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今こそ資本主義をアップデートするファイナンスが必要だ!(前編)

こんにちは、パブリックマインドの岩崎です。今日は「資本主義のアップデート」というテーマで記事をリレー形式で連載していく「Advent Calendar 2023」の担当として記事を投稿したいと思います。

私は、「社会投資家」という立場で、世の中の様々な社会課題等の解決に向かって活動しているNPO団体や社会起業家に対して資金を提供する活動を行っています。ファイナンスという切り口で、ソーシャルセクターや社会起業家の現状をめぐる課題と資本主義をアップデートするために必要なファイナンスのあるべき姿 を考えていきたいと思います。

■サマリー


この記事で言いたいことの要約は以下の通りです。

1. 社会変革を担う主体は、以前はNPO法人のみであったが、最近では社会性の高い株式会社も増えており、営利と非営利の境目がなくなってきている
2. 一方で、ファイナンスの制度は「寄付」と「投資」に二極化されている
3. 今、最も必要なのは「寄付」と「投資」の中間の性格を持つファイナンスである
4. 社会的にインパクトがあり、事業性がありつつも、あまり儲かることがない(経済的リターンは限定的)という社会的事業・ソーシャルベンチャーの実態を冷静にとらえるべき
5. その結果として、資本主義をアップデートするためのファイナンスとしては、現時点ではブレンド・ファイナンスが最も有用である可能性が高い

■NPO法人化する企業、経済的に拡大するNPO法人

一昔前は、社会的に意義が大きい事業を行うためには、NPO法人などの非営利団体を設立するという選択肢をとることが一般的でした。

しかしながら、最近は社会を良くすることをミッションに掲げた上で、株式会社や合同会社を設立する「社会起業家」や「ソーシャルベンチャー」が増えてきました。アメリカを中心に事例が増えつつあるB Corpなどもそうした流れを象徴する法人格の制度です。つまり、企業がNPO法人などの非営利団体の領域に近づきつつある、新たな潮流が生まれています。

一方で、もちろん、これまで通りにNPO法人を設立して、社会的なインパクトを出す活動を始める人も多くいます。
日本では、「NPO=無償(ボランティア)」というイメージが浸透してしまっていますが、本来のNPO法人は事業を行い、一定の利益を出すことが認められています。私たちの周りでは、より経済性を求め、事業を拡大するNPO法人も増えています。つまり、NPO法人が民間企業化する方向性もあるのです。

「社会性」と「経済性」の両立を追い求める事業家、社会変革(ソーシャルイノベーション)を起こそうという社会起業家にとっては、昔はNPO法人を立ち上げるのが唯一の選択肢でしたが、今の社会においては、営利企業を立ち上げた上で、社会性の高い事業を行う事例が増えてきており、「営利」を選んだとしても「非営利」を選んだとしても、実態としての活動に差が以前よりも少なくなってきており、「営利」「非営利」の境目がなくなっていると言えます。

例えば、気候変動を含む持続可能性(サステナビリティ)の実現を目指し、様々な社会課題を解決する社会性の高い事業を立ち上げようとする人は、株式会社を選ぶこともできますし、NPO法人を設立することもあり得るわけです。

どちらの法人を選んだとしても、同じような支援が受けられて、民間資金を含めたファイナンスが流入することによって、社会起業家やソーシャルベンチャーが成長することが大切なことだと思います。

■二極化するファイナンスの制度

しかしながら、ソーシャルイノベーションの担い手である社会起業家の側の変化に対して、法制度が追い付いていません。

この図は、現在の資金提供の制度を二つに分けたものです。図の左側は「寄付」の世界、図の右側は「投資」の世界です。

「寄付」の世界

図の左側である「寄付」の世界は、大きな意味では「経済的リターン」を求めないお金が融通・提供される制度ですが、「公益社団法人」「公益財団法人」「認定NPO法人」などの器が用いられることが多く、それぞれの認定要件を満たすと、お金を出した人(=寄付者)が税務上のメリットを享受できる仕組みになっています。

こうした「寄付」の見返りを求めないお金を提供する先(=資金の受け手)としては、NPO法人などの非営利団体がもっぱら対象とされる仕組みになっています。これは、こうした公益法人の法制度を創設した際の背景が、「社会に対して良いことをする事業は、NPO法人などの非営利団体のみが行うものである」とされていた時代認識・前提があったためです。

法制度上、社会性の高い企業に寄付をすることは想定されていないため、「寄付」の世界の受け手としてソーシャルベンチャーなどの企業が登場することは、ほとんどありません。

