戦国Web小説『コミュニオン』第33話「私は許せない」

第33話 「私は許せない」

 

 次にまた錯乱したら、もう元には戻れないかも知れない・・・。でも、戦わざるを得ない状況になったらどうすればいい?

 考えたところで答えなんて出ない。静流は真剣な眼差しで隼介を見つめ続ける。隼介、これ以上考えてもしょうがないと悟ったように微笑む。

隼介 「そうならないことを祈るよ。」

静流 「・・・・・。」

 完全なるお手上げ状態。隼介だって戦場になど行きたくはない。しかし、隼介本人がどうこうできることではない。もちろん、すべてを投げ出して逃げ出すという手もなくはない。

 戦争反対を唱え、反戦活動に身を投じるという道もあるのかも知れない。が、それもまた同じぐらい過酷な道なのかも知れない。

 今乗っかっているレールから降りて別の道を模索するのだから、むしろその方が過酷な気もする。結局はお手上げ状態である。

静流 「そうだね。」

 静流もそう言うしかなかった。

隼介 「ごめん。もう、寝るね。・・疲れちゃった。」

静流 「・・・うん。」

 隼介は今の話でかなり心を消耗してしまった。もう何も考えるな、と体からの命令が出たのか急に眠くなった。そしてそのまま眠りにつく。

静流 「・・・・・。」

 静流にしてみれば、これまた苦しい。やっと話せたと思った隼介とは結局、重い話をすることになってしまった。本当は楽しいことを話したかったのに。

 そして隼介は寝てしまう。沙耶とは長い時間楽しく過ごしていただろうに。それでもやっぱり、隼介の側を離れない。隼介が寝ている隣で、座りながら眠りに落ちていく。

 

 

 朝。

沙耶 「おはよ。」

 目を開ける隼介。もう沙耶が来ていた。

隼介 「・・・おはよ。」

 大きく伸びをする。とても良い天気だった。少し涼しい。なんだか目覚めが良い。とても気分がいい。良いのは気分だけではなく、体調も良いようだ。

隼介 「天気いいね。」

沙耶 「うん。気分はどう?」

隼介 「うん。いい。とっても。」

 辺りを見回す。いつも目が覚めた時にいるはずの静流はいない。いつもの朝より陽が昇っている。どうやらいつもより長く寝ていたようだ。気分と体調が良いのはよく寝たからだろうか。

 この日も隼介は外に出たいと言い出した。昨日と同じく、二人は駐屯地の敷地内を歩き回った。兵舎や倉庫など軍事関係の建物しかなかったが、それでも隼介は楽しかった。幸せだった。

 「そうだ。稽古しよう。」と言い出す隼介。もう体はかなり回復しており、早くリハビリを始めたかった。というのもあるが、何より沙耶と稽古がしたかった。が、残念ながらそれは断念せざるを得なかった。

 木刀がないのである。木刀ぐらいあるだろうと思っていたが、本当になかった。ここには本物の武器しかないのである。かつての駐屯地ならいざ知らず、戦争が始まってしまった今となっては、もはやここは訓練場ですらなくなっていた。

 

 「探せばどこかにはあるのかも知れませんが・・・。」と、少し困った顔の兵士。「でしたらいいです。すいません、無理言っちゃって。」と、慌てる隼介。隼介に話しかけられた兵士は感激していた。

 まさか英雄である隼介に声をかけてもらえるとは思ってもみなかった。それに加え、隼介のその謙虚な姿勢にも好感をもった。この迫力ある体でこの態度。強さだけでなく、人格まで憧れてしまう。

 兵士の思いは、言葉にせずとも態度から伝わって来た。それを感じ、沙耶は嬉しかった。もちろん当の隼介も。

 またあてもなく歩き出す二人。笑顔の沙耶。

沙耶 「いいね。」

隼介 「何が。」

沙耶 「何だろ。」

隼介 「何それ。」

 隼介も笑いだす。

沙耶 「なんか、好かれてるなぁって。」

隼介 「うん。ありがたいね。ありがたい。」

沙耶 「そうだね。」

隼介 「でも・・・」

沙耶 「何?」

隼介 「結局俺って、戦うことしか・・その・・能がないっていうか・・・」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「とかね・・思ったりするわけよ。」

