「ブロックチェーンでジャーナリズムを救う」Civil ホワイトペーパー全訳

※この記事は、2018年6月にはてなブログに投稿したエントリーの再投稿です。

「ブロックェーンでジャーナリズムを救う」というビジョンを掲げ、アメリカの報道業界で大きく注目を集めているスタートアップ、Civil。そのホワイトペーパーより、末尾の開発メンバー紹介を除いた全訳です。Medium上で2018年5月11日に発表されたものです。

独自トークン「CVL」の発行を含め、本格的なプロダクトは未だリリースされていませんが、2018年6月下旬現在、「第一船団」と名付けられたいくつかの加盟報道機関がニュース配信を開始しているようです。(小宮貫太郎)

→ 2019年6月追記:その後Civilは2018年10月にICOを実施したものの目標額到達に失敗し、現在はConsenSysの支援を受けながらジャーナリズムのプラットフォームとして再スタートしています。

# この翻訳は The Civil Media Companyの許可を得て掲載しています。
# 文章内のリンクは原註、[]は訳者による註を表す。


The Civil White Paper

要旨

Civilは、The Civil Media Companyによって立ち上げられた、ジャーナリストと市民のための非中央集権的通信プロトコルである。このプロトコルは、広告主や、中央集権的なメディアの複合企業体といった第三者を必要とせず、それらの影響を排除する。このプロトコルは当面、質の高いローカル・国際・調査報道・政治ジャーナリズムを生み出すことに関心を持つ、独立した報道機関を支援することを目指している。私たちはやがて、ジャーナリスト・市民・開発者らが持続可能なジャーナリズムを世界中で推進するための商品やサービスを作る、巨大なエコシステムを実現していく。

Civilの暗号経済学的モデルは、より直接的で透明なジャーナリスト-市民関係を可能にするだろうし、またブロックチェーンを利用することでジャーナリストは検閲や知的財産権の侵害からの保護を強化できるだろう。Civilのゴールは、読者を操作するような広告・誤情報・外部の影響といったものを取り払った、持続可能なジャーナリズムのためのグローバル市場を形成することだ。Civilは、プラットフォームにしろ発行主体にしろ、中央集権的な運営者がコンテンツの分配を司っているこんにちのメディア企業とは、異なったものになるだろう。Civilは、非中央集権的な方法で透明性や自立性を高めることによって、ジャーナリズムを直接、財政的に支援するという価値観を改めて広めながら、市民と伝統的なニュース報道との信頼関係を強固なものにしようとしている。

Civilのプロトコル上の活動は、Ethereumブロックチェーンと、「どの報道機関が」「どんなコンテンツをネットワーク上に発行するか」を共に決定する、消費者・コンテンツクリエーター・ファクトチェッカー・発行者からなるコミュニティによって仲介される。特定のプラットフォームまたは発行主体が読者の消費できるコンテンツを押し付けるのではなく、人々の非中央集権的ネットワークが報道機関やコンテンツを選定する。

Civilの非中央集権的なゴールを達成するために、このプラットフォーム上の活動はEthereumブロックチェーンを用いたトークン、CVLによって管理される。

イントロダクション

Civilは、非中央集権的なEthereumベースの市場であり、「経済的にインセンティブ設計された自治性」と「出典とコンテンツ(そしてまもなく、評価)の永久記録」という2つの特徴に基づいて、持続可能な新しいジャーナリズムのための事業モデルを導入することを目指している。このアプローチは、極めて重要かつ悪戦苦闘している、ある業界の再生を保証する。この過程においてCivilはまた、真に消費者志向の最初のブロックチェーン技術の応用例の1つにもなるかもしれない。

Civilにおいては「ニュースメーカー」と呼ばれるジャーナリストは、独立した発行主体(「報道機関」)を所有・運営し、編集・ビジネスでの全ての意思決定において完全な自治を保つ。報道機関は市民のために働き、基本的には市民から報酬を獲得し、収益モデルについては完全な決定権を持つ。The Civil Media Companyは、ニュースメーカーと市民の間のどんな直接取引に際しても手数料を徴収しない。そして市民は、従来のクレジットカード会社経由の法定通貨でも、オンライン取引所を介した仮想通貨(CVLも含め!)でも、ニュースメーカーにどんな通貨で対価を支払うかを自在に選ぶことができる。

