戦国Web小説『コミュニオン』第45話「変わんないね」

第45話 「変わんないね」

 

 あとで聞いた話だが、ロズガードの騎馬隊と淘來軍が戦うことになったのは、直太丸のしわざだったらしい。淘來軍をおびきよせて、ロズガード軍に攻撃させたとか。

 淘來にしてみれば、醒陵だけでなくロズガードもまた敵なのだから、至近距離にまで近づけさせればぶつかるわけだ。軍の司令官に任命されたのだから軍勢をひきいて戦うのかと思えば、なんと敵の軍勢を利用してしまった。

 ずるい・・・わけではないか。それもまた兵法というものなのか。むしろ無傷で目的を果たしてしまったわけだから、称賛に値する。

 

 称賛に値すると言えば、まだあった。そのあと直太丸は、淘來との休戦も実現させてしまった。いつまで続くか分からない、とりあえずの休戦であろうが。

 そしてすぐに淘來領にとり残されていた将兵たちを捜索し、救出していった。みごとなものである。その結果、醒陵内での支持は蒼雲を上回ることとなった。

 とりあえずは国境警備に力を入れて外からつけいる隙を与えず、国力を蓄える。それが国の方針として定まった。

 

 しかし、懸念されることは多く残されている。淘來はやがてまた攻めて来るのではないか?ということ。ロズガードも同じことである。暗に明に、策略を巡らせ、また欺き欺かれるのではないか?

 この国にいろんな考えの人間がいるように、どの国にもいろんな考えの人間がいる。野心から、憎悪から、はたまた無知から恐怖から、さまざまな理由で人は武器を手にとり、人を手にかける。

 

 ・・・せっかく戦争が終わったというのに、そんなことばかりが頭をよぎる。考えてもしかたない。せっかく平和が戻ったのだから、それを心から享受しようではないか。

 

 

 

静流 「楽しい?」

隼介 「ん?」

静流 「・・・見てて。」

 隼介、御神木を見上げている。隼介はこの大樹が昔から好きだった。荘厳としたその姿は、隼介の心を掴んで離さなかった。威厳とともに、包み込むような穏やかな雰囲気も醸し出している。

 樹齢何年だか知らないが、おそらくは百年二百年どころではないだろう。この国の歴史を古の時代から見てきたのであろうか。もしこの大樹が声を持っていたとしたら、何を語りだすのだろう・・・

 

隼介 「うん。」

静流 「そっか。楽しいんだ。」

隼介 「なんか、癒される。」

静流 「昔から好きだよね、この木。」

隼介 「そうだね。」

 久しぶりにやってきた神社。ほぼ毎日のように来ていたあの日々が、遠い昔のように思える。この御神木を見上げるのも久しぶりである。

 それにしても大きい。ここまで大きくなるには、何年の月日がかかったのだろう。大人が三人手を繋いでようやく囲めるほどの太い幹が天に向かって伸びており、その幹からは、これまた太い枝が幾本も伸びている。葉はすべて落ちてしまっていた。

沙耶 「なんか・・・冬は元気ないね。」

和馬 「この木?」

沙耶 「うん。」

和馬 「そうかな。」

沙耶 「だって、葉っぱ落ちちゃうじゃん。」

和馬 「あぁ。それは・・・力蓄えてるんじゃない?」

沙耶 「そうなの?」

和馬 「違ったっけ?」

隼介 「うん、そうだよ。」

沙耶 「そうなんだ。」

隼介 「少しでも消耗を減らして、春になるのを待ってる。はず。確か。」

沙耶 「へ~~。」

隼介 「だから、これはこれで、逆に力強く見える・・かな。」

沙耶 「そうゆうもんかぁ。」

静流 「でも寒そう。」

沙耶 「だよね。」

隼介 「まぁ・・ね。」

 確かに目に見える部分は寒そうに見える。だが、太い根がしっかりと大地を掴むようにして生えている。きっと目に見えない地下には、もっともっと深く長く広がっているのだろう。それは夏も冬も変わらない。

 そう考えると、暖かい季節には外へ外へとエネルギーを発散し、寒い季節には内へ内へとエネルギーを蓄える、ただそれだけのようにも思えてくる。べつに前者がよくて後者がよくないというわけではない・・・などと、どうでもいいことが隼介の頭によぎる。

厳  「いつまでいれる?」

隼介 「明日まで。」

厳  「・・そっか。涼平も?」

涼平 「俺も。」

厳  「ケガしてるのに?」

涼平 「だいたい治った。」

和馬 「治ってはないだろ。」

涼平 「もう動ける。」

厳  「・・・・・。」

 久しぶりにそろった六人。隼介・和馬・沙耶・静流・厳・涼平。久しぶりにそろったのに、隼介・和馬・涼平の三人はまた北門の警備へと行くことが決まっている。

 一連の戦いが終わった今も、彼らは軍人のままだった。隼介らが楽しみにしていた大会は、おそらく来年は行われないだろう。静流が楽しみにしていた夏祭りも、おそらく来年は行われないだろう。

