戦国Web小説『コミュニオン』第17話「騎士の軍勢」

第17話 「騎士の軍勢」

 

 出陣の朝がやってきた。集合前の、最後の自由時間。旅立つ者たちと残る者たちが、別れを惜しむように語り合っていた。彼ら彼女らの声が、あちこちから聞こえてくる。

 なかには声をかけれず、ただ黙っている者もいた。遠くから静流を見つめる大山。静流の視線の先には、隼介。隼介の視線の先には、和馬と話す沙耶。

大山 「・・・・・。」

皇  「いいの?」

大山 「ん?」

皇  「声かけなくて。」

大山 「・・おぉ。」

 大山、静流に向かって歩き出す。が、ほぼ同時に静流も歩き出す。隼介に向かって。立ち止まってしまう大山。

静流 「いいの?」

隼介 「ん?」

静流 「声かけなくて。」

隼介 「かけづらい・・から。」

静流 「なんで。」

隼介 「和馬と二人でいる時は、なんだか声かけづらい。」

静流 「あっそ。勝手にすれば。」

隼介 「・・・・・。」

 静流、笑顔。

静流 「私に言うことはないの?」

隼介 「なにを?」

静流 「ないのかよ。」

隼介 「あぁ・・その、ありがと。」

静流 「ん?」

隼介 「助けてくれて、ありがと。」

静流 「・・・なんの話?」

隼介 「だから、この前は、ありがと。静流のおかげで助かった。」

 静流、何のことだか分からない。静流にとっては、隼介を助けたという自覚もないほど、自然な行動だったのだ。

静流 「よく分かんないけど、うん。」

隼介 「あれ、違った?」

静流 「いや、べつに特別に話したいこととか言ってほしいことがあったわけじゃなくて。」

隼介 「・・じゃなくて?」

静流 「もう! 何でもいいんだよ。普通に話がしたかっただけ。」

隼介 「そっか。」

 隼介、ようやく笑顔になる。

静流 「頑張れよ。」

隼介 「うん。」

静流 「そのうち会いに行くから。」

隼介 「え。」

静流 「隼介に。」

隼介 「来なくていいよ。」

静流 「行く。」

隼介 「遊びじゃないんだから。」

静流 「分かってるよ。」

隼介 「ならいいけど。・・でも、本当に来ちゃダメだからね。」

静流 「どうして。」

隼介 「女の子が来るようなところじゃない。」

静流 「隼介が行くようなところでもない。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「て、言ったところで・・・どうにもなんないか。」

隼介 「・・・・・。」

 その様子を遠くから見ていた大山。さすがに会話の内容までは聞こえないが、二人の仲が良いことだけは伝わってくる。

大山 「・・・皇。さっさと淘來ぶっ飛ばして、さっさと帰ってこよーぜ。」

 返事が返ってこない。簡単に返せる言葉でもないのか? それさえも分からないが、べつに深く考えたうえでの返事がほしいわけではない。ただ、「ああ」と言ってくれるだけで良かった。

大山 「そうしよーぜ。な。」

 振り返る。が、皇の姿はすでになかった。

大山 「っていねーのかよ。」

 大山、誰も聞いてないけど言ってみた。よく見ると・・いた。皇は数人の女の子に囲まれながら、楽しそうに笑っている。なんだか笑えてきた大山。これから戦争に行くというのに、あまりにいつも通りの皇の姿に安堵した。

 

 

 

 そして進軍が開始された。北門を抜けるとやや広い道が続いていた。その道は曲がりくねりながらも、軍が移動しやすいように整備されていた。

 山中であるため、元々は木々に覆われた場所に細い山道があるだけのはずだが、淘來軍が切り拓いてつくったのだ。戦争のために拓かれた道と言える。敵がこちらを侵略するためにつくった道を、今度は自分たちが歩いている。

 

 

 昼過ぎにはもう、平原に出ていた。一日もあればこの平原は抜けることが出来るが、この平原に出てすぐに待機命令が出された。この近辺には淘來軍がいるとの情報が入っているからだ。

 中規模で、騎馬隊もいるらしい。まずはこの敵部隊を叩くのが最初の目的である。そして敵部隊の組織的戦闘が不可能と判断されれば、進軍が再開される予定だ。

 

 とは言っても、現状の楠部隊だけで戦うのは困難を極める。そこで同盟国ロズガードからの援軍と合流する予定なのだが、まだその姿は見えない。少し待機していると、援軍の到着が遅れているとの情報が入る。

