戦国Web小説『コミュニオン』第28話「精鋭たち」

第28話 「精鋭たち」

 

 ここのところ、隼介は呆然としていることが多くなった。心ここにあらずと言った感じで、一点を見つめたまま動かなくなるのだ。声をかければ反応するのだが、時おり声をかけられたことにも気づかないことがある。

 そういった時、たいがい彼の意識は思い出や空想の世界へと飛ばされていた。楽しかった思い出や、実現してほしかった理想の今、そういった時空へとワープしてしまっている。

 

 今、隼介は沙耶と二人で歩いていた。爽やかな朝、空がとても青い、時間そのものが澄んでいるかのような、そんな神聖な世界を歩いていた。まだ14歳になったばかりの隼介と、同じく14歳の沙耶。少しだけ幼い顔をした二人は街へと向かいながら歩いていた。

 沙耶はとても美しかった。まぶしい笑顔をふりまきながら、楽しそうに何か話している。話の内容は分からないが、隼介もまた楽しそうにしている。

 二人はいつしか手をつなぎながら歩いていた。幸せだった。幸せそうな二人は楽しそうに言葉を交わしながら、どこまでも歩いていく。

 どこまでも歩いていく。目的地などないかのように、今この場所この時間こそが目的地かのように、どこまでもどこまでも・・・

 

 

 「隊長。」

隼介 「・・・・・。」

 「隊長。」

隼介 「・・・ん?」

 気がつくと、そこは荒野。多くの兵士が隼介の後ろに控えていた。万を超える軍勢が闘志をたぎらせていた。眼前の100メートル先には、敵の軍勢がひしめいている。あちらも万を超えているように見える。そして部下が隼介の方を見ていた。

部下 「攻撃命令が出ています。」

隼介 「うん。突撃———!!!」

 隼介の号令を受け、「突撃命令」を合図する鳴り物が響く。走り出す隼介。その手には巨大な刀・大斬刀が握りしめられている。それに続いて部下の兵士たちもどっと攻めかかる。敵は迫りくる怪物とその軍勢に恐れおののき、死を覚悟した。

 思いっきり大斬刀で薙ぎ払う隼介。最前衛の敵が4人同時に吹っ飛ばされる。さらに踏み込み、振った遠心力を利用してもう一発薙ぎ払う。二列目の敵兵までもが吹っ飛ばされる。その流れで三発目を放つ。

 が、今度は人が密集しすぎていて、人の束に刃が止められる。もちろん直撃を受けた者たちは即死である。硬く重い刃と人の壁にはさまれて絶命する。

 

 勢いが止まっても隼介はうろたえない。すぐさま大斬刀の峰を掴み、引っ張る。敵兵に深く刺さった刃が外れる。今度は突く。突かれた敵兵は盾で防ぐも、盾ごと吹っ飛ばされる。敵兵で密集しすぎているため大振りするためのスペースがない。隼介、片手で峰を掴んだまま大斬刀を振りだす。

 さすがに殺傷力は落ちるが、それでも鎧を陥没させるだけの威力があった。密接する敵兵を倒しスペースが空く。そしてまた大斬刀を大振りで振り回していく。

 

 この圧倒的な戦闘力を持った斬りこみ隊長がいるおかげで、それに続く兵士たちの実力も存分に発揮されることとなる。皇・涼平・剛田といった猛者たちが、隼介が切り拓いた突破口をさらに広げていく。さらには彼らに勝るとも劣らない、名もなき実力者たちもそろっている。

 隼介が率いるこの部隊は、まさに精鋭と呼ぶにふさわしかった。精鋭部隊は敵を圧倒し、他の部隊も次々と敵にぶつかっていく。戦闘は一進一退をくりかえし、激しさを増していく。

 

 

