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今こそ資本主義をアップデートするファイナンスが必要だ!(後編)

■「寄付」と「投資」の中間ファイナンスの具体的イメージ

前編では、今後の大きな方向性として、資本主義をアップデートしていくためには、「寄付」と「投資」の間のようなファイナンスの手法が必要だというところまで考えてきました。

ここからは、「寄付」と「投資」の間のスキームを通じて資金提供すべき事業はどんな事業なのか?という点について、解像度を上げて、その実態をみていきたいと思います。それは、一言でいうと、今までの資本主義のままでは、埋もれてしまっていて、必要な資金が提供されていない事業ということになります。

資金繰りに苦労するNPO法人、儲からないサステナ企業

まず、非営利の世界において、志高く、使命感に裏打ちされた立派な社会的な活動をされているNPO法人をたくさん知っています。

皆さん、寝る間を惜しみ、場合によっては身体を壊しながらも、目の前の困窮されている人たちを何とか支援したいという強い想いで事業を継続されています。しかしながら、事業を行うほど赤字が膨らんでしまったり、助成金などに依存した経営をされており、常に資金繰りに非常に苦労されています。

一方で、営利の世界でも、サステナブルなファッションや食品など、環境負荷の少ない素材・生産過程を採用することによってサステナブルな社会の実現に貢献しようという社会性の高い企業も増えてきました。

こうした企業の経営や事業を拝見することも多いですが、何とか事業を継続しながらも、環境負荷の少ない素材や生産工程はコストがかかり、なかなか利益が上がらない状況が続くことが、ほとんどのケースです。

「新しい資本主義」の担い手である事業とは?

こうした社会的に意義の高い活動を行い、資本主義の弊害を少しでも少なくしようとしているNPO法人や、サステナブルな生き方を促進するような商品やサービスを提供している社会性の高い企業こそが、これからの「新しい資本主義」を担う起業家たちです。

そんなソーシャルイノベーションの担い手である社会起業家が行っている事業、「新しい資本主義」を牽引するべき事業とは、一言でいうと、どんな状態なのでしょうか。

少し視点を引いて、共通する要素を抽出しながら表現を試みると、こういった状態だと言えます。

【新しい資本主義を牽引すべき事業の定義】

「社会的にプラスの価値を提供しながら(=「社会的インパクトあり」)事業を行っているが(=「事業性」あり)それほど儲かることのない事業(=「経済的リターン少ない」)」

ⓒ2023 Aki Iwasaki / Public Mind

この表現が、「新しい資本主義」を牽引すべき事業であり、私たちが応援したいと思う事業を体現した表現となります。

(あまりキラキラした表現ではなくて恐縮ですが、社会性の高い事業の実態を冷静に把握することが、ファイナンス制度を考える上では大切なステップだと思います。もちろんしっかりと利益を出しているインパクトスタートアップ企業、NPO団体も存在しますが、極めて例外的な存在であると見るべきです)

投資からも寄付からも除外される「新しい資本主義」の担い手たち

上記のような、本来であれば社会全体で応援すべきこうした「新しい資本主義」を牽引すべき事業や法人に対して、残念ながら十分な資金が供給されていないのが、実態です。その理由をご説明したいと思います。

「投資」の世界では「経済的リターン」が大きいことが求められますので、上記のような企業はいくら社会性が高いと言っても、利益率が低いため投資対象から外れてしまいます。社会的に「よい事業」をやっているから、経済的リターンはなくても(少なくとも)よい、という投資家は基本的には存在しないのです。

また、そもそもNPO法人などの非営利団体は、どんなに事業収益が上がっていても、法制度上、投資家やファンドからの資金を提供する有用なスキームが存在しない(と思われているため)投資対象から外れることになります。

一方で、「寄付」の世界では「社会的インパクト」があれば、「経済的リターン」が少ないことは許容されますが、一般的に「事業性を持った」資金を提供することはありません。

寄付金は、一回切りの寄付という形で提供される形が多いので(※)、一般論として「事業性を持った」資金提供には向いておらず、結果として「寄付」のお金も事業資金としては活用しにくいことになります。(※マンスリーサポートというような形で毎月決まった金額が寄付される形も増えています)

■社会起業家に寄り添ったファイナンスとは

こうした実態を踏まえて、社会的なインパクトを出しながら、事業を継続している社会起業家に対して、どのようなファイナンスを提供することが、よいのでしょうか。寄り添うファイナンスを提供するためには、以下のような要素が満たされるようにスキームを設計する必要があるでしょう。

「①社会的インパクトをきちんと評価した上で、②事業上のリスクを一緒に背負いながら、③事業が継続できるような資金を提供すること」

①社会的インパクトの評価

上記の表現は抽象度の高い文章ですので、もう少し要素を分解して説明すると、このようになります。

まず、「①社会的インパクトをきちんと評価」ですが、何度も申し上げてきましたが、非営利団体のみならず、営利企業でも社会性の高い事業を行う事例が増えてきています。そういった事業、起業家の中から、特に有望な団体や法人を発掘し、きちんと評価して、選定させていただくことが大切です。

