戦国Web小説『コミュニオン』第26話「いけねぇよな」

第26話 「いけねぇよな」

 

 大山の遺体が運ばれてくる。手には大斬刀を握りしめている。その顔は穏やかで、眠ってるようにも見える。皆黙ったまま見下ろしていた。しばらく沈黙が続く。

和馬 「刀を放してやれ。」

 兵士が外そうとする。が、外れない。その手は硬く握ったまま硬直している。皇が歩み寄る。

皇  「・・・・・。」

 皇、硬く握ったままの大山の手に、自らの手のひらを重ねる。

皇  「・・・大山君、ありがとう。もういいよ。」

隼介 「・・・・・。」

 大斬刀を外そうとするも、やはり外れない。

皇  「もういいよ。・・本当に・・本当に、お疲れ様・・・」

 その手から大斬刀は外れて落ちる。皇、穏やかな笑顔。だが、憔悴しきっている。皆、何も言えずただただ立ち尽くす・・・

 

 

 その日、攻撃隊が新たに編成される。今度こそ敵部隊の撃滅を遂行するため。ケガを理由に、今回の軍事作戦は降りるよう勧められる隼介。しかし隼介はそれを断る。使えないのは右腕だけ。戦うことはできると言って戦闘準備に入る。

 脛当・佩楯(はいだて)・籠手をつけ、鎧を着る。大刀(打刀)はささず、腰の左右両側に二本づつ脇差をさす。腰の後ろにも一本。計五本の脇差。逆手で抜いた際に刃が敵の方を向くように、左側と後側は帯にさす時も刃を下側にする。右側は順手の方が抜きやすいので、刃を上にしてさしておく。

 装備を整えている隼介の脳裏に、あの時の映像が蘇ってくる。大山と最後に別れたあのシーン。大山の背中には幾本もの矢が刺さっていた。痛かっただろう・・・どれほどの激痛に耐えていたのか想像もつかない。

 そんななかで彼は、隼介と静流を逃がすために自ら橋を落した。あんな体で、よくあの大斬刀を振り回せたものだ。最期の力を振り絞ったに違いない。

 

 悔しい。

 なぜ大山があんな目に遭わなければならなかったというのだ? 隼介、気づかぬうちに独り言を言っていた。何やらぶつぶつと小声でつぶやいていた。

 ・・・許さん・・・許さん・・・許さん・・・許さん・・・許さん・・・

脳内では今までの隼介らしからぬ感情がとめどなく渦巻いている。

 あんな状況じゃなければ、あんな奴ら返り討ちにしてやった!

ぶち殺してやった! 許さん。絶対に許さん。殺す。皆殺しにしてやる・・・

 

 

 本陣を奇襲した敵部隊は、そのまま北上し山中に潜伏。しかし、地の利があること、そして先の戦いで勝利したことに油断していた。もはやこちらも周囲の地形を掴めていること。濃霧が発生した際、どれほどのものかも分かったこと。

 優秀な斥候たちが敵の居所をすでに掴んでいること。兵力はいまだこちらの方が圧倒的なこと。そういった状況であることが分かっていなかった。

 今回の作戦内容はこうだ。軍を5つに分けて敵を追い込み、崖まで追い詰めたところで総攻撃するといったもの。ここ本陣と敵の位置とを繋ぐルートは5つのみ。つまり、カウンターで本陣が奇襲を受ける確率は皆無である。

 濃霧が発生した際は進軍停止。各部隊1000名の戦闘要員がいるので、単独で戦闘となってもすぐに負けはしまい。油断は禁物だが、今度こそ有利な展開となることが予想される。

 一番近いルートを通るのは、隼介率いる歩兵1番隊、そして和馬率いる弓兵1番隊が中核をなす。最初に敵と遭遇するであろう部隊である。敵を発見しだい攻撃に移るよう命令がくだっている。そして作戦は実行される。

 

 行軍は順調に進み、霧の出る気配もない。そして、難なく敵を発見した隼介ら。しかも敵はあまり広く展開しておらず、一ヶ所にかたまっている。山中の森の中で、砦もつくらずとどまっていた。

 まさか自分たちが奇襲されるとは思ってもみないといった感じで、見張りも立てず談笑しながらくつろいでいた。まさか、こいつらが見張りというわけではあるまい。いや、そうなのか?

