戦国Web小説『コミュニオン』第23話「和解への一歩」

第23話 「和解への一歩」

 

隼介 「静流のこと・・・どう思ってるか知らないけど、仲良くしてやってね。」

大山 「・・・おぉ。」

 なんだ・・・やっぱり聞いてたのか、隼介も。

隼介 「あの子、強がってるけど、けっこう怖がりって言うか・・気にしてあげて。」

大山 「まぁ、おぅ。よく分かんないけど。」

隼介 「大山は怖いからな~。」

大山 「しゃ~ね~だろ、それは。つ~か見た目のこと言うならお前も一緒だ。」

 隼介、苦笑い。

隼介 「せめて言葉とかは、てこと。」

大山 「おぅ。あ、ちなみに怖くないって言ってたぞ、静流は。」

隼介 「脅して言わせた?」

 笑ってしまう大山。

大山 「なわけねーよ。」

隼介 「そっか。話せば分かるんだよな~、大山。」

大山 「おぉ、似たようなこと言われた。」

隼介 「静流に?」

大山 「おぅ。話すと印象がどうとか。」

隼介 「良き理解者ができたね。」

大山 「まぁな。ただ・・・」

隼介 「ただ?」

大山 「俺、わりと沸点が低いと言うか、怒りっぽいというか・・隼介も分かってるだろ。」

隼介 「まぁね。」

大山 「怒ってるところ見られた日にゃあ・・・」

隼介 「ドン引きだろうね。」

大山 「多分な。」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、捕虜の件について頭をよぎる。捕えた淘來兵の扱いを巡っては、大山と意見が分かれているのだ。真っ向から割れているといっていい。以前このことを言い合った時は、凄い形相をしていた。次の言葉が見つからなくなってしまう隼介。

大山 「・・・・・。」

 隼介が黙ってしまったため大山も同調してしまう。

隼介 「・・でも、理由があるはずだから。」

大山 「ん?」

隼介 「怒るにはそれなりの理由がさ。」

大山 「どうだかな。ただ短気なだけかも。」

隼介 「そっか。」

大山 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

大山 「俺さぁ、」

隼介 「うん。」

大山 「嫌いなんだよな~。」

隼介 「なにが。」

大山 「淘來。」

隼介 「・・・・・。」

大山 「もちろん淘來人も。」

隼介 「・・そっか。」

大山 「まえ攻めてきた時、ひどかったみたいでさ。家族とか、みんな・・・」

隼介 「・・うん。」

大山 「小さかったから覚えてはないんだけど、その時のこと。でもそのせいでいろいろと思うことはあって。」

隼介 「うん。」

大山 「もうね、なんつーか、・・・」

隼介 「・・・・・。」

大山 「殺気立っちまうんだよね。カッとなっちまう。」

隼介 「・・そっか。」

 隼介、『あの日』に見た暴徒の目を思い出す。『暴徒』などと表現してしまったが、彼らにもきっとあったはずなんだ。怒る理由が。思わず殺気立ってしまう理由が。

大山 「もうね、これは、頭でなんとかできるもんじゃない。本能的にカッと・・な。」

隼介 「そっか。」

 とは言え、それをぶつけるべきでない人にぶつけていいわけがない。そのせいで静流は死にかけたのだ。国もそれを容認していていいわけがないのだ。あまつさえそれを放置していたばかりに、今回のような戦争に発展してしまった可能性もあるんじゃないのか?

隼介 「そっかぁ。」

大山 「そう。」

 だが、そこまでは言えない。まずは感謝。自分の本心の深い部分を正直に話してくれた大山に感謝する。ゆっくり歩み寄り、少しづつ和解していけばいいと思った隼介。

大山 「隼介は、なんつーか、おおらかだよな。」

隼介 「う~~ん、かな。」

大山 「おおらかだ。ブチ切れるとこえ~けど。」

隼介 「大山だって。」

大山 「ま、しゃ~ね~。それはしゃ~ね~。」

 気づけば、どことなく安心している隼介がいた。決してお互いの考えが一致したわけではない。むしろ大山の口からハッキリと、淘來人に対する敵愾心を伝えられたことになる。そしてそれは簡単にはぬぐい去れないものだろう。