 楠部隊単独での戦闘は控えたい。が、運よく敵と遭遇せずにこの平原を通過できたとしても、自国との補給路に敵軍を残してしまうことになる。そうなってはまともに進軍することすらできなくなってしまう。ゆえに、今はやはり援軍の到着を待つ他ない。

 

 

 平原の日射しは暑かった。山中でも暑かったが、日陰があったため涼むこともできた。しかしここにはそんな場所もない。見渡すかぎり荒涼とした大地である。くわえて乾燥している。木々が育たないから、なおさら乾燥しているのだろうか。

 

 隼介は地平線の向こうにある山々を眺めていた。この平原を抜けた後に向かう場所だ。あそこにはきっと川もあって谷もあって、たぶん涼しいんだろうな~、なんてことを考えていた。

 風が吹き、砂埃が舞う。思わず目を閉じる。本当に乾いてるな~、とつくづく思う。よく見ると、北東の方角になにかが見える。遠くの方に、煙のようなものが立ち昇っている。あれは・・・土煙? なにかが近づいているようである。

 

 以前、和馬から聞いたことを思い出す。遠くから接近してくる軍勢が歩兵か騎兵かを見分けるのに、土煙の昇り方で判断できるそうだ。もちろん隼介には判断できるはずもないが・・・。

 ようやく援軍が現れたか。遅ぇ~よ。と思った時、敵発見のしらせが入った。・・・そう、今近づいてきつつある「あれ」は、援軍ではなく敵だったのだ。じょじょに姿を現してくる敵軍。陣形は戦闘態勢に。

 

 

 まず最前列を盾隊。これは一列だけ。敵の飛び道具に対応するためだが、これを分厚くし過ぎると反撃に転じにくい。その後ろには長槍隊。騎馬隊が攻めてきた際の対抗策として。

 その後ろには弓隊。盾隊・長槍隊に守られながら弓矢で攻撃できるようにと。陣の側面にも騎兵対策の長槍隊を配置。騎馬隊の機動力は抜群のため、回り込まれてしまう可能性があるからだ。

 

 地が揺れだした。それはやがて地響きをともない、何かがとほうもない勢いで迫りつつあることを感じさせた。猛スピードで接近してきたのは、敵騎馬隊だった。槍を構えて突進してくるのが見える。弓矢の射程に入るよりじゃっかん早く、弓隊へ攻撃命令がくだされる。

 無数の矢が放たれ、放物線を描きながら飛んでいく。それらの矢が重力により降下が始まったあたりで、敵騎馬隊は射程距離へと足を踏み入れていた。

 攻撃のタイミングとしては上々であろうか。しかし、騎兵の群れは走りながら二手に分かれ、多くの矢がかわされた。

 二手に分かれた騎馬隊は、醒陵軍の側面へと走り出す。それに対応し、前面はもちろんのこと、側面の長槍隊もその長い槍を構える。即座に剣山のような刃の壁が出来上がる。

 槍衾(やりぶすま)である。さすがの騎馬隊もこれには近づけず、槍衾の前を走り抜ける。ならば後方に回り込み・・・はしなかった。敵からは見えない陣の後面には、じつは攻撃態勢の弓隊がひしめいていた。

 敵に肉薄するため危険ではあるが、水平に矢を放てるため不意打ちを狙うことができる。弓矢の一斉射撃により怯んだところで歩兵隊の一斉攻撃。これで敵に痛手を負わせる、という作戦であった。

 

 それが読まれてしまったのかどうかは分からないが、とにかく後面まで回り込んでくることなく方向転換。醒陵軍から遠ざかっていく。右側・左側に回った両方の騎兵たちがほぼ同時にである。もしかしたら様子見だったのかも知れない。

 

 

 

 この時、隼介が所属する歩兵1番隊は、陣形のほぼ前方・中央にいた。槍衾を形成している長槍隊の後ろにて待機している。身長の高い隼介は、最前列でなくとも、周りの様子を知ることができた。くわえてその視力の良さもあり、敵が迫り二手に分かれ、それらが両側面に回り込み途中で離れていく、その一部始終を見ていた。

 しかし途中からは、騎馬隊がつくりだした土煙がひどくなり敵の姿が見えづらくなっていた。土煙のなかから聞こえてくる地響きが、その力強さを感じさせた。

 