 醒陵軍に精鋭がいるように、淘來軍にもまた精鋭はいた。その男は見事な槍さばきであった。単身でこちらの長槍隊に突っ込んだかと思えば、高速で二人の長槍を弾く。

 そこにできたスペースに深く踏み込み、またしても高速でその二人ののどを槍で貫いた。槍衾に穴が開いてしまっては、槍衾ではなくなってしまう。彼に続く槍使いたちが、こちらの長槍隊を次々に討ちとっていく。

 ・・・あいつは俺がやらねば・・・

 隼介は突撃! その敵槍隊の側面を穿(うが)ち、壊乱させる。先頭にて槍を振るっていた彼も隼介に気づく。そして向かってくる。隼介は察する。

 奴の槍は速い。大斬刀では無理だ。ならば・・・

 かの槍使いが間合いに入る直前、隼介は大斬刀を手放す。その大斬刀が地に落ちるより速く、隼介は腰の刀を抜き斬りかかっていた。瞬速の居合斬り。

 槍使いはとっさに攻撃から防御へ。かろうじてその斬撃を止める。彼は驚いていた。

 

 なんだ、この速さは!?? そんな顔をしていた。隼介の斬撃は続く。さっきまでとは比べ物にならないスピードで連続攻撃をしかけていく。それもそのはず。

 もともと隼介は動きが速いのだ。その上、さっきまで重い大斬刀を振り回していたのを急に普通の刀に持ち替えたのだから、動きはさらに速くなる。

 槍の間合いで戦わねば! と思った彼は距離をおこうとする。それを察した隼介、彼がひいた瞬間に前蹴りを入れる。自ら後ろへ跳ぼうとしたのに合わせた蹴りであった。彼は豪快に蹴り飛ばされる。

 地に落ちた彼に跳びかかる隼介であったが、彼の危機に気づいた他の槍使いたちがそれを阻止せんと割って入る。

 

 隼介、達人と思わしき槍使い以外は難なく討ちとっていった。敵の突きを刀でさばいたかと思うと、そのまま槍の上を高速で刃が滑っていく。一瞬後には首に当たっている。そしてその次の瞬間には刀が引かれていた。

 首を裂かれた男が倒れるのを待たずして、隼介の刀はべつの敵兵の背中を豪快に斬りつけていた。鎧の上からであったため、そこまで深く斬れはしなかったが衝撃で倒される。

 鎧を思いっきり斬りつけてしまった刀の切れ味は極端に落ちた。だが隼介の持つそれは、鈍器としての破壊力を抜群に秘めていた。腕に当てれば攻撃不可能となり、足に当てれば歩行不可能となった。隼介の真っ向斬りが槍で受け止められた際、ついに刀が折れる。しかし動じることもなく折れた刀で顔面を突く。

 そして再び大斬刀を拾い振り回す。その頃にはもう部隊の兵士たちが隼介の加勢に入っており、敵槍隊は瓦解していた。次々と討ちとられ、残った者たちもついに敗走を始める。

 気づけば他の敵部隊もほとんどが瓦解しており、次々に敗走を始めていた。醒陵軍の弓兵隊が追撃の矢を放つと、逃げる敵兵たちの背に次々と撃ち込まれていく。矢の雨から逃れることができた者たちは、命からがら走り去っていった。

 

 ・・・勝った・・・

 

 

 

 今回の戦いは大勝利であった。こちらの被害も軽いものではなかったが、敵はそれ以上の死傷者を出した。北部戦線での兵力差はこちらが上となる。

 もはや大規模な反撃行動は起こせないであろう。敗残兵は敵本拠地のある 南へ南へと逃げ続け、北部攻略部隊はそれを追撃していくこととなる。

 

 

 ある日。その日もまた隼介は気づかぬうちに呆然としていた。心ここにあらずと言った感じで、一点を見つめたまま動かなくなる。彼の意識はやはり思い出や空想の世界へと飛ばされていた。

 やはり隼介は沙耶と一緒にいた。今度は商店街を歩いていた。ある店に二人で入って商品を見ながら楽しそうに会話する。内容はやはりよく分からないが、幸せが世界を満たしていた。光に満ちているような世界だった。

 やはり沙耶は美しく、輝いていた。

 