 それでも隼介は少し安心していた。少しだけ溝が埋まったような気がした。より正確な表現をすると、

「溝はあるけど気にするな。」「俺はお前のことが嫌いなわけじゃない。」

 そう言われた気がした。そしてそれは大山にとっても同じだったようだ。最近見なくなった穏やかな表情をしている。

大山 「あぁ、なんだかな。少しスッキリした。」

隼介 「良かった。」

大山 「寝るわ。」

隼介 「うん。おやすみ。」

大山 「おぅ。」

 宿舎へと戻っていく大山。「少しスッキリした。」それは隼介も同感だった。

 涼しい風が心地良く感じる。心と体は繋がっているんだな~と、ふと思う。さっきまではただの風だったのが、今は心地良い風。風自体は何も変わってないのに、こうも感じるものが違ってくるのか。もう少ししたら秋なのかなぁ~と、そんなことにまで意識は向く。

 風の次は月。今日の月、明るいなぁ~、と今さらながら月明かりに意識が向く。心にゆとりが持てるほど、視野は広がっていくようだ。

 この感覚、悪くない。少し軽くなった心は、体も軽くさせた・・気がした。ふたたび大斬刀を振り回しだす隼介。軽くなった心は体をほぐし、さっきまでより自由にこの巨大な刀を扱えているように思えた。事実そうであった。

 

 

 人と武器は同じだ。

 隼介は考えるともなく考える。武器はまるで人と同じで性格がある。人それぞれ性格があってつき合い方があるように、武器にも特性があって適した扱い方がある。

 短刀のような軽くて小さな武器はすばやく振れる。リーチの長い相手には不利に見えるが、懐に入ってしまえば逆に有利になる。短所は長所である。

 それとは逆に、重くて大きな武器は当然すばやく振れない。この大斬刀はその極みであろう。普通の人間には持つことすら容易ではない。

 隼介のような怪力の持ち主であっても、大きく振り上げてから打ち下ろしたり、遠心力をつけてから薙ぎ払わなければならない。初速はどうしても遅くなる。

 しかし槍にも匹敵するリーチの長さと、圧倒的な攻撃力がある。当たりさえすれば、おそらく一撃必殺。敵の間合いに入る前に倒してしまえばいい。隼介にとってしてみれば、長所しか見えてこない優れものと言える。

 

 大山も似てるなぁ~。

 一度振ったら軌道修正は難しい。でも真っ直ぐ突き進んでいく。障害物があろうと関係ない。重く硬い刃でぶった斬る。叩き斬る。

 悪いことじゃない。決して悪いことではないんだよなぁ~。いいじゃん。それはそれでいいんだよ。

 まるで瞑想でもするように、大斬刀を振り回す隼介の頭の中は人への理解、そして武器への理解が混在しながら深まっていく。隼介はこういった時間が大好きであった。稽古を通じて心を整理し、現実世界で起こったことに折り合いをつけていく。

 逆に言えば、今の隼介の心はこういった時間がなければ破綻してしまいそうなほど切羽(せっぱ)つまった状態でもあった。はたから見ても分からないかも知れない。

 心も体も強靭な猛者で、怖いもの知らずの斬りこみ隊長。そう思われているかも知れない。いや、そう思っている人は多い。が、周囲の者が思う以上に隼介は繊細な人間だった。

 

 

 次の日の朝。宿舎を造る作業が再開されるとともに、嬉しい報せが入った。またも増援が来ることとなったらしい。いつ頃になるかはまだ分からないが、数千、もしくは一万を超えるかも知れないとのこと。

 

 え!? また増援!? 兵力足りてなかったんじゃないの!?? と思った隼介だったが、これには理由があった。隼介の活躍が国内に広く伝えられており、それが若者の戦意を高揚させているのだ。