沙耶 「そんなこと思ってたんだ。」

隼介 「だってさ、ここに来た人たち、結局・・その・・戦争させられてるっていうか・・・」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「利用されてるって言うか・・・俺も含めてさ。」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「俺、戦って、活躍?・・って言っていいのか分かんないけど、武功あげてさ、それが宣伝されて、それ聞いてあの人たちここ来たわけでしょ。・・う~~~ん・・・やっぱりそれ、利用されてる・・とか思っちゃうんだよね。戦場なんかに行かなくて済んだ人たちがさ。」

沙耶 「・・・でもさ、そんなの分かんないよ。隼介が戦ってくれてなかったら、醒陵が戦場になってたかも知れないんだし。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「だからやっぱり、感謝しちゃうよ。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「尊敬しちゃうよ。憧れちゃうよ。」

隼介 「ありがとう。」

沙耶 「こちらこそ。」

 笑顔の二人。願わくば、戦い以外で役に立てたらいいなぁなんて思った隼介。それを察したのか、沙耶が

沙耶 「慰問する?」

 と言い出した。

隼介 「いもん?」

沙耶 「あ、慰問ではないか。ほら、ここの兵士さんたちにさ、挨拶してまわらない?」

隼介 「いいね、それ。」

沙耶 「でしょ。きっとみんな喜ぶよ。」

 思い立ったが吉日とばかりに、すぐに行動に移す二人。まずは兵舎をまわることにした。が、最初に入った兵舎には誰もいなかった。

隼介 「・・・・・あれ。」

沙耶 「あれ。昨日はいたんだけどな。」

 実は、この兵舎の兵士たちは今日は警備の当番であった。この駐屯地に集められた兵士たちの目的は、軍事物資の管理などもあるが、一番の目的は警備であった。それは交代制で行われており、その当番に当たっている兵士たちは兵舎にはいない。

隼介 「隣・・行こうか。」

沙耶 「そうだね。」

 隣も空だった。その隣も。その隣の宿舎にて、ようやく最初の慰問(挨拶まわり?)が始まる。兵士たちは熱狂した。完全なる歓迎ムードであった。

 耳でしか聞いたことのなかった英雄本人が目の前に現れたことで、彼らは喜び勇んだ。この兵舎には100人ぐらいの兵士たちがおり、彼らが熱狂することで部屋の中の温度が上がったように思える。

 緊張している者も多かったが、ラフな隼介の空気に質問が飛び交った。それに笑顔で応えていく隼介。

兵士 「戦いとは、何でしょう?」

隼介 「う~~~ん・・・何でしょうねぇ。分かんないです。」

 「おぉ~~~。」という声があちこちから上がる。

 え?何が「おぉ~~~。」なの?と思った隼介と沙耶。だけどそれは言わない。

兵士 「やっぱり、過酷な訓練を日々なされていたのでしょうか?」

隼介 「趣味・・かな。はい、毎日やってました。趣味で。」

 「おぉ~~~。」という声があちこちから上がる。

 あ、今の「おぉ~~~。」はなんとなく分かる。と思った隼介と沙耶。

兵士 「戦いはやはり、力と速さと技で決まるのでしょうか?それとも気力がものを言うのでしょうか?」

隼介 「う~~~ん、そうですねぇ・・・どれも大切ではあると思います。ただ、それらの他にもいろいろ大事な要素があると思います。」

兵士 「例えば?」

隼介 「例えば・・・頭。」

兵士 「頭。知力・・すなわち、戦術でしょうか。」

隼介 「戦術もそうですが・・今私が思い浮かべたのは、楠将軍のことです。」

兵士 「あ、左将軍殿でありますか。」

隼介 「はい。かつて私は楠将軍と立ち合ったことがあります。正直私は、自分が勝つとばかり思っておりました。負けたとしても僅差だろうと。しかし、負けました。一瞬で負けました。」

 兵士たち、食い入るように隼介の話に耳を傾ける。隼介が負けたと聞かされた時は、まさに時が止まったかのような空気になった。彼らにとっては、それほどまでに凄い話のようである。

隼介 「なぜ負けたのか、その時の私には分かりませんでした。ただただ負けたことが信じられなくて、理解できませんでした。でも、その理由は極めて単純でした。将軍は、何度も私の立ち合いを見ていたのです。

 その時の私は、立ち合い開始直後に全力で、そして全速力でぶつかっていました。自分の筋力と突進力に自信があったんですね。それでもやはり技術を持った人が相手ならば、それだけでは勝てません。最初の突進で勝てなかったら、そこではじめて戦い方を切り替えます。慎重な戦い方へと。つまり、最初は突進するということが前提だったんです。