 

 「隊長!」

隼介 「・・・・・。」

 「隊長!」

隼介 「・・・ん?」

 気がつくと、屋内にいた。木造の建物の中のようである。辺りは暗い。部下が焦りの表情で隼介を見ていた。

部下 「ご命令を!」

隼介 「え。」

部下 「奇襲です!」

隼介 「・・え。」

部下 「奇襲です! ご命令を!!」

隼介 「状況は!?」

部下 「町に火を放ち、間をおかず兵が攻めてきました。数およそ200。うち騎兵50。ただいま歩兵3番隊と5番隊が応戦中。苦戦しております。」

隼介 「分かった。」

 意識が体に戻った瞬間、すぐに現実を思い出す。敵軍を追って南下中、町に立ち寄って休憩しているところであった。そこを奇襲されたようである。

 大斬刀を手に外へ出る。すでに夜。さっきまで居たのは、木造の小屋であった。小屋の入り口前には、二つのかがり火がたかれていた。かがり火に照らされた部下たちが見える。すでにスタンバイして隼介を待っていたもよう。

 そのうち何人かはたいまつを持っており、夜といえど視力のいい隼介には辺りの様子がだいたい見えた。集まった部下の数は半分ほど、装備も完全でない者たちがいる。が、しかたない。敵が急に襲ってきたのだから。

隼介 「敵の場所は!」

部下 「こちらです。」

 走り出した部下を追って隼介も走る。それに続いて部隊の兵士たちも続く。少し走っただけで火の手が見えて来た。炎は家々を明るく、だいだい色に照らしている。さらに進むと、戦いの真っただ中であった。しかもこちらが劣勢。

 走り回る敵の騎兵に苦戦している歩兵たちがいる。が、それよりも隼介の目をひいたのは、敵の一部の歩兵団であった。彼らもまた、こちらの歩兵たちを圧倒していた。数人の、斧や棍棒や狼牙棒(ろうがぼう)を武器に暴れまわる彼らは、兵士と言うよりは荒くれ者の山賊と言った方がしっくりくる。

 

 その中でも、ひときわ目立つ男が一人。体格がでかい。隼介ほどではないが、背が高く、筋骨隆々としていた。炎に照らされ、精悍な顔がだいだい色に染まっている。若い。隼介より少し上であろうか。そしてその手には・・・巨大な刀。

 サイズ的には大斬刀と同じぐらいある。それを見るに、重さも同じぐらいあるだろう。青龍刀を巨大化させたようなデザインの大斬刀に比べ、その刀は直刀の刀身部分のみ巨大化させたようなデザインであった。

 その巨大刀を振り回し、醒陵兵を次々と斬り飛ばしていく。醒陵軍は基本的に盾兵以外は盾を持って戦わない。が、たとえ盾があったとしても、こいつの前では無意味だろう。それほどまでに攻撃力を誇っているのは一目瞭然であった。

 

 

 隼介が男をにらみつける。男もそれに気づいてにらみ返す。敵兵たちも隼介の巨体を見て動きを止める。そして後ずさる。どうやら彼らは、隼介が大斬刀の悪鬼であることに気づいたようである。

 暴れていた荒くれ歩兵団もまた、隼介の姿に驚きと焦燥感を隠せない。彼らもまた後ずさる。巨大刀の男も気づいたであろう。気づいてなお、隼介とにらみ合っている。周りの兵が後ずさったため、この巨大刀の男だけが一人突出した形となる。

 この男までが怖気づきさがっていたら、おそらく敵は皆逃げ出してしまっていたことだろう。そのまま形勢は一気に逆転、敵は瞬く間に返り討ちとなったはずだ。

 が、そうはならなかった。後ずさるもなんとか踏みとどまった。そしてこちらをにらみつける。醒陵軍と淘來軍、数秒間のにらみ合い。そして斧を持った荒くれ男が叫ぶ。

 