 典型的なプロパガンダではあるが、同世代の少年が敵を倒しまくるというのは痛快なようである。今回の増援がすべて志願兵であることを見ても、隼介の影響力がうかがえる。

 「俺もいっちょカッコ良いとこ見せてやろうか。」といった虚栄心もかきたてられるのかも知れない。

 

 もちろん彼らは戦場を知らない。人の命など、信じられないほど軽くなる。自分たちが英雄視している隼介でさえ、一瞬で死んでしまう可能性を常にはらんでいる。

 そもそも、戦場での隼介の姿はカッコ良いものではない。号泣し、嘔吐し、それでもなんとか生き延びたというのが実態である。

 もちろんその強さに関しては間違いなく本物ではあるが、それでも新たに戦場におもむく若者の多くが戦場を知らない。決してカッコ良いものではない。そして、来てから後悔するのだろう・・・

 

 隼介は罪悪感を感じていた。自分もこのプロパガンダに加担しているといった罪の意識があった。彼らを巻き込んでしまっているのかも知れない、と。

 周りが隼介を持ち上げるほど、隼介は「屈強な斬りこみ隊長」を演じなくてはいけなくなっていく。そして活躍すればするほどプロパガンダの材料も増えていくのだろう。

 

 

 宿舎が工兵など非戦闘員の手によって建てられている頃、兵士たちは次の作戦内容を知らされていた。この日の日没とともに部隊を二手に分けて進軍させ敵の砦を奇襲、はさみ撃ちによって陥落させるというもの。

 地の利は敵にあるかも知れないが、兵力の差で圧倒できるものと思われる。3500人の兵士からなる部隊が二つで、1000の敵を攻めるのだ。

 この駐屯地に1000人の兵士を残しても、これほどの戦力差である。明日の朝には勝利は確実であろう。この地域の敵をたたいた後は、今いる駐屯地へは戻らずそのまま進軍が開始され、ふたたび東へ東へと向かっていくことが決まった。

 

 ・・・ん? だったら宿舎とかの建設は無駄なんじゃないか? と思った者もいたが、すぐにその説明も聞かされる。この山中につくられた駐屯地は今後、中継基地として機能させることになったらしい。武器・防具や糧食の備蓄場所、予備兵力の駐屯場所、野戦病院としての役割を果たすことに。

 というわけで、北部攻略部隊の大部分の兵士は出陣することが決まり、非戦闘員の過半数はこの駐屯地に残ることとなった。その方がいい。隼介はそう思った。戦闘に直接関与しない者は戦線に出るべきではない。とくに看護婦。

 後方に待機して、負傷者が搬送されてきたら治療する。もしも戦況が悪化した場合は、すみやかに撤退する。そうでなければ、無駄に危険にさらされることになってしまうからだ。隼介は彼ら彼女らの身を案じていた。その中でも特に、静流のことを・・・

 

 

 静流のことを気にかけていたのは隼介だけではなかった。大山もである。作戦内容を聞かされた大山は、静流にしばらく会えなくなってしまうことに気づく。

 もしかしたら、このままずっと会えなくなってしまうのではないか? といった焦りを感じた。静流と話したかった。静流と会って話をして、もう一度「私が待っててやるよ。」と言って欲しかった。

 いてもたってもいられなくなった大山は、自分たちの宿舎を出て静流のもとへ向かう。・・・が、静流はいなかった。彼女がいるはずの看護棟には他の看護婦と医師らしき人物しかいなかった。

 彼女がどこへ行ったのかを聞いたところ、隼介のところへ行ったと言われる。つまり、さっきまで自分がいた宿舎のことである。どうもすれ違ったらしい。

 ちょっと嫉妬してしまう大山。・・・また隼介かよ・・・。そして自分たちの宿舎へ戻ったが、そこにも静流の姿はなかった。仲間に聞いたところ、たしかに静流はここへ来たが隼介と二人で出て行ったという。またも嫉妬してしまう。・・・なんだよ、隼介にばっかり・・・

 しかし、静流は隼介に会いに来たのだ。わざわざ危険な敵地へ、隼介に会いたいがためにここまでやって来たのだ。と、分かってはいても胸が苦しくなる。宿舎を出る。周りを見回しても、静流の姿は見つけられない。