 

 見事なカウンター攻撃をきめた部隊なのだから、それなりに優秀な部隊なのかと思いきや、どうもそうでもなさそうな空気を感じる。

 ・・・こんなものか・・・わりと運が明暗を分けるものなのか・・・? それともこちらを油断させる罠か?・・・とも思えない。

 なにはともあれ、攻撃開始である。一斉に放たれる弓矢の嵐。瞬く間にハリネズミのようになっていく敵兵たち。と同時に、のろしを上げる。戦闘開始の合図である。すでに近くまで友軍が来ていれば、その位置を伝えられよう。

 敵の混乱は激しく、何の対処もできずただただ弓矢に貫かれていくのみ。100人ほどが弓矢に倒れ、ようやく敵の迎撃が始まった。しかし虚を突かれ動揺しており、士気が低いのが分かる。剣と円形の盾を装備した兵士たちが攻めかかってくると同時に、弩兵が木に登って樹上から矢を放ってきた。

 すかさず和馬ら優秀な弓兵たちが樹上の弩兵を狙い撃ちしていく。地上では屈強な歩兵たちが敵歩兵と交戦。一人一人の戦闘力が、明らかにこちらの方が上であった。その中でも隼介の動きは、特に群を抜いていた。その巨体からは想像もつかないスピードで敵に走り寄り、左手に持った脇差で鎧の隙間を狙って次々と刺していった。

 敵が防御しようが強引に突き立てるくせは抜けておらず、そのうち脇差が折れる。折れてもすぐに次の脇差を抜いて、すぐさま攻撃をしかける。

 今度は逆手に持ったその刃で、敵兵の頸動脈をなでるように切り裂いていく。敵に密接するほどの近距離である。もちろん反撃も受ける。敵の刃がたびたび隼介にかすっていくが、幸い鎧や籠手が防いでくれた。

 一番やっかいだったのは、とっさに盾で右腕を押されることであった。敵は死にもの狂いで防御しているつもりであったが、今の隼介にとってはこれこそが一番の攻撃であった。

 矢傷は当然癒えてはおらず、何かが軽く当たっただけで激痛がはしった。それでも隼介は動きを止めることなく敵を葬り続ける。今の隼介は無心ではなかった。体の思うままに動かしてはいるものの、明らかに怒りに支配されていた。

 ・・・よくも・・・よくもやってくれた・・・

 右腕が痛むたびにカッとなった。そしてその怒りを眼前の敵にぶつけていく。隼介らが通った後には、おびただしい数の淘來兵の骸が横たわっている。

 敵兵は敗走を始めた。追おうとした隼介だが、次に現れた敵の装備が、大型の盾と片手持ちの手槍であることを認識したとたん、動きを止める。

 脇差では容易に急所を狙えない大きな盾。そして脇差よりリーチで明らかに勝る手槍。どう攻めていいか分からない。いつもの大斬刀であれば余裕で蹴散らせる相手なだけに、苛立ちがつのっていく。そしてそれが爆発。

 隼介、倒れている淘來兵を片手で、しかも右手で持ち上げ、敵に投げつけた。まだ息があったが、かまわず投げつけた。激痛とともに咆哮。

 痛みと怒りが混ざり合ったかのような叫び。投げつけられた兵士は槍に突き刺さり、その重みで切っ先は落とされる。そこへ突進!

 勢いよく蹴りつけられた敵は、盾ごと押し倒された。敵は盾で壁をつくっていたが、穴が開く。盾の壁の内側へと潜り込んだ隼介は、ふたたび脇差で敵兵の頸動脈を次々とかすめ斬っていく。

 またも混乱をきたす敵兵たち。その隙を突いて他の兵士たちも攻めかかっていく。ときおり敵の弓兵や弩兵が樹上に隠れながらこちらを狙っていたが、和馬ら優れた弓兵たちがすぐさま発見し、射抜いていく。

 どんどんと攻め上がり、敵は迎撃しながらも、どんどん後退していく。ここにきてようやく敵騎馬隊が登場したが、弓矢による攻撃であっという間に討たれていく。あっけない程のやられようであった。

 

 そうこうしているうちに、側面からも友軍の攻撃が始まった。敵は瓦解し、敗走を始める。個々の敗走ではなく、部隊全体の敗走である。もはや完全にこちらのペースであった。木々の中を逃げまどう淘來兵たち。それを狩人のように追う醒陵兵たち。前回とは完全に立場が逆転してしまった。

 

 5ルートに分かれて攻め上った醒陵軍は集結、今や敵を包囲していた。逃げ場は崖しかない。もちろん、逃げ場と呼ぶには無理がある断崖である。

 そこへ容赦なく弓矢の嵐が撃ち込まれる。バタバタと倒れていく者たちもいれば、崖から身を投げる者たちもいる。見てみると、もはや30人ほどしか残っていない。

 

 

 白旗。

 

 白い旗を掲げた者がいる。腰を抜かし声も出せず、ただただ怯えた顔で白旗を掲げている。他の者たちも、明らかに戦意を失っていた。ケガをして歩けず、這うようにして後ずさる者もいた。そして白旗にしがみつく。降参の意思があることは疑いようもない。