 だから将軍は最初から、それをかわすと同時に反撃するつもりだったのです。たったそれだけのことなのに、それをやったのは将軍だけです。格の違いを見た思いでした。もちろん、それが出来るというのも凄い技術があってこそですが。」

 

 「おぉ~~~。」という声があちこちから上がる。

 今の「おぉ~~~。」が一番思いのこもった「おぉ~~~。」だな~、と思った隼介と沙耶。

兵士 「はい。」

 兵士の一人が手を上げる。

隼介 「何でしょう。」

兵士 「今の話、左将軍殿からも聞いたことがあります。」

隼介 「そうなんですか。」

兵士 「はい。もう二度とあいつとは戦わんと言っておりました。次やったらもう勝てん。このまま勝ち越しておけば、自分の方が強いことになるだろう、とほくそ笑んでおりました。」

 どっと笑いが起こる。

兵士 「はい。」

別の兵士が手を上げる。

隼介 「何でしょう。」

兵士 「私も聞いたことがあります。斬りこみ隊長殿に勝った話をしながら、自慢げに自分は勝つ戦しかしない主義だとか言って、ほくそ笑んでおりました。」

 どっと笑いが起こる。なんだか楠将軍のイメージが変わった気がしてきた。どことなく憎めない、ちょっと緩い感じ。今までは、知的で頼りがいがありつつも、どこか怖さも感じていたのだが。

沙耶 「あの人、しょっちゅうほくそ笑んでるんだね。」

隼介 「そうみたい。」

 兵士、沙耶の方を一度見て、また隼介に向き直す。

兵士 「あの、そちらの方は、恋人でありますか?」

隼介 「え。」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「(沙耶に)どうなの?」

沙耶 「どうなのって、どうなの?」

隼介 「俺?」

沙耶 「俺。」

隼介 「俺は・・好きだよ。」

 「おぉ~~~。」という声があちこちから上がる。

隼介 「前にも・・言ったじゃん。」

沙耶 「え、聞いてないよ。」

隼介 「え。」

 あ!そうだ!!前は静流に言ったんだった。しまった・・・

 まさか・・・まさかこんな形で告白してしまうことになるとは・・・

 でも、気づいてるよね?とっくに気づいてるよね??

隼介 「でも、気づいてるよね?とっくに気づいてるよね??」

沙耶 「・・・・・うん。」

 「おぉ~~~。」という声があちこちから上がる。

 「ほっとけや。」と思う隼介と沙耶。言ったのは自分らだが。

 

 

 兵舎を出た隼介と沙耶。ちょっと照れてしまっている隼介。沙耶も少しよそよそしい。隣の宿舎に入る。が、空。順に宿舎を覗いていく。次に人がいたのは数軒(?)先であった。またまた大歓迎を受ける隼介と沙耶。

 兵士たちと意気投合する二人。おそらくこの二人は恋人同士なのだろうと皆が思ったことだろう。

 この宿舎も出る。隣の宿舎も空だった。

隼介 「ほとんど、いないんだね。」

沙耶 「そうみたいだね。」

隼介 「あぁ、そりゃあそうか。宿舎にいるってことは、休みってことか。休みの人らばっかりなわけはないよな。」

沙耶 「そっか。」

 隼介と沙耶、今度は北門へ向かう。そしてそのまま長城に登り、城壁を警備している兵士たちに挨拶していこうという話になった。第二の門を警備している兵士たちは、やはり大歓迎してくれた。が、門を開けてはもらえなかった。

 当たり前だ。許可もなく開けてもらえるはずもない。ノリも宿舎にいた兵士たちほどはしゃいではいなかった。それも当然である。休み中の人と仕事中の人が同じリアクションをとるわけがない。それでも、

 「北門や城壁の者たちにもお伝えいたします。皆喜ぶと思います。わざわざ出向いていただきましたこと、誠に感謝いたします。本当にありがとうございます。」

 と、感謝の気持ちを伝えてくれた。嬉しい。やはり嬉しい。自分の言葉が、存在が、周りの人たちに喜んでもらえていることを実感する。隼介はこうやって生きてきた、ということを思い出してくる。

 以前の隼介も、武に秀でていたことから周りから憧れられた。そんな隼介が褒めてくれると、褒められた方はそれだけで嬉しくなった。もちろん、今ほど多くの人たちから熱狂的な支持を得ていたわけではないが、それでもやはり隼介の周りは、隼介のことが好きな人しかいなかった。