皇  「静流ちゃん探してるの?」

 どこからともなく皇の声。振り向いたが姿がない。

大山 「・・・・・。」

 ゆっくり右を向く・・と見せかけて突如左を向く大山。背後にいた皇を見つける。

皇  「あ、見つかった。」

大山 「オイ。」

 皇はたまにこういった冗談(いたずら?)をかます。お茶目な感じもするが、彼が剣の達人であることを考えると恐ろしくもある。気配を消して人の背後に隠れているなんて。暗殺者かよ? と、思いつつその実力も十分ある。

大山 「お前のそういうところ、怖いわ。」

皇  「鋭いでしょ。僕に隠しごとはできないよん。」

大山 「そっちじゃなくて。」

皇  「え、じゃどっち?」

大山 「忍者みたいなとこだよ。」

皇  「忍者?」

大山 「まぁいい。」

皇  「で、探してたんでしょ?」

大山 「ん? あぁ。」

皇  「ってかさぁ。」

大山 「ん?」

皇  「・・・・・。」

大山 「なに?」

皇  「ん~~ん。」

大山 「言えよ。」

皇  「・・・あの子、相葉くんのことが好きなんじゃないかな。」

大山 「分かってるよ。」

皇  「ならいいけど。」

大山 「話したいだけ。」

皇  「そ。」

大山 「話して・・戦争終わって戻ったら、また会って・・・」

皇  「・・・・・。」

大山 「また会いたい。それだけ。」

皇  「うん。いいんじゃない。ちなみに、」

大山 「ん?」

皇  「あっち。」

 皇、指をさす。さした先に建設中の宿舎が見える。約50メートル先。

皇  「あっちにいったよ、静流ちゃん。」

大山 「おぅ。そっか。」

皇  「相葉くんも一緒だと思う。」

大山 「・・そ。ありがと。」

皇  「うん。」

 歩き出す大山。建設中の宿舎を越えると、やや下り坂になっており幾つかの完成された、または建設中の宿舎が見えた。辺りの木は伐採されており、山林の中にポッカリとできた広場に町(?)が造られているといった感じである。

 しかしここは山中である。高原とは言え斜面も多く、宿舎の建ち方も整然と並んではいないところもある。まるでキノコのように、生えれるところから生えているような印象を受けた。その数も多い。10000人が駐屯するのだから、当然ではあるが。

 

 ・・・で、静流はどこよ? 肝心の静流を見つけられない。

隼介 「大山!!?」

 わりと大きな声が大山を呼ぶ。声がした方を見ると、誰かが手を振っている。背が高い。間違いなく隼介であろう。隣には少女。静流であろう。

 二人は積まれた材木の上に並んで座っていた。呼ばれたが、どうも近づきがたい大山。隼介と静流が二人でいるところに割って入ることに抵抗を感じる大山。が、呼ばれているのに行かないのも気まずい。

大山 「おぉ!」

 大山、二人のもとへ。静流も隼介もニコニコしていた。つられて大山も笑顔。だが、どことなく緊張した笑顔。やはりちょっと抵抗を感じる。

 

 合流した隼介・静流・大山。三人は穏やかな雰囲気で談笑する。とるに足らない話ばかりであったが、残された時間を大切に過ごしていく。今度はいつ会えるか分からない。三人とも分かっていた。でもそのことには触れない。触れたところでどうにもならない。

 とるに足らない会話が続いていたが、ささいな一言が話を望まぬ方向へと流してしまった。

静流 「なんでこんなことになったのかなぁ。」

隼介 「ん?」

静流 「戦争・・・」

隼介 「・・なんでかなぁ。」

大山 「あいつらのせいだろ。」

静流 「あいつら?」

大山 「決まってんじゃん。淘來人だよ。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「・・どうかなぁ。」

大山 「他にねーだろ、原因なんて。一度徹底的にやってやんねーと。だから戦争してんだろ。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「怖いよ、大山。」

