全ではないのだ。

 できるできないを考える余地さえ与えてもらえない。その連続でも、とにかくできることを懸命に・・・

 

 

 涼平 vs 槍使い

 涼平は隼介がこの槍使いを圧倒したシーンを覚えていた。自分にはあんなことは真似できない。それでも・・・

 とっさに槍を手放し、刀に手をかける涼平。その動きに動揺する槍使い。彼の脳裏には、かつて大斬刀の悪鬼に惨敗したシーンがよぎる。

 居合い斬りが来る!?

 無意識に攻撃から防御の構えへと移行しだす体。向かって右側から来るであろう斬撃に備える。落下する槍が地上10センチまで来たところで、涼平は足の甲で跳ね上げる。そしてキャッチ。驚いた槍使いは一瞬思考停止。

 しかし突進の勢いは止まっておらず、体は前方へと流されていく。そこへ涼平の渾身の突きが炸裂!

 見事なカウンターが決まり、槍の切っ先は槍使いの鎧へと突き刺さる。そして勢い良く吹っ飛ばされる。宙を舞った槍使いは地に落ち、これまた勢い良く転がっていく。

 沈黙。

 フラフラと立ち上がる槍使い。だが、吐血。膝をつき立ち上がれない。

 致命傷?・・・かどうかは分からないが、大きなダメージを与えたことは疑う余地もない。だが、涼平もまたこれ以上の戦闘は不可能であった。

 

 

 剛田 vs 巨大刀使い

 剛田は隼介が巨大刀使いの力を利用して圧倒したシーンを思い出す。押された力で回転・・・か。敵は巨大刀を振り上げる。片膝をついた剛田は立てない。・・いや、今は立たない。ただ黙って敵を見上げる。

 振り下ろされる巨大刀。それを見計らい、金砕棒を横にしながら立ち上がる剛田。剛田の狙いは、巨大刀に勢いがつく前に止めること・・・ではなかった。

 剛田はあえて金砕棒の端の方で巨大刀を受ける。だがすでに勢いがついており、刃は止まらない。金砕棒は片側が下へと押される。と同時に、接点を支点として半円を描きながら反対側が上へと動く。

 そして柄の部分を思いきり敵の顔の側面へとぶち当てる!相手の力に自分の力を加えた強力かつすばやい一撃であった。敵の刃を受け流しつつの、まさに攻防一体の返し技。

 予期せぬ反撃に、ダイレクトに喰らってしまった巨大刀使い。脳震盪を起こしたのか、フラフラとよろめく。そこへ渾身の打ち上げ!

 不完全ながらなんとかガードするも巨大刀は弾き上げられる。お互い武器は上段にある。剛田の打ち下ろしを予測した敵は上段ガードの構え。だが剛田は反転して踏み込み、柄先を相手のみぞおちへとぶち当てる。体をくの字に曲げ、後ずさる。

 

 今が好機!だが、剛田もまた体力を消耗していた。追撃できない。体勢を立て直した敵は巨大刀で横薙ぎ。剛田、動けない。そのまま直撃を受けてしまう。

 が、その一撃には力がこもっていなかった。両者、ともにダウン寸前なのだ。それでも剛田の鎧には傷が入る。さすがに豪傑である。今度は剛田の攻撃。

 直撃するも、こちらも力が入っていない。耐えきる。敵の攻撃。またしても動けず、直撃。耐えるしかない。剛田の攻撃。敵も動けず耐えるしかない。

 もはや消耗戦の様相を呈してきた。フラフラになりながらの打ち合いが続く。敵は力を振り絞り、巨大刀を高々と振り上げる。そして振り下ろす。直撃!

 膝をつく剛田。鎧の袖のおかげで斬れることはなかったが、打撃として大きなダメージを受けてしまう。・・・が、突如立ち上がり、下から頭突き!剛田の兜は敵の顎を打ち上げる。

 またも脳震盪を起こしよろめく敵。今度は剛田が力を振り絞り、フルスイング!斜め下から打ち上げられたその一撃に、ガードすらできず吹っ飛ばされる。そして地に落ち仰向けに倒れる。致命傷かどうかは分からない。とどめを刺すなら今。だが、剛田もまた動けない。

 

 