 「ぶちかませぇーーー!!!」

 その号令とともに敵は攻めかかってきた。ほぼ同時にこちらの兵士たちも攻めかかる。そして激しい乱戦が始まる。燃え上がる町の中、敵味方入り乱れて戦う戦士たち。

 そんな中、隼介と巨大刀の男はにらみ合ったまま動かない。炎に照らされながら、二人の猛者が対峙していた。

 

 そして静から動へ。巨大刀の刃を地に落としたまま、ゆっくりと歩み寄る男。大斬刀を振り上げ、ゆっくりと頭上で振り回す隼介。男は走り出す。隼介の大斬刀もスピードを上げる。

 間合いに入る直前、男は一回転、大きな遠心力をのせた強烈な一撃を放つ! 隼介もまた大きな遠心力をのせ、ダイナミックに薙ぎ払う!

 激突!!!

 大斬刀と巨大刀は凄まじい金属音と火花を放ちぶつかり合った。二つの刃は止まっている。なんと、互角であった。隼介の渾身の一撃を止めることができたのは、この男が初めてであった。そのまま始まる力比べ。

 しばらく拮抗していたが、じょじょに隼介が押していく。どうやら筋力は隼介の方がわずかに勝っている。

 男は驚いた。いまだかつて、自分より筋力で勝る者に会ったことはなかった。まさか自分が押し負けるとは思ってもみなかった。負けじと力をふりしぼる。

 が、それを察した隼介、それに合わせて突然ひく。男は勢い余って前のめりに倒れかける。隼介はひいた流れで(さらに言えば、男が押した力も利用して)一回転、そのまま男の背中を斬りつける。

 危機を察した男は、自ら前へ倒れ込み難を逃れる。追撃を読んで、そのまま受け身をとりながら転がる。着地してすぐにガードの構え。男の読み通り、すぐに隼介の斬撃が巨大刀にぶち当たる。重いはずの巨大刀が弾かれる。

 そのまま隼介は連撃を繰り出していく。男も打ち返す。またも重厚な金属音をとどろかせながら、大斬刀と巨大刀は何度も何度もぶち当たる。今度は互角ではない。ぶつかり合うたびに男は、一歩づつさがっていく。

 常に勢いをつけた隼介の攻撃に対し、勢いをつける余裕のない攻撃では本来の力が発揮できない。押されっぱなしのまま後退せざるをえない。

 

 筋力においては隼介がやや上。技術においては隼介が上。心理を読むことにおいては、隼介が数段上のようである。つまり、隼介の方が格上である。やはり隼介はずば抜けているのだ。

 大振りの攻撃を繰り返す隼介。もはや打ち返す余力もなくなり、ガードするのが精いっぱいの男。そして斜め下から繰り出された隼介の渾身の一撃が、巨大刀を弾き飛ばす。その衝撃で男も後ろへ倒れる。2秒遅れて落下する巨大刀。ゆっくりと歩み寄る隼介。男は立てない。

 

 そこへ敵の騎兵たちが攻めかかってきた。隼介が大斬刀を振ると、騎兵たちの突進は止まる。人も馬も、力量の差を肌で感じて近づくことが出来なくなっている。

 が、さすがの隼介も疲労していた。すぐに攻勢に出るだけの余力は残っていない。が、隼介は回復力もまた尋常ではない。少し待てば、また全力で動くことができることを知っていた。なかなか攻めかかれないでウロウロしている騎兵たちを静かに見ていた。

 その間に男はフラフラと立ち上がり、巨大刀を手にした。が、もはや振り回す余力もない。隼介をひとにらみし、闇の中へと消えていった。それに続いて敵の奇襲部隊も逃げ去っていった。ようやく回復した隼介だが時すでに遅く、敵はもう去ったあとである。が、撃退できただけで良しとする。

 

 

 今回の奇襲による被害は軽からずと言ったところだが、北部戦線の優位に変わりなく、明日からも敵の追撃が続けられる。

 そして、精鋭部隊の斬りこみ隊長は望む望まぬに関わりなく武勇伝を重ねていった。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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