 大山の言葉からは、淘來人に対する敵愾心がありありと感じられた。それに静流が反応しているのを隼介は察するが、大山は気づかない。

大山 「怖ぇ~のはあいつらだよ。何度も何度も攻めてきてよぉ。いい加減死ねって感じだわ。マジで。マジで死んでほしい。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「そうゆう思いがあるから・・・」

大山 「あ?」

隼介 「そう思ってる人がたくさんいたから、こうゆうことになったんじゃないかな。」

大山 「逆だろ。そう思われることしてきたから、こうなったんだろ。ってか、しかけてきたの、あいつらじゃん。」

隼介 「それはそうなんだけど・・・そうさせた原因をもっと考えた方がいいような気もしてるから。」

大山 「原因? だから原因はあいつらだって。考えることなんてねー。」

隼介 「俺はそうは思ってないからさ。」

大山 「知ってる。よく分かんねーけど。」

 大山、だんだんとヒートアップしていく。静流、その苛立ちが自分に向けて放たれているように感じてしまう。それが気になってしかたない隼介だが、大山はやはり気づかない。

隼介 「なんにせよ・・・はやく終わらせたい。」

大山 「おぉ。とっととあいつらぶっ殺さないと。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「まぁ・・戦争だし・・でも、・・うん。しょうがないね。うん、しょうがない。」

大山 「ためらうこたぁ ねーよ。」

隼介 「・・戦争だし・・ね。」

大山 「関係ねー。戦争前にやった奴だっている。」

隼介 「え。」

大山 「・・あ。いや・・・」

隼介 「・・まぁ、あるんだろうねぇ、そうゆうのも。」

 言葉をにごす隼介。大山が言った意味深な言葉の意味が気になる。

「戦争前にやった奴だっている。」

 誰が? なにを?

 すごく気になるが、ハッキリさせない方がいい気がしたのでにごした隼介。当然のことながら、隼介は自分が過去にやった行いも思い出している。

 不可抗力ではあったが、戦争が起こる前にやっているのだ。人を手にかけたのだ・・・

静流 「大山。」

大山 「ん?」

静流 「どうゆう意味?」

大山 「なにが?」

静流 「戦争前にやった奴だっているって。」

隼介 「・・・あ、まぁ、いろいろあると思うよ。」

 慌てて話をうやむやにしようとする隼介。静流、どこともなく斜め下の一点を見ているが、意識は大山に向けているのが分かる。大山が答えるのを待っている。

大山 「聞きたい?」

 うなずく静流。隼介、嫌な予感がしていた。

大山 「俺は間違ってねーと思ってるから。だから、言うぞ。」

静流 「・・・・・。」

大山 「やったよ、俺。戦争前に。」

静流 「・・・・・。」

大山 「3年前だったかな。近所に住んでた奴が淘來人だってことが分かってよ。隠してやがったんだよ、あいつら、正体を。しかも一人二人じゃねー。2、30人はいたよ。ビビったよ、マジで。」

 『あの日』のことだ。一斉検挙のことだ。大山、『あの日』の暴徒のような顔をしている。殺気立った目。

大山 「カッとなったね。許せんかった。ボッコボコにしてやった。止められたけどよぉ、兵士に。でも後で一人死んだって聞いた。」

静流 「・・・・・。」

大山 「それでもお咎めなし。厳重注意。それだけ。国も分かってんだよ、あいつら野放しにしてたらヤバいって。」

 大山、怒りとともに自分の正当性を主張する。自分はもしかしたら、とんでもないことを言っているのかも知れない。とんでもないことをやってしまったのかも知れない。

 しかし戦争が始まってしまった今となっては、堂々と人を殺していい(?)状況になってしまった今となっては、そんなことは些細なことではないか! そんな心持ちでもあった。