また資金提供先の団体を選定するプロセスで「社会的インパクト」を考慮するのみならず、事業が行われている最中、事後にインパクトを測定し、評価・振り返りをすることが重要なことは言うまでもありません。

②リスク性の資金

次に「②事業上のリスクを一緒に背負う」部分ですが、通常は創業者が株式という形態でお金を拠出して事業をスタートします。事業を始める際に必要な資金ですが、事業がうまくいかなかった時には、損失になる資金です。

その株式出資というのは、分かりやすく言うと「返さなくてよい」リスク性の資金ということになります。この「返さなくてよい」資金を提供することによって、リスクを一緒に背負うことが可能になります。

事業を行い、損失が出てしまった際に、その損失を吸収する(金融の世界では「資本のクッションになる」と言います)ための資金が提供される必要があります。

③事業性の資金

最後の「③事業が継続できるような資金を提供」とは、どういった資金を提供することでしょうか。

これは銀行からのローンを思い浮かべるのがよいと思います。銀行のローンは、しっかりと事業が継続していれば、お金も回り(キャッシュフローもプラス)ますので、無理ない形でローンを返済していくことが可能です。

それと同じように、社会性の高い事業を行う法人に対して、事業資金を提供していくことが必要です。社会起業家に対して事業を継続的に行うことができるように資金提供しつつ、(無理なく、過度な金利をとることなく)資金を返済してもらうことになります。

■寄付と投資をブレンドする新たなファイナンス

以上の3つの要素の中で、特に「②リスク性の資金」「③事業性の資金」という要件を満たすファイナンスとして、私たちが考えているファイナンス手法をご紹介します。それは「寄付」と「投資」を組み合わせることにより、実現することができます。

「新しい資本主義」の担い手である社会起業家、ソーシャルインパクト企業を支える これまでにない「新たなファイナンス」をご紹介します。

自由自在な「寄付」と「投資」のブレンド

私たちが考えている新たなファイナンス手法とは、具体的には「寄付」と「投資」の資金をブレンドして、匿名組合という形式で社会起業家の会社やNPO団体さんに資金を提供するスキームです。

例えば、100の資金があった場合に、半分の50を「投資」にして、残りの50を「寄付」にして組み合わせた場合、半分は「経済的リターンが期待される資金」、半分は「返ってこないであろう資金」になります。

100のうち、70を「返さなくてよい資金」にして、30を「経済的リターンを期待したい資金」として提供することも可能です。「寄付」と「投資」の割合は自由にブレンドすることが可能です。

具体的には、下図のようなイメージになります。

当事者へのメリット

こうしたスキームを使うことによって、投資家、社会起業家双方にとって以下のようなメリットが存在します。

◆NPO団体・社会起業家の視点:

・リスク性の資金調達:事業上のリスクを負担してくれる匿名組合(匿名組合では「利益または損失を投資家に分配する」という建付けをとります)スキームを使いますので、事業リスクが軽減されます。一方で投資家にお返しする経済的リターンを低く抑えたり、中くらいに設定することも可能です

・事業性の資金調達:「寄付」は一般的には一次的な資金ですが、このスキームを使うと「寄付」を元手にした事業性資金の確保が可能になります

◆投資家の視点:

・リスク・リターンバランスの改善:「寄付金」を元手にする匿名組合がある場合には、損失を吸収してくれる資本のクッションが厚くなるため(リスクが軽減されるため)、リスク・リターンのバランスが改善されます。
結果として、経済的リターンが限定的な社会的事業への投資を行いやすくなります(ミドルリスク・ミドルリターンの金融商品になります)

その結果として、これまで十分な資金が流入してこなかったソーシャルセクター・サステナブル領域に民間資本が流入していくことになると考えます。

■今後の展望(ブレンド・ファイナンス)

海外での事例

こうした寄付と投資のブレンドを行うファイナンススキームのことを「Blended Finance(ブレンドされたファイナンス)」と呼びます。海外では、社会性の高い事業であるが、経済的リターンが出にくい事業を支える資金調達として、一般的に用いられています。

特に発展途上国向けファイナンスの世界において、投資や融資を呼び込む波及効果を期待するために寄付金や国際金融機関等が用いられるスキームを、ブレンド・ファイナンスと呼んでいます。

日本での事例と政府への提言

日本では、ミュージックセキュリティーズ社の「セキュリテ被災地応援ファンド」や地銀・信金と連携した三菱商事復興支援財団などの素晴らしい事例がありますが、まだブレンド・ファイナンスの認知は、ほとんど広がっていません。

政府の役割としては、こうしたブレンド・ファイナンスを可能にするスキームを積極的に後押しすべきです。具体的には、公益財団などの公益法人スキームを使って集めた寄付金を元手にして、匿名組合出資を行うことが可能であることを明示的に示し、税務上の制度設計等を工夫することを通じて、ブレンド・ファイナンスの取り組みを促進すべきだと思います。

私たちとしても、遠くない将来に「新しい資本主義」に必要な資金調達手法として、「寄付」と「投資」がブレンドされたファイナンス手法を確立して、皆さんにお披露目したいと思います。

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