 ・・・何を今さら・・・

 切っ先の折れた脇差を捨て、腰の後ろにさした最後の脇差を抜く。逆手に持ったその刃を相手に向けながら、ゆっくりと近づいていく隼介。

 

 「いけねぇよな・・・戦えねぇ・・奴を・・狙っちゃ・・・」

 

隼介 「・・・あ?」

 大山の声が聞こえた。・・・気がした。笑顔の大山が隼介の前に立っている。・・・はずがないのだが、そこにいた。

 もはや隼介の精神は異常をきたしていた。聞こえるはずのない声が聞こえ、見えるはずのないものが見えてしまっていた。思わず立ち止まる隼介。

 

大山 「・・・・・。」

 大山は敵をかばうかのように、隼介の前に立ちはだかっている。それを見て激しい怒りが隼介の中で爆発した。

隼介 「なに甘いこと言ってんだよ!!」

大山 「・・・・・。」

隼介 「大山、お前甘いよ! 甘すぎるよ!」

大山 「・・これは・・ダメだ。」

隼介 「お前だって分かってんだろ。殺(や)るか殺られるかじゃねーか。だったら殺るしかねーじゃん。てかお前も殺ったじゃん。いっぱい殺ったじゃん。今さら綺麗ごと言ったってどうにもなんねーよ。」

大山 「・・・・・。」

 大山をにらみつける隼介。それを見つめ返す優しく、それでいて少し困った顔の大山。その穏やかな目から、大山の気持ちが伝わってくる。

 そしてそれはあの時の自分の気持ち。そして今の自分の気持ちはあの時の大山の気持ち。

 以前大山と言い争った、あのやりとり。

 捕虜を殺すことに反対する隼介と、それに激昂する大山。二人はその主張を逆転させ、思いを伝えようとしていた。


 ・・・あ、そうか・・・大山、こんな気持ちだったのか・・・

 自分の思いを分かってもらえたのが嬉しいのか、大山は安心した顔に。そして笑顔のまま、消えていった。

隼介 「・・・・・。」

 隼介、突如号泣。言葉にならない様々な思いが混在し濁流となって押し寄せてくる。心が崩壊してしまいそうな勢いで。壊れてしまわぬよう、それらを吐き出さんとするかの如く、隼介は激しく声を上げ続ける。

 その慟哭が谷に響き渡る・・・

 

 

 戦闘は終結。そして静流は帰還することとなった。これ以上ここにいても何もできない。むしろ邪魔になってしまう、との判断からだった。

 大山の死は伝えられていない。

静流 「ありがとね。」

隼介 「なにが。」

静流 「助けてくれて。」

隼介 「あぁ。」

静流 「・・ごめんね・・・」

隼介 「なにが。」

静流 「痛かった・・でしょ。」

隼介 「ん?」

 静流、そっと隼介の胸に手のひらを当てる。

静流 「まだ・・痛む?」

隼介 「??」

 胸部は甲冑のおかげで無傷のはず。静流の言っていることはよく分からなかったが、「痛み」というフレーズを聞いて全身の傷から痛みを感じていることを思い出す。

 身体の痛みのみならず 心の痛みまで思い出しそうになり、慌ててそれを霧散させる。ここでそれらを思い出してしまったら、多分・・・壊れる・・・。精神が崩壊してしまう。

隼介 「痛いのは・・・生きてる証拠だから・・・」

静流 「・・そうだね。」

隼介 「無事で良かった。」

静流 「隼介だけだよ、ここまでしてくれるの・・・」

隼介 「そんなこと・・・」

静流 「え。」

隼介 「・・そんなこと・・ないよ。」

静流 「・・・・・。」

 静流、笑顔。

静流 「だといいな。」

 帰還組の出発の時が来た。帰還するのは静流だけではなく、負傷した者や輜重兵らが多数いた。

隼介 「時間だよ。」

静流 「・・うん。じゃ。」

隼介 「じゃ。」

 隼介に背を向け歩き出す静流。

静流 「あ、そうだ。」

隼介 「ん?」

静流 「忘れるとこだった。」

隼介 「なに?」

静流 「待っててやるって伝えといて。」

隼介 「・・・・・。」

 静流、笑顔。

静流 「大山に。」

隼介 「・・・分かった。」

 隼介、笑顔。

隼介 「うん、伝えとく。」

静流 「よろぴく。」

 去っていく静流。彼女が視界から消えたとたん、笑顔が消える隼介。そして心の声を聞くまいと、心を閉ざしていく・・・

 

 

 

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。