 土煙がすこし収まった時、敵は騎馬隊だけではないことに気づいた。猛スピードで迫りくる騎兵にばかり気が向いていたが、その後ろから歩兵の一団が接近しているではないか。もうかなり肉薄している。

 最前列に戈(か)を持った部隊。よく見えないが、その後ろにべつの装備をした部隊が続いている。ちなみに戈とは、長柄の鎌のような武器である。例えるなら、横向きに刃がついている槍、といったところであろうか。

 自軍の弓隊が攻撃を開始。直撃した矢は鎧兜を突き破り、致命傷を与えていく。が、数にものを言わせて迫り続ける。また、敵軍からも矢が飛んでくる。

 こちらの矢が届くのだ。当然、向こうの矢だって届く。部隊と部隊の間に配置されていた盾隊が防御するが、いかんせん数が足りない。防御できていない部分の方が多く、じょじょに被害が出始める。

 

 そして弓攻撃をかいくぐった敵歩兵部隊はついに、醒陵軍の最前衛と接触。戦闘が始まる。応戦する長槍隊。両者とも柄の長い武器を使用しているので、お互いに決定打を与えられない。一進一退を繰り返しながら、せめぎ合いが続く。だが、まだまだどちらの陣形も崩れない。

 

 

 隼介の出番はまだであった。最前列の盾隊はとっくに後退しており、今は長槍隊と歩兵隊の間にいる。つまり、隼介らの前にいる。多少なりとも防御の役には立っているものの、隼介の体が隠れきる程ではない。

 頭上では幾本もの飛矢が飛び交っている。あっちからもこっちからも。近くの歩兵にも流れ矢が直撃。矢に当たるか当たらないかは、もはや運頼みである。

 密集している状態なので、逃げるに逃げれない。こんな状況ではどうすることも出来ない。極力身を低くしながら左肩を前面に出し、的となる部分が少しでも隠れるような体勢に。

 

 隼介は震えていた。怖くて怖くてしかたなかった。金属と金属がぶつかり合う音。そしてふたたび視界を塞ぎだした土煙の中で、隼介はどうすることもできなかった。

 隼介の右隣には、皇がいる。彼はこんな状況であっても落ち着いていた。試合の時に見せた、あの静かな闘気に満ちている。隼介には、とても真似できなかった。こんな状況で待機してるぐらいなら、いっそ暴れまわった方がいい。

 今にも敵陣に向かって飛び出してしまいそうな衝動にかられていた。まるで、つがえられた矢が引きに引かれ弓がしなりきっているかの如く。

 

 まだ? まだ? まだ? いつまでこうしてればいいの? ねぇ、いつまで? このままじゃ死んじゃうよ? ねぇ、死んじゃうよ?

 

 隼介の様子に気がついた皇。隼介の瞳を見る。隼介もそれに気づく。皇はなにも言わず、ただ小さくうなずいた。「大丈夫。落ち着いて。」とでも言いたいのであろうか。

 切迫した状況にも関わらず、やはり彼の瞳は澄んでいた。気休めにもならないが、それでも少し落ち着きをとり戻す隼介。

 皇の対応は正解であった。ここで恐怖に負けて自分勝手に動きだす兵士が一人でもいれば、それが引き金となって陣が崩れることもあり得る。行動としては皇のやったことは大したことではない。

 しかし、それでもとり乱しそうなほど追い詰められた人間を落ち着かせるのは大したことである。

 

 「体の大きさより、行動の大きさ」

 「行動の大きさより、存在の大きさ。」

 彼にはそんな言葉がふさわしい。

 

 

 わずかばかりではあるが落ち着きをとり戻した隼介。そのおかげで、新たな変化に気づいた。敵とはべつ方向からも土煙が舞っている。かなり遠方ではあるが、なにかが近づいてくる。しばらく目を凝らしているうちに、その輪郭がはっきりしてきた。騎馬隊だ。しかし淘來軍とは違った甲冑を着ている。

 

 

 援軍か!?