 そう考えると、以前と今とは違っている。好きなことにただひたすらに打ち込んで、人に優しくさえ(?)していれば良かった時と、やりたくないことを徹底してやり抜いてきた戦場での日々。

 多くの熱狂的な支持者を得た一方で、これまた多くの者が隼介を憎むこととなったに違いない。絶対に許さないと思っている人が大勢いるに違いない。

 隼介、ふとある人たちのことが気になった。

隼介 「あのさぁ・・・」

沙耶 「ん?」

隼介 「あの人たちにも・・あいさつ・・していいかな・・・」

沙耶 「あの人たちって?」

隼介 「うん・・・」

沙耶 「ん?」

隼介 「沙耶って・・まだ・・嫌い?」

沙耶 「何が?」

隼介 「淘來の人たち。」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「ここに捕まってる人たち・・その・・淘來の人たちにも・・って思うんだけど。」

沙耶 「昨日、もう会ったじゃん。」

隼介 「だから、今日は、慰問?」

沙耶 「・・・・・。」

隼介 「慰問って、元々はそうゆう人たちに、」

沙耶 「好きにすればいいんじゃない?」

 決して突き放した言い方ではなかった。ただ、拒絶しているのは分かる。

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「ごめん。別に悪気があるわけじゃないんだけど・・・私は・・・許せないから。」

隼介 「・・そっか。そうだよね。」

沙耶 「・・・そうだよ。」

 沙耶が拒絶するのは当然である。もはや父が殺されたというだけではない。自分も殺されかけたのだ。しかも捕虜たちはその、殺そうとした張本人たちではないか。許せない。許せるはずがないではないか。

 「どうなったか気になるから見に行きたい。」と言った昨日とは違う。慰問?挨拶??ないでしょ、それは。

 沙耶は隼介の神経が理解できなくなった。優しいのは分かる。分かるけど、これは度が過ぎている、と。しかし隼介にとってみれば、彼らの立ち位置は絶対的な悪ではない。自分もまた同じように多くの人を殺めてきたのだ。

 それこそ彼らの比ではないのだ。彼らが悪人であるならば、じゃあ自分は何なんだ?

 

 

 悪鬼。

 

 そう、悪鬼ではないか。殺意を持った人間の恐ろしさを知った。殺意を持った自分の恐ろしさも。いくら極悪人の殺人鬼でも、さすがに自分ほどはやっていないだろう。多分、300人はやったよ?多分、やろうと思えば1000人だって・・・

隼介 「彼らを・・許さずして・・・」

沙耶 「もういい。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「違う。責めてるんじゃなくて、その・・・」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「好きにしてくれていいって言いたいだけなの。隼介には隼介の考えがあるはずだから。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「・・・・・。」

 彼らを許さずして、自分は許せない。そう、言いたかった・・・

一人歩き出す隼介。何も言えず見送る沙耶。

 

 

 隼介は一人、捕虜たちが強制労働を強いられている場所へとおもむいた。彼らは昨日と同じく、木を伐採しそれを運んでいた。重労働である。当然拒否する権利などない。当初は処刑されるはずだったのだ。生きているだけでも良しとしなければ。なんとか繋ぎ止めた命、そして隼介に拾われた命。

 隼介が現れたことに気づき、また兵士たちは驚きと尊敬の眼差しに。「あらためてご挨拶をと思いまして。」と言うと、やはり兵士たちは感激していた。

 「こんな下々のところまで・・・」などと言っていた。当然隼介は、自分が人として格上だとかは思っていない。謙虚な姿勢で「ご苦労様です。」とねぎらいの言葉をかける。

 そして、捕虜に声をかけていいかと聞いたが、兵士は黙ってしまった。さすがにそれはよろしくないと見える。が、他ならぬ隼介の頼みである。むげに断るのも気が引けると言った感じであった。

隼介 「あ、申し訳ありません。無理を言ってます・・よね?」

兵士 「いえ、その・・・」

隼介 「特にしたい話があるわけでもないんです。断っていただいても、・・その・・・まぁ、可能であれば・・・」

兵士 「・・えぇ、はい。・・・許可のない会話は禁止であります。」

隼介 「ですよね・・・」

兵士 「例えば・・えぇ、例えば、ここで誰かが誰かに言葉を発したとしたら、その時には止めますが・・・」

 その時には止めますが・・・。つまり、話しかけてから止めるということ?そう解釈してもよろしいでしょうか・・・?