隼介 「でもさ・・・彼らはべつに、悪いことしたわけじゃないんじゃない?」

大山 「隠してた。正体隠してた。騙してたんだよ、あいつらはずっと。俺はそんな奴ら信じない。」

 隠してなくても信じないだろ。と、隼介は思う。

大山 「だからやった。」

 ふたたび暴徒の顔になっている。

隼介 「そっか。・・うん。怒るには怒るだけの理由がある。」

 しかし、それでもやはり、それをぶつけるべきでない相手にぶつけていいわけがない。せめて、せめてフォローしたい。静流をこれ以上怖がらせたくない。そして、静流に大山の悪い印象を残したくない。

隼介 「・・相手が女の子でも、同じことした?」

大山 「・・・したかもな。」

隼介 「さすがにそこまでしないな。大山はしない、そんなこと。」

大山 「・・どうだかな。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「・・そこは否定しなよ。」

大山 「男だろうが女だろうが関係ねー。淘來人は淘來人だ。」

 言ってすぐに絶句する大山。さすがに今のはどうかと思った。隼介と静流も絶句してしまった。そしてとても恐ろしいことを想像してしまう。

 もしかしたらあの日、隼介と大山は対峙していたかも知れなかったのだ。言い換える。隼介は大山を撲殺していたかも知れなかったのだ。

 そして静流と大山もまた同様だったかも知れない。言い換える。静流は大山に撲殺されていたかも知れなかったのだ。

 

 溝が。壁が。境界線が、彼らを隔ててしまったかのよう。少しづつでいい。大山と和解したかった隼介だったが、実際は思っていたよりずっと深刻だった。絶望的であった。殺していたかも知れない・・・。殺されていたかも知れない・・・。

 

 でも、それでも・・・和解したい。

隼介 「俺、大山のこと仲間だと思ってる。」

大山 「・・おぉ。」

隼介 「いつまでもさ、こんなこと言い合ってたくない。」

大山 「・・おぉ。」

隼介 「だから、決めた。言いたいことがある。言うね。」

大山 「・・おぉ。」

隼介 「俺の父さん、淘來人なんだ。」

大山 「は!?」

隼介 「言わない方が良かったら、ゴメン。でも、本当のこと言わないことが騙すことになるんだったら、・・それは・・嫌だから。」

 大山の目を見ながら伝える隼介。逆効果かも知れない。こんなこと目を見て言うのは攻撃的に思われるかも知れない。タイミングも良くないのかも知れない。でも言いたくなった。言うべきだと思った。だから言った。

大山 「はぁ!? お前いきなり・・・はぁ!??」

 大山、立ち上がる。そして落ち着きなく歩いては止まり、戻ってはまた止まる。明らかに混乱していた。意味が分からない。いや、言われた内容は分かったが、どう受け取っていいのか分からない。

 それでも思いは伝わっていた。申し訳なさそうな、それでいて真剣な隼介の思いが。やがて落ち着きを取り戻し、大きくため息をつく。

大山 「隼介!」

隼介 「・・うん。」

大山 「お前は仲間だ。ただ、悪ぃ。それでも、俺の考えは変わらん。」

隼介 「・・ありがと。」

静流 「・・・・・。」

大山 「静流、悪ぃな。感じ悪いよな。」

 静流に歩み寄る大山。すぐに立ち上がって離れる静流。怯えている。完全なる拒絶反応であった。

静流 「・・・・・。」

大山 「ホントごめん。機嫌なおしてくれよ。」

静流 「・・・・・。」

大山 「な。」

 一歩。たった一歩近づいただけだったが、静流は走り去ってしまった。

大山 「・・・・・。」

 大きなため息。

大山 「そんなに怖かったかなぁ・・・」

隼介 「怖かったと思うよ。」

大山 「そっか。」

隼介 「3年前、殺されかけたから。」

大山 「え?」

隼介 「殴られて。蹴られて。家・・焼かれた。」

大山 「・・・・・。」

隼介 「平行線だとは思うけどさ、分かってあげて。あの子、なにも悪いことしてない。」

大山 「・・・・・。」

隼介 「分かってあげて。」

 大山、ようやく静流が淘來人であることに気づく。

大山 「・・静流・・ごめん・・・静流・・・あぁ・・・。」

 後悔と罪悪感が、どっと大山の心に押し寄せてくる。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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