 皇 vs 黒騎士

 皇は・・・とりあえず逃げた。正攻法で勝ち目がないなら、正面から挑むべきではない。黒騎士は追ってくる。が、足は皇の方が速かった。ある程度距離をとったところで、林の中に身を隠す。かなり遅れて黒騎士はやってきた。

 もはや敵は走ってはおらず、歩いて追ってきていた。こちらが待ち伏せすることも読んでいたのだろうか。だが、たとえ読まれていたとしても、皇には強みがあった。それは地の利である。この山中は、かつて皇が斥候として駆けまわっていた場所である。辺りがどんな地形をしていて、どんな戦い方が有利なのかを心得ていた。

 

 音もたてず不意打ちをしかける皇。しかし、死角からの攻撃であったにも関わらず、黒騎士はそれをかわしてしまう。皇の手には敵が落としたであろうロングソードが握られていた。皇の攻撃は続く。

 が、いくら攻撃しても当たらない。そして、皇の真っ向斬りが止められ、ほぼ同時に反撃が来る。敵は今や二刀流なのだ。攻撃と防御を同時にこなしてしまえる状態にあった。

 反撃をかわした皇ではあったが、ここからは黒騎士の連続攻撃が続くこととなる。右手にロングソード、左手に刀を持ったその攻撃は休むことなく繰り返される。それらをよけ、受け止め、受け流しながら後退していく皇。どう見ても圧されている。

 

 が、しばらく後退していた皇がまたしても攻撃を始める。難なく対処されてしまうのだが、先ほどまでのように攻撃されっぱなしではなくなった。皇の読みは当たった。

 それは、地形である。圧されて後退せざるを得なかったように見えたが、実は相手を誘導していたのだ。できれば最初からここへ引っ張り出したかったのだが、敵は隠れた皇を通過しそうになったためやむなく攻撃を始めたのであった。

 そして肝心のこの地形だが、凹凸が激しかった。黒騎士は顔もフルフェイスの兜で覆っているため視界が悪いはずだ。わずかに空いたスリットからでは、正確な地形を把握するのは困難に違いない。それでもここまで動けるこの強敵は驚嘆に値する。が、そんなことでは皇は怯まない。

 激しい攻防のさなか、皇は上段に構え大きく踏み込みこんだ。黒騎士は左手で上段ガードをとりつつ、右手は横薙ぎの構えに。そして放たれる胴斬り!

 しかし次の瞬間、黒騎士の視界から皇は姿を消す。ロングソードは空を切る。皇は即座にしゃがんでかわしたのである。だが、しゃがんだぐらいでは視界からは消えない。

 実は、黒騎士の眼前の地面はかなり窪んでいた。懐に入った皇、窪地でしゃがんだ時には半回転した体勢、構えも上段から斬り上げの準備へ。

 そして立ち上がりざま遠心力を込めた一撃を放つ!それは黒騎士の左手に直撃。握っていた刀は宙を舞う。さらに振り上げたところから袈裟斬り!黒騎士の左肩に直撃し、ひびを入れる。さすがにこれには敵も怯んだ。すぐに反撃するも軽くかわされる。

 

 宙に舞った刀を左手でキャッチする皇。形勢逆転。今度は皇が二刀流で攻めかかる。かわし、受け止め、受け流しながら対処する黒騎士だったが、一発二発と直撃していく。そのたびに黒騎士の甲冑にはひびが入っていく。

 さらに猛攻を続けんとするも、動きを止める皇。気配を感じる。見れば敵の歩兵が遠くから迫りつつあった。すぐに視線を黒騎士へと戻す。黒騎士はかなり間合いを空けていた。ほんの一瞬目をそらしただけなのに。

 

 気づけばずいぶんとロングソードは刃こぼれしている。刀の方もわずかながら刃こぼれしている。金属の甲冑にぶつけまくったのだ。さすがの名刀も傷ついて当然である。

 黒騎士は皇を見すえている。その表情はうかがい知ることはできないが、追ってくることはないと判断し、その場を後にする。さすがにあの強豪者に加え、さらに他の敵まで相手にはできない。

 優位のうちに一騎打ちは終わったが、決して勝ったとは思っていない。命拾いしたというのが正直なところであった。

 

 何はともあれ、できることはやった。結果は上々・・ということにしておく。

 彼らは撤退を始める。一路、醒陵へ・・・

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』31~45話

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