兵士 「・・・・・。」

 おそらくはそうゆうことだろう。好意に甘える隼介。捕虜たちに目を向ける。捕虜たちはまた隼介の方を注目していた。

隼介 「私は・・・」

 と言い出したものの、何を話すかなんて決めてはいなかった。でも、何かは言いたい。では何を?

 大注目の中、無言の隼介が立っている。何でもいいから話そう・・・

 いや、これだな。多分これだ。これが言いたいのだと思う。

隼介 「私は!あなた方を許します!でもそれは、自分のためであります!!あなた方を許さずして、どうして自分自身を許せるというのでしょう!!」

 そうだ。これが言いたかったのだ。言葉にしてみて、あらためて自分が何を思い悩んでいるのかが明確になってくる。隼介は続ける。

隼介 「私は、多分、あなた方より多くの人を・・・」

 涙があふれてくる。とめどなく涙が流れていく。言葉が出てこなくなる。それでも絞り出すように声を出す。

隼介 「誰が許してくれるのでしょう。」

 そう言った瞬間、なぜか自分で今言ったことを拒絶する。

隼介 「私は許しません。決して許しません。」

 それを言った時、何かのスイッチが入った。

隼介 「誰が許すかぁ!!!」

 怒り?憎しみ?とにかく負の感情が突然爆発してしまった。自分でも全く予期せぬことだったため、激しく動揺する。聞いていた捕虜たちや兵士たちもついていけず「え。」といった表情。とたんに萎縮してしまう隼介。

隼介 「・・あぁ・・いえ、許して欲しいんです。でも許して欲しいんです。いや、許す気はない。それはない。絶対に許さん!お前らのせいだろうが!!お前らがあんなことしなけりゃ大山は死なずに済んだ!!違うかぁ!!?いや、それは違う。それじゃあダメなんです。だから許して欲しいんです。」

 隼介は発狂と萎縮を繰り返す。あふれだした感情は瞬く間にいろんな記憶を呼び覚まし発火しては、それを懸命に鎮火していく。

 もはや自分では制御できなくなっている。相反する二つの隼介が、互いに主導権を奪い合っているかのよう。

 ・・・ヤバい・・・これはヤバい。ということに気づく理性を持った側の隼介。このままだと感情は殺意に辿り着く。錯乱の一歩手前であった・・・

 隼介の背中にそっと何かが添えられる。それは人の手のひら。気づけばそこに静流がいた。彼女は隼介の斜め後ろに立って、隼介の背中に手をあてている。

 「がんばれ」なのか「負けるな」なのかは分からないが、暖かいものが伝わってくる。錯乱しかけた隼介の精神が落ち着きを取り戻す。

隼介 「つまり、あなた方を許さずして、どうして自分自身を許せるというのでしょう。そう、言いたいのです。・・失礼・・いたしました・・・」

 捕虜たちも兵士たちも、じっと隼介の顔を見つめていた。隼介は深々と頭を下げる。兵士たちの方を向いて、もう一度頭を下げる。

 それからはただただ、悲壮感を漂わせながら立ち尽くしている。静流、隼介の手を握る。

静流 「行こ。」

隼介 「・・うん。」

 隼介は静流に引っ張られるように、この場をあとにする。しばらく静流が先に歩いていたが、先ほどの場所から離れると隣に並んで歩き出す。

静流 「沙耶がさ、一人でいたから、隼介の居場所聞いたの。」

隼介 「ありがと。」

静流 「大山・・・死んだんだね。」

隼介 「・・・・・ごめん・・・」

静流 「何で謝るの。」

隼介 「・・黙ってた・・から。」

静流 「それは・・隼介が、優しいから。」

隼介 「・・・・・。」

 

 救われた。静流がいてくれて良かった。

  

 気づけばいつもそうだ。

 喜びを共有するのは沙耶。

 暖かい日射しを一緒に浴びて、ともに歩いてともに笑ってくれるような存在。例えるなら、太陽の光を一身に受け、大木が天を覆わんと枝を伸ばし葉を茂らせていくようなイメージ。

 哀しみを共有するのは静流。

 冷たい雨に一緒に濡れて、ともに耐えてともに泣いてくれるような存在。例えるなら、太陽の光が届かない地下で、嵐に倒れてしまわぬよう、過酷な環境に朽ちてしまわぬよう、深く、広く、必死に根を伸ばしていくようなイメージ。

 

 もちろんただの例えだが、今の隼介にとって二人はそんな存在に思えた。

 

 どちらが欠けても、今の隼介はなかった。

 

 

 

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