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未来のお小遣い事情

執筆:安岡美佳
2019年3月12日
デンマーク発: ハピネステクノロジ vol.6

デンマークのキャッシュレス傾向は目覚ましい。隣国であるスウェーデンやノルウェーと比べるとちょっと後塵を拝している感も否めないが、欧州全体で見ると北欧諸国はダントツ頭一つ飛び抜けたキャッシュレス社会になっている。もともと80年代よりカード利用が進み現金利用が減少傾向であったのだが、それでも小規模店舗やストリートでの買い物や蚤の市など現金ベースでの市場が存在していた。しかしながら、ここ数年でモバイルアプリを仲介
した少額決済の仕組みが瞬く間に社会に広がり、ノルウェーではVipps、スウェーデンではSwish、筆者が居住するデンマークではモバイルペイと呼ばれるサービスが、一般市民の現金利用を100%とは言わないまでも80%近く駆逐してしまった。ノルウェーのデロイトによる2019年の調査では、現在の現金の通貨量はGDP比で、次のようになっている*¹。

・ノルウェー:2.3%
・スウェーデン:2.1%
・デンマーク:5.2%(日本は20%近く)

そこで、困った課題が発生した。親が小銭を持たなくなったことから、子供に簡単にお小遣いをあげられなくなってしまったのだ。ポケットにも引き出しにも小銭はないし街角からATMも銀行窓口もどんどん消えている。北欧のハピネステクノロジーを紹介する本連載の第4回では、キャッシュレス社会におけるデンマークの子供のお小遣いをサポートするダンスク銀行のお小遣いアプリを紹介する。

小銭がどこにもない...

デンマークでは、6-18歳までの10人に一人がお小遣いをもらっている(ダンスク銀行発表)。
ダンスク銀行の2017年の調査では平均のお小遣い額平均は、137デンマーク・クローネ(以下クローネ。1クローネは17円, 2019年3月)だ。別の調査では、6-8歳は50クローネほど、9-11歳は100クローネ*²ほどもらっているという。しかしながら、ここにきて親を悩ませている大問題がある。親が子供にあげる小銭を持っていないという切実な問題だ。社会全体がキャッシュレスに向かっているデンマークで、子育て世代の親世代はその先陣を切って毎日の生活でカードと少額決済アプリを活用し、その結果としてポケットにも引き出しにも小銭がない。銀行もキャッシュレス社会の傾向にいち早く対応し、ATMや銀行窓口を次々に閉鎖している。デンマークの親たちは、子供達に月額50クローネのお小遣いをあげるのに銀行本店や2駅先のATMまで行く必要があるが、両親ともに働くことがデフォルトとなっているデンマークにおいて、家族と仕事で多忙を極める子育て世代の親達のどこに、わずか100クローネの現金を準備するためだけに時間を使う余地があるというのだろうか。

Chasing_Cashless-The_rise_of_Mobile_Wallets_in_the_Nordics.pdf
*² Så mange lommepenge får danske børn alt efter, hvor de bor, og hvor gamle de er

このような状況の打破に一躍買っているのが、デンマーク最大規模の銀行ダンスク銀行が2017年にラウンチしたお小遣いアプリ(Lommepenge)だ。デンマーク語でLommeはポケット、pengeはお金。つまりポケットマネーアプリ、お小遣いアプリである。

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