 ただの予感ではあるが、そんな気がしてならない。みんな、そんな気がしていた。

 しばらく何気ない会話をし、厳と涼平は帰っていった。涼平とはまた軍役ですぐ会うことになろうが、厳とは次いつ会えるか分からない。

 

 

 雪。

 雪が降ってくる。

静流 「寒い。帰ろ。」

隼介 「あぁ・・・。」

沙耶 「でも、なんかもったいないね。」

和馬 「確かにな。」

静流 「何が?」

沙耶 「久しぶりに集まったのにさ。」

静流 「あぁ。」

和馬 「うち、来る?」

三人 「行く。」

 四人は道場へおじゃまする。正確には道場に隣接する和馬の家。四人の会話は以前とは違っていた。どこか落ち着いた空気である。だが、思い出話に火がついてからはまた以前の四人が戻って来たかのようであった。くだらない話で盛り上がり、やがて夜はふけていった。

 

 

 深夜。・・・ストッ・・・・・ストッ・・・・・目を覚ます隼介。

 同じ部屋では沙耶と静流が寝息をたてている。

 ・・・・・ストッ・・・・・音がする。聞き慣れた音。

 隼介はゆっくりと立ち上がる。

 ・・・・・ストッ・・・・・

 二人を起こしてしまわぬよう、静かに部屋を出て、音のする方へ歩いていく隼介。音は中庭の稽古場から聞こえてきていた。和馬が弓を構えている。雪が降る中庭。和馬が立っている場所には雪は落ちてはこないが、冷たい空気が身を引き締める。そして矢を放つ。

 ストッ!

 矢は的の中心を射抜く。和馬が放つ矢は百発百中。必ず的の中心を射る。彼の眼差しは的の中心をとらえつつも、的全体、そしてその周りの空間自体をとらえているかのようだった。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ・・・・・

 

 弓をおろす和馬。そして隼介の方を見る。

和馬 「よう。」

隼介 「・・・おぅ。」

 懐かしい。何もかもが懐かしい。

隼介 「変わんないね。」

和馬 「何が?」

隼介 「いろいろと。」

和馬 「まぁ・・な。」

隼介 「変わってくものばっかり・・見過ぎたかな。」

和馬 「まぁ・・な。」

 ふっと微笑む和馬。

隼介 「ん?」

和馬 「いやぁ、確かになって。懐かしい・・・」

隼介 「うん。懐かしい・・・」

和馬 「あ~~あ。」

隼介 「ん?」

和馬 「本当だったら今ごろは、全国大会だったのにな・・って。」

隼介 「そっか。この時期だもんね。」

和馬 「ま、あったとしても今年は観客席からだったけど。」

隼介 「まぁね。」

和馬 「来年は・・あるのかな。」

隼介 「あるといいね。」

和馬 「うん。・・・ちなみに。」

隼介 「ん?」

和馬 「俺、フラれたから。」

隼介 「え。」

和馬 「沙耶に。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「恋愛対象・・ではないらしい。ま、前にもそう言われたんだけどな。」

隼介 「・・そう。」

和馬 「うん。そう。あらためて告ったんだけど、撃沈。」

隼介 「そっか・・・」

和馬 「で?」

隼介 「ん?」

和馬 「隼介は?」

隼介 「多分、同じじゃないかな。」

和馬 「そうなんだ。」

隼介 「好きだとは言ったんだけどね。」

和馬 「沙耶はなんて?」

隼介 「さぁ。」

和馬 「さぁって。」

隼介 「返事らしいことは聞いてない。」

和馬 「そっか。」

 

 その頃、部屋では沙耶と静流が同じことを話していた。彼女らも寝てはいなかったようである。

静流 「それズルい。」

沙耶 「・・・だって、それが本音だから・・・。」

静流 「中途半端だよ。隼介にも和馬にも。」

沙耶 「そう・・かな。」

静流 「そうだよ。」

沙耶 「隼介も和馬も大切な存在。だけど・・・」

静流 「だけど?」

沙耶 「でも、やっぱり恋とか、そうゆう想いじゃない気がするから。」

静流 「まったく?」

沙耶 「まったく・・かどうかは・・分かんないけど。」

静流 「もう!やっぱりズルいよ!」

 沙耶、そんな静流を見て微笑む。

静流 「なによ。」

沙耶 「ん?ん~ん。」

静流 「なに!?」

沙耶 「可愛いなって。」

静流 「あ~!もう!調子にのるな!可愛いからって調子にのるな!」

沙耶 「静流も可愛いよ。」

静流 「話をそらすな。」

 そして中庭の二人。

和馬 「静流のことはどう思ってんの?」

隼介 「大事な・・存在だよ。」

和馬 「女としては?」

隼介 「うん・・可愛いとは思うよ。でも、そうゆう気持ちにはなれないかな。」

和馬 「そうなんだ。」

隼介 「うん。・・てか、寒い。そろそろ戻らない?」

和馬 「俺もそう思ってた。」

 