仮に、営利企業が「寄付」や「助成」の対象となった場合には、資金の受け手である営利企業側で受贈益が発生しますので、税務上、法人税の課税がなされます。結果として、効率の良くない資金提供方法になります(寄付金が100、税金が30だとした場合、70の資金しか営利企業に提供されないことになります)。
営利企業(株式会社、合同会社)が「寄付」の対象となることが極めて少ないのは、左記が大きな理由の一つです。

「投資」の世界

一方で、この図の右側は「投資」の世界です。ここでのお金は、経済的リターンを極大化することを求める「投資家」になります。後ほども申しますが、「投資家」が求めるのは、最終的には経済的リターンに集約されますので、社会的インパクトがある「社会にとってよい事業」であるから、経済的リターンはなくてもよい、という投資家は基本的にはいません(それが「投資」という世界です)

こうした経済的リターンを求める資金を提供しようと思った場合に関係する法制度は、通常の株式出資に加えて、ファンドと呼ばれる「投資事業有限責任組合」などを通じて資金が提供されることになります。ここでは資金の提供先はもっぱら民間企業である株式会社、合同会社になります。

これは、こうしたファンド、投資関連の法制度が作られた背景として、「経済的なリターンを生み出す主体は民間企業のみであり、非営利団体は対象外である」という前提があったためです。しかしながら、先ほども申し上げた通り、実際にはNPO法人の中にも経済性をより重視し、事業収益を拡大しつつある法人が少しずつですが、増えてきています。

残念ながら、こうしたNPO法人が、投資家やファンドから投融資を受けることは、ほとんどありません。つまり、NPO法人などの非営利団体が、安定的な事業運営を行いながら一定の利益を生み出す。その結果として、経済的なリターンの対象となり得ることがある、という資金の受け手側の変化に投資する側の法制度が対応できていないことになります。

求められるシームレスなファイナンス制度

本来であれば、営利か非営利かという法人格の違いによらずに、社会性の高い事業に対してシームレスに資金提供を受けることができるファイナンススキームが確立されるべきと考えます。

その法人が行っている事業、活動の趣旨に照らして、社会的な意義のある活動であり、経済的なリターンを生み出している法人に対しては、同じような資金調達の道が開かれているべきと思いますが、現状では「非営利団体=寄付」「営利企業=投資」の対象という風に、大きく2つの世界に分かれてしまっているのです。

■「新しい資本主義」で求められるファイナンスの姿は?

ここまで、社会変革の担い手側の変化があり、営利と非営利の境目がなくなってきたこと。一方で、ファイナンスの制度は、その変化に対応しておらず、「寄付」と「投資」の二極に分かれてしまっていることを説明してきました。

ここからは、あるべき新たなファイナンスを考える前に、その前提として資本主義をアップデートするために、あるいは政府の言う「新しい資本主義」を実現するためには、何を解決しなければいけないのか?社会変革の担い手はどんな事業を行っている法人なのか?を改めて考えていきたいと思います。

様々な社会課題とサステナブルな世界を実現する社会起業家

これまでの資本主義の弊害によって様々な社会課題が生み出されており、もはや「公平性・一律」を原則とする政府・行政のみでは対応できなくなっています。

また、深刻な気候変動や失われつつある生物多様性を含めて、私たちの住む環境・地球を守っていかなければいけない、という切実な問題があります。

こうした社会課題やサステナブルな社会の実現に向けて、資本主義をアップデートするためには、どんな担い手が必要なのでしょうか?

それは、「社会性」と「経済性」を両立させながら、事業を立ち上げ、社会変革を行っていくリーダーが牽引する事業・法人だと思います。資本主義をアップデートするためには、そうしたソーシャルイノベーションを実施する法人を発掘し、育成し、安定軌道に乗ってもらうことが必要ですが、そのためには、民間資本を流入させていくファイナンス(資金調達)も極めて大切な役割を担うと思います。

社会起業家にとって必要なファイナンスとは?

では、こうした時代認識に立った時に、資本主義のアップデートをするために求められているファイナンス(資金調達)の手法はどのようなものでしょうか?

結論から述べますと、それは、まさに先ほど述べたような二極化してしまっているファイナンス制度である「寄付」と「投資」の間のような存在のファイナンスではないでしょうか。

政府のいう「新しい資本主義」を浸透させて、発展させるためには、本来は、この図でいう真ん中のところにいる「ソーシャルイノベーションの担い手である社会起業家やソーシャルスタートアップ(非営利団体の場合も、民間企業の場合もある)を発掘し、育成し、安定的に事業運営してもらうことが必要です。

そのためには、「寄付」と「投資」のちょうど中間の性格を持ったファイナンスが必要になってくるはずですが、新たな法制度が急には作られないだろう という前提に立つと、今ある制度の中で創意工夫をして、時代に求められるファイナンススキームを検討する必要があります。

その具体的な内容について、後編でご紹介していきたいと思います。

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