良質なコンテンツと論調に高い基準を設定するため、この市場に参加する全ての者は、世界中で持続可能なジャーナリズムを推し進めるという私たちのミッションを反映した、目的・価値・行動規範を定めた自治宣言であるCivil規約の遵守に同意する。これは、このコミュニティが成長する中で高品質なフィルターを保ち続けるのを助けるだけでなく、良質な報道機関を立ち上げる人々や、Civil規約の定める基準を満たさない個人・行為を制止する人々への経済的インセンティブを導入することにもなる。このアプローチは、世界中で持続可能なジャーナリズムを推し進めるという私たちのミッションに市場が比例していくので、ニュースメーカーと市民の両方にネットワーク効果による利益をもたらすだろう。

Civilは異なる2つの潮流の共鳴によって可能になった。

伝統的で陳腐な広告収入モデルに大きく依存し、デジタルエコノミー向けの、より持続可能な収益モデルを開発することのできないジャーナリズム業界の無力
公正で非中央集権的なスタンダードを促進し、新たな収入源を開放する新しい経営モデルを可能にする、ブロックチェーン技術の躍進

広告主を満足させクリック数を追うことに囚われて、何よりコミュニティへの奉仕が報われない現在のパラダイムに不満なジャーナリストにとっては、新しい持続可能なモデルを導入する計り知れないチャンスがある。

この共鳴現象を、そしてそれが、ジャーナリズムの核となるような価値を取り戻す強力で新しいプラットフォーム経済をどのように実現していくのかを よりよく理解するために、まず2018年のジャーナリズム業界の惨状と、なぜこんなことになってしまったかを振り返るのが大事だ。

変化の渦中にある業界

ジャーナリズムは、自由・公平・公正な社会のために欠くことのできない支柱である。腐敗を明るみに出し、説明責任を促し、少数派の人々の声を届けるのに極めて重要な役割を果たしている。

そして今日、ジャーナリズムは危機に瀕した業界である。わずかな例外をのぞいて、発行主体は紙ベースからデジタルベースの経済への移行を主導する中で、経営の維持に苦しんでいる。情報化時代の到来によって生まれた新しいパラダイムは、紙媒体のジャーナリズム時代にはとても有効だった、広告収入モデルでのビジネスの維持の難易度を段違いに上げてしまった。

この環境が、ジャーナリズム業界にはとてつもない不確実性・解雇・市場統合を引き起こし、民衆に対しては、特に地域・国際・政策・調査報道といった分野における良質なジャーナリズムへのアクセスを厳しく制限してきた。

読者・広告主・発行者がデジタル媒体に移っていったことで、紙の新聞はここ十数年間非常に苦戦している。論理的には、それにならってデジタルメディアの記者への需要も増えていくはずだが、そうはならなかった。アメリカ合衆国労働省労働統計局のデータに基づくコロンビア・ジャーナリズム・レビューの分析によると、2005年には66,000人の新聞記者と編集者が仕事についていた。続く10年間の間に、これらのジャーナリストの内25,000人以上が辞め、38%超の減少となっている。この間、デジタルオンリーのメディアで働くジャーナリストはたった7,000人増えたに過ぎない。[訳注:全てアメリカ合衆国での数字

「過去10年で、新聞記者が激減した一方、デジタルオンリーのメディアのジャーナリストは3倍に」
原注:常勤・パートタイム従業員を含み、自営業は除外
出典:アメリカ合衆国労働省労働統計局・職業別雇用統計

この環境の下、ジャーナリストたちが日々の生計を立てるのに必死な一方で、メディア業界一般はデジタル化によってかなりの利潤を得ている。検索エンジン・SNSの巨大企業は、こんにちのモデルにおいて究極の仲買人として台頭した。こうしたプラットフォームが成長し続けると同時に、その絶対的なメディアへの支配力も強化されてきた。ジャーナリストは、第三者の所有するプラットフォームでコンテンツをどのように読者に届けるかということに、膨大な時間と資源を割かなければならなくなっている。アメリカに限っても、FacebookとGoogleが広告市場の60%から70%のシェアを握るという複占状態を形成している。このことはまた、ニュースの最も多く集まる5大サービスを考えてみれば、より驚異的だろう。Google, Facebook, (Google傘下の)Youtube, (Googleの大手パートナーの)Twitter, (Facebook傘下の)Instagram... このうちメディア企業を自認する企業は1つもないのだ。

こうして、巨大統合や、絶え間なく変化して広告収入を最適化しようとするモデルにより、悲惨な状況が生まれた。たった6つの大企業が、アメリカのメディアの90%以上をコントロールしている (世界中で起きているのと大して変わらない現象だ)。人々のメディアへの信頼は史上最低に達した。概してメディアは、広告収入に直結するために大規模なWebアクセス稼ぎに走り、編集上の意思決定に悪しき影響を及ぼしている。この「クリック=お金」モデルはまた、注目を引く見出しと世論を二分するようなテーマに特化した、センセーショナルな投稿というささやかなビジネスの台頭を許し、そして同業者にはそれに倣うか、あさっての方を向くかという圧力をかけてきた。

長きにわたって高品質なジャーナリズムの主力だった、地域・国際・政治・調査報道 は、この状況下ではどんどん珍しいものになっている。こうした重要な分野は社会改革を促すことができる、というか伝統的に促してきたのだが、これらはまた、広告第一・規模最優先のモデルにとっては最も費用対効果が悪く、そして現在絶滅に瀕している報道のあり方である。

新たなアプローチの開拓

Civilは、Ethereumブロックチェーンと暗号経済学の力で[ジャーナリストと市民という]方程式から第三者の利害を取り払い、報道機関に主体的経営をさせ、コミュニティだけに専念できるようにする、新たなソリューションを取り入れている。Civilは、当面は地域・国際・政策・調査報道ジャーナリズムに専念する独立した報道機関のための、非中央集権的な市場である。Civilは、サービスの行き届いていないコミュニティにおいて消滅しつつあるジャーナリズムの存在を回復させ、市民やニュースメーカーを含む全ての参加者に、第1日目からその使命のもと結集することを保証する。

CivilはFacebook, Twitter, Youtubeといった中央集権的なプラットフォームとは様々な面で根本的に異なったものになるが、全ての参加者に価値の入手・仲介・分配を公平・オープン・公正に行うという、プラットフォーム原理の戦略的長所に関してはこれまで同様活用していく。各報道機関はより広いユーザー層に向けて付加価値を生み出し(信頼性の高い様々なニュースがまもなくCivil上に現れていく)、また成長し続ける全世界の市民のネットワークに繋がる利点を認識することになる。

この市場が、第1日目から多様な良質のジャーナリズムを確実に生みだすようにするため、The Civil Media Companyは$100万の補助金を投じて、約15の報道機関から常勤のベテランジャーナリストを100人以上集めた「第一船団」を支援してきた。

これだけの人数を集められたのも、The New Yorker, LA Times, BBC, The Guardian, Foreign Policy, Gawker, DNAinfoなどといった、高い評判を得ているメディア出身のニュースメーカーが一堂に会したからである。Civilプラットフォームの開始前に、才能あるジャーナリストたちの大組織を築き上げたことで、市民は第1日目から、ちゃんとしたコンテンツの集成や中身の詰まったコミュニティと出会うことができるだろう。プラットフォームが動き始めたら、Civil上で創刊する報道機関に誰でも応募することができるようになる。

Civil報道機関への応募申請

報道機関がCivil市場へ参入するためには、4つのステップを踏む必要がある。
・当該報道機関の目的・想定するコミュニティ・そのコミュニティからどのように収入を得るか・その収入をどのように管理するかの計画を記した「ミッション」の提出
・当該報道機関のリーダーとメンバーの関連活動実績を含む「名簿」の提出
・ガイドライン遵守の誓約として、Civil規約への署名
・CivilプラットフォームをEthereumブロックチェーンに接続し、プラットフォームの自治に関する全ての取引を管理するCVLトークンの保有

(CVLトークン保有者として定義される)全てのCivilネットワーク参加者は、新たな応募申請に際して通知を受ける。当該報道機関候補(または既存の報道機関)がCivil規約の定める何らかの倫理的価値を侵害すると判断した場合、参加者はトークンに応じてその報道機関のCivilレジストリへの加入に反対することができる。その場合、より大規模なCVLトークン保有者のコミュニティが反対について通知を受け、これまたCVLトークンを介した単純な多数決方式での投票が行われる。

コミュニティの承認を受けた報道機関のみがCivilにコンテンツを発行できる。良質なジャーナリズムを支える新たな方法を導入するだけでなく、このtoken-curated registry方式は、Civil上の全てのジャーナリズム活動への高品質フィルターを保証するための経済的インセンティブを取り入れている。こうしたモデルの詳細は後述する。

コミュニティによるチェックアンドバランス

Civil規約 (Constitution)
Civilは「自由でオープンな報道は自由・公平・公正な社会の礎であるが、テクノロジー・経済・政治のグローバルな変化がその目的達成のための基本条件を変化させてしまった」という信念に基づき設立された。

Civilのプロトコルは、(市民もニュースメーカーも等しく)参加者がCivilの核心となる価値や目的を守りながら、運営・管理していく。Civilは「持続可能なジャーナリズムの促進」という具体的なミッションを持ったコミュニティである。Civil規約は、何がCivilにおいて倫理的ジャーナリズムを構成するのか(そしてしないのか)を定義するための枠組みである。それは全ネットワークの根幹であり、Civilの自治とコミュニティの合意形成を動かすものとなる。

個々の核心的価値や目的の解釈については、透明な統治体系に基づいて、コミュニティが担うものとする。この体系は、Civilの核心的価値・目的のより良い推進のため必要とされる場合に備え、コミュニティによる規約改正(即ち「修正条項」)のための規則を含んでいる。

Civilプロトコルの参加者は、ネットワーク上に生じた問題や紛争に関して、常にコミュニティ全体のための解決策を模索しなければならない。The Civil Media Companyは、他の主体が私たちのオープンソーステクノロジーを用いて補助的サービスを作ることを許可しつつ、そうしたコミュニティ主導の紛争解決を促すためのソフトウェアを制作・開発することを誓約する。

ネットワーク上の当事者間で、既存の手段での解決が望めない、もしくは1つないし複数のCivilの核心的価値が争われるような紛争が発生する可能性は、十分にある。その場合コミュニティは、ソフトウェアを制作したり、前例なき紛争に対処するための新たなプロセスを模索したりするなど、他の解決策に訴えてもよい。もしくは、Civil規約に記された核心的倫理価値を擁護・解釈するための独立主体、Civil評議会に当該の問題を上訴することもできる。

・Civil財団 (Foundation)
The Civil Media Companyは、Civil規約に定義された核心的価値を支持・擁護するという使命を帯びた、独立した非営利組織である「Civil財団」を具現化し、財政的に支援する。Civil財団は、言論の自由に詳しい弁護士・ベテランのジャーナリスト・ジャーナリズム研究者らで構成されたプロトコル監督機関である「Civil評議会」を招集する。

Civil財団は、それがもしCivil規約に明確に違反すると判断された場合、コミュニティの決定をも覆す権限を持った上級裁定主体となる、Civil評議会の運営を補佐する。こうしたケースは、コミュニティ内で議決を行い、またコミュニティ内の3分の2の票数によってのみ否決される(後述の定足数を参照)といった、稀で先例として残るような場合であろう。評議会における全ての決定事項(そして評議員の発した異論)は、コミュニティの供覧に付すため、発行される。

・Civil評議会初期構想
The Civil Media Companyは、Civil評議会における評議員と、研究者・監査役・翻訳者らサポートスタッフを招集するための独立した非営利組織、Civil財団を具体化しつつある。Civil評議会は、以下の点に関して、コミュニティ主導の流れで発展していく必要があるだろう。

規模:同機関は、増加していく提訴、規約改正、またプラットフォームの課題一般に対処するため、ネットワークのサイズに比例する形で成長していかなければならない。

多様性:同機関は、特にCivilのグローバル展開が進む中で、ネットワークを代表する主体であり続けるために、新しい顔や声を取り入れていく必要がある。

非中央集権化:同機関は、将来的にもネットワークを代表していくため、選挙または同様の民主主義的な手順に則って、Civil Media Companyの選定した創設メンバーを超えていくべきである。

資源:同機関は、質の高い監督機能の維持のために、運営の資金繰りを工夫していくべきである。Civilのコミュニティは、同機関が、脆弱性や不均衡を生じさせずに持続可能な運営資本を形成するための、最適な方法を見極めていく必要がある。

The Civil Media Companyは、Civilのサービス開始までにこれらの課題を全て解決するわけではないが、Civil評議会の長期的役割に関するコミュニティの総意を具体化する重要性は認識している。従って、財団と評議会は、全面的協力と、発足後2年をめどに承認されるべき規約改正案の取りまとめを任じられている。

そのプロセスは以下の通り実行される。[和訳割愛]

評議会を適切にインセンティブ設計に組み込むため、創設時の評議員に配布されるトークンには、以下のような場合に応じた制約が課される。

・2年間制約なし
・規約案が第1年次以降に承認されることになった場合、同年次以降は50%の制約
・規約案が第2年次以降に承認されることになった場合、同年次以降は100%の制約
・2年間で何らかの案の承認に失敗した場合、評議員は解雇され、トークンは没収されThe Civil Media Companyに返還される。同社は、コミュニティ投票によって新たな評議員が任命・承認されるまでの間、事実上の評議会として機能する。
・直感に反するようではあるが、この最後の結果は、実はThe Civil Media Companyにとっても最悪のものであることを付記しておく。明らかに、コミュニティはThe Civil Media Companyがこの重要な監督機能を中央集権的に掌握することを望んでおらず、そのためこの結果はCivilプロトコルへの信頼及びCVLトークンの価値の失墜を招くだろう。評議会がコミュニティの総意によって非中央集権的になることは、全くもって私たちの利益にかなうことである。そうすることによって初めて、The Civil Media Companyはビジネスのポテンシャルと長期的持続可能性を真に伸ばすことができるのである。

コアプロダクト

EthereumブロックチェーンはCivilのモデルにおいて基礎的な役割を果たしている。これによって、ERC20プロトコルに基づいた独自トークン「CVL」の発行が可能となった。このトークンは、Civilのスマートコントラクトによって管理される非中央集権的なデータベースに記録された価値であり、スマートコントラクトはCivilプラットフォームがトークンを介して交流するのを実現する。突き詰めて言えば、CVLとは、Ethereumブロックチェーンを用いてCivilの橋渡し役となるソフトウェアである。それはCivil全体のモデルにとって必要不可欠であり、「自治性」と「永久保存」という、ニュースメーカーの生命線とも言うべき2つの特性を実現した。

Civilはその初期段階において、核となる4つのユーザーエクスペリエンスを提供する。

・ビジネスセンター
ニュースメーカーがCivilのプラットフォームに接続して最初にたどり着く場所。ここで、ニュースメーカーは従業員に権限を与え、公開アカウント情報や視覚的ブランドアイデンティティを管理し、[広告ではないオリジナルの]編集コンテンツを決定・価格設定し、財務を取り扱い、業務分析を確認することができる。

・コンテンツ管理システム(CMS)
ニュースメーカーが、オリジナル著作者の出典情報を永久的に記録し、ボックスをチェックするだけでブロックチェーンに記事を投稿できる、現代的な執筆・製作環境。

・一般読者
Civilにおいて、人々が良いジャーナリズムを見つけ消費するところ。ニュースメーカーは視覚的ブランドアイデンティティをそこまでカスタマイズできないので、報道機関[そのものの評価]が市民のユーザーエクスペリエンスにおける中心的なブランドを維持する。市民は、メディアリテラシーを向上させたり、報道機関に簡単に対価を支払えたりするといった特徴を含め、直感的なリーディングエクスペリエンスを享受する。そのような特徴の一つが「信頼性指標」で、単純なマークが、特定の出来事の報道における様々な要素を可視化するものだ(例:実地のルポルタージュ、独自報道を含む記事、記者がその問題の専門家かどうか、など)。このアプローチは、Civil上だけでなく様々なところで、ある記事がどのように・なぜ報じられたかについて、市民が批判的に問いかけるのに慣れることを目指している。

・Civilレジストリ
Civilレジストリは、Civilのプラットフォームにコンテンツを出すことを許可された報道機関の、トークンによって選定された自治的なホワイトリストである。Civilレジストリにアクセスするためには、候補となる報道機関はジャーナリスティックなミッションと名簿を提出し、Civil規約に署名し、CVLトークンを保有することでその意図の真剣さを示さなければならない。近い将来には、このレジストリモデルは大きく進化し、Civilのエコシステム内で動く全ての団体のための自治システムとなる。

Civilのトークンエコノミー

The Civil Media Companyは、ユーザーベースのデザインモデルに関するプロダクト群を開発してきた。Civilの全ては「良質なジャーナリズムを支援するプロセスを、可能な限り直感的にする」という点を考えて作られている。一方で、大きなCivil市場を水面下で支えるトークンエコノミーは、Ethereumの誕生及びその非中央集権的な特性によって実現した全く新しいビジネスモデルを基にしている。トークンとは、Civil上の重要な意思決定が行われるソフトウェアである。CVLトークン保持者の大きなコミュニティがこうした意思決定を推進していく。

ここで注意するべきなのは、CVLトークンを保有することは(そして仮想通貨の知識や、購入の意思を持つことさえ)、Civil上で報道機関を立ち上げるための必須事項ではないということだ。報道機関は、エンドユーザーの好みにより、いかなる通貨(例:クレジットカードを経由した米ドルやユーロ、オンライン取引所経由のETHやCVL)によってでも、奉仕するコミュニティからの報酬を得ることができる。こうした開放的なモデルをCivilが用意している理由は、ただ一つ、「良質なジャーナリズムを、可能な限り多くの人々にとって、可能な限り手の届くものにしたい」というコアミッションのためである。ブロックチェーンや仮想通貨の実務知識が、市民にとって参入障壁となってはならないし、現になることはないだろう。

CVLトークンは、報道機関やプラットフォーム全体の自治に不可欠な役割を果たすことになり、そしてニュースメーカー・市民・開発者などコミュニティメンバーの多くは、Civilプロトコルのガバナンスに第1日目から参加するためにそれを用いることにするだろう。市民にとっては、その選択をするかどうかは完全に任意であるし、Civil上の市民の大多数は最初はそうした形でCivilに関わらないかもしれない。これは完全に個々人の選択次第である。ある人々にとっては、Civilは偉大なジャーナリズムのための市場であり、それ以上のものではないだろう。またある人々にとってCivilとは、参加者がプラットフォームを成長繁栄させるような善い行為を推進することを経済的に動機付けられていて、同時に悪者を近づけないよう設計された巨大なエコシステムだろう。

このコンセプトは「水面」として説明できる。

Civilの市民ユーザー層の大部分を占める、読者や支援者は、良いジャーナリズムにアクセスし支援するためだけにCivil上の報道機関をチェックしにいくだろう。管理システム内でCVLトークンを用いるCivilのプロトコル参加者は、水面下に存在する。CVLトークン所有者は、「報道機関がCivil規約に述べられた評価基準や倫理を満たしているかどうか」といった重要事項について投票を行うことができる。報道機関がCivil市場に参入するためには、「プラットフォーム上において良き参与者となる」そして「認定ニュースメーカーのホワイトリストに追加してよい」という、コミュニティのコンセンサスを得る必要がある。

・コミュニティ開発者のためのインセンティブ設計
ニュースメーカーに加えて、コミュニティの開発者も、Civilのエコシステムの心臓部に位置する「クリエイター」階層において中心的な役割を果たす。コミュニティが成長するにつれて、新しいソフトウェアツールやプロフェッショナルサービスへの需要も拡大するだろうが、これらもまた、報道機関におけるのと同じ倫理やスタンダードに基づいていなければならない。この方式により、Civil上で拡張されていくツールやサービスへの信頼を迅速かつ効果的に築き上げることができ、またちょうど現段階の構想がニュースメーカーに対象としているように、倫理的開発者による審査がインセンティブ設計に組み込まれたAppストアのようなエコノミーを実現していくことができる。

Civilは、大きくてアクティブな開発者コミュニティの実現に熱心に取り組んでいる。The Civil Media Companyは、その市民志向のソフトウェアの全てをオープンソース化し、GitHubページで公開する。

Civilレジストリの概要

Civilにおいては「Civilレジストリ」と呼ばれる自治システム、token-curated registryをわかりやすく解説するために、「とあるニュースメーカーがCivilで報道機関の立ち上げを申請する」という例を考えてみたい。彼らの最終目標はCivilレジストリへ追加されることであり、それによってその報道機関はCivilの市場にアクセスすることができるようになる。

応募申請では、その報道機関のミッション・名簿・想定しているコミュニティ・どのようにそのコミュニティから収入を得ていくか・どのようにそのビジネスを管理するかといった点を明らかにすることになる。また、報道機関のリーダーは常に、力の及ぶ限りCivil規約を遵守する旨の宣誓を行う。そして、その意図の真剣さを表すため、当該報道機関候補はコミュニティが管理するところのパラメーターに従い、CVLトークンをデポジットすることで申請手続きを発動する。CVLトークン所有者は新規申請について通知される。もし当該報道機関候補が十分な素質を示していて反対意見が起こらなければ、コミュニティは干渉せず、定められた確認期間の後、当該報道機関はCivilレジストリに追加される。

しかし、もし当該報道機関がCivil規約に関して懸念を生じさせた場合、CVLトークン所有者はそのCivilレジストリへの追加について差し止めを申立てることができる(そしてまたそうする可能性が高い)。そのために、トークン所有者たちは当該報道機関候補のCVLデポジットと同額を集めて支払う必要がある。こうした差し止め申立ては、当該報道機関候補がCivil規約の1つまたは複数の項目において違反している場合にのみ行われるべきである。

ここで、全CVLトークン所有者は、Civilレジストリの質を最良に保つという動機に基づいて、当該報道機関または差し止め申立人へ投票する機会を持つ。この行為が市場の成長と全体的な持続可能性に繋がることとなり、このプロトコルの基盤トークンCVLの価値として還元されていく。

投票の結果、当該報道機関が多数票を獲得した場合、Civilレジストリに残る[または新たに追加される]ことを認められ、差し止め申立人のデポジットは没収の上、報道機関とそのサイドの投票者に還元される。差し止め申立人が多数票を獲得した場合、当該報道機関はCivilレジストリから抹消され、そのデポジットは差し止め申立人とそのサイドの投票者に還元される。

こうした処置が実行される前に、誰でもその案件をCivil評議会に持ち込むことができる。評議会は裁定に当たり、多数派によって発せられた少なくとも1通の公開報告書によって規約に基づく論拠を詳述することを義務付けられている。多数派に投票した評議員が2通以上の報告書を作成するかどうか、及び少数派に回った評議員が報告書を作成するかどうかは、個々の評議員の裁量に委ねられている。

評議会が訴えを棄却した場合、コミュニティ投票の議決が最終議決となる。評議会が訴えを採用した場合、コミュニティ投票の議決は覆され、処置は無効とされる。評議会の議決は、[コミュニティ投票において]3分の2の定足数を満たす反対票によってのみ否決される。一般に、トークンを通じた投票者は、Civil規約の共通認識に従い投票するというインセンティブを与えられている。多数派に投票し、Civilレジストリが高品質で信頼性の高いジャーナリズムを正しく選定することを保証したということによって、彼らは報われるのである。

この暗号経済学的モデルは、「善い行い」への参加と遵守へのインセンティブを与え、シビル攻撃・スパム・荒らし・意図的に誤情報を拡散させる行為といった、悪い人や行いがCivilに現れて蔓延することを、想像を絶するほど困難にする。

Civilレジストリは元来、高品質な報道機関を認可するための自治システムであるが、報道機関同士の連携・ファクトチェック・ライセンス供与など、Civilプラットフォーム上で起こる他の様々な活動の管理にも活用可能である。このモデルは市民とニュースメーカーの間に相互依存を確立し、Civilのエコシステムが拡大していく中でお互いが高い質を保つことを確実に動機付けている。

・Civilレジストリへの差し止め申立て
Civilは、コミュニティの決定が可能な限りCivil規約に準じたものになるように、「助言専門家」をtoken-curated registryの設計に組み込もうとしている。一方でCivilはまた、参加者がプロトコルにおける絶対的権威[Civil規約]の維持を適切に動機付けられているような、暗号経済学的に安定したシステムを構築しようともしている。

以上の点に留意し、Civil規約・Civil評議会・コミュニティのコンセンサスを含めたこの抑制均衡システムがどのように作用するのか簡単に見てみたい。

・申立てと否認
・いかなるトークン所有者も、評議デポジットを支払うことにより、報道機関への差し止め申立ての結果を[評議会に]上訴することができる。
・いかなるトークン所有者も、評議デポジットと同額を支払うことにより、評議会決定に異議を申立てることができる。
・評議会決定を覆して否認するためには、[コミュニティ投票において]反対票が3分の2の圧倒的多数に達する必要がある。
・この方法によってのみ評議会は報道機関レジストリに干渉できる。

・パラメーターと規約改正
・いかなるトークン所有者も、パラメーターデポジットを支払うことにより、Civilのダイナミックパラメーターの変更を申立てることができる。
・Civilは、Civilレジストリに関するCivil規約コントラクトを作成する。このコントラクトは規約やCivil評議会の文書を対象としたものである。The Civil Media CompanyはCivil評議会を当該コントラクトにあてがう。規約改正案が承認された場合、Civil規約コントラクトは、規約改正や評議員などに関する投票規定を含む新バージョンへの参照に切り替わる。
・いかなるトークン保有者も、改正デポジットを支払うことにより、規約改正を申し立てることができる。
・いかなるトークン保有者も、改正デポジットと同額を支払うことにより、規約改正に関する評議会決定に異議を申し立てることができる。
・評議会決定を覆して否認するためには、[コミュニティ投票において]反対票が3分の2の圧倒的多数に達する必要がある。
・1) コミュニティによる提案, 2) 評議会による承認, 3) コミュニティによる承諾 という方法によってのみ規約は改正される。
原注:この「規約改正」システムはリリース時にはなく、その後しばらくして実装される。

・Civilレジストリのためのパラメーターの定義
原注:「初期値」はCivilの総合リリースに向けてまだ検討段階にある。私たちはオープンベータバージョンのCivil規約へのコミュニティフィードバックを広く募集しており、これらのパラーメーターをCivilの運営リリースの前にアップデートする。

・Civilレジストリの技術的詳細
初期段階では、このtoken-curated registryシステムは「報道機関」コントラクトを対象としたものである。機能的にはこれはEthereumアドレスにおけるtoken-curated registyであり、報道機関コントラクトを示すか、無視/削除される。CivilのMonorepoはこちら。
https://github.com/joincivil/Civil

・リストの定義
リストとは、単に報道機関コントラクト及び、リストの状態を調べるためのデータ(デポジット済、ホワイトリスト加入/否決など)に対応しているアドレスである。報道機関コントラクトは、申請・加盟報道機関・申立てを確認するときにトークン保有者が情報を持った上で意思決定できるように、Civilレジストリに表示された報道機関の応募申請への必要なリンクを含んだものになる。

コントラクト設計概要

・Civilは、Mike GoldinとAdChainによって開発された、token-curated registry https://github.com/skmgoldin/tcr/blob/master/contracts/Registry.sol をforkし、若干の変更を加えた。
・私たちはbytes32ハッシュを鍵として使うのではなく、コントラクトに対応するアドレスを使っていく。
・私たちは申請プロセスを変更し、コントラクトがオーナーによってのみTCRに申請されるようにする。
・Civil評議会の機能(上訴の採択やコミュニティ決定の無効化)のためのトランザクションを追加
・上訴や否認の機能をサポート

申立てプロセスを視覚化したものがこちら。

Civiエコシステムのビジョン

Civilは、世界中で持続可能なジャーナリズムの推進に取り組んでいる。このビジョンの実現のため、Civilはテクノロジーを開発し、プロダクトをリリースし、ネットワーク参加者(ニュースメーカー・市民・開発者)を集め、コミュニティ全体のために倫理的に成長していく必要がある。このためにThe Civil Media Companyのコアチームは拡大していくべきだが、急成長を促進するとともに真の非中央集権化を達成するため、サードパーティのプロジェクトもまた活性化させていかなければならない。

この理念のもと、Civilエコシステムのビジョンの全体性を促すため、The Civil Media Companyはいくつかの異なる組織的成長分野を設置する。

・Civil財団
The Civil Media Companyは、Civil評議会の評議員と研究者・監査役・翻訳者らサポートスタッフを招集するための独立非営利組織を具体化させる。これは、Civil規約によって示されたジャーナリスティックな倫理を支持・擁護するために、The Civil Media Companyによって設立された独立組織である。Civil財団は、卓越したジャーナリズム学者・言論の自由を専門とする歯に衣着せぬ法律家・ベテランのプロジャーナリストを「創立時の」 Civil評議会に揃える。やがて、Civil評議会は何らかのコミュニティ統治の形を経て発展していくだろう。

・Civil報道機関互助団体 (Newsroom Mutual)
Civilは、報道機関が共同して所有するメディア賠償責任保険会社を立ち上げることによって、くだらない訴訟や、悪意ある企みからニュースメーカーを守ることに取り組んでいる。ジャーナリストは、倫理的ジャーナリズム追求のために、自由に、過剰な訴訟行為を恐れずに活動できるべきである。

・The Civil Media Company
このエコシステムを創立した営利法人であり、3つの主要な権限を持つ。
1. このエコシステムの思想的リーダーとして、Civilのミッション・価値・精神に献身する
2. ブロックチェーンと暗号経済学の新しく画期的な用途を開発する
3. 私たちの市場ビジネスを拡大し、最適化する

私たちはプロトコルレベル(すなわちテクノロジーの基盤)においては、CVLトークンソフトウェアについて、オープンソースでありコミュニティの参加を広く奨励するものの、その拡張性とセキュリティの確保に務める中心的管理者となる。アプリケーションレベルでは、Civilネットワークの参加者に価値を届けるため、新製品・ツール・ウィジェット・その他プロフェッショナルサービスを通じて自由市場の中で活動する。こうした活動のうちいくつかは、「脱出速度」に達してしまった場合のように独立組織として「分離」していくかもしれないが、他の数々はThe Civil Media Companyの中に組み込まれたものとして残っていくだろう。

重要なのは、このエコシステムではThe Civil Media Companyが先行者利益のようなものを持っている一方で、同社はユーザーに対しては一切の独占や中央集権的な支配力を持っておらず、したがって同社が発展していくためには常にこの市場において良いプロダクトを開発し続けなければならないという風に動機付けられていることだ。The Civil Media Companyが将来完全に財政的に衰退してしまったとしても、このエコシステムとプロトコルはオープンソースで、非中央集権的なその市場インフラの上に続いていくだろう。もちろん、同社のねらいはもっと長期にわたって、このネットワークの価値に貢献していくことであるが。

・Civil Studios
The Civil Media Companyによって設立された営利法人であり、評判の高いジャーナリズム作品(「Netflixオリジナル」風に「Civilオリジナル」と呼ばれる)の実験と資金調達を目指している。Civil Studiosは人気コンテンツ(ポッドキャスト、ドキュメンタリー、著名人など)によってブルーオーシャンを求め、アップサイドに投資し、実地の取材には直接携わらないがハイレベルな支援を提供するプロデューサーとして動く。

・Civil Labs
The Civil Media Companyによって設立された営利法人であり、Civilエコシステムのためのソフトウェアアプリ・ツール・ウィジェットを開発する。Civil Labは、期待できるアップサイドへのミッション志向投資を通じてCivilの開発者エコシステムや消費者/ビジネスの「Appストア」を刺激し、半分研究開発機関(内部の巨大事業)、半分粒子加速器(他のベンチャーの支援)として働く。

※この記事は、2018年6月にはてなブログに投稿したエントリーの再投稿です。原語のルビを振っているのでこちらもぜひ。

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