 まさにそうであった。ようやく到着したのである。軍事大国・ロズガードが誇る、重装騎兵の一団である。ほぼ全身をプレートアーマーで覆った騎士が、これまた鎧を着た軍馬にまたがっていた。

 重装騎兵の出現に気づいた淘來の騎馬隊は、これを迎え撃つべく突撃を敢行する。隼介はその様子をかたずを飲んで見守った。

 

 接近しつつある淘來とロズガードの騎馬隊。お互い、最高速度で相手に向かって突進していく。そして、ついに激突! 凄まじい音を立てながら、両者はぶつかった。

 その勝負は、完全にロズガードに軍配が上がった。淘來の騎兵たちは、次々に馬から転落していく。当たり負けしているのだ。重装備であるロズガード軍の、その重さと硬さによって。

 もちろん、ただぶつかっているわけではない。無駄のない槍さばきでもって敵を貫きつつぶち当たるのだ。たとえその槍がかわされたとしても、ただぶつかるだけでも相手を倒すだけの衝撃を与える。相当鍛えられている。まさに一騎当千の戦士たちであった。

 

 

 たちまち淘來の騎馬隊は敗走を始める。ロズガードの重装騎兵は、逃げる騎馬隊には目もくれず、醒陵軍と戦闘中の淘來軍歩兵部隊へとその矛先を向ける。先ほどと同じように突進してくる重装騎兵。そして激突!

 次々に敵の歩兵たちを蹴散らしていく。その破壊力たるや凄まじく、まるで雑草を刈り取っていくかのように蹂躙していった。

 

 これにより、敵は浮足立つ。これを好機とみた楠将軍、総攻撃の命令を出す。前衛の長槍隊、攻撃の勢いを増す。じょじょに軍全体が前へと進んでいく。

 そして中央をこじ開けるかたちで、歩兵1番隊を敵に接触させる。待ってましたとばかりに攻めかかる猛者たち。隼介もまた然り。

 敵兵の戈を手槍で叩き落とし、即座にのどを突く。そしてすぐに引いたと思いきや、その右側の敵兵の側頭部を打ちつける。その隙に左側にいた敵が戈を振り上げるが、振り下ろされるのを待たずにその片腕を斬りつける。間髪入れずにまた別の敵兵の頭頂部に槍を打ち下ろす。

 

 隼介は槍を素早く動かしつつ、じょじょに前へ前へと突き進んでいく。その圧倒的な筋力でもって次々に敵を惨殺、または戦闘不能に追い込んでいく。

 まるで恐怖がマヒしてしまったかのように見えるが、その逆であった。怖くて怖くてしかたがない。が、その恐怖がまた隼介の足を前へ前へと誘っているのだ。今の隼介の体からは、

「怖ければ前へ!」

「怖ければ倒せ!」

「怖ければ殺せ!」

 と、しきりにメッセージが発せられている。あまりに無謀で、あまりに無思考であった。が、隼介の本能は、「攻撃こそ最大の防御!」だと言いたいのだ。それはある意味正解であった。現に隼介は殺される確率を、どんどん下げることに成功している。

 とはいえ、あまりに無謀な攻撃であることには違いなく、たびたび反撃を受けた。なんとか致命傷はさけるも、軽い傷が増えていく。そして隼介は一人でどんどん進んでいく。一人で突出してしまっては、面積的に一人で同時に相手にする人数も増えてしまう。さすがの隼介でも、そのうち返り討ちに遭うのは明らか。

 そうはさせまいと、右隣の皇も前へ出て隼介の隙をカバーする。左隣は涼平がいたが、彼も同じく前へ出て隼介の隙をカバーする必要が出てくる。そうなると今度はその両隣も同じく前に出なければならない。剛田と大山である。

 と、今度はそれを補うために・・・といった感じで、隼介を先頭にしてどんどんと部隊全体が敵陣を切り裂いていく。スローペースながら、意図せずして錘行の陣(すいこうのじん)が出来上がっていく。

 

 

 そして、戈を持った陣を突破した隼介。やや隙間をあけて次の陣が控えていた。円形の盾と、剣を持った部隊だ。隼介は走り出す。続いて皇や涼平たち剛の者らが走り出す。それに続いて歩兵1番隊が。さらに他の手槍隊も。

 隼介、敵陣に激突。今度は圧倒的にリーチで勝っているため、さっきより豪快に暴れまくる。突きまくり斬りまくり打ちまくる。この時点で何人の敵を葬ってきたであろう。少なく見積もっても30人は下らないだろう。死に至らずとも戦闘不能にまで追い込んだ者も含めれば50人以上はいるだろう。驚異的な戦闘力はここでも健在であった。当然、使用する武器の耐久力も尽きることとなる。

 敵を盾ごと突き飛ばした際、刃が折れる。構わずべつの敵の胴体を突いた時に柄もへし折れてしまった。が、まったく気にも止めることなく動き続ける隼介。前方の敵を蹴り倒し、べつの敵兵の顔を殴る。殴られた兵士は一発で崩れ落ちる。

 

 その隣の敵兵をにらみつけると、反射的に盾で顔を守る。が、これは自殺行為であった。自ら視界を塞いでしまったこの兵士、次の瞬間剣を持った手に激痛がはしる。隼介に両手で掴まれた手首は砕け、勢いよくひねられた瞬間に肩が脱臼する。剣は奪われ、その自らの剣で脇を刺され絶命する。

 暴れまくる隼介。とにかく暴れまくる。初陣の時と同じように、敵から武器を奪っては斬って突いて打ちつける。それが壊れればまた奪う。素手になってもうろたえず、とにかく殴り蹴る。落ちている物があれば、兜だろうが盾だろうが投げつける。

 

 もはや何も考えていない。体が命ずるままに任せて動く。自分が何をしているかなど考えている余裕もなく、ただただ心を閉ざして動き続ける。隼介がこんな状態で進み続けるものだから、部隊全体がそれに引っ張られていく。ついにこの敵部隊の陣も突破してしまった。

 

 視界が突然いっきに広がった。そこで目にしたのはロズガードの歩兵部隊が敵を圧倒しているところだった。甲冑自体は重装騎兵ほど重装備ではないものの、大きな盾を持っていた。長方形で、円柱型にやや丸みをおびた盾。初陣の時に見た淘來軍の盾よりも大きい。

 左手に持つその大きな盾で守りつつ、右手の短剣で敵を貫いていた。短剣とはいえ、脇差よりも幅があり分厚く見える。また盾ごとぶつかり肉薄した状態での短剣攻撃は、非常に有効な戦闘スタイルだということがうかがえる。

 事実、敵を圧倒している。騎兵といい歩兵といい、ロズガードの強さは隼介をもってしても驚かせた。だてに軍事大国と呼ばれているわけではない。

 

 

 ロズガードの戦いぶりに呆気にとられている隼介。隙あり! とばかりに斬りかかる敵兵。反射的に体が動く隼介。敵の斬撃をかわした時にはその剣を持った手首を掴んでいた。引っ張ると抵抗する兵士。さらに引っ張る。それでも抵抗する。さらに引っ張る・・と見せかけ今度は押す。後ろによろめいてしまう兵士。

 その流れのまま後ろへ倒す。倒れた時には剣の切っ先は彼の首に刺さっていた。隼介はこれを、何も考えずにやっていた。体が勝手に動くのだ。勝手にというのは大袈裟かもしれないが、体に任せておけば自然とこういった動きができてしまう隼介。

 何事もなかったかのように、また視線はロズガード軍の戦いぶりへと向けられた。もはや圧倒的に醒陵・ロズガード連合軍が優勢である。間もなく敵は敗走していった。

 

 

 

 勝鬨をあげる醒陵軍。戦いの勝利にわく兵士たち。元訓練生のなかにも、一緒になって雄叫びをあげている者らがいる。大山も目を血走らせながら絶叫している。

 しかし、大半の元訓練生たちは呆然としている。隼介もそうであった。勝利に酔いしれている者たちとは同調できず、ただ立ち尽くしていた。

 

 戦闘は終わった。と、体が思った瞬間、さっきまでのことが隼介の頭の中で意味を持ち始める。隼介の頭のなかに流れ込んだ情報、体に刻み込まれた感覚。戦闘中はそれらを処理することもできず、ただため込んでいたが、安心したとたんに処理が始まる。

 

 自分の身に何が起こったのか? 自分は何をしたのか?

 人を刺した時の感触が、今になって強く蘇ってくる。甲冑の硬さ、骨の硬さ、肉のもろさ・・・

 突然の吐き気に襲われる隼介。そして吐いてしまう。戦闘は二度目だというのに、全然慣れることができない。

 

 

 何も考えずに、ただ動く。出来なくはない。それは出来なくはない。出来なくはないし、そうしなければ・・・

 

 這いつくばりながら嘔吐する隼介。わずかに視線を上げると、多くの人体が転がっている。地に伏せ、もう動かなくなった骸たちを見る。骸の一人がこちらを見ている。焦点の合わない目が、じっと隼介を見つめていた。

 

 

 今回は助かった。なんとか命を落とさずに済んだ。しかし・・・

 だからやるしかない。考えてはいけない。何も考えず、ただ動くしかない。

 

 でも、こんなのが続くか?

 果たして自分は、正気を保っていくことができるのか・・・?

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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