 隼介と和馬が部屋に戻ると、沙耶と静流の会話が盛り上がっていた。

静流 「ちょっと男子!」

和馬 「ん?」

隼介 「なに?」

静流 「女は顔か?顔なのか?」

和馬 「はぁ?」

隼介 「なに、いきなり。」

静流 「率直な意見を聞きたい。」

和馬 「・・まぁ・・それも含めて。」

隼介 「そう・・だねぇ。」

静流 「・・・あそ。」

和馬 「えぇ~~??」

隼介 「な、なに??今のなに??」

沙耶 「ごめん、気にしないで。」

隼介 「気になるよ。」

静流 「もういいよ。」

和馬 「なに?なにがあった?」

沙耶 「なんでもない。」

静流 「男子にはナイショ!」

 四人の会話は深夜も続いていく。

 

 

 帰ってきた。還ってきた。

 いろいろあったけど、帰ってこれた。

 いろいろ変わったものもあるけれど、還ってこれた。

 今までとは違う。でもそれは当たり前な気もする。

 春と夏は違う。秋と冬も違う。

 今年の夏と来年の夏が同じはずがない。

 時の流れに抗いたいけれど、それは次の季節が巡るのを止めようとするに等しい行為。人にできるのは、せめて五感にその季節を刻みこむぐらい。

 そしてそれを共有できる誰かを、大切にすることぐらい。

 

 

 

 次の日、隼介と和馬は出発する。笑顔で見送る沙耶と静流。そして北部駐屯地の防衛の任につく。北部駐屯地とはいうものの、北門や周辺の国境も含まれている。

 そして任務再開からしばらくしたある日のこと、隼介は守備隊長に呼び出された。重要な話があると言われ彼の部屋へと出向いたのだが、それを聞かされた隼介には理解がおよばなかった。

隊長 「どう・・思いますか?」

隼介 「どうもなにも・・・どうゆうことでしょう?」

隊長 「ことの詳細は私にも分かりません。」

隼介 「でしたら・・私もどうお答えしてよいのか・・・」

隊長 「それが、元をただせば、相葉くんの言動が発端となっているとのことで。」

隼介 「私ですか?」

隊長 「えぇ。詳しくは外交官らと話をしてほしいそうです。」

隼介 「外交官・・・あちらのですか?」

隊長 「えぇ。」

隼介 「私が会うのですか?」

隊長 「はい。」

隼介 「私が淘來の外交官と話を?」

隊長 「はい。もちろんこちらも外交官同席のもとですが。」

隼介 「はぁ・・・。」

 先日、淘來から醒陵に重大なメッセージが届いた。

 

 「援軍要請」「救援願う」

 

 意味が分からない。どういう風の吹き回しだ?

 何があった?そしてなぜこんな国家間の重要なことに自分が関わるんだ?

隊長 「そして誠に急な話なのですが・・・すでに来ています。」

隼介 「なにが?」

隊長 「淘來の外交官が。」

隼介 「・・・ここに?」

隊長 「はい。ここに。」

隼介 「・・・・・。」

隊長 「待たせてあります。」

隼介 「・・・・・。」

隊長 「会っていただきたい。上からの命令であります。」

隼介 「・・・はい。」

 上からの命令とあらば断わるわけにもいくまい。隼介は外交官が待っているという部屋まで案内された。そこには、外交官らしき中年の男がいた。醒陵の外交官らしき男もいる。

 しかし何より驚いたのは、そこに見覚えのある少女がいたことである。少女は神妙な顔をしながら、隼介に頭をさげる。つられて隼介も軽く頭をさげる。

 そして少女の後ろに隠れていた少年がかけよってくる。

 その10歳ぐらいの男の子は隼介の前まで走ってきて見上げる。そして満面の笑みでこう言った。

 

少年 「悪鬼さん!ありがとぉ!」

 

 隼介はこの状況が理解できず、ただただ立ち尽くしていた・・・

 

 

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コミュニオン主題歌

『ひとすじの光』

作詞・作曲・歌